様子のおかしい叔父さんのゴルーグと実はいた(義)妹

【私のボスゴドラは幼女らしい】

今からちょっとだけ昔の話をさせてほしい。
シンオウ地方からイッシュ地方へ渡り、2回目の殿堂入りを果たした私は次の目的地としてホウエン地方へ渡った。ジムを制覇したいとか、更なる強さがほしかったとか、そういう理由もなく本当に何となくでホウエンに行った。強いて言うならイッシュ地方で始めたポケモンレーサーとしてもうちょっと走りたかった、かなぁ。

まぁそれはどうでもいいんだ。
ホウエン地方に渡ったその後、ある洞窟で奇妙な───タマゴの殻を頭に被った四足歩行の生き物を見つけた。殻を外してみれば、可愛い顔でこちらを見上げて何故かやけに懐かれたので、当時の私はよく考えもせず捕獲した。同じく洞窟で出会った変なお兄さん(後にチャンピオンと判明する)曰く『ココドラ』というポケモンらしい。変なお兄さんはココドラを捕獲した私に鋼タイプについて何か語ってきた、が、興味がなかった私はそのまま洞窟を去った。多分 今聞いても興味持てないと思う、そういう目で鋼タイプ見た事ないし。
私にとって鋼タイプのポケモンを育てるのはココドラが初めてだった。もっと正確に言うと、既に手持ちの中には鋼タイプを持つエンペルトやルカリオがいたけど、この2体は "生態系の観点で見ると" 水タイプと格闘タイプだ。つまり "生態系が鋼タイプ" のポケモンはココドラが初めてだった。その頃には自我が弱かった私も徐々に自分の意思で動けるようになり、ぼんやりとポケモントレーナーをしていたそれまでと違って、ポケモンの生態やわからない事をちゃんと調べられる様になっていた。
調べるところまではよかった。

「『鋼の体を作るために鉄鉱石を掘り出して食べている。人里に降りてきて線路や車を食べてしまう』……ご飯とは別に、体を作る為の鉄が必要……ってコト??」

結論から言うとそんなコトはない。ココドラは鋼の体を作る為に "食事も兼ねて" 鉄を食べているからである。
しかし当時の少女ロウもとい私は見事に勘違いしたまま、ココドラの育成を始めてしまった。捕まえたココドラは何故か体当たりしか技が使えず、バトルにも出せなかったのでまずは体を大きくしようと私は思い立ってしまった。食事としてきのみやポケモンフーズを与え、体を作る為に鉄材や鉄鉱石をひたすら食べさせた。時には産廃場に行って廃鉄を分けてもらったりした。こんなに食べさせればココドラの方が嫌がるかと思いきや、幸か不幸か私のココドラは所謂 大食いだった。出された食事も鉄も全て食べ尽くし、1日に1t近く食べた時すらあった。コドラに進化したら更に食った。
ちなみに最終進化……つまりボスゴドラへとなった後に再会した、変な鋼フリークお兄さんに教えられて勘違いしていたと気付くまで、この食生活は続いた。続いてしまったもんだから私のボスゴドラはすっかり大きくなり、大きくなりすぎて、平均的には高さ2.1m・重さ360.0㎏とされているのにこの子は2.5m・460.0㎏と二回りくらい大きくなってしまった。

大きくなる分には良いんだ別に。体が大きくなるのは良い事だもの。
問題は、その中身だ。

「ぎゃわぁーーーーーーーーー!!!!ぐわおオオオオォォォォォォォ!!!!!!」

「ロウさん!!ロウさーん!!!お助けを!!お昼寝から目覚めたボスゴドラさんが愚図っておりますぅー!!
ああ痛い!!単純な蹴りでも痛いですゴルーグですが痛いです!!ゴルーグなのですがぁー!!!」

