様子と機能がおかしい叔父さんのゴルーグと恋に惑う私
私、ポケモントレーナーの『ロウ』!こっちは叔父さん的な人が会話能力を与えたせいで妙なテンションで喋れる様になったゴルーグ!こいつ 何故かはわからないけどいっつも私についてくるの、正直ウザい!!今更だけど自分のトレーナー置き去りにしてまでなんで私についてくんの??!
でも今はいてくれてよかったと心底思う。ストッパーになってくれるゴルーグがいなければ今頃何してたかわからない、もしかしたらジュンサーさん呼ばれても可笑しくない事しでかしてたかもしれない。それくらい今の私は、とてもじゃないが冷静になれない。
視線の先で、『ヒョウタ』さんと楽しそうに話す見知らぬ女性を睨み付けながら、ただただ隠れ蓑にしている電柱を握り締めた。
「グギギギギ……めぇっちゃ楽しそうにお話ししとるやんけ……誰だあの人……」
「ふむ、見たところヒョウタさんと顔見知りである事は確かと。どの様な関係なのかはここから見ているだけでは図りかねますね」
隠れている私に合わせて巨体をめいっぱい縮こませて隠れるゴルーグ。そしてその更に後ろにいる私のギャロップとムーランドが不満そうに唸っていた。
「あっ今のロウさんにはあまり余裕が無いご様子ですので、僭越ながら私が代わりに第三者的にご説明を。オッホン……
『説明しよう!ロウは日課であるギャロップとムーランドの散歩に出向いていたその道中、なんと片想いしているジムリーダーのヒョウタが女性と楽しそうに会話している場面を目撃してしまい、ジェラシー剥き出しで観察するに至ったのである!』
という訳です」
誰に説明してるんだお前は。
「ていうかジェラシー、とか、そういうのじゃない!あの人がどこの誰でどういう関係なのか気になるだけで個人的な感情で見てる訳じゃないんだからね!」
「ツンデレのテンプレート的な台詞で誤魔化していらっしゃいますが、気になっている時点でそれは個人的な感情なのでは?」
「喧しい!!」
いやマジであの人どこの誰?クロガネシティで見掛けた事 無いんだけど、ジムの挑戦者にしてはトレーナーっぽくないしなぁ。もしかして炭鉱で働いてるおっちゃん達の親族だろうか。
「あれロウちゃん。電柱さしがみついて 何してらの?」
「ヴァッ」
しまった、よりにもよっていつも病院に来てるお婆ちゃんに見つかってしまった。
とりあえず電柱から離れて言い訳を必死に考える。
「あ、あーあー……暇だから、テッカニンがヌケニン生み出すとこの真似でもしようかなって。
……ねぇ婆ちゃん、ヒョウタさんと今 話してる女の人、誰か知ってる?」
婆ちゃんの息子さん確か今 炭鉱で働いてるし、もしかしたら何か知ってるかもしれない。一か八かを賭けて女の人を指差す。老眼のせいか認識するまでに時間がかかったけど、どうやら婆ちゃんは女の人の正体を知ってるらしく気付いた途端に声を上げる。
「ああー!ありゃ あそこんとこの娘っ子だ。ほらあのー……博物館の近くさある土産屋の」
「えっ、あの土産屋のおばちゃんの子供って息子じゃないっけ」
「そっちでねぇ!土産屋で働いてるノモセから来た親父 の方だ」
ほぼ内輪ネタみたいなってきたな……
博物館の近くで働いてるおじさん、確かにノモセシティから引っ越して来たとか何とか言われてた様な。子供いたんだっていうか結婚してたんか……
婆ちゃん曰く、あの女の人は普段はホウエン辺りに住んでて、時たまシンオウに来てるらしい。(父親に金を集りに来てるって婆ちゃん言ってるけど多分それ、噂とか主観とかでもないただの思い込みだろ)
「にしてもあの娘っ子、まーたヒョウタに色目使ってらのか」
「 "また" !!!??またって言った!!!??ねぇ婆ちゃんまたって!!!!!!」
「ロウさん落ち着いてください、声を荒らげるとヒョウタさんに気付かれてしまいますので!ほらっ深呼吸深呼吸、どうどう」
それギャロップに言うやつだわ。当のギャロップは「どうどう」と顔を擦り付けてくる。自分が落ち着く言葉を私にかけてくれるの優しいね……でも私、人間だから「どうどう」じゃ落ち着かないの。
あーでもないこーでもないと急に饒舌になってきた婆ちゃんに(やや強引に)別れを告げて、再び電柱にへばりつく。女の人とヒョウタさんは変わらず談笑を続けていた。いいなぁ楽しそう……こっちに背を向けているからヒョウタさんの顔は見えないけど、女の人の顔を見る限りすっごい楽しいんだろうなぁ……
「シンオウに来る度 必ずヒョウタさんのところに行ってるって、婆ちゃん言ってたよな……」
「仰ってましたねぇ」
「つまりそれって好意を持っている 事、Deathよね?」
「ロウさんさりげない殺意が駄々漏れております」
殺意なんて抱いてなくってよ。私はいつでも冷静ですともロウですので、そうロウDeathので。くっそ羨ましい羨ましさで私が死にそう。
「ばうっ、ワフッワォン!」
「え?『散歩の続きするか奪い取るかどっちかにしろ』って?無理無理どっちも無理!!せめてここから観察させて、あと30分くらい」
電柱から引き剥がそうと服を引っ張られる。ムーランドだけなら耐えられたのにギャロップも参戦してきた、くそっ2対1は卑怯ぞ!
それでも駄々をこねて、やだやだとしがみついていると割と本気で噛み付かれる。あかんて、噛むのは流石にあかんて。
「もーお前らだけで散歩行ってこいよー!たまに私の事置いて行く くせになんで今日に限って連れて行こうとするん!?私ここで見てるからぁ!行って来いよ!」
「ガウガウッ!!ワォォウ!!」
「ふひん、ヒヒィン!」
「『何もしないなら意味ない』?『黙って見てるくらいなら今すぐ突っ込んで連れてくればいい』?
