様子と機能がおかしい叔父さんのゴルーグと恋に惑う私
「ぷはーさっぱりした」
親子連れか街の悪ガキ達でもいるかと思ったのに、公園は珍しく無人の状態だった。なので遠慮なく水飲み場を独占、好きなだけ水を汲んで顔を洗う。ちょっと気温が高いせいかムーランドに水浴びをせがまれたので余った水を思い切り被せた。そしてその水しぶきでゴルーグがダメージを受けるなどした。
「はぁー……今日いい天気だなぁ……」
向こうから2頭分の足音が聞こえる。ギャロップもゼブライカも駆けっこが好きだからまた競争してるんだろう。1.6mと1.7mぐらいの馬ポケモンが走り回るには狭い場所だけど、ピカチュウとプラスルに監督させてるし、余程の事が無い限り事故は起きない、はず。
「本当ですねぇ、今日は実に良いお天気です。ロウさんの御心の様に澄み切って晴れ晴れとした」
「そういうのいいから」
「はい。言われたら控えますとも、ゴルーグですので。
……おや?」
さっきまでの情緒不安定が嘘の様に心穏やかだ。今言われるのは腹立つので止めたが、案外ゴルーグの言う通りかもしれない。
ベンチに腰掛けて勢い良く背もたれに寄りかかる。勢いが良過ぎて若干首が痛い。体は元気だけど心が落ち着いている中で何となく疲れている、そういう感じがする。思わず目を瞑って深く息を吐き出した。
───正直な話、自分がここまで『恋愛感情』に振り回される質だとは思わなかった。朝 目が覚めて真っ先に思い浮かぶ、恋の歌にそんな歌詞があったけど本当にそうだと、自分がそうなると思ってなかった。むしろ私は恋に振り回される人を見下す側だったし。無様で見苦しくて愚かしくて、他人の事ばかり考えるなんてバカみたいだと。的は得てるよね、とんでもないブーメランくらってるんだから。
「(既にシュウとかに迷惑かけてる自覚はあるけど、好きな人を優先し過ぎて他の人に嫌な思いさせたり迷惑かけたり、ましてやポケモンを蔑ろにしたりする人間にはならない様にしないと……)」
さっきまでの自分を思い出して心底不愉快な気分に陥る。ちょっと仲良さげに話してるだけで無様に嫉妬して、進展が無ければ勝手に安心して、最低な人間にも程がある。ぶっちゃけると心の中でハイドロカノン10発は撃ってたし。5発しか撃てない?馬鹿野郎ポイントアップ使ったんだよ知らんけど。
ふいに、視界が陰る。天気がいいし目を伏せていても光が沁みる程の陽光だ、さっきゴルーグが何かに気付いた様な声出してたし、誰かに顔を覗き込まれてるのかも?
パッと瞼を開けるとそこにいたのは、
「あっ……えっと、こん、にちはロウちゃん」
ちょっとバツが悪そうな顔をしたヒョウタさんだった。
「くぁwせdrftgyふじこlp 」
「おお、溢れ出る動揺をルビで隠すとは流石ロウさん!ですが驚きすぎて四足歩行になっています!ロウさん四足歩行が、レントラーさん(※)直伝の四足歩行が!!」
(※ロウの養母のポケモン。ロウがまだ小さい頃なんやかんやで自主的に面倒見ていた)
反射でベンチから飛び降り手で着地して体勢を整え上半身は落とし、腰を軽く上げて威嚇の姿勢にってしまった、完全に無意識で四足歩行してた。意外と癖付いてるんだな、気を付けよう……
何事もなかったかの様に手を払って髪を整える。何も無かった、私は四足歩行なんてしてない、レントラーから教わった威嚇なんてしてない、いいね?