御覧の通り。
前にもちょっと触れた気がする(※)けど、ボスゴドラは体こそ大きいし最終進化も遂げたが、中身がまだ ほぼ赤ちゃんなんである。ちなみにこれも前触れた気がする(※)がボスゴドラは女の子です。(※シリーズ3作目参照)
それもその筈、かつてのココドラはポケモンセンターの見解と……一応保管していたココドラのタマゴの殻をクロガネ病院に送って色々検査してもらった結果、捕獲した時点で孵ってから推定でも5日程しか経っていなかったと判明した。判明したその頃にはもうボスゴドラに進化していた。
野性であれば時間をかけて進化するポケモンが、トレーナーに育てられ急速な進化を遂げた事で心が追い付かないという事例は多々ある。つまり人間で言うと赤ちゃんが成長しないまま、体躯だけが大人と同じくらいになった様なもので。そんな感じだから駄々も捏ねるし地団駄(技ではなくただの癇癪)もする。普通に、ボスゴドラとしてはココドラの感覚でする。
例えそれが大地を揺らし山をも削るものだとしても、普通にする。

「プァイ!プラプァ!」

「んぎゃわ……ぎゅう……」

ホウエン地方を旅していた頃から彼女の兄貴分として面倒を見ていた、勇気あるプラスルが暴れるボスゴドラの手足と尻尾を掻い潜り、その大きな口に特注サイズのストロー付きコップを差し出した。一瞬ビックリした様子のボスゴドラも中身が水だと気付いたらしくちゅうちゅうと飲み始める。ああ、寝起きで喉 乾いて愚図ってたのか……『お口カラカラいる゙ぅ゙ーーーーーーーーーーーー!!!!』って何の事かと思ったらそういう意味かぁ。
倒れているゴルーグに近寄り3カウントを始めようとしたが、蹴られたらしい頭を擦りながら案外すぐに上体を起こした。

「いやぁボスゴドラさんについてのお話は伺いましたが、改めてそうだと思って接すると大変ですねぇ……」

「でかい赤ちゃんだからね……駄々捏ねられると地形変わりそうになるし、バトルも練習試合とかだと遊び感覚でやっちゃうし、何より言ってることがヒサメより赤ちゃんでたまにわかんないんだよね。虫ポケモンよりはましだけど」

「トレーナーとして育成しながら母としても子育てをするとは、流石ロウさんです。
ところで、シュウさんは無事にカロス地方へ向かわれましたか?」

「うん、ウッキウキで帰省した」

諸々事情があって、体躯の大きいドサイドンとゴルーグを置いて一旦カロス地方に帰ったシュウを、実はついさっき見送って来たのです。この2匹を置いて行ったのは「飛行機で行くから」って言ってたけど、ボールに戻すから関係なくない?と思ったのは私だけだろうか。何か理由あるのかな……なさそうな気がする……

「ぐぎゅ、ぐおぅ~~」

「あ、ボスゴドラ起きた、の、か」

水を飲み終えたらしく丁寧にコップをその場に置いてから、のしのし歩いてきたボスゴドラ。人形みたいに持ち上げられて硬くて冷たい顔を押し付けられる。まぁもうこれいつもの事なのでそんな驚きませんけどね。もう慣れましたからね。ボスゴドラの "ママ" ですので、母ですので。

「がおぅ~~」

「よーしよしよしボスゴドラ良い子だねぇ~いっぱい寝たねぇ。でも寝起きで愚図るのはやめようねぇ……いつかプラスル潰しちゃうかもしれないし……」

「ぷぎゃい、ぷるるぁ(特別翻訳:そうなるぐらい暴れたらボクは退避して、後はバシャーモに任せるよ)」

プラスルの言葉に思わず顔芸を披露するバシャーモを横目に、ボスゴドラの頭を撫でる。ひんやりスベスベ。鋼だから当たり前体操。まぁそれはそれとしてだ。

「うーん……やっぱり角、短いよなぁ」

「ぐぎゅ?」

「はて、ボスゴドラさんの角が短いと何か不便があるのですか?」

「不便っていうかね、ボスゴドラって角で年齢がわかるらしいんだわ」

曰く、ボスゴドラの角は年を重ねるごとに少しずつ伸びていくので、それで年齢がわかるらしい。年輪みたいなもんと思っておけばいいと思う。他にもそういう体の特徴で年齢がわかるポケモンは一応いるけどね、カメールとかがいい例。
それを踏まえましてうちのボスゴドラちゃん、の角。赤ちゃん状態から爆速で進化させてしまったが故に、あまりにも短い。あまりボスゴドラをちゃんと見た事がないっていう人なら気付かないけども、他の個体と並べてしまうと違いは一目瞭然。変な鋼オタクお兄さんも例によってボスゴドラを持っていたが、体の大きさは兎も角 同族も年齢がわかるらしく妙に子供……というよりココドラ扱いされていた。