無理に決まってるでしょぉぉぉぉぉ!?見てないところでカップル成立♡とか死んでも嫌だから見てんのよストーカーの如く!!気持ち悪いなって自覚しつつも目が離せないの!!でもあの2人の談笑の邪魔する権利ないの!私にその権利はない!!何故か!?私はヒョウタさんの彼女でも何でもないからだわドチクショォォォォォ!!!」
「ロウさん お気を確かに!!」
言ってて悲しくなってきたので思わずその場で五体投地を決め込む。そうだよそうだよ私はヒョウタさんの彼女でも何でもないただの知り合い、たまにジムの手伝いしたり会ったらちょっと世間話する程度の知り合い、その程度なんだ。あっヤバい泣きそう。自業自得だけど泣きそう。
彼女だったらなぁ……今すぐ突っ込んで行って『誰よその女!』とか言えたのになぁ……言えるかなぁ……
「ロウさんロウさん」
ちょいちょいとゴルーグが突っ突いてくる。なんだよ感傷に浸らせてよ……その場にずっと倒れてると不審者か何かに思われる可能性を懸念したらしいムーランドに顔をべろべろ舐められ仕方なく起き上がる。
「見てるだけですとヤキモキしてオーバーヒートでアフロブレイクな事になるかもしれませんので、ここまで来たら話の内容も聞いてしまいましょう」
「何言ってんだこいつ……無理にも程があるんだが。仮に聞こうと思ったらこの距離からしてムーランドの聴力に頼るしかないし、好きな人とその人に言い寄ってる女の話の内容をポケモンを介して聞くとか、いくらなんでも嫌が過ぎるんだが??」
「ガオォォォウ!!(特別翻訳:あたいだってお断りだよ!!)」
「ひひぃん(特別翻訳:ついでに言うと私も嫌です)」
ですよねー 大丈夫そんな事させないからそういう可愛くない顔やめなさい女の子なんだからやめ、ムーランド 唸らないで、大丈夫だからやらないから。
「ご安心ください。私、ゴルーグですので、そう!ゴルーグですので!!こんな時に役立つテレパシーを応用した集音機能とスピーカーがございます」
「お前やっぱりポケモンじゃないだろ」
「ゴーレムでポケモンです!!ゴルーグはゴーレムで!!!ポケモン!!!ですので!!!!!」
「うるさいうるさい、それ多分送信先絞ってるテレパシーなんだろうけどマジうるせぇ」
いくらゴーレムって言ってもそうはならんやろ……
正直自分の持つ倫理観にヒビが入る事になるけど確かに何話してんのか気になる。頼んでもいないのに準備し始めるゴルーグを止めはせずそのまま見守る、が、ムーランドとギャロップもそのまま待ちの姿勢を取り始める。お嬢さん方なんで待機してるんですかね、散歩いいの?
「ブフッ、ヒンッ」
「『ここまで来たら正直気になるもん』、トレーナーと同じ思考回路やめーや」
「ワフッワンワォン」
「……『ロウの将来の番が他の女にどういう態度を取るのか見定めてやろうじゃないか』?やめてやめてそういうの まだ付き合ってもいないんだから、番、ウフフフやめてよもー!!」
「ロウさん、意外とそういう事 言われて浮かれるタイプだったのですね。
準備できましたのでどうぞこちらへ」
じゃあまぁここまで来たら遠慮なく……倫理観?乙女の好奇心には勝てなかったよ。大丈夫まだこれは立ち聞きと同レベル、の筈。立ち聞きも良くないよってのは今は無しの方向で。
罪悪感と背徳感に否まれながら、いそいそとスピーカーの役割になっているらしいゴルーグの片手にムーランドとギャロップと一緒に耳を寄せる。なるほどもう片方の、ヒョウタさん達に向けている手が集音マイクになって、受け取った音は体を通してテレパシーか何かに変換してから反対の手で流すと。
考えれば考える程 ポケモンができる芸当ではない気がするのでもうやめとこう。
「おっ聞こえて来た」
『えー!?ヒョウタさんイッシュ地方に行った事あるんですかぁ!?いいなぁ私も行ってみたーい』
『ほとんど仕事で行った様なものだから、観光とかはあんまりできなかったよ』
『えーでもイッシュって外国だしシンオウよりもずっと都会じゃないですか!いいな いいなぁー』
「……ぶふぅー(特別翻訳:やだーわかりやすい媚びた声~)」
「わふん、フンッ(特別翻訳:ヤブクロンだってもっと品良く鳴くもんだよ)」
まだ一言二言しか聞いてないのにボロクソ言うやん、こっわ。んでもってムーランドのヤブクロン云々のってイッシュ人が良く言う悪口じゃん。イッシュ出身のポケモンも同じ悪口使うんだ……
にしても君らのその辛辣さ、一体誰に似たんですかねぇ私は教えてないぞ?似た様な事はいっつも言ってる気がするけど。雌ポケモンは敵に回しちゃいけねぇな。
「Oh, ムーランドさん達の品評があまりにも容赦なくてゴルーグビックリです。やはりトレーナーの実力が高く優秀だと、ポケモンの感性も段違いなのですね!」
「物は言い様ってこういう事だよね、お前は褒めのプロか?その内『ボーテ!100点!』とか言いそうでやだなぁ。
イッシュ地方……それってこの間『仕事で行く事になったから良かったら現地の道案内してほしい』って頼まれて一緒に行った時の話かな」
『ああでも、僕イッシュの土地勘無くて、前にイッシュリーグに挑戦した事がある子に道案内お願いして、ちょっとだけ観光っぽい事はできた……かな?』
「うふふふ、どうやらその様ですね」
見下ろしてきたゴルーグが、表情なんて無い筈なのにニッコリと笑った気がした。いやいやいやいや別に期待とかしてませんでしたし?印象に残ってたら良いなーとは思ってたけど話に出てくるかなーとかは全然思ってませんでしたし?別に言わなくても良い事を言ってくれた事に喜んでませんし?
……思ってたよりも単純だな私。思わぬ形で自分が話題に出て来た事に対して、照れてる訳じゃないけど、急に、主に顔が暑くなってきたのでちょっと離れる。
あ、1mくらいゴルーグの手から離れただけで集音されたテレパシー聞こえないわ、こっちも予想外。
『リーグに挑戦した子……知り合いのトレーナーとか?近所に住んでるんですか?』
『うん、クロガネ病院の子。僕より少し年下……らしいんだけど、イッシュ以外にもシンオウは勿論ホウエンやセキエイリーグにも挑戦してて、ポケモン達との絆や信頼も強くてコンテストにも参加していたり、とても優秀なポケモントレーナーなんだ。僕みたいな1ジムリーダーだけじゃなく四天王やチャンピオンとも交流があるすごい子なんだよ!
あ、バトルやポケモンの育成も勿論すごいんだけど、表情と鳴き声でポケモンの言いたい事がわかるらしいんだ。この間も炭鉱で地上に出てきちゃったイワークを宥めてくれたり、クロガネゲートで喧嘩していたコダック達の話を聞いて仲裁したりしててね』
『へ、へぇー……ヒョウタさんより年下……すごいですねー……』
「ロウさん!!ロウさんッッッ!!!一大事ですよほら聞いて今すぐ聞いてコレ!!!!!ヒョウタさん急に饒舌になりましたよこんなにわかりやすい事ありますかね!?ゴルーグじゃなくてもビックリですよこれは!!!」
「ちょっとゴルーグマジでうるさい後3分は待って」
「待ってたら大変な事になりますよ!!?いえ聞いてもロウさんの情緒がえらい事になるやもしれませんが!!」
何なの急に、めっちゃ叫ぶじゃん。そんな音量のテレパシー出せたんだ。
ムーランドも必死に服引っ張って来るけどマジでもうちょっとだけ待ってって、乙女には心の準備が必要なんだって。普段どの辺が乙女なんだよって思われるかもしれないけど女の子はいつでも乙女だって誰かが言ってたし!