「ど、どうもこんにちはヒョウタさん。えっと、珍しいですねーこんな時間に会えるなんて!休憩中ですか?」
「ううん、ちょっとした散歩だよ。今日はジムも閉めてるし、炭鉱も非番なんだ。
隣 良いかなって聞こうとしてたんだけど、驚かせちゃってごめんね」
「いえ勝手にビビったのはこっちなんで……あ、どうぞ座ってください。反射的に立ち上がっただけなんで」
1人分の間を空けて座るヒョウタさん。近寄ってそのまま突っ立っていたらそれとなく「座らないの?」という目を向けられたので、とりあえず隣に失礼する。
そういうところ、そういうところですよヒョウタさん。
「おや、お休みなのですか?先程ご用事があると仰っていたのでてっきりお仕事か何か」
「ムーランド、かみくだく!!」
「ガルゥゥアァァァ!!!」
「アァーこうかはばつぐん!!とても痛いですゴルーグですのでェー!!!」
あ、危なかった……立ち聞きしてたってバレたら社会的に死ぬしヒョウタさんに嫌われて精神的に死ぬだろ、どうしてこうも迂闊なんだゴルーグは!!このお喋りゴーレムめ、次に口 滑らせる様な真似したらただじゃおかんぞ。
「あの、ゴルーグさん大丈夫?」
「大丈夫です防御力高い(と思う)ので。
ヒョウタさん今日お休みだったんですね。失礼かもですけど、ヒョウタさんが丸一日お休みってなんか珍しいですね」
炭鉱で働きながらジムリーダーとして挑戦者の相手や仕事もして、仕事が終わったんだなーと思えば地下通路で化石発掘に勤しんで……うん、休み云々の前にヒョウタさんの体力やべぇな。完全オフっていうのも確かに珍しく見えるんだけど、何その行動力と体力。若さってすげぇな……年近い私が言うのも可笑しいけど。
でも休みならなんでいつもの作業着 着てるんだろ。ヘルメット持ってるし。
「うん、僕もそう思うよ。
……実はちょっと恥ずかしいんだけど、今日非番だっていうの忘れていつも通り炭鉱に行っちゃってさ」
「えっ大丈夫だったんですかそれ。主に炭鉱夫のおっちゃん達の反応」
「思い切り笑われた上にあれこれ好き放題 言われて帰ってきたよ……
朝からやたらとズガイドスが騒ぐし、通せんぼとかしてたんだけどそういう意味だったんだなぁって。その時点で気付けって話なんだけど」
「それはある意味 災難でしたね 」
「かわ、えっ?」
「それはある意味 災難でしたね。お疲れなのでは?
でもなるほど、だからお休みなのにいつもの作業着なんですね」
危ないあまりの可愛さと尊さで本音が漏れてしまった。なんか今日ダメだな色々と駄々漏れている。もう帰って寝よう。嫌だ帰りたくないヒョウタさんとお話ししたい。
……ん?「帰ってきた」って、あの女の人と話してたのは炭鉱から戻って来た後だったって事だよね。今日は休みなんだし、ゴルーグが口を滑らせた通りほんとに用事はなかったんじゃ、いや、ヒョウタさんなら用事=化石の可能性があったわ。休みなら・化石を掘ろう・地下通路みたいな人であった。今日も行くんだろうな……フフッそういう好きな物を最優先にするところも好き……
「……えっと、ロウちゃんはこの後何か用事とか、あったりする?」
「用事ですか?特にないですよ、いつも通りです」
そういつも通り。だって私はニートもとい自宅警備員だから。でもそこら辺の自宅警備員と一緒にはしないでほしい、病院の手伝いとかたまにアルバイトとかしてるから!一応毎日何かしらの行動はしてるから!
1人で心の中で弁解しているとあれヒョウタさんどうしたんだろう。なんかもじもじしてるっていうか、何か言いたげにしてるけどこっちの様子伺ってる様な、何ですかその反応ちょっとドキドキしちゃうじゃないですかヤダー!
