様子のおかしい叔父さんのゴルーグと行くナギサジム・エキシビション

【そして男達は語らう】

ポケモンとは思えぬ方法で空を飛ぶゴルーグに抱えられたロウに手を振るオーバとデンジ。彼女とピカチュウ、そしてゴルーグは手を振り返し、そのままクロガネシティがある方角へ飛んでいった。その姿を見届けたデンジは大きく体を伸ばし、思い切り吠えた。

「ッ、あぁー!!!クッソ負けたァー!!!!!」

大人としてかジムリーダーとしてか、あるいはもっと別の理性によって堪えていた悔しさが一気に込み上げて来たらしい。この場にいるのが顔見知りのオーバだけとなった事で、それが明確な咆哮となって吐き出された。

「プッ、ククッ……お前、ひっさびさに盛大に負けたなぁ!」

「うるせーよ!あんな無茶苦茶な攻め方して来るのに隙の無い……あれ寄越す方も寄越す方だろ、ゴヨウさんも人でなしだよなぁ……」

「そんだけお前に対して思うところがあったって事だよ。これに懲りたら真面目にジムリーダーとして仕事しろよー?」

伸ばしきった腕を頭の後ろで組み、オーバと視線を合わせる。そして名を呼んでニヤリと、意地の悪い笑みを浮かべた。気味悪がる様にオーバは2、3歩後退る。

「あいつ、リーグ代行人とか言ってたけど、本当はリーグとは無関係なただのトレーナーだろ」
「んな" ぁ" !?な、な訳ねーだろ!!ゴヨウさんがそんな、一般トレーナーを」
「トレーナーカード見りゃ1発でわかるっつの。リーグ関係者なら目印付いてるし」

「あ」と間の抜けた声を上げたと思えばガックリと、オーバーリアクションで項垂れ「気付いてたのかよぉ」という情けない呟きが地面に染み込んでいった。その姿に今度はデンジが吹き出し、ジムの天井を閉める為に歩き出した。
後ろで何か言っているオーバの声を聞き流しながらパネルを操作し、閉じていく天井を見上げながら再び彼を呼んだ。

「にしてもすげーな、ロウは。お前気付いてたか?」

「へぁ?何に」

「バトルしてる時の表情だよ。こっちの気が抜ける程の凡ミスが多かったが、あいつ "一度も本気で焦った顔を見せなかった" 。 あれは何かミスっても全部 完全に挽回できると思ってなきゃできない顔だった。しかも技すら全部出し切ってない、今回バトルに出したポケモン全員 "3つ" しか技を使ってなかった。借りた(ついて来た)ゴルーグでさえ、な。ロズレイドやバクフーンの時のバトルスタイルを見るに、技とは違う「手札」もそれぞれのポケモンに対して複数持ってる筈だ、それも隠し切る徹底ぶりと来た。
末恐ろしい奴だよ、 "負ける事を想定してない" んだろう、あれは」

「ど、どういう事だよ??」

「つまりロウは───最初から、バトルする前から自分が勝つとしか思ってない。負けるかもしれない、とか一瞬も思わないタイプだぞアイツ。
……だってのに、あれ多分、心の底から「勝敗」とかどうでもいいと思ってんだろうな。見た感じだけの偏見に過ぎないが、『まぁ私が勝つだろうけど負けても別に良いかー』ってのが、ロウのバトルの基本なんじゃないか」

「お前よくそこまで見てんな……あ、いやでも、うーん……」

彼の分析に腕を組み首を傾げるオーバ。その様子に何となく、ホーホーやコダックを思い出した。一頻り唸りながら頭を揺らしていたが、ある事に気付いたのかデンジに指を指す。

「確かに、初めて会った時6年前からそういうところあったわ」

表情筋に力を入れ推理ドラマの主人公が犯人を言い当てるかの様な真剣な顔を作り出す。そうして指を鳴らしながらオーバに指を指し、「だろ?」と。
静寂が二人の間に流れる。そして二人同時に吹き出し、声を上げて笑い出した。笑いながら歩き出しどちらからともなく肩を組んでジムの正面玄関に向かう。

