▼おや?叔父さん の ゴルーグ の 様子 が …… ?

【久しぶりの初めまして】

シンオウから旅立ちイッシュ、ホウエン、ジョウト、カントーを巡り合計40個のバッチと5回の殿堂入りを果たした私に残ったのは、終わりのない虚無感だった。田舎の代名詞たるシンオウ地方からイッシュ地方へ留学までして、何故かホウエンのダイゴさんから今でもデボンコーポレーション製品が送られてきて、セキエイリーグに至っては二度もワタルさんに挑んで勝ってしまったというのにだ。
この虚無。何もない。むしろ何かをする気にもなれない。
イッシュ地方はジムリーダーだけではなくリーグ公認ジムそのものが変わったらしい、ダイゴさんはいつの間にかチャンピオンから退いたらしいし、帰って来たシンオウにはバトルフロンティアとかいう施設が出来ていた。飽きるほどに見ていた、住み慣れていた筈のクロガネシティも、旅に出た頃に比べると街並みがやっぱり変わっている。この、何とも言えない取り残された感を抱いたまま過ごす毎日が微妙に辛い。

「いぎゃっ!?」

突如 尻にぶつかって来た衝撃に負けて思い切り顔面から地面へ滑り込む。後ろからはむふんとやや不満げな溜息が聞こえてくる。

「っエンペルト!何もケツ叩く事ないだろ!!痛いじゃないか!!」

「グゥルル……」

何と言うか、「変に落ち込んでいないでちゃきちゃき歩け」という様な顔で見下ろされる。5年以上の付き合いともなると相棒と言うより母ちゃんみたいになってくる、いや育ての母ちゃんに尻 叩かれた事ないけど、頭はしょっちゅうだけど。
今度は軽くペシペシと尻を叩かれながら帰路を急ぐ。

「そういえば今日シュウがシンオウに来るって言ってたな。
……ガラル地方に行ってきたらしいけど、ガラルって何があるんだろうな。イッシュ地方以外の外国の事はわかんないなぁ」

"シュウ" は私の叔父さん……みたいな人。いっつも一言多いし顔 怖いし身長2mくらいあるし筋肉モリモリマッチョマンのファミコン(※ファミリーコンプレックスの略。つまり自分の家族大好き)だし、なんか前に "動く要塞" とか "シュウが動く城" とか言われてた。何それ二つ名?
そんな叔父さんモドキはたまに私達に会いにシンオウにやって来る。律儀だねーなんて言われてるけど、ほぼ習慣になっているだけだと思う。きっと今回も適当に過ごして家族の待つ家に帰って行くんだろう。
何も変化が無いいつも通りが展開される、はずだった。

「ただいまーねぇ今日の飯って」

「お帰りなさいませーロウさん!今日のご飯は私特製のカレーライスですよ~!ガラルと言えばカレー!そして私 "ゴルーグ" もガラルに生息しています!つまりカレーを作る事など容易い事なのです、ええゴルーグですので!ゴルーグですので!!ぶっちゃけ20Lくらい作ってしまいましたが、そこもゴルーグですので仕方ないですね!!」



「……は?」

ご丁寧にエプロンを付けてお玉(特大)を片手にウッキウキで駆け寄って来る2.8m、いや3m越えてるな、あれはなんだ。鉄人か?ロボットか?ゴーレムか?
どう見ても、ポケモン───ゴルーグだ。喋ってるけど。喋って、るけど……待って、待って、待て、待ってくれ。

『ゴルーグが喋ったァァァァァァァァ!!!ナンデ?!ゴルーグシャベルノナンデ!!!??』

「きゃお……!?」

驚きつつもエンペルトが私の前に出てくる。ありがとう、そりゃそうだよこんな変なゴルーグが出てきたら警戒するて。

「おや、私を覚えていないのですかロウさん!?そういえば前にあった時はゴビットでしたね、ならば困惑するのも無理はないでしょう。進化したおかげでゴーレムとしての性能も、ポケモンとしての実力もあの頃と今では全く違いますからね!
その表情から理解できますとも。ゴルーグですので、ゴルーグですので!」
「いやいやいやいやいやいや絶対初対面だわ!!私の知ってるゴルーグと違いが過ぎる!!!シキミさんが出してきたゴルーグこんなんじゃなかったもん、なんだお前!!!」