───ほんとに、どうしたらいいの。何を言われるんだろう、雰囲気的に悪い事じゃないと思うから、ちょっと期待してしまう。でもきっと一緒に地下通路で化石掘ろうとか?そんなんですよね??こういう時どういう顔をすればいいのかわからないの……とりあえずヘラリと笑ってヒョウタさんの顔を覗き込む。
「な、何か、ありました……?」
「あ、う、その……実は、着替えてからコトブキシティにちょっと買い物に行こうかなって思ってたんだ。
思ってて、その、あの、ロウちゃんさえ、良かったら一緒にどうかなーっ」
「行きます」
「む、無理しなくても」
「死んでも行きます!!!」
食い気味に言ってしまったせいで若干引かれてる気がしないでもないが気にするな私。
つまりこれはで、DDD、デートって事かZOY!?デートのつもりで行ってOKなやつ?ダメ?わからんデートってなんだっけ(混乱)
いやいやいやいや落ち着け私、ヒョウタさんからの視点で考えてみよう。たまたま通りかかったところに知り合いのニートがいたから荷物持ちに連れ出そうとかそういうのでは?ヒョウタさんはそんな酷い事 考えないわアホか。
「(バカな1人ノリツッコミしてないでポケモン達呼び戻そう)お前らーコトブキ行くよー!ボール戻すから来てー!
ほらゴルーグも起きてよ、一旦家帰るから」
「畏まりました。よっこいしょと」
「(ゴルーグさん本当に大丈夫だった)」
多分この時間ならシュウも家に戻って来てるだろうしゴルーグは置いて行こう、絶対に置いて行く、絶対にだ。戻って来たギャロップ以外のポケモン達を次々ボールに戻しながら意思を強く固めた。
「じゃあ あの、私も帰って準備してきます。何処かで待ってた方がいいですか?」
「そうだね。じゃあポケモンセンターの前で待ち合わせしようか」
ウフフフ待ち合わせだってウフフフ。やだデートっぽいウフフフ。
ニヤケながら跨ったらギャロップに強めに炎で煽られる。アッツこの鬣 、心を許した相手には熱くなくなる性質があるけどこれ熱っ、匙加減 調節できんだアッツゥ。ちくしょう負けねぇぞ何とでも言え、焼くなり煮るなり好きにするがいい私はヒョウタさんと買い物行くんだアッツ。
「───本当は」
「え?」
「本当はずっと前から考えてたんだ、ロウちゃんと一緒に出掛けたいなって。僕が自分の予定を忘れたせいでここまで無駄に時間かかっちゃったし、もう少し良い格好をしてから誘いたかったけど……それでもロウちゃんと過ごせる時間ができてよかった」
それだけ言ってヒョウタさんは「じゃあまた後で」と言ってしまった。足はやっ。あの人本当に結構足速い。よく見たら脹脛の辺り汚れてる、何故。
しばらく考えて、空を見上げて、そのまま後ろに、ギャロップの背中に倒れ込む。そうしてもう1回ヒョウタさんが言った言葉を反芻して、転がり落ちそうになってゴルーグに受け止められた。
ずっと前から考えてたって、何時からかなぁ。あの女の人と話してた時も考えてたのかな。私と過ごせる時間ができてよかったって、何がどうよかったんですか。どういう意味の『よかった』なんですか。
「……ロウさん、大丈夫ですか?」
「ひひぃん?」
「……………………やばたに園の無理茶漬け」
「久々に聞きましたねそれ」
ゴルーグの掌の上で数十分悶えた私は、結局待ち合わせにちょっと遅刻した。
彼女は知らない。
「(よかった、断られなくて本当に良かった……!!)」
些細な行動や他人との交流で一喜一憂しているのは、自分だけではないという事を。
口実に上手く使われ腹を立てたプテラに尻尾で叩かれた脹脛がじんじんと痛むが、今止まってしまえば羞恥心で動けなくなってしまいそうで、とても足を止められなかった。
予定を覚え違えていたのも元はと言えば彼女が原因だった。いつか、何時か休日に声をかけようと思っていたのに「彼女を誘う事」ばかりに気が向いて、肝心の自身の休日を忘れていた。呆れた様な、ガッカリした様な顔で笑う炭鉱夫達の姿を見て、そこでようやく思い出したのだ。