「よぅし!オーバ、俺達も行くぞ!!」

「アッハハハハ、えっどこにだよ」

「海外だよ海外!顔も知らない世界中のトレーナーに置いて行かれる前に、俺達も修行に行くぞ!!」
「ハァッ!?おまっジムはどうすんだよ!?」

「んなもん適当な理由付ければ半年くらいジム閉めても何とかなんだろ!俺どうせ最後のジムリーダーだし、シロナさんだってなんやかんやでフィールドワークに出てるんだし、俺達も何とかなるって。
よっしそうと決まればやるぞ!善は急げだ、まずはイッシュ地方に行くぞ!オーバ、リーグへの申請とか諸々の手続き頼んだ!!」

「はぁぁぁぁぁ!?テンション振り切ったお前のそういうところ、ほんと嫌なんだよォォォォォォ!!!」

───このエキシビションから数ヶ月、シンオウリーグの四天王とジムリーダーがイッシュ地方に降り立つ姿が目撃され、イッシュリーグ・四天王の1人「シキミ」の小説にまで登場する事になるのだが、それはまた別の話。









【後日談とプレゼントとボーナスと】

震える手でそれを差し出し「受け取ってください」と一言だけ溢す。不思議そうな顔で受け取った彼は次の瞬間嬉しさと驚きが入り混じった声を上げた。

「これって、わざマシン!?どうしたの急にこんな高価な物……えっと、貰っていいの?」

「モァッパ、はい、大丈夫です!ほらあの、前にそのわざマシン欲しいってヒョウタさんが言ってたの思い出して、ちょうど見つけたのでその、プレゼント、です……!」

「本当にいいの?ありがとう、大事に使わせてもらうね!(モァッパ……?)」

噛んで飛び出た奇妙な鳴き声には一切触れず、嬉しそうにわざマシンをしまうヒョウタ。実は内心恐ろしい程に狂喜乱舞しているのだが彼もまたジムリーダーであり1人の大人の男、必死のポーカーフェイスを決め込む。が、傍から見ればその顔は緩み切っていた。
恋とは恐ろしい物である。そしてヒョウタだけがロウに惹かれているのではなく、ロウもまたヒョウタに恋い焦がれている。つまりこいつらは両片想いしている、恋とは本当に恐ろしいものである。

「あ、えと、イッシュから取り寄せた物なんで何度でも使えますよ!擦り切れるぐらい使っても大丈夫なんで!それにもし必要なくなったら捨てるか壊すか砕くか産廃に出すかフリスビーにリテイクするか、兎に角どう煮るなり焼くなり好きに使ってください!!」
「擦り切れ、わざマシンって擦り切れるの?大丈夫、わざマシンが必要なくなるってほとんどないし。本当に大事に使わせてもらうから!」

「ヒョウタさんヒョウタさん」

何故かロウと一緒にいたゴルーグがちょいちょいと、指で肩を叩く。彼が顔を上げるとその大きな体躯を縮こまらせ耳元に顔を寄せてくる。そもそもゴルーグは声ではなくテレパシーで会話している為、顔を近付ける必要は無い筈なのだが。

「ロウさんはああいう風に仰っていますが、先日ヒョウタさんが欲しがっていたわざマシンを探し回っていたんですよ~ちょうど見つけたどころか見つけるまで駆けずり回って、後から「ネットで探せばいいやんけ!!!」とか深夜に叫んでもーそれは大変で」
絶望による死を許すハイドロカノン

エンペルトによるハイドロカノンを真正面から受け「アァーこうかはばつぐん!!これにはゴルーグでも耐えられません、ゴルーグですが、ゴルーグなのですがァー!!」と断末魔を上げゴルーグは勢いよく倒れ込む。と言っても自分が行動する事で起きる衝撃を理解しているのだろう。まるでスローモーションの様に、しかし躍動感はそのままにゆっくりと地面に伏せる。そして "じしん" を使って軽く衝撃の演出を行う。