はぁー にしても顔あっつ。大した事 言われてないのに我ながら照れ過ぎでは?
『そんなすごい子がクロガネシティにいるんですねースゴイナー』
「ブフヒヒヒィン(特別翻訳:この女、途端に興味を無くしたね。わかりやすぅーい)」
「良くも悪くも正直な方なのでしょうねぇ……
ロウさんまだですか!?早く復帰してください(片想いに関する)全てが解決しますよ!!」
ゴルーグうるさいなぁ……解決するって何の何が?でも確かに落ち着いて来たし戻るか。
暑くなって緩んだ頬っぺたをむいむいと戻す、ギャロップまで必死になって「早く戻れ」と地団駄を踏んでる、何でそんなに連れ戻そうとすんの。トレーナーより盗み聞きをエンジョイするんじゃないよ。
『そこまで突き詰めるって、やっぱり男の子ってポケモン大好きなんですねー』
『え? ……あっごめん!今話したのは女の子の事なんだ』
『女の子?! へぇー……どんな子ですか?』
「(ヒェッ女性と口にしただけで声が1トーンどころじゃなく下がりましたよ……恐ろしい方……)」
『どんな?見た目はえっと、その……すごく綺麗な、モデルさんみたいな女の子だよ。うん、か、可愛い、って言うよりは綺麗……って感じ、かな?いや綺麗なんだけどそれだけじゃなくて、可愛いなーとも思うところはあるんだけど……
ごめんなんか、気持ち悪いね。女の子の見た目をこんな風に言うって……』
「で?今どんな感じなの……うわっ、あの女の人めっちゃ顔怖いんだけど。何この短時間で何があったし」
というかなんでゴルーグは小刻みに震えてんの?バイブレーション機能も搭載してんの?何か受信した??
ギャロップの方を見てみると『雌も雄も、どんな生き物であろうと同じ反応するね』と。溜め息吐く程なの?ムーランドも同じ様な、いや待って何でそんな『アンタ タイミング悪過ぎにも程があるわ』的な顔。そんなに?情報量ヤバくない???
『綺麗な子、ね……
話は変わるんですけどぉ、ヒョウタさんってどんな人がタイプなんですか?』
『えっ!?ど、どんなって……』
「あっ無理、無理無理無理無理、聞きたくない」
「ホワイ!!!?? 重要なところですよロウさん!?何故 無理 is 無理と仰るのです!!」
「いつも言ってるじゃん、"ヒョウタさんに好かれる要素が私には1個も無い" って」
わかりきってるしある程度割り切ってるつもりだけど、やっぱり "好きな人の好きな人に絶対なれない" その現実を突き付けられたくない。それさえ知らなければぬるま湯に浸かっている様な、好かれるのか好かれないのかわからない、曖昧な状態が一番居心地 良いんだよ。自分で言うのも何だけど、顔とトレーナーとしての実力以外取り柄無いですし……叫ぶし五体投地する し喚きますし。
もしヒョウタさんの好みのタイプが私みたいなキツい印象の顔立ちじゃなく、もっとふわふわした可愛い雰囲気の人だったら。私みたいにただの筋肉質じゃなく、身体的にも精神的にも逞しくて頼り甲斐のある人だったら。それを知ったら、それを知ってどうすんの。
勝ち目がないって言うか、ただ───「やっぱり無理なんだなぁ」って理解する以外 何もないじゃん。
「絶対、ぜったいわたしじゃないんだからどうしようもないじゃんかぁ~……」
「ハワァー!? ロウさんどうかお気を鎮めて!!泣かないでくださーい!!」
「ワン、ワォン……くぅーん、くぅうーん」
チクショウ、ちくしょう、泣くつもりなかったのに。ギャン泣きじゃないだけ勘弁してほしい。やっぱり辛いわ、絶対違うんだろうなって思うの辛い。意識されるされないより、せめて「知り合い」から脱却したい……脱却とかどうすりゃいいの、わからん詰んだわ……
『後学の為にもちょっとでいいから教えてください!ね?』
『後学って……え、えー……?そうだな……』
テレポートの如く秒でゴルーグの手から距離を取る。やだやだ聞きたくないもう今の関係のままで良いから傍にいる事だけを許して頂きたい。立ち聞きしたのも切腹する から。
「(ムムム……普段はあらゆる方面に対して一定の自信をお持ちのロウさんが、恋愛における自己肯定感だけここまで異常に低いとは……ゴルーグである私も流石に予想外です。
ヒョウタさんがロウさんに対して好意を抱いている可能性は95%、しかしこれはあくまでも私がゴーレムとして弾き出した数字。友好的と好意的は全くの別物だとシュウさんも仰っていました。もしかしたら、私には好意として見えているものがロウさんにとってはそうではないと捉えられる何かを、ヒョウタさんが秘めている可能性もある……)
わかりました!ロウさんの代わりにこの私が聞き留めましょう!ゴルーグですので!ゴルーグですので!!」
「何がわかりましたなのか全然わかんないんだけど……」
まぁいいや……ゴルーグなら聞いたとしても後で「絶対に言うな」と一言 言えばその通りにするだろうし。命令を撤回するまで、それこそどちらかが死ぬまで秘めておいてくれるだろう、好きにさせよ。
寄ってきたムーランドの毛並みを手櫛で整えてやりながら涙を拭う。拭ったすぐ後にムーランドも舐めるので余計べちゃべちゃになっていくけどもういいや。ギャロップは、こっちをチラチラ気にしてるけどそのままゴルーグと一緒に聞くつもりみたいだ。いいよいいよ好奇心赴くままにやるといいよ。
『どんな人……うーん……髪が、長くて』
「(ふむ、一般的ですね)」
『ポケモンに対して思いやりがあって』
「(これまた一般的)」
『あとは……地下通路での発掘がすごく上手で、化石とか地表を見ただけで年代がわかるくらいの知識があって』
「おっとぉ??」
何がおっとぉなんだよ。急に喋ったかと思えば何おっとぉって……なんか「急に絞り込まれましたね」とかブツブツ言ってるし。何を絞り込んだんだろう、性癖?ヒョウタさんの性癖ってそんな、まさかマニアックな……いやでも頑張る。ある程度なら頑張る。痛いのは勘弁だけど。
『それからえーと、ポケモンバトル以外にも見識があるとか、かな。コンテストとか、僕も実際に見た事はまだないけどポケモンレースとか』
「(ポケモンレース?)」
『家の手伝いとか、近所の人やポケモンの話を聞いて積極的に手伝っていたり、炭鉱夫の皆さんとも仲良くしてくれる───でんきタイプみたいな髪色の子が好っ、ンンッ!す、てきだなって思うよ!』
『へ、へぇーかなり具体的ってか限定的……でんきタイプみたいな子じゃなくて、でんきタイプみたいな "髪色" の子ってどういう意味ですか……?』
「あー泣いたら何か色々スッキリした。顔べっちゃべちゃだけど。
ん、何ゴルーグ、終わった?」
「でんきタイプみたいな髪色……」
人の顔、というより頭?じっと見てどうした。ギャロップも目を点にして見つめてどうした、そんなに見てもポフィンしか出せないぞ。
「(いやこれ十中八九ロウさんの事じゃないですかぁー!!!!!