我ながら青臭いにも程がある失敗だと、必死に自身を止めようとしていたズガイドス に申し訳ない事をしたと、モンスターボールを撫でる。と、途端にガタガタと震え出す、大層ご立腹の様だ。当然だろう。
だからほぼ、焚き付けられた様なものだった。
「今からでもロウちゃん誘って、コトブキ辺りでデートでもしてきたらどうだい」
1人言い出すとすぐさま全員で悪乗りするのはここで働く炭鉱夫の悪い癖だなとも思ったが、だからこそ吹っ切れる事ができた。悪乗りを利用してしまえと。
「そうですね。ロウちゃんを探しに行ってきます」
炭鉱でわざわざそう口にしたのは、色恋沙汰 には とんと免疫の無い自分の逃げ道を潰す為、自ら後戻りできない状態に追い込んで発破をかける為だった。
『ジムリーダー』という立場のせいか、時折 熱の籠った視線を向けられる事も少なくは無かった。と言ってもその熱が持つ "感情 " に気付いたのは人に言われてからで、そこからようやく理解したのだから救い様がない。化石の発掘やら炭鉱での仕事やらジムリーダーの責務やらで、"恋愛" にかまけている暇など無かった。(父は遠慮なくずけずけと口を出してきたが)母にそれとなくその話題を振られても「今は興味が無い」で通してきた。
暇も興味も確かに無かった。無かった筈なのに、いざ彼女に対して抱いている感情に気づいてしまうと、どうしようもない衝動に駆られた。「興味が無い」から断って来た誘いや誘惑も、今は「彼女が好きだから」断っていた。どちらの理由も、中途半端にしてしまえば相手を大切にできないからと、免罪符の様に握り締めていた。だが今の自分はどうしようもなく、目の前で自身に好意を寄せてくれている相手よりも、その場に居もしない彼女ばかり優先していた。
「(僕じゃロウちゃんに釣り合わないのは当たり前だし、嫌と言う程 理解できているけど)」
それでも、彼女の隣にいたい。そう思ってしまうのは紛れもなく恋の所為。
───なのだが、彼の生来と言っても過言ではない生真面目さ故か、彼女へ抱く衝動は何故か自分の下心の所為だと、今日も思い込んでいるヒョウタであった。
親子連れか街の悪ガキ達でもいるかと思ったのに、公園は珍しく無人の状態だった。なので遠慮なく水飲み場を独占、好きなだけ水を汲んで顔を洗う。ちょっと気温が高いせいかムーランドに水浴びをせがまれたので余った水を思い切り被せた。そしてその水しぶきでゴルーグがダメージを受けるなどした。
「はぁー……今日いい天気だなぁ……」
向こうから2頭分の足音が聞こえる。ギャロップもゼブライカも駆けっこが好きだからまた競争してるんだろう。1.6mと1.7mぐらいの馬ポケモンが走り回るには狭い場所だけど、ピカチュウとプラスルに監督させてるし、余程の事が無い限り事故は起きない、はず。
「本当ですねぇ、今日は実に良いお天気です。ロウさんの御心の様に澄み切って晴れ晴れとした」
「そういうのいいから」
「はい。言われたら控えますとも、ゴルーグですので。
……おや?」
さっきまでの情緒不安定が嘘の様に心穏やかだ。今言われるのは腹立つので止めたが、案外ゴルーグの言う通りかもしれない。
ベンチに腰掛けて勢い良く背もたれに寄りかかる。勢いが良過ぎて若干首が痛い。体は元気だけど心が落ち着いている中で何となく疲れている、そういう感じがする。思わず目を瞑って深く息を吐き出した。
───正直な話、自分がここまで『恋愛感情』に振り回される質だとは思わなかった。朝 目が覚めて真っ先に思い浮かぶ、恋の歌にそんな歌詞があったけど本当にそうだと、自分がそうなると思ってなかった。むしろ私は恋に振り回される人を見下す側だったし。無様で見苦しくて愚かしくて、他人の事ばかり考えるなんてバカみたいだと。的は得てるよね、とんでもないブーメランくらってるんだから。
