様子のおかしい叔父さんのゴルーグと実はいた(義)妹
【一方その頃、シュウさんは】
俺は飛行機に良い思い出がない。
自分が乗って何かがあった訳ではない、だがそれでも移動に使うには気が進まない。なので俺が長距離を移動するのに乗るのは、専らゴルーグか船だ。今回は行きは兎も角、現時点……戻りの船は "俺1人ではない" し、船上で有事の際に出せば沈没させかねない重量のゴルーグとドサイドンは置いて行かざるを得なかった。ロウはああだこうだ言っていたがちゃんと理由が合って置いてきているんだから、口を出すなというのに。
潮風に当たりながら久々に会えた息子 と妻 の写真を見る。既に帰りたい。シンオウではなくもう家に帰りたい。シエルは前に会った時より身長が4㎝も伸びていたし、サラは以前と変わらず愛らしい。思わず溜め息を吐いていると、海に放していたオクタンが自分で吐き出した水流で、船上に跳び上がってきた。
「ぎゅっぎゅみっぎゅ」
「おう戻ったか。久々の海は楽しいか?」
「ぎゅみぃ~ん」
腕に足を絡ませるな全身ずぶ濡れだろうお前。剥がそうとするが吸盤のせいで叶う訳もなく、1本の足で何か指すのでそっちを見れば、泳ぎたいと勝手に出て行ったアーマルドが溺れ……あれ溺れてるのか?どっちだ……?
藻掻いているのかはしゃいでいるのか、いまいちわからないアーマルドを凝視していると、オクタンがまたも何かに気付いたのか声をあげた。
「兄さん!そんなに身を乗り出してたら落ちちゃいますよ」
「『リヒト』……!甲板を走るな、転んだらどうする。体調は大丈夫なのか」
「Yes、身体に現状 問題はありません。ですがリヒト よ、兄君の言う通り、船上で走るのは推奨できません。転倒の危険があります」
「今日は体調もいいですし、もう少しでシンオウ地方に着くと思ったら居ても立っても居られなくて……」
小走りでやってきた "弟" のリヒトの前でしゃがみ込む。息も上がってないし顔色も良い、体調は本当に問題ない様だ。だが1つ気になる事がある。シンオウまでは後3時間近くもある筈だ、もう少しと言うのはどういう意味だ。聞けばリヒトは
「あと……そう、2分もすれば野生のホエルオーさん達が水流を作ってくれて、船のスピードを上げてくれるんです。その様子が "視えた" ので。
……あっ勿論これぐらいは大丈夫です!今日は本当に調子がいいので!」
「……ふーん?」
どうやら待ちきれなくて自分で "視た" な。
「調子が良いなら、尚更シンオウに着くまで休んでおけ。着いた途端 何かあったらロウに会うどころじゃなくなるだろう。楽しみなのはわかってるから、一旦客室に戻れ」
「トゥー その方が良いでしょう。潮風は自覚している以上に身体を冷やします。短き間でも室内で身体を休めなさいリヒト」
「……わかりました」
過保護だと思われているだろうか、それでも何かあるよりは大袈裟なぐらいがちょうどいい筈だ。リヒトの背中を見送っていると海からアーマルドの鳴き声が聞こえてくる。なんだ、溺れてたのかあいつ。なんで溺れてるんだあいつ、泳げるだろ、しかも研究では海で狩りをしていたとか、そういう生態だっただろ。船からもう一度身を乗り出し、海面でギャアギャアと藻掻いているアーマルドをボールにしまう。本当に溺れてた……なんでだよ……
「うん?なんだ……ああ、ホエルオーか」
ちょうど2分、ホエルオー達が海面に出て来た。潮を吹き、ホエルコと共に船を囲んでいる。一度距離を取ってからまた船に近付き、段々と海流が作られていく。 "人間が乗っている船" を覚えたホエルオーは、自分達の移動中に船を見つけるとこうして時折海流を作り、船ごと人を運んでくれるらしい。一説には人を手伝っているとか、あるいは人を手助けする事で見返りが貰えると学習したとか、色々言われているが定かではない。実際ホエルオー達は陸地が近付いて来れば自然と離れていくのだから尚更だ。