「ココドラ扱いされるだけましだと思うんだけど、たまーに見下してくる奴いるんだよ。野性のポケモンもだけど、トレーナーのポケモンでも つい最近まで野性育ちでボスゴドラを見た事あるって奴は特に酷い」

「ふぅむなるほど、確かに野生下において "年齢" はヒエラルキー構築の判断材料として使われますからね。年若いポケモンはあらゆる経験が不足しているが為に、経験豊富な成熟したポケモンに見下されやすい。おまけに鋼タイプや岩タイプのポケモンは、体に残った傷跡でどれだけ戦闘経験を積んでいるかも判断すると、ドサイドンさんから以前教わりました」

そこ教えたのシュウじゃないんだ……
ゴルーグと何か小難しい話を始めたと思ったのか、ボスゴドラはつまらなそうな顔をして私を地面に降ろしてから、さっきまで寝転がっていた場所に四つん這いで歩いて行ってのしりと座り込んだ。拗ねてる、可愛い。後で構わねば。
しかしゴルーグの言う通りその理論は確かに存在する。そして私のボスゴドラはほぼ生まれたてのココドラから育てた上に、そのポテンシャルで相手に傷付けられる前にすべて薙ぎ倒すので傷跡はほぼない。つまり嫌味臭いが強さ故の無傷。でもこれが見下される一因なんだろう。傷ひとつない体に短い角、相手のポケモンから見れば「ボールから一切出さずに経験値だけあげて育てたんか???」と指差して嗤う様な感覚だろう。

「でもそう考えるとムクホークはすごかったな……」

「ハクタイの森にお住いのムクホークさんですか?あのムクバードさん達のボスの……」

「そうそう、ムクホークの姐さん。前にボスゴドラ連れてハクタイの森入ったら案の定ムクバード達に絡まれてさぁ。あいつら1匹でいると慎重になるくせに、群れた途端 一気に強気になるからもうめんどくさいったら。その時も一切降りてこないで、空中からバカだのアホだの言ってきたんだよ。
撃ち落としてやろうかと思ったんだけど……あ、ボスゴドラにやらせようとしたんじゃなく私がね。「ロウさん自ら撃ち落とそうとしてたのですか!?」トレーナーだからね、それぐらいはできる」

できるよ、ポケモントレーナーだからね。諸事情あってポケモンにポケモンを嗾けられない、でも攻撃しないといけない、となったら鳥ポケモンだろうがドラゴンポケモンだろうが撃ち落とせるよ。シンオウ人(仮)だからね。
確かにその時撃ち落とそうとした。実際に石 拾って振りかぶってた。そうしたらいきなりムクホークがムクバード達を蹴散らしていった。本当にいきなり。そして私達を背にして『子供相手に負け見たい奴だけ突っ込みな』と一喝。何かを察したらしいムクバード達は、またうるさく鳴きながらそれで去っていった。後で姐さんになんであんな事をしたのかと聞いたら、『最終進化その図体でやっと立ち上がった子供が傷一つもないのならば、自力で打ち負かしてるという証明だろう。そうでなくともこんな大きな子を守ってる奴は相当な手練れだ』と。

「やーやっぱ森1つ縄張りにしてるだけあるなと思ったわ。見た目の情報だけで安易な判断をしない。オヤブン、いやボスってすごいよね」

「ほほうその様な事が……姐さんと呼ばれるだけありますねぇ」

「ムクバード達が弱過ぎて、ボスゴドラが大した反応してなかったってのもあるかもだけどね。
ってあれ、ボスゴドラ?どうした……ピギャ」

何かに気付いたらしいボスゴドラが歩いて行く。その方向を見れば、ヒョウタさんが。咄嗟にローリング回避の動きでゴルーグを盾にする形で隠れる。ゴルーグが何か言っているがそれどころではない。髪の毛ぼさぼさになってないか、肌の調子は良いか、というか服これで大丈夫かとか!!色々確認しないとヒョウタさんの前には出られない!!!
ちなみにボスゴドラはと言うと、お父さんの専門タイプが鋼な上にご自身は岩タイプを専門にしているジムリーダーは伊達ではなく、ボスゴドラの事をよくわかってくれるしいつも構ってくれるヒョウタさんにはめちゃくちゃ懐いている。案の定 喜んで抱き上げているみたい……ん??