「(既にシュウとかに迷惑かけてる自覚はあるけど、好きな人を優先し過ぎて他の人に嫌な思いさせたり迷惑かけたり、ましてやポケモンを蔑ろにしたりする人間にはならない様にしないと……)」
さっきまでの自分を思い出して心底不愉快な気分に陥る。ちょっと仲良さげに話してるだけで無様に嫉妬して、進展が無ければ勝手に安心して、最低な人間にも程がある。ぶっちゃけると心の中でハイドロカノン10発は撃ってたし。5発しか撃てない?馬鹿野郎ポイントアップ使ったんだよ知らんけど。
ふいに、視界が陰る。天気がいいし目を伏せていても光が沁みる程の陽光だ、さっきゴルーグが何かに気付いた様な声出してたし、誰かに顔を覗き込まれてるのかも?
パッと瞼を開けるとそこにいたのは、
「あっ……えっと、こん、にちはロウちゃん」
ちょっとバツが悪そうな顔をしたヒョウタさんだった。
「
「おお、溢れ出る動揺をルビで隠すとは流石ロウさん!ですが驚きすぎて四足歩行になっています!ロウさん四足歩行が、レントラーさん(※)直伝の四足歩行が!!」
(※ロウの養母のポケモン。ロウがまだ小さい頃なんやかんやで自主的に面倒見ていた)
反射でベンチから飛び降り手で着地して体勢を整え上半身は落とし、腰を軽く上げて威嚇の姿勢にってしまった、完全に無意識で四足歩行してた。意外と癖付いてるんだな、気を付けよう……
何事もなかったかの様に手を払って髪を整える。何も無かった、私は四足歩行なんてしてない、レントラーから教わった威嚇なんてしてない、いいね?
「ど、どうもこんにちはヒョウタさん。えっと、珍しいですねーこんな時間に会えるなんて!休憩中ですか?」
「ううん、ちょっとした散歩だよ。今日はジムも閉めてるし、炭鉱も非番なんだ。
隣 良いかなって聞こうとしてたんだけど、驚かせちゃってごめんね」
「いえ勝手にビビったのはこっちなんで……あ、どうぞ座ってください。反射的に立ち上がっただけなんで」
1人分の間を空けて座るヒョウタさん。近寄ってそのまま突っ立っていたらそれとなく「座らないの?」という目を向けられたので、とりあえず隣に失礼する。
そういうところ、そういうところですよヒョウタさん。
「おや、お休みなのですか?先程ご用事があると仰っていたのでてっきりお仕事か何か」
「ムーランド、かみくだく!!」
「ガルゥゥアァァァ!!!」
「アァーこうかはばつぐん!!とても痛いですゴルーグですのでェー!!!」
あ、危なかった……立ち聞きしてたってバレたら社会的に死ぬしヒョウタさんに嫌われて精神的に死ぬだろ、どうしてこうも迂闊なんだゴルーグは!!このお喋りゴーレムめ、次に口 滑らせる様な真似したらただじゃおかんぞ。
「あの、ゴルーグさん大丈夫?」
「大丈夫です防御力高い(と思う)ので。
ヒョウタさん今日お休みだったんですね。失礼かもですけど、ヒョウタさんが丸一日お休みってなんか珍しいですね」
炭鉱で働きながらジムリーダーとして挑戦者の相手や仕事もして、仕事が終わったんだなーと思えば地下通路で化石発掘に勤しんで……うん、休み云々の前にヒョウタさんの体力やべぇな。完全オフっていうのも確かに珍しく見えるんだけど、何その行動力と体力。若さってすげぇな……年近い私が言うのも可笑しいけど。
でも休みならなんでいつもの作業着 着てるんだろ。ヘルメット持ってるし。
「うん、僕もそう思うよ。
……実はちょっと恥ずかしいんだけど、今日非番だっていうの忘れていつも通り炭鉱に行っちゃってさ」
「えっ大丈夫だったんですかそれ。主に炭鉱夫のおっちゃん達の反応」
「思い切り笑われた上にあれこれ好き放題 言われて帰ってきたよ……
朝からやたらとズガイドスが騒ぐし、通せんぼとかしてたんだけどそういう意味だったんだなぁって。その時点で気付けって話なんだけど」
「
「かわ、えっ?」
「それはある意味 災難でしたね。お疲れなのでは?