好きなタイプ聞かれてるのに好きな人を言ってしまうのは如何なものかと思いますよヒョウタさん!!!)」
(※なんでゴルーグがロウの事だとわかったのか気になる人はロウの人物紹介欄の2つ目を見てね!)
「ぶふぅ……ヒンッ、ヒヒィン……」
こっちに寄って来たギャロップに髪をもふもふされながら何となく呆れられる。『貴女本当に、こういう時だけタイミング悪過ぎるよ』って。意外と失礼な事 言われてるんだけど。内容が気になったのかムーランドがギャロップを呼んで私から少し離れてひそひそ話始める、終わった途端ムーランドに頭突き(わざではなくただの暴力)された。イッタなんで???
「ガウッ!!ヴゥ~ガァウゥ!!!」
「姐さんなんでそんな怒ってんの?『タイミングが悪いどころの話じゃない』ってマジでなんなの」
「シッ、標的に動きがありました。お静かに!」
なにそのテンション……もしかして普段そういう感じでシュウの仕事手伝ってんの?とりあえず落ち着いたしもっかい聞いてみようかな。立ち聞きするのに罪悪感を感じなくなってるのはまずいとは思うけど!
『そういえば時間大丈夫?今日ハクタイに用事があるって言ってなかったっけ』
『えっ!?あっやっばーい!もう行かなきゃ!
でも私ハクタイの森ですぐ迷っちゃうんですよねぇ……もしよかったらヒョウタさん、案内してくれませんかぁ?』
「は?????森で迷うバカの為の救済措置がサイクリングロードだろうがチャリ漕げチャリ。つかさっきから思ってたけどあの女やたらと距離近くない……?」
「俄然 殺る気を出されましたねロウさん!どうしますか処しますか ?処しますか ?!」
「ヒョウタさんもバッチリ射程内に入ってっから無理だバーロー
でもヒョウタさん優しいからなぁ、送って行くよーって言いそう……優しいところが好きだけどお願いだから断って……」
射程内に入ってなかったらちょっと考えたけど。良いトレーナーのみんなは人に向かってはかいこうせん撃っちゃダメだぞ、撃ったトレーナーというかチャンピオン見た事あるけど真似しちゃダメだぞ!!
彼女でも何でもないのにこんな事を願うのはどうかしてると思うが願うだけ許してほしい。もしヒョウタさんが快諾してしまったらパチリス特攻させよう、そうしよう。
とりあえず善は急げでモンスターボールを取り出そうと腰に手を伸ばす、が、声音からしてヒョウタさんも渋っているみたいだ、「僕この後ちょっと用事があって~」的な声が聞こえる。そりゃそうだよ、ヒョウタさんにも都合があるでしょ。ていうかヒョウタさんジムリーダーだし炭鉱でも働いてるんだから都合だらけじゃろがい!!そんな都合 目一杯の中たまにとは言え朝とか散歩してる時とかエンカウントできる私すごいな!どういう確率引いてんのありがとうございます!!!
「しまったつい心の声で取り乱してしまった」
「ロウさんが取り乱すのはお馴染みの様な気がしますが、女性の方は食い下がってますね。グイグイ行きますね」
「行くなーグイグイ行くなぁーヒョウタさん困っとるじゃろがい相手が困ってる時点で諦めろや勝手に迷っとけ!!」
相変わらず背中しか見えないけど、これはかなり困ってる。流石のヒョウタさんもだいぶ困ってる、声がそうだもん。助け船ならぬ助けパチリス出した方が絶対良いなこれ。
『うーん……でもそうか、迷って予定の時間に間に合わないのは良くないよね……うん、わかった』
「え」
え、え、うそ、嘘でしょ行っちゃうの?行っちゃうのヒョウタさん。やだやだやだやだ行かないで行かないでって言ったって止める権利なんか無いけどやだぁぁぁぁぁぁ。どうしようまた泣きそう、泣いたってどうしようもないけどええええええええ。
『遅れたら困るのは君だし───僕のプテラ貸すよ!クロガネシティ ハクタイシティは一直線だしひとっ飛びすればきっと間に合うよ』
『え』
「「え」」
「ぶひん」
「ぐむぅ?」
今なんて言ったあの人。
貸す?プテラを?化石ポケモンの中でも輪をかけて凶暴だから背中に乗って飛ぶ以前に手懐けるだけでも一苦労のプテラを?トレーナーでも何でもない人に貸すの?
いやうん、ヒョウタさんなりの善意なんだろうけど 鬼 畜 か ? ? ?
『えっ、えっ貸す!?乗せてってくれるとか、そういうのじゃなく……??』
『乗せてってあげるのが一番安全なんだけど、僕も外せない用事があって……ごめんね。
でも大丈夫、ちゃんと安全の為に命綱……ベルトもあるし僕は使ってないけど鞍もあるから。ジムにあるから取ってくるね、ちょっとここで待ってて!』
『ちょっ、ヒョウタさん!?待って、待ってぇー!サイクリングロード!サイクリングロードで帰りますからぁー!ダメだあの人結構足速い!!』
ゴルーグを見上げてギャロップ、ムーランドの顔を見る。
うん、何と言うか、流石ヒョウタさんって感じだわ……実は失礼ながらヒョウタさんの事、ラノベとかに出てくる所謂 鈍感主人公みたいに思ってたけど、ここまで来るとまさにだわ……
「なんだろうあれ見たらすっげ冷静になれた。外野が言うのもなんだけど約束された勝利の脈無しって感じ。お前ら散歩行こ、多分もう大丈夫な気がする。何が大丈夫なのかよくわからないけど」
「少なくともあのお二人の間に何か進展があるかと言われれば、確実にNOであるという状態になりましたね。確率的にもほぼ0%に近いかと」
地獄への道は善意で舗装されているってどっかで見たけど、ああいう事なのかな。あれは悪意とか一欠片もない思いやりなんだろうけど、うん、まぁ、小さい頃 入院患者のプテラに気に入られて上空300mまで攫われた私も意外と大丈夫だったし、何とかなるべ。
今のでギャロップもムーランドも、ゴルーグでさえ興が覚めたらしくいそいそと散歩を再開しようとしている。さっきまでべそべそしてたのが何か馬鹿らしくなってきたな……いやヒョウタさんの事はめっちゃ好きだけど、そういうところあるよねみたいな。そういうところまで含めて好きですけどね!
「(もし自分があれやられたら死ぬ程 凹むけどね……)」
「(他人だから冷静になってますけど、これがもし自分に向けられたらロウさんは死ぬ程 凹んで叫ぶんでしょうね……)」
歩き出した直後、ムーランドに呼び止められる。どしたの姐さん、まだ何か?
