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1冊目

次の週。

「水族館や…」
「何やシャオちゃん、来るの久々なん?」
「せやなぁ、大体半年振りとかその辺」
「全然やん…」

そんな相変わらずのノリで入館券を購入し、中へ入る。
途端に隣で“わぁ”と声が上がった。隣を見ると、シャオちゃんが何かに見とれている。
不思議に思いそちらを見ると、そこにはガラス越しにきらきらと輝く水があった。
嗚呼、綺麗やなぁ。
女と来たときはこんなこと思わへんかったなぁと違いを比べつつ、二人並んで館内を回っていく。
赤や青のライトに照らされたクラゲや、角に集まるカニを目にし、二人で笑い合う。
楽しいなぁなんて思っていると、この水族館一番の名所である大水槽の前に辿り着いた。

「だいせんせ」

ふいに名前を呼ばれる。
水槽は水上からの光を受けてきらきらと輝いていた。
そんな大きな水槽を前に、彼はこちらを見、佇む。
反射光のせいか、顔はよく見えない。
途端に不安になり、俺も彼の名を呼ぶ。

「…シャオロン?」
「俺な、お前のこと好き」

普段であればふざけて話すであろうその話題も、今では正体不明の不安を生む種となり。

「でもな、俺辛いんよ。だから全部やめるわ」
「シャオちゃ」
「お幸せにな、鬱先生」

そうして彼は一つの綺麗な雫を落とし、出口へと歩いていく。アイツはこれを言うために今日ここに?
それなら、まだ俺の気持ちを伝えてない。言うだけ言ってどっか行くのはナシやで、シャオちゃん。
俺は彼を追いかけるために出口へ走る。くそ、運動しときゃ良かったぜ…
息を切らして出口へ辿り着くが、そこに彼の姿はない。あいつ、どこ行ったん。なぁシャオちゃん。どこや。

その後も館内や周辺を探し回るがどこにもいない。行く当てもなく、結局あの大水槽の前に戻ってきてしまった。
何であれだけ言ってどっか行くんや、戻って来いや。まだ俺、言えとらんよ。

俺もシャオちゃんが好きやって。


きらきら輝く水に照らされて、彼もまた一筋塩の味を落とした。
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