でもなるほど、だからお休みなのにいつもの作業着なんですね」
危ないあまりの可愛さと尊さで本音が漏れてしまった。なんか今日ダメだな色々と駄々漏れている。もう帰って寝よう。嫌だ帰りたくないヒョウタさんとお話ししたい。
……ん?「帰ってきた」って、あの女の人と話してたのは炭鉱から戻って来た後だったって事だよね。今日は休みなんだし、ゴルーグが口を滑らせた通りほんとに用事はなかったんじゃ、いや、ヒョウタさんなら用事=化石の可能性があったわ。休みなら・化石を掘ろう・地下通路みたいな人であった。今日も行くんだろうな……フフッそういう好きな物を最優先にするところも好き……
「……えっと、ロウちゃんはこの後何か用事とか、あったりする?」
「用事ですか?特にないですよ、いつも通りです」
そういつも通り。だって私はニートもとい自宅警備員だから。でもそこら辺の自宅警備員と一緒にはしないでほしい、病院の手伝いとかたまにアルバイトとかしてるから!一応毎日何かしらの行動はしてるから!
1人で心の中で弁解しているとあれヒョウタさんどうしたんだろう。なんかもじもじしてるっていうか、何か言いたげにしてるけどこっちの様子伺ってる様な、何ですかその反応ちょっとドキドキしちゃうじゃないですかヤダー!
───ほんとに、どうしたらいいの。何を言われるんだろう、雰囲気的に悪い事じゃないと思うから、ちょっと期待してしまう。でもきっと一緒に地下通路で化石掘ろうとか?そんなんですよね??こういう時どういう顔をすればいいのかわからないの……とりあえずヘラリと笑ってヒョウタさんの顔を覗き込む。
「な、何か、ありました……?」
「あ、う、その……実は、着替えてからコトブキシティにちょっと買い物に行こうかなって思ってたんだ。
思ってて、その、あの、ロウちゃんさえ、良かったら一緒にどうかなーっ」
「行きます」
「む、無理しなくても」
「死んでも行きます!!!」
食い気味に言ってしまったせいで若干引かれてる気がしないでもないが気にするな私。
つまりこれはで、DDD、デートって事かZOY!?デートのつもりで行ってOKなやつ?ダメ?わからんデートってなんだっけ(混乱)
いやいやいやいや落ち着け私、ヒョウタさんからの視点で考えてみよう。たまたま通りかかったところに知り合いのニートがいたから荷物持ちに連れ出そうとかそういうのでは?ヒョウタさんはそんな酷い事 考えないわアホか。
「(バカな1人ノリツッコミしてないでポケモン達呼び戻そう)お前らーコトブキ行くよー!ボール戻すから来てー!
