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1冊目

『ショッピくんさぁ…』
「何すか?」
『コネシマ好きすぎちゃう?』

そんなことを聞かれたのは有料会員限定の生放送中だった。直前には最近上げた動画のことについて話しており、全く関係の無い話では無い。が、しかし。あまりにも突然だった。

「どうしたんすか急に」
『いやぁずーっと思っててな?何かあればすーぐ『先輩』『コネシマ先輩』って言っとるやろ〜?』

あぁなるほど、この人は酔ってるんや。それを理解するのは容易かった。

「言う程でもないっすよ」
『そーかぁ〜?』
「それに、俺はクソ先輩よりシャオさんの方が好きっすよ」
『…ほんまかぁ?』

画面の向こうから聞こえる声が、少し明るくなったように感じた。
コメントでは色々と騒がれているようだが、相手が酔ってるなら仕方ない。本心やし。

「それよりほら、お時間ですよ」
『それよりって何なん…あ、時間か、えーとそれでは皆さん…』

俺は彼の話を軽く流して枠の締めを促す。
彼が締めている間に、俺はふぅと息を吐き、背もたれに体重を預ける。
いつもの煙草に手を伸ばそうとして、画面からはまだ声が続いていることに気づく。

『ショッピくーん…』
「何すか、枠は終わったでしょ?」
『会いてぇよ〜…』

煙草に伸ばしかけていた手が止まる。
…この人は何を言っているんだ?

「…もう通話切りますよ」
『もう少し付き合ってぇやぁ』
「シャオさん飲みすぎっすよ」
『何だぁ酔っ払いの独り言にも付き合えないってのかぁ〜?』
「…仕方ないですね、少しだけなら」

その瞬間、向こうから「プシュッ」と缶を開ける音が聞こえた。まだ飲むつもりなんか…

「まだ飲むんすか?」
『飲むぞ〜』
「程々にしといた方が…」
『だってよぉ…色々辛いんやもん…』

“うぅ”という唸り声と共に声が少し遠ざかる。きっと机に伏せたのだろう。

「何かあったんすか?」
『あったやろ〜…今日はショッピくんもおったやん…』

今日、と言うと…動画を撮った事しか思い当たらない。しかし…何かあったか?

『今日の実況でっ…ショッピくんがシッマを信頼してるとか言うてたやん…』
「あぁ、そんなこと言いましたね」
『そんなこと言うなやぁ…俺結構気にしてるんやぞぉ…』

何故気にする必要が?さっきからシャオさんの言動がおかしい。酔ってるからなんやろけど、それにしては何か…

「…シャオさん、酔いすぎっすよ。今日はもう終わりに」
『や』
「はっ?」
『嫌や言うてんの』

その発言に驚き言葉が出ない俺を良いことに、シャオさんは言葉を続ける。

『なぁショッピくん』

聞いてはいけない気がした。
この先を聞いてしまったら、俺は。

「シャオさん」
『俺な…』
「シャオさん、俺の話聞いて」
『…ん』

俺はふぅと一息吐き、再び口を開く。

「さっき言おうとしてた言葉…酔ってない時に、ちゃんと聞きたいです」
『ん』
「…今度会いましょう。今やなくて、その時に聞きたい」
『…分かった。じゃあそんとき言うわ、せやから覚悟しといてな!』

そう言いプツッと通話が切れる。…全く、あの人は酔うと大変やな。
俺は吸い忘れていた煙草へ再び手を伸ばし、暖かくなってきた外へ出る。
そろそろ、春やな。
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