「ちょっと、ゴルーグ、あの子ヒョウタさんのこと何て呼んでる? 気のせいかもしれないけどさ」

「え? ああはい、『パパ』とお呼びしていますね。ウフフフ微笑ましいですねぇ」
「いやなんでヒョウタさんがパパなの!!!?? ママが私でなんでパパがヒョウタさんなの!!!?? まだそういう、そういうさぁ!!!!! まだ違うけど!!!!!????」
「あっそうですね!? 何気なく受け入れてしまっていましたが "まだ" 違いましたね!!? うっかりしていましたゴルーグだというのに!ゴルーグだというのに!!」

まだという言い方もおかしい気がするけどまだ違うのよ。そういう関係じゃないから違うのよ。スマホのカメラで髪型だけチェックして、深呼吸をしてからようやくゴルーグの後ろから出ていく。

「ぐわぅ~~~」

「あはは、ありがとうボスゴドラ。でもそろそろ降ろしてほしいな~……」

「ボスゴドラ! ヒョウタさんが困ってるからほら降ろしたげて!
そしてさっきの発言の意図を聞かせてほしい!! 主に誰に吹き込まれたのか!!!」

「あっロウちゃん、こんにちは。吹き込まれたって……何が?」
「気にしないでください!!」

素直にヒョウタさんを降ろしたボスゴドラを連れて少し距離を取る。頭にはてなマークをいっぱい浮かべている顔のボスゴドラを手招いて、その体躯によじ登って耳打ちした。

「どうしてヒョウタさんの事を、ぱ、パッ、パパ、って呼んでるの?!」

「んぎゃ、ぐおぅおぅ(特別翻訳:その内そうなるからプラスルプラ兄ぃが今から呼んどけって)」

「マァ!マイナァ!!(特別翻訳:バレたぜ相棒!!)」
「ヤハーーー!!!(特別翻訳:逃げるんだよぉーーー!!!)」

あいつらかァーーー!!流石の逃げ足とコンビネーション。あっという間に逃げられてしまった。いや大丈夫だった、その先にいたシュウのドサイドンが捕獲してくれた。ありがとう、そのまま押さえといて。
大体なんだ「その内そうなる」って! なれたらいいなぁとかは思ってるけどそういう関係になれる訳ないし、そもそもボスゴドラがパパって呼ぶのであればそれはもう、もう、恋人とかそういうのを超えた関係なんじゃないかなぁ!!!更にハードル高いんじゃないかなぁ!!!!!

「ロウちゃん大丈夫? プラスルとマイナンが捕まってるけど……」

「捕まえてもらった形なので大丈夫です! ところで何か御用でした?」

「大丈夫ならいいけど……この間、おすすめの錆止めがあるって話したの覚えてるかな。あの後 父さんとも同じ話になって、少し分けてもらったんだ」

そういえば、『ボスゴドラはどうしても家に入れられないから外で寝るけど雨の日でも出て行こうとする』って話したな。そして錆止め買おうかなーみたいな話した、したわ。覚えててくれるの嬉しすぎる……!!!いっぱいちゅき……
ヒョウタさんから錆止めを受け取ると、自分に関係する物だと察したのか、ただ母親へのプレゼントだと思ったのか、どっちなのかはわからないが「パパありがとー」とボスゴドラも笑顔に。言ってる内容がヒョウタさんには伝わらないの、今以上によかったと思った事無いわ。「んぎゃぎゃうー」としか聞こえてないんだよね、焦るわ本当に。

「よしよし、ロウちゃんに錆止め塗ってもらってる間は良い子にするんだよ、ボスゴドラ」

「本当にありがとうございます。大事に使いますね」
「うーちゃーん」

ん?ヒサメ?今どこから声 聞こえた?
ヒョウタさんと2人で辺りを見回すがあのちっこいのは何処にも見当たらない。するとボスゴドラが空を指差した。その先にはこっちに手を振るヒサメが。頭にチルット、服にイーブイをしがみ付かせている。何故か浮いている。本当に何故。一瞬チルットが飛んでいるのかと思ってけど、あれはどうも違う、チルットがそもそも羽を広げていない。