「ロウやヒサメがいれば、何考えてるかぐらいはわかるのかもな」
「ぎゅうみお~ん」
「お前はもう少し離れろ。生臭い」
『お客様に申し伝えます。窓の外をご覧ください。ホエルオー達が航行のお手伝いをしてくれています。彼らのおかげでシンオウ地方までの到着時間が、2時間ほど短縮される見込みです。ホエルオー達にどうか暖かいお声がけをお願い致します』
アナウンスと共にヒサメと同い年くらいか、子供達が甲板に出て来たホエルオー達に手を振り始めた。それに応えるようにホエルコが海面から飛び跳ねている。あの図体でよく跳べるものだ。
「おい、オクタン。マンタインが出て来たぞ。あの一緒にいるテッポウオ、元カレとかじゃないか」
冗談で言ったつもりなのだが、現れたマンタインをじっと見つめ始めたオクタン。何故か思い出に浸る様な鳴き声と溜め息を吐き始めた。なんだこいつ……
「いやお前を釣りあげたのは全く違う海域なんだが??」
「ぎゅみん」
一方その頃。
船室のドアを開け少年、リヒトはベッドに腰掛けた。
「兄さんは少し心配し過ぎなのでは……」
「リヒトよ。これまでの貴方を想えば兄君の懸念も無理はありません。自身を労わりなさい。まだ完全に能力を制御できるようになった訳ではないのですから」
「それはそうですが……」
項垂れる少年の背に彼は翼を添える。小さな身体の内にはあまりにも大きい力が揺らめいている。すぐにでも、溢れてしまいそうな程に。
「落胆は不要です、友よ。私は貴方の傍にいる」
リヒトは顔を上げて微笑みを浮かべた。
そうして視線を窓に向け、意気揚々と泳ぐホエルオー達───その向こうにあるであろう、友人の待つシンオウ地方をその目に映した。
「いつもはロウさんに来てもらってばかりで、シンオウ地方に行くのは初めてなんです。セキエイリーグ、カントー地方もあの時は "サイコパワー" について調べる為でしたし……
ロウさんに会ったらまず何からお話ししましょう?」
「トゥー まずは貴方の近況から。彼女もまた貴方の身体と力を心配している筈、出歩くのには既に問題ない状態まで制御できている事を伝えるべきかと。
旅立ちはその後でも十分です」
「わかりました。早くロウさんに会いたいな……!シンオウ地方に着いて、ロウさんに会って、お話して、色んな所に行って……ふふ、あなたの行きたいところも、是非一緒に行きましょう。
ね、 "ネイティオ" さん」
少年は目の前の彼に笑顔を向ける。
その笑顔が曇る事無く、この旅路が良きものであれ。そう彼はただ一言、「トゥー」と鳴いた。
俺は飛行機に良い思い出がない。
自分が乗って何かがあった訳ではない、だがそれでも移動に使うには気が進まない。なので俺が長距離を移動するのに乗るのは、専らゴルーグか船だ。今回は行きは兎も角、現時点……戻りの船は "俺1人ではない" し、船上で有事の際に出せば沈没させかねない重量のゴルーグとドサイドンは置いて行かざるを得なかった。ロウはああだこうだ言っていたがちゃんと理由が合って置いてきているんだから、口を出すなというのに。
潮風に当たりながら久々に会えた
「ぎゅっぎゅみっぎゅ」
「おう戻ったか。久々の海は楽しいか?」
「ぎゅみぃ~ん」
腕に足を絡ませるな全身ずぶ濡れだろうお前。剥がそうとするが吸盤のせいで叶う訳もなく、1本の足で何か指すのでそっちを見れば、泳ぎたいと勝手に出て行ったアーマルドが溺れ……あれ溺れてるのか?どっちだ……?