「ぐわぅ、ワンッ(特別翻訳:アンタ、顔べっちゃべちゃのままだよ)」
そういえばそうだった……べちゃべちゃなの誰のせいだと思ってんだ。私が泣いたからかそうか。とりあえず公園に行こう。そこで顔拭いたり他のポケモン遊ばせたりしよう。
立ち聞きフレンズを解散しちょっと遠い目で私達はその場を離れた。
でも今はいてくれてよかったと心底思う。ストッパーになってくれるゴルーグがいなければ今頃何してたかわからない、もしかしたらジュンサーさん呼ばれても可笑しくない事しでかしてたかもしれない。それくらい今の私は、とてもじゃないが冷静になれない。
視線の先で、『ヒョウタ』さんと楽しそうに話す見知らぬ女性を睨み付けながら、ただただ隠れ蓑にしている電柱を握り締めた。
「グギギギギ……めぇっちゃ楽しそうにお話ししとるやんけ……誰だあの人……」
「ふむ、見たところヒョウタさんと顔見知りである事は確かと。どの様な関係なのかはここから見ているだけでは図りかねますね」
隠れている私に合わせて巨体をめいっぱい縮こませて隠れるゴルーグ。そしてその更に後ろにいる私のギャロップとムーランドが不満そうに唸っていた。
「あっ今のロウさんにはあまり余裕が無いご様子ですので、僭越ながら私が代わりに第三者的にご説明を。オッホン……
『説明しよう!ロウは日課であるギャロップとムーランドの散歩に出向いていたその道中、なんと片想いしているジムリーダーのヒョウタが女性と楽しそうに会話している場面を目撃してしまい、ジェラシー剥き出しで観察するに至ったのである!』
という訳です」
誰に説明してるんだお前は。
「ていうかジェラシー、とか、そういうのじゃない!あの人がどこの誰でどういう関係なのか気になるだけで個人的な感情で見てる訳じゃないんだからね!」
「ツンデレのテンプレート的な台詞で誤魔化していらっしゃいますが、気になっている時点でそれは個人的な感情なのでは?」
「喧しい!!」
いやマジであの人どこの誰?クロガネシティで見掛けた事 無いんだけど、ジムの挑戦者にしてはトレーナーっぽくないしなぁ。もしかして炭鉱で働いてるおっちゃん達の親族だろうか。
「あれロウちゃん。電柱さ
「ヴァッ」
しまった、よりにもよっていつも病院に来てるお婆ちゃんに見つかってしまった。
とりあえず電柱から離れて言い訳を必死に考える。
「あ、あーあー……暇だから、テッカニンがヌケニン生み出すとこの真似でもしようかなって。
……ねぇ婆ちゃん、ヒョウタさんと今 話してる女の人、誰か知ってる?」
婆ちゃんの息子さん確か今 炭鉱で働いてるし、もしかしたら何か知ってるかもしれない。一か八かを賭けて女の人を指差す。老眼のせいか認識するまでに時間がかかったけど、どうやら婆ちゃんは女の人の正体を知ってるらしく気付いた途端に声を上げる。
「ああー!ありゃ あそこんとこの娘っ子だ。ほらあのー……博物館の近くさある土産屋の」
「えっ、あの土産屋のおばちゃんの子供って息子じゃないっけ」
「そっちでねぇ!土産屋で働いてるノモセから来た
ほぼ内輪ネタみたいなってきたな……
博物館の近くで働いてるおじさん、確かにノモセシティから引っ越して来たとか何とか言われてた様な。子供いたんだっていうか結婚してたんか……
婆ちゃん曰く、あの女の人は普段はホウエン辺りに住んでて、時たまシンオウに来てるらしい。(父親に金を集りに来てるって婆ちゃん言ってるけど多分それ、噂とか主観とかでもないただの思い込みだろ)
「にしてもあの娘っ子、まーたヒョウタに色目使ってらのか」
「 "また" !!!??またって言った!!!??ねぇ婆ちゃんまたって!!!!!!」
「ロウさん落ち着いてください、声を荒らげるとヒョウタさんに気付かれてしまいますので!ほらっ深呼吸深呼吸、どうどう」
それギャロップに言うやつだわ。当のギャロップは「どうどう」と顔を擦り付けてくる。自分が落ち着く言葉を私にかけてくれるの優しいね……でも私、人間だから「どうどう」じゃ落ち着かないの。
あーでもないこーでもないと急に饒舌になってきた婆ちゃんに(やや強引に)別れを告げて、再び電柱にへばりつく。女の人とヒョウタさんは変わらず談笑を続けていた。いいなぁ楽しそう……こっちに背を向けているからヒョウタさんの顔は見えないけど、女の人の顔を見る限りすっごい楽しいんだろうなぁ……
「シンオウに来る度 必ずヒョウタさんのところに行ってるって、婆ちゃん言ってたよな……」
「仰ってましたねぇ」
「つまりそれって
「ロウさんさりげない殺意が駄々漏れております」
殺意なんて抱いてなくってよ。私はいつでも冷静ですともロウですので、そうロウDeathので。くっそ羨ましい羨ましさで私が死にそう。
「ばうっ、ワフッワォン!」
「え?『散歩の続きするか奪い取るかどっちかにしろ』って?無理無理どっちも無理!!せめてここから観察させて、あと30分くらい」
電柱から引き剥がそうと服を引っ張られる。ムーランドだけなら耐えられたのにギャロップも参戦してきた、くそっ2対1は卑怯ぞ!
それでも駄々をこねて、やだやだとしがみついていると割と本気で噛み付かれる。あかんて、噛むのは流石にあかんて。
「もーお前らだけで散歩行ってこいよー!たまに私の事置いて行く くせになんで今日に限って連れて行こうとするん!?私ここで見てるからぁ!行って来いよ!」
「ガウガウッ!!ワォォウ!!」
「ふひん、ヒヒィン!」
「『何もしないなら意味ない』?『黙って見てるくらいなら今すぐ突っ込んで連れてくればいい』?