ほらゴルーグも起きてよ、一旦家帰るから」
「畏まりました。よっこいしょと」
「(ゴルーグさん本当に大丈夫だった)」
多分この時間ならシュウも家に戻って来てるだろうしゴルーグは置いて行こう、絶対に置いて行く、絶対にだ。戻って来たギャロップ以外のポケモン達を次々ボールに戻しながら意思を強く固めた。
「じゃあ あの、私も帰って準備してきます。何処かで待ってた方がいいですか?」
「そうだね。じゃあポケモンセンターの前で待ち合わせしようか」
ウフフフ待ち合わせだってウフフフ。やだデートっぽいウフフフ。
ニヤケながら跨ったらギャロップに強めに炎で煽られる。アッツこの
「───本当は」
「え?」
「本当はずっと前から考えてたんだ、ロウちゃんと一緒に出掛けたいなって。僕が自分の予定を忘れたせいでここまで無駄に時間かかっちゃったし、もう少し良い格好をしてから誘いたかったけど……それでもロウちゃんと過ごせる時間ができてよかった」
それだけ言ってヒョウタさんは「じゃあまた後で」と言ってしまった。足はやっ。あの人本当に結構足速い。よく見たら脹脛の辺り汚れてる、何故。
しばらく考えて、空を見上げて、そのまま後ろに、ギャロップの背中に倒れ込む。そうしてもう1回ヒョウタさんが言った言葉を反芻して、転がり落ちそうになってゴルーグに受け止められた。
ずっと前から考えてたって、何時からかなぁ。あの女の人と話してた時も考えてたのかな。私と過ごせる時間ができてよかったって、何がどうよかったんですか。どういう意味の『よかった』なんですか。
「……ロウさん、大丈夫ですか?」
「ひひぃん?」
「……………………やばたに園の無理茶漬け」
「久々に聞きましたねそれ」
ゴルーグの掌の上で数十分悶えた私は、結局待ち合わせにちょっと遅刻した。
彼女は知らない。
「(よかった、断られなくて本当に良かった……!!)」
些細な行動や他人との交流で一喜一憂しているのは、自分だけではないという事を。
口実に上手く使われ腹を立てたプテラに尻尾で叩かれた脹脛がじんじんと痛むが、今止まってしまえば羞恥心で動けなくなってしまいそうで、とても足を止められなかった。
予定を覚え違えていたのも元はと言えば彼女が原因だった。いつか、何時か休日に声をかけようと思っていたのに「彼女を誘う事」ばかりに気が向いて、肝心の自身の休日を忘れていた。呆れた様な、ガッカリした様な顔で笑う炭鉱夫達の姿を見て、そこでようやく思い出したのだ。
我ながら青臭いにも程がある失敗だと、必死に自身を止めようとしていた
だからほぼ、焚き付けられた様なものだった。
「今からでもロウちゃん誘って、コトブキ辺りでデートでもしてきたらどうだい」
1人言い出すとすぐさま全員で悪乗りするのはここで働く炭鉱夫の悪い癖だなとも思ったが、だからこそ吹っ切れる事ができた。悪乗りを利用してしまえと。
「そうですね。ロウちゃんを探しに行ってきます」
炭鉱でわざわざそう口にしたのは、
『ジムリーダー』という立場のせいか、時折 熱の籠った視線を向けられる事も少なくは無かった。と言ってもその熱が持つ "
暇も興味も確かに無かった。無かった筈なのに、いざ彼女に対して抱いている感情に気づいてしまうと、どうしようもない衝動に駆られた。「興味が無い」から断って来た誘いや誘惑も、今は「彼女が好きだから」断っていた。どちらの理由も、中途半端にしてしまえば相手を大切にできないからと、免罪符の様に握り締めていた。だが今の自分はどうしようもなく、目の前で自身に好意を寄せてくれている相手よりも、その場に居もしない彼女ばかり優先していた。
「(僕じゃロウちゃんに釣り合わないのは当たり前だし、嫌と言う程 理解できているけど)」
それでも、彼女の隣にいたい。そう思ってしまうのは紛れもなく恋の所為。
───なのだが、彼の生来と言っても過言ではない生真面目さ故か、彼女へ抱く衝動は何故か自分の下心の所為だと、今日も思い込んでいるヒョウタであった。