「何あれどうなってんの!? ゴルーグ何か視える?!」

「はわわ、あれはまずいですロウさん!とりあえずこちらをどうぞ」

え、なにこれ。ってこれは部屋に置きっぱなしにしていたカントー地方で偶然手に入れたシルフスコープ!!サイコキネシスで回収したの?
とりあえずゴルーグに言われた通りシルフスコープを受け取り、装着。浮いているヒサメを見るとその手元には3匹のフワンテ。手首にしっかり絡みついている。

「ギャアァァァァァァ!!!しっかりヤバい奴じゃん!!!!!」

「!? …………! フワンテ!?」
越後〇菓正解!!」

フワンテってマジで子供攫うんだ!?初めて見た……いや感心してる場合じゃないどうしよう!?ゴルーグか他のひこうポケモン飛ばすにしても結構 高い位置飛んでるし途中で妨害されたり、最悪ヒサメを盾にされたり落とされたら……
口を開けて空を見上げているボスゴドラが視界に入る。もう一度ヒサメを見上げて、うん、"イケる"。

「ボスゴドラ!跳べ!ヒサメ捕まえて!!」

「? グオォ!!」

なんで急に?という顔を向けられるが、私自身が思っているより切羽詰まった表情をしていたのかボスゴドラは走り出した。助走を付けて、両足に力を籠め、思い切り、跳んだ。それは高く跳び上がりあっという間に空飛ぶフワンテ達に追いつき、3匹共「マジで?」と言わんばかりの表情を浮かべている。ヒサメの小さな身体をキュッと掴み、ボスゴドラは重力に従って落ちてくる。
……このまま落ちてきたら流石にヤバいな。地震ってレベルじゃない大事になってしまう。

「ゴルーグ、ボスゴドラ受け止めてほしい」
「なんと……」

「体格的に同じだし頑張ってほしい。大丈夫サイコキネシス使えるポケモン総動員して衝撃抑えるから」

「Oh……しかしそのご指示承りましょう、ゴルーグですので!ゴルーグですので!!」

両手を打ち鳴らして四股を踏むゴルーグ。どこで覚えたんだそれは。シュウは相撲見ないはず……
そんなことよりもだ、とりあえず宣言通りサイコキネシスを使える手持ちを全員ボールから出し、庭にいるのを呼びつけ、空を指差す。それだけで察してくれるのありがたいね。いつも迷惑かけてごめんね……
結果的にヒョウタさんもダイノーズの「じゅうりょく」で援護してくれて、みんなの頑張りとゴルーグの踏ん張りにより、何とかマグニチュード4ぐらいに収める事ができた。収まった。収まった事にしよう。

「ヒサメちゃん!」
「ヒサメ!!大丈夫!?」

「? だいじょーぶ!」

「私も大丈夫です!ゴルーグですので!ゴルーグですので!!」

本人はやっぱり拐われてるとは思ってなかったか…… 人間は兎も角イーブイは只事ではないかもしれないと思っていたのか、ようやく辿り着いた地面で伸びきっている。チルットは相変わらず首を傾げている、飛んでないのに浮いていてる感覚が不思議だったんだろうか?
当の3匹のフワンテ達は、オニゴーリも青ざめるんじゃないかという形相でブラッキーに追いかけ回され、シャンデラに脅かされ、ピジョットが起こした風に煽られ何処かに飛んでいった。二度と来るな。

「あぁーよかった……子供拐ってるフワンテなんて初めて見た……シルフスコープ持っててよかったとか初めて思った……」

「たのしかった!」
「喧しい」

「ヒサメちゃんもう少しでフワンテに連れていかれるところだったんだよ? 連れて行かれたら、もうお姉ちゃんとも会えなくなっちゃうから気を付けようね」

「えっうーちゃんと会えないのやだー!!」
「だからもう、もういいかぁもう……」

伸びきったイーブイの隣に座り込む。と同時にボスゴドラに抱き上げられ、労っているのかヨシヨシと頭を撫でられ、自分の頭を擦り付けて来た。そうね、頑張ってくれたからね。ありったけの力を込めてヨシヨシしておこう。