無理に決まってるでしょぉぉぉぉぉ!?見てないところでカップル成立♡とか死んでも嫌だから見てんのよストーカーの如く!!気持ち悪いなって自覚しつつも目が離せないの!!でもあの2人の談笑の邪魔する権利ないの!私にその権利はない!!何故か!?私はヒョウタさんの彼女でも何でもないからだわドチクショォォォォォ!!!」
「ロウさん お気を確かに!!」
言ってて悲しくなってきたので思わずその場で五体投地を決め込む。そうだよそうだよ私はヒョウタさんの彼女でも何でもないただの知り合い、たまにジムの手伝いしたり会ったらちょっと世間話する程度の知り合い、その程度なんだ。あっヤバい泣きそう。自業自得だけど泣きそう。
彼女だったらなぁ……今すぐ突っ込んで行って『誰よその女!』とか言えたのになぁ……言えるかなぁ……
「ロウさんロウさん」
ちょいちょいとゴルーグが突っ突いてくる。なんだよ感傷に浸らせてよ……その場にずっと倒れてると不審者か何かに思われる可能性を懸念したらしいムーランドに顔をべろべろ舐められ仕方なく起き上がる。
「見てるだけですとヤキモキしてオーバーヒートでアフロブレイクな事になるかもしれませんので、ここまで来たら話の内容も聞いてしまいましょう」
「何言ってんだこいつ……無理にも程があるんだが。仮に聞こうと思ったらこの距離からしてムーランドの聴力に頼るしかないし、好きな人とその人に言い寄ってる女の話の内容をポケモンを介して聞くとか、いくらなんでも嫌が過ぎるんだが??」
「ガオォォォウ!!(特別翻訳:あたいだってお断りだよ!!)」
「ひひぃん(特別翻訳:ついでに言うと私も嫌です)」
ですよねー 大丈夫そんな事させないからそういう可愛くない顔やめなさい女の子なんだからやめ、
「ご安心ください。私、ゴルーグですので、そう!ゴルーグですので!!こんな時に役立つテレパシーを応用した集音機能とスピーカーがございます」
「お前やっぱりポケモンじゃないだろ」
「ゴーレムでポケモンです!!ゴルーグはゴーレムで!!!ポケモン!!!ですので!!!!!」
「うるさいうるさい、それ多分送信先絞ってるテレパシーなんだろうけどマジうるせぇ」
いくらゴーレムって言ってもそうはならんやろ……
正直自分の持つ倫理観にヒビが入る事になるけど確かに何話してんのか気になる。頼んでもいないのに準備し始めるゴルーグを止めはせずそのまま見守る、が、ムーランドとギャロップもそのまま待ちの姿勢を取り始める。お嬢さん方なんで待機してるんですかね、散歩いいの?
「ブフッ、ヒンッ」
「『ここまで来たら正直気になるもん』、トレーナーと同じ思考回路やめーや」
「ワフッワンワォン」
「……『ロウの将来の番が他の女にどういう態度を取るのか見定めてやろうじゃないか』?やめてやめてそういうの まだ付き合ってもいないんだから、番、ウフフフやめてよもー!!」
「ロウさん、意外とそういう事 言われて浮かれるタイプだったのですね。
準備できましたのでどうぞこちらへ」
じゃあまぁここまで来たら遠慮なく……倫理観?乙女の好奇心には勝てなかったよ。大丈夫まだこれは立ち聞きと同レベル、の筈。立ち聞きも良くないよってのは今は無しの方向で。
罪悪感と背徳感に否まれながら、いそいそとスピーカーの役割になっているらしいゴルーグの片手にムーランドとギャロップと一緒に耳を寄せる。なるほどもう片方の、ヒョウタさん達に向けている手が集音マイクになって、受け取った音は体を通してテレパシーか何かに変換してから反対の手で流すと。
考えれば考える程 ポケモンができる芸当ではない気がするのでもうやめとこう。
「おっ聞こえて来た」
『えー!?ヒョウタさんイッシュ地方に行った事あるんですかぁ!?いいなぁ私も行ってみたーい』
『ほとんど仕事で行った様なものだから、観光とかはあんまりできなかったよ』
『えーでもイッシュって外国だしシンオウよりもずっと都会じゃないですか!いいな いいなぁー』
「……ぶふぅー(特別翻訳:やだーわかりやすい媚びた声~)」
「わふん、フンッ(特別翻訳:ヤブクロンだってもっと品良く鳴くもんだよ)」
まだ一言二言しか聞いてないのにボロクソ言うやん、こっわ。んでもってムーランドのヤブクロン云々のってイッシュ人が良く言う悪口じゃん。イッシュ出身のポケモンも同じ悪口使うんだ……
にしても君らのその辛辣さ、一体誰に似たんですかねぇ私は教えてないぞ?似た様な事はいっつも言ってる気がするけど。雌ポケモンは敵に回しちゃいけねぇな。
「Oh, ムーランドさん達の品評があまりにも容赦なくてゴルーグビックリです。やはりトレーナーの実力が高く優秀だと、ポケモンの感性も段違いなのですね!」
「物は言い様ってこういう事だよね、お前は褒めのプロか?その内『ボーテ!100点!』とか言いそうでやだなぁ。
イッシュ地方……それってこの間『仕事で行く事になったから良かったら現地の道案内してほしい』って頼まれて一緒に行った時の話かな」
『ああでも、僕イッシュの土地勘無くて、前にイッシュリーグに挑戦した事がある子に道案内お願いして、ちょっとだけ観光っぽい事はできた……かな?』
「うふふふ、どうやらその様ですね」
見下ろしてきたゴルーグが、表情なんて無い筈なのにニッコリと笑った気がした。いやいやいやいや別に期待とかしてませんでしたし?印象に残ってたら良いなーとは思ってたけど話に出てくるかなーとかは全然思ってませんでしたし?別に言わなくても良い事を言ってくれた事に喜んでませんし?
……思ってたよりも単純だな私。思わぬ形で自分が話題に出て来た事に対して、照れてる訳じゃないけど、急に、主に顔が暑くなってきたのでちょっと離れる。
あ、1mくらいゴルーグの手から離れただけで集音されたテレパシー聞こえないわ、こっちも予想外。
『リーグに挑戦した子……知り合いのトレーナーとか?近所に住んでるんですか?』
『うん、クロガネ病院の子。僕より少し年下……らしいんだけど、イッシュ以外にもシンオウは勿論ホウエンやセキエイリーグにも挑戦してて、ポケモン達との絆や信頼も強くてコンテストにも参加していたり、とても優秀なポケモントレーナーなんだ。僕みたいな1ジムリーダーだけじゃなく四天王やチャンピオンとも交流があるすごい子なんだよ!
あ、バトルやポケモンの育成も勿論すごいんだけど、表情と鳴き声でポケモンの言いたい事がわかるらしいんだ。この間も炭鉱で地上に出てきちゃったイワークを宥めてくれたり、クロガネゲートで喧嘩していたコダック達の話を聞いて仲裁したりしててね』
『へ、へぇー……ヒョウタさんより年下……すごいですねー……』
「ロウさん!!ロウさんッッッ!!!一大事ですよほら聞いて今すぐ聞いてコレ!!!!!ヒョウタさん急に饒舌になりましたよこんなにわかりやすい事ありますかね!?ゴルーグじゃなくてもビックリですよこれは!!!」
「ちょっとゴルーグマジでうるさい後3分は待って」
「待ってたら大変な事になりますよ!!?いえ聞いてもロウさんの情緒がえらい事になるやもしれませんが!!」
何なの急に、めっちゃ叫ぶじゃん。そんな音量のテレパシー出せたんだ。
ムーランドも必死に服引っ張って来るけどマジでもうちょっとだけ待ってって、乙女には心の準備が必要なんだって。普段どの辺が乙女なんだよって思われるかもしれないけど女の子はいつでも乙女だって誰かが言ってたし!
はぁー にしても顔あっつ。大した事 言われてないのに我ながら照れ過ぎでは?