藻掻いているのかはしゃいでいるのか、いまいちわからないアーマルドを凝視していると、オクタンがまたも何かに気付いたのか声をあげた。
「兄さん!そんなに身を乗り出してたら落ちちゃいますよ」
「『リヒト』……!甲板を走るな、転んだらどうする。体調は大丈夫なのか」
「Yes、身体に現状 問題はありません。ですが
「今日は体調もいいですし、もう少しでシンオウ地方に着くと思ったら居ても立っても居られなくて……」
小走りでやってきた "弟" のリヒトの前でしゃがみ込む。息も上がってないし顔色も良い、体調は本当に問題ない様だ。だが1つ気になる事がある。シンオウまでは後3時間近くもある筈だ、もう少しと言うのはどういう意味だ。聞けばリヒトは
「あと……そう、2分もすれば野生のホエルオーさん達が水流を作ってくれて、船のスピードを上げてくれるんです。その様子が "視えた" ので。
……あっ勿論これぐらいは大丈夫です!今日は本当に調子がいいので!」
「……ふーん?」
どうやら待ちきれなくて自分で "視た" な。
「調子が良いなら、尚更シンオウに着くまで休んでおけ。着いた途端 何かあったらロウに会うどころじゃなくなるだろう。楽しみなのはわかってるから、一旦客室に戻れ」
「トゥー その方が良いでしょう。潮風は自覚している以上に身体を冷やします。短き間でも室内で身体を休めなさいリヒト」
「……わかりました」
過保護だと思われているだろうか、それでも何かあるよりは大袈裟なぐらいがちょうどいい筈だ。リヒトの背中を見送っていると海からアーマルドの鳴き声が聞こえてくる。なんだ、溺れてたのかあいつ。なんで溺れてるんだあいつ、泳げるだろ、しかも研究では海で狩りをしていたとか、そういう生態だっただろ。船からもう一度身を乗り出し、海面でギャアギャアと藻掻いているアーマルドをボールにしまう。本当に溺れてた……なんでだよ……
「うん?なんだ……ああ、ホエルオーか」
ちょうど2分、ホエルオー達が海面に出て来た。潮を吹き、ホエルコと共に船を囲んでいる。一度距離を取ってからまた船に近付き、段々と海流が作られていく。 "人間が乗っている船" を覚えたホエルオーは、自分達の移動中に船を見つけるとこうして時折海流を作り、船ごと人を運んでくれるらしい。一説には人を手伝っているとか、あるいは人を手助けする事で見返りが貰えると学習したとか、色々言われているが定かではない。実際ホエルオー達は陸地が近付いて来れば自然と離れていくのだから尚更だ。
「ロウやヒサメがいれば、何考えてるかぐらいはわかるのかもな」
「ぎゅうみお~ん」
「お前はもう少し離れろ。生臭い」
『お客様に申し伝えます。窓の外をご覧ください。ホエルオー達が航行のお手伝いをしてくれています。彼らのおかげでシンオウ地方までの到着時間が、2時間ほど短縮される見込みです。ホエルオー達にどうか暖かいお声がけをお願い致します』
アナウンスと共にヒサメと同い年くらいか、子供達が甲板に出て来たホエルオー達に手を振り始めた。それに応えるようにホエルコが海面から飛び跳ねている。あの図体でよく跳べるものだ。
「おい、オクタン。マンタインが出て来たぞ。あの一緒にいるテッポウオ、元カレとかじゃないか」
冗談で言ったつもりなのだが、現れたマンタインをじっと見つめ始めたオクタン。何故か思い出に浸る様な鳴き声と溜め息を吐き始めた。なんだこいつ……
「いやお前を釣りあげたのは全く違う海域なんだが??」
「ぎゅみん」
一方その頃。
船室のドアを開け少年、リヒトはベッドに腰掛けた。
「兄さんは少し心配し過ぎなのでは……」
「リヒトよ。これまでの貴方を想えば兄君の懸念も無理はありません。自身を労わりなさい。まだ完全に能力を制御できるようになった訳ではないのですから」
「それはそうですが……」
項垂れる少年の背に彼は翼を添える。小さな身体の内にはあまりにも大きい力が揺らめいている。すぐにでも、溢れてしまいそうな程に。
「落胆は不要です、友よ。私は貴方の傍にいる」
リヒトは顔を上げて微笑みを浮かべた。
そうして視線を窓に向け、意気揚々と泳ぐホエルオー達───その向こうにあるであろう、友人の待つシンオウ地方をその目に映した。
「いつもはロウさんに来てもらってばかりで、シンオウ地方に行くのは初めてなんです。セキエイリーグ、カントー地方もあの時は "サイコパワー" について調べる為でしたし……
ロウさんに会ったらまず何からお話ししましょう?」
「トゥー まずは貴方の近況から。彼女もまた貴方の身体と力を心配している筈、出歩くのには既に問題ない状態まで制御できている事を伝えるべきかと。
旅立ちはその後でも十分です」
「わかりました。早くロウさんに会いたいな……!シンオウ地方に着いて、ロウさんに会って、お話して、色んな所に行って……ふふ、あなたの行きたいところも、是非一緒に行きましょう。
ね、 "ネイティオ" さん」
少年は目の前の彼に笑顔を向ける。
その笑顔が曇る事無く、この旅路が良きものであれ。そう彼はただ一言、「トゥー」と鳴いた。