「それにしても、話には聞いていたけどボスゴドラの "筋力" は本当にすごいね。まさかあんな高さまで跳べるなんて、思ってなかったよ」

「ええ私もゴルーグなのですがビックリです。以前デンジさんとのバトル(※)でも拝見したましが、凄まじいものですね」
(※シリーズ3作目参照)

「ココちゃん力もちだもんね!」

私のボスゴドラの他とは違う一番の特徴、それは身体の大きさではなく、その身の "筋力" 。
鋼タイプや地面タイプ、岩タイプなんかは鈍重に捉えられがちだと思うけど、実はその鋼や岩を纏って重い身体を支える為に、筋肉が他のタイプのポケモンより発達しているらしい。他のタイプだと、格闘タイプのポケモンであれば戦う(人間で言うと格闘技を行う)為の筋力が発達しているとかそういうの。動きこそ鈍いがその分支えられているのには訳があるってコトネ。
以前出会った後にチャンピオンと判明する変な鋼フリークお兄さん曰く、私のボスゴドラは通常の個体よりも "筋力が数倍発達していて、普通では考えられない速度で動いたり跳び上がったりする" 事ができるんだとか。しかも恐らく生まれつきのものだとか。異常発達とでも言うんだろうか。

「んぎゃわーう」

「……まぁ普通のボスゴドラよりも可愛いし、ちょっとした個性もいいよね」

「ぎゅ?」

「何でもないよ。
さて、ヒサメもとりあえず無事だったしご飯にでもしようか」

遥かに短い角を撫でながら何とか地面に降ろしてもらう。折角だしヒョウタさんも一緒にどう、だろうか……迷惑かけたし手伝ってもらったし折角だからね!!下心とかではなく!!!

「わーいごはんだー!ヒョタくんも一緒にごはん食べよー」

「えっでもボクは通りがかっただけだからなぁ」

「そんな事仰らず!ダイノーズさんもご一緒にいかがでしょう!食事はみんなで食べると美味しいものだと奥方様から教わりましたので是非!」

ナイスだヒサメとゴルーグ。でもそこ教えたのシュウじゃなくて奥さんなんだ、ていうかゴルーグってマジで何処から物食べてるんだろう。つんつんと服を引っ張られた方を見上げれば、ボスゴドラが両手を合わせて何か、こちらの様子を伺っているような目で見て来た。

「ぎゃう、んぎゃ」

「え? 何食べるのって? そうだな……夜はカレーにするって言ってたし、パスタとか?」

「ぎゅう~……ぎゃわー!」

「ボスゴドラどうしたの?」

「ううん、何か、カレー今食べたい的な事を主張してますね。カレーは夜だから今は食べないよボスゴドラ」

そう告げた途端、ボスゴドラはその場にひっくり返った。そうしてバタバタと騒ぎ始める。

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!ぐおーん!!!!!」
「あぁぁぁぁぁ癇癪起こさないでぇー!!地震になる!いやもう既に地震と化してるから!!!」

「あわわ、ボスゴドラ落ち着いてー!!」

「ココちゃんほら!ヒサのポケモンカレー(レトルトカレー・甘口)あげるから泣かないでー!!」

「あー痛い!!何故いつも私を蹴るのですかボスゴドラさん!? 痛いですゴルーグなのですが痛いですー!!技じゃない上にノーガードなので受けてしまうゴルーグなのでしたァー!!!」

前言撤回、やっぱりもう少し大人になってほしいかもしれない。
この後 勇気あるプラスルが勝手に持ち出してきた、私の秘蔵のカレーパンを食べさせる事で何とか落ち着いたボスゴドラなのでした。ゴルーグはちょっと伸びてたけど負傷者0でした。

「なんやかんやでプラスルが一番ボスゴドラの親してると思うんだよなぁ……」

「プルルルヤハ(特別翻訳:落ち着かせる術を用意しておかないと潰されるのはボクだからね)」
「ていうかさっきから思ってたけどプラスル鳴き声そんなのだっけ?さっきヤハーとか言ってたよね。分類とか別にウサギじゃないでしょ」

「ウラ」
「やめんか」
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