『そんなすごい子がクロガネシティにいるんですねースゴイナー』
「ブフヒヒヒィン(特別翻訳:この女、途端に興味を無くしたね。わかりやすぅーい)」
「良くも悪くも正直な方なのでしょうねぇ……
ロウさんまだですか!?早く復帰してください(片想いに関する)全てが解決しますよ!!」
ゴルーグうるさいなぁ……解決するって何の何が?でも確かに落ち着いて来たし戻るか。
暑くなって緩んだ頬っぺたをむいむいと戻す、ギャロップまで必死になって「早く戻れ」と地団駄を踏んでる、何でそんなに連れ戻そうとすんの。トレーナーより盗み聞きをエンジョイするんじゃないよ。
『そこまで突き詰めるって、やっぱり男の子ってポケモン大好きなんですねー』
『え? ……あっごめん!今話したのは女の子の事なんだ』
『女の子?! へぇー……どんな子ですか?』
「(ヒェッ女性と口にしただけで声が1トーンどころじゃなく下がりましたよ……恐ろしい方……)」
『どんな?見た目はえっと、その……すごく綺麗な、モデルさんみたいな女の子だよ。うん、か、可愛い、って言うよりは綺麗……って感じ、かな?いや綺麗なんだけどそれだけじゃなくて、可愛いなーとも思うところはあるんだけど……
ごめんなんか、気持ち悪いね。女の子の見た目をこんな風に言うって……』
「で?今どんな感じなの……うわっ、あの女の人めっちゃ顔怖いんだけど。何この短時間で何があったし」
というかなんでゴルーグは小刻みに震えてんの?バイブレーション機能も搭載してんの?何か受信した??
ギャロップの方を見てみると『雌も雄も、どんな生き物であろうと同じ反応するね』と。溜め息吐く程なの?ムーランドも同じ様な、いや待って何でそんな『アンタ タイミング悪過ぎにも程があるわ』的な顔。そんなに?情報量ヤバくない???
『綺麗な子、ね……
話は変わるんですけどぉ、ヒョウタさんってどんな人がタイプなんですか?』
『えっ!?ど、どんなって……』
「あっ無理、無理無理無理無理、聞きたくない」
「ホワイ!!!?? 重要なところですよロウさん!?何故 無理 is 無理と仰るのです!!」
「いつも言ってるじゃん、"ヒョウタさんに好かれる要素が私には1個も無い" って」
わかりきってるしある程度割り切ってるつもりだけど、やっぱり "好きな人の好きな人に絶対なれない" その現実を突き付けられたくない。それさえ知らなければぬるま湯に浸かっている様な、好かれるのか好かれないのかわからない、曖昧な状態が一番居心地 良いんだよ。自分で言うのも何だけど、顔とトレーナーとしての実力以外取り柄無いですし……叫ぶし
もしヒョウタさんの好みのタイプが私みたいなキツい印象の顔立ちじゃなく、もっとふわふわした可愛い雰囲気の人だったら。私みたいにただの筋肉質じゃなく、身体的にも精神的にも逞しくて頼り甲斐のある人だったら。それを知ったら、それを知ってどうすんの。
勝ち目がないって言うか、ただ───「やっぱり無理なんだなぁ」って理解する以外 何もないじゃん。
「絶対、ぜったいわたしじゃないんだからどうしようもないじゃんかぁ~……」
「ハワァー!? ロウさんどうかお気を鎮めて!!泣かないでくださーい!!」
「ワン、ワォン……くぅーん、くぅうーん」
チクショウ、ちくしょう、泣くつもりなかったのに。ギャン泣きじゃないだけ勘弁してほしい。やっぱり辛いわ、絶対違うんだろうなって思うの辛い。意識されるされないより、せめて「知り合い」から脱却したい……脱却とかどうすりゃいいの、わからん詰んだわ……
『後学の為にもちょっとでいいから教えてください!ね?』
『後学って……え、えー……?そうだな……』
テレポートの如く秒でゴルーグの手から距離を取る。やだやだ聞きたくないもう今の関係のままで良いから傍にいる事だけを許して頂きたい。立ち聞きしたのも
「(ムムム……普段はあらゆる方面に対して一定の自信をお持ちのロウさんが、恋愛における自己肯定感だけここまで異常に低いとは……ゴルーグである私も流石に予想外です。
ヒョウタさんがロウさんに対して好意を抱いている可能性は95%、しかしこれはあくまでも私がゴーレムとして弾き出した数字。友好的と好意的は全くの別物だとシュウさんも仰っていました。もしかしたら、私には好意として見えているものがロウさんにとってはそうではないと捉えられる何かを、ヒョウタさんが秘めている可能性もある……)
わかりました!ロウさんの代わりにこの私が聞き留めましょう!ゴルーグですので!ゴルーグですので!!」
「何がわかりましたなのか全然わかんないんだけど……」
まぁいいや……ゴルーグなら聞いたとしても後で「絶対に言うな」と一言 言えばその通りにするだろうし。命令を撤回するまで、それこそどちらかが死ぬまで秘めておいてくれるだろう、好きにさせよ。
寄ってきたムーランドの毛並みを手櫛で整えてやりながら涙を拭う。拭ったすぐ後にムーランドも舐めるので余計べちゃべちゃになっていくけどもういいや。ギャロップは、こっちをチラチラ気にしてるけどそのままゴルーグと一緒に聞くつもりみたいだ。いいよいいよ好奇心赴くままにやるといいよ。
『どんな人……うーん……髪が、長くて』
「(ふむ、一般的ですね)」
『ポケモンに対して思いやりがあって』
「(これまた一般的)」
『あとは……地下通路での発掘がすごく上手で、化石とか地表を見ただけで年代がわかるくらいの知識があって』
「おっとぉ??」
何がおっとぉなんだよ。急に喋ったかと思えば何おっとぉって……なんか「急に絞り込まれましたね」とかブツブツ言ってるし。何を絞り込んだんだろう、性癖?ヒョウタさんの性癖ってそんな、まさかマニアックな……いやでも頑張る。ある程度なら頑張る。痛いのは勘弁だけど。
『それからえーと、ポケモンバトル以外にも見識があるとか、かな。コンテストとか、僕も実際に見た事はまだないけどポケモンレースとか』
「(ポケモンレース?)」
『家の手伝いとか、近所の人やポケモンの話を聞いて積極的に手伝っていたり、炭鉱夫の皆さんとも仲良くしてくれる───でんきタイプみたいな髪色の子が好っ、ンンッ!す、てきだなって思うよ!』
『へ、へぇーかなり具体的ってか限定的……でんきタイプみたいな子じゃなくて、でんきタイプみたいな "髪色" の子ってどういう意味ですか……?』
「あー泣いたら何か色々スッキリした。顔べっちゃべちゃだけど。
ん、何ゴルーグ、終わった?」
「でんきタイプみたいな髪色……」
人の顔、というより頭?じっと見てどうした。ギャロップも目を点にして見つめてどうした、そんなに見てもポフィンしか出せないぞ。
「(いやこれ十中八九ロウさんの事じゃないですかぁー!!!!!