「おおやはり、ロウさんはイッシュ四天王のシキミさんとも戦ったのですね!流石です!」

「うわぁぁぁゴルーグに褒められてるぅーナニコレぇぇぇぇぇ」

いつも通りには飽きていた、飽きていたけども。神よ、アルセウスよ何故です、こんなネイティオもビックリな変化球を何故。
というかこのゴルーグ マジで何?!

「お、帰ったかロウ」

「シュウ!何このゴルーグ!なんで喋ってんのつか誰の!?」

「俺だが」
「あんたかよ!
……そういやゴビット捕まえたって言ってた!シュウのゴビットは確かに見た事ある、いや見たけど普通のゴビットだった、何あれ!?」

「こいつは喋ってるんじゃない、これはテレパシーだ。俺が教えた」
「それもオメーかい!!」


色々話を聞いた結果、つまりこういう事らしい。
・ゴビットの時からなんとなく「こいつ、論文で論じられている生態と種族とタイプ的に教えれば喋るんじゃね?」という予感はしてた。
・そういう予感がしたのでちょいちょい言葉を教えてた。
・ゴルーグに進化したので本格的にテレパシーを使って人語での会話を教え始めた。
・特訓の末に今の様に人語を理解して(テレパシー)で会話が出来る様になった。
なるほどわからん。わかるけどわからん。いやほんとにどういう経緯?予感って何?予感 is 何??

「エスパータイプとかゴーストタイプは個体差あれど練習さえすれば基本的に人語を理解したり、人語を介しての会話能力は身に付きますよ。
ロウさんのシャンデラさんも頑張れば喋るかもしれませんね!私の様に!」

「このテンションのシャンデラ嫌だよ……」

シャンデラがこのゴルーグのテンションで話すなんて……うーん嫌だ、やっぱり嫌。嫌だ……
それにしてもシュウのゴルーグは心なしか動かない筈の目(の様なパーツ)が笑ってる様な気がする。なんだあのテンション、何あの、何?

「おっとそういえばご飯でしたね!お待ちくださいすぐに盛り付けますので!ご飯もうっかり30合炊いてしまいましたが、そこもゴルーグですので仕方ありませんね!ロウさんは人より多くポケモンを連れていますし、何よりたくさん食べれるという事でノー問題ですとも!」

いやまぁ確かにポケモン24匹いるけど30合ってどうやったら炊けんの?つか鍋でかいし、芋 煮る用の鍋じゃないのあれ。よくも庭にあんな鍋置いてくれたな。

「そもそもお前は20Lのカレーの材料と30合の米をどこから持ってきたんだ?」

「シュウさんのポケットマネーを少し拝借した次第です。ゴルーグですので金勘定も出来ますとも、ええゴルーグですので」

「そうか飯の前だが少し話がある。頼んだぞオクタン。それとロウ、エンペルト貸せ」

「嫌だよ……」

オクタンの攻撃に悲鳴をあげるゴルーグを横目に、鍋に掛けられた脚立を登り、カレーを小皿によそってみる。やっぱり鍋でかすぎる。

「大変だエンペルト、普通に美味しい。ゴルーグが作ったカレー美味しい。
なんだこれ夢か?悪夢か?」

「くるるぅ……」

お前よくそんな躊躇いもなく食えるな、という顔でこちらを見上げられる。なんでだよ食ってもいいだろ、目の前の光景に頭は痛いけどお腹は減ってるんだよ。

「ああ痛い!ハイドロポンプは痛い、痛いです!!」

「……しかしあいつうるさいな」

出逢いは唐突に、けれども縁とは何とも不思議なもの。20Lのカレーと30合の白飯の消費が目標となった今日、“テレパシーで喋れる様になった叔父さんのゴルーグ” との短いようで長い奇妙で珍妙過ぎる日々が始まった。
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