好きなタイプ聞かれてるのに好きな人を言ってしまうのは如何なものかと思いますよヒョウタさん!!!)」
(※なんでゴルーグがロウの事だとわかったのか気になる人はロウの人物紹介欄の2つ目を見てね!)
「ぶふぅ……ヒンッ、ヒヒィン……」
こっちに寄って来たギャロップに髪をもふもふされながら何となく呆れられる。『貴女本当に、こういう時だけタイミング悪過ぎるよ』って。意外と失礼な事 言われてるんだけど。内容が気になったのかムーランドがギャロップを呼んで私から少し離れてひそひそ話始める、終わった途端ムーランドに頭突き(わざではなくただの暴力)された。イッタなんで???
「ガウッ!!ヴゥ~ガァウゥ!!!」
「姐さんなんでそんな怒ってんの?『タイミングが悪いどころの話じゃない』ってマジでなんなの」
「シッ、標的に動きがありました。お静かに!」
なにそのテンション……もしかして普段そういう感じでシュウの仕事手伝ってんの?とりあえず落ち着いたしもっかい聞いてみようかな。立ち聞きするのに罪悪感を感じなくなってるのはまずいとは思うけど!
『そういえば時間大丈夫?今日ハクタイに用事があるって言ってなかったっけ』
『えっ!?あっやっばーい!もう行かなきゃ!
でも私ハクタイの森ですぐ迷っちゃうんですよねぇ……もしよかったらヒョウタさん、案内してくれませんかぁ?』
「は?????森で迷うバカの為の救済措置がサイクリングロードだろうがチャリ漕げチャリ。つかさっきから思ってたけどあの女やたらと距離近くない……?」
「俄然 殺る気を出されましたねロウさん!どうしますか
「ヒョウタさんもバッチリ射程内に入ってっから無理だバーロー
でもヒョウタさん優しいからなぁ、送って行くよーって言いそう……優しいところが好きだけどお願いだから断って……」
射程内に入ってなかったらちょっと考えたけど。良いトレーナーのみんなは人に向かってはかいこうせん撃っちゃダメだぞ、撃ったトレーナーというかチャンピオン見た事あるけど真似しちゃダメだぞ!!
彼女でも何でもないのにこんな事を願うのはどうかしてると思うが願うだけ許してほしい。もしヒョウタさんが快諾してしまったらパチリス特攻させよう、そうしよう。
とりあえず善は急げでモンスターボールを取り出そうと腰に手を伸ばす、が、声音からしてヒョウタさんも渋っているみたいだ、「僕この後ちょっと用事があって~」的な声が聞こえる。そりゃそうだよ、ヒョウタさんにも都合があるでしょ。ていうかヒョウタさんジムリーダーだし炭鉱でも働いてるんだから都合だらけじゃろがい!!そんな都合 目一杯の中たまにとは言え朝とか散歩してる時とかエンカウントできる私すごいな!どういう確率引いてんのありがとうございます!!!
「しまったつい心の声で取り乱してしまった」
「ロウさんが取り乱すのはお馴染みの様な気がしますが、女性の方は食い下がってますね。グイグイ行きますね」
「行くなーグイグイ行くなぁーヒョウタさん困っとるじゃろがい相手が困ってる時点で諦めろや勝手に迷っとけ!!」
相変わらず背中しか見えないけど、これはかなり困ってる。流石のヒョウタさんもだいぶ困ってる、声がそうだもん。助け船ならぬ助けパチリス出した方が絶対良いなこれ。
『うーん……でもそうか、迷って予定の時間に間に合わないのは良くないよね……うん、わかった』
「え」
え、え、うそ、嘘でしょ行っちゃうの?行っちゃうのヒョウタさん。やだやだやだやだ行かないで行かないでって言ったって止める権利なんか無いけどやだぁぁぁぁぁぁ。どうしようまた泣きそう、泣いたってどうしようもないけどええええええええ。
『遅れたら困るのは君だし───僕のプテラ貸すよ!
『え』
「「え」」
「ぶひん」
「ぐむぅ?」
今なんて言ったあの人。
貸す?プテラを?化石ポケモンの中でも輪をかけて凶暴だから背中に乗って飛ぶ以前に手懐けるだけでも一苦労のプテラを?トレーナーでも何でもない人に貸すの?
いやうん、ヒョウタさんなりの善意なんだろうけど 鬼 畜 か ? ? ?
『えっ、えっ貸す!?乗せてってくれるとか、そういうのじゃなく……??』
『乗せてってあげるのが一番安全なんだけど、僕も外せない用事があって……ごめんね。
でも大丈夫、ちゃんと安全の為に命綱……ベルトもあるし僕は使ってないけど鞍もあるから。ジムにあるから取ってくるね、ちょっとここで待ってて!』
『ちょっ、ヒョウタさん!?待って、待ってぇー!サイクリングロード!サイクリングロードで帰りますからぁー!ダメだあの人結構足速い!!』
ゴルーグを見上げてギャロップ、ムーランドの顔を見る。
うん、何と言うか、流石ヒョウタさんって感じだわ……実は失礼ながらヒョウタさんの事、ラノベとかに出てくる所謂 鈍感主人公みたいに思ってたけど、ここまで来るとまさにだわ……
「なんだろうあれ見たらすっげ冷静になれた。外野が言うのもなんだけど約束された勝利の脈無しって感じ。お前ら散歩行こ、多分もう大丈夫な気がする。何が大丈夫なのかよくわからないけど」
「少なくともあのお二人の間に何か進展があるかと言われれば、確実にNOであるという状態になりましたね。確率的にもほぼ0%に近いかと」
地獄への道は善意で舗装されているってどっかで見たけど、ああいう事なのかな。あれは悪意とか一欠片もない思いやりなんだろうけど、うん、まぁ、小さい頃 入院患者のプテラに気に入られて上空300mまで攫われた私も意外と大丈夫だったし、何とかなるべ。
今のでギャロップもムーランドも、ゴルーグでさえ興が覚めたらしくいそいそと散歩を再開しようとしている。さっきまでべそべそしてたのが何か馬鹿らしくなってきたな……いやヒョウタさんの事はめっちゃ好きだけど、そういうところあるよねみたいな。そういうところまで含めて好きですけどね!
「(もし自分があれやられたら死ぬ程 凹むけどね……)」
「(他人だから冷静になってますけど、これがもし自分に向けられたらロウさんは死ぬ程 凹んで叫ぶんでしょうね……)」
歩き出した直後、ムーランドに呼び止められる。どしたの姐さん、まだ何か?
「ぐわぅ、ワンッ(特別翻訳:アンタ、顔べっちゃべちゃのままだよ)」
そういえばそうだった……べちゃべちゃなの誰のせいだと思ってんだ。私が泣いたからかそうか。とりあえず公園に行こう。そこで顔拭いたり他のポケモン遊ばせたりしよう。
立ち聞きフレンズを解散しちょっと遠い目で私達はその場を離れた。