「……いやなんだその無駄技術!!!」

「あはは……ところでロウちゃん、イッシュから取り寄せたって言ってたけど本当に貰っていいの?わざマシン自体も結構値が張るのに、輸送費とか……」

「い、いいいいいいえ、気にしなくていいんで!つい最近ゴヨウさんからの依頼でボーナスステージに行ってきたエキシビションしてきた報酬があるので大丈夫ですよ!」

エキシビションと聞いて少し首を傾げるが、すぐに思い出したらしい。

「ああ、そういえば前にエキシビション組まれたって言ってたね。ナギサシティに行ってきたんだっけ?大変だったでしょ、デンジの相手するの。気分屋っていうかすごい自分かっ、ンンッごめん、マイペースっていうか、ね」

「(話の内容覚えてくれてるとか好き過ぎるんだが神か?神なのかアルセウス超え来ましたよ これ。さりげなくディスりかけて言い直すのも優しいし可愛い好き)
やっぱりジムリーダー同士交流あるんですね。シロナさんからリーグで会議とかあるーって聞きましたけど、それで会ったりとかするんですか?」

「うん、と言っても世間話する程度だけど。いつもオーバさんか父さんの方がデンジに絡みに行ってるし。
好きなのはわかるんだけど、バトル中すごい頻度で10まんボルト使ってくるんだよね。それで見切られるどころか完璧に勝つからすごいんだけど」

「ほぁ……そういえば私の時1回も使ってきませんでした、10まんボルト」

「えっそうなの?!珍しいな、デンジもそういう時あるんだねぇ……」

「いや多分中の人による技構成上の凡ミスだと思うんですよね。作中で10まんボルトに関する台詞あるのに、実際使ってくるのはBW2だけですし」
「ごめんねロウちゃん何の話してるの?僕の知ってるデンジの話してるんだよね??」

「デンジさんは呼び捨てなのか」と薄っすら思うがほわほわと語るヒョウタのその様子に「それにしても可愛い」という感情がすぐさま勝っていった。恋とは非常に盲目的で恐ろしいものである。
彼の表情をじっくり鑑賞していたが携帯の着信音で意識を取り戻す。ヒョウタには音は聞こえなかった様だが、ロウの視線の動きに気付いたらしく「確認してみたら?」と携帯を指差した。彼女としては後回しでも全く構わなかったのだが、彼の気持ちを無下にする訳にも行かず、遠慮がちに携帯を取り出した。

「あ、ゴヨウさんからだ……"この間のエキシビションについて" ?なんだろ。
…………は、え、ヴェッ、はぁぁぁぁ!!!??」

突然の大声に体が跳ねる。余程のショックだったのか、ロウが取り落とした携帯を何とかキャッチする。そして思わずその画面を見てしまう。


『先日のエキシビションの報酬についてですが、ナギサシティより「街に設置しているソーラーパネルの破損を確認。ジムで行われていたバトルが原因と思われる」という旨の苦情がありました。誠に勝手ながら今回お支払いする予定だった報酬をソーラーパネルの修理費に充てる事になりました。
つきましては報酬が当初予定した額から大幅な変更となり、内訳を以下に添付致しましたのでご確認ください。

P.S. ちなみに最初の報酬額を設定したのはシロナさんとリョウでした。妙に多いと思い調査した結果、別の予算からわざわざ引っ張り工面したものでした。私はこれから2人を探す為 問い合わせなどはしばらくの間 受け付けられません。ご了承ください。今日のシンオウリーグ問い合わせ窓口の電話番はキクノさんです』


「これは……」

ヒョウタは素直に思った。酷い、これはあまりにも、酷い。具体的に何がと言われると言語化が困難だがそれにしても酷い。特にチャンピオンと四天王が。
何よりもゴヨウの抜け目なさが際立っている。恐らく説教か何かをするべく今もリーグ内、もしくは外を駆けずり回ってシロナとリョウを探しているのだろうが、わざわざ「問い合わせは受け付けない」と書いている時点でロウが喚く事を想定して先手を打ったとしか思えない。そして更に直接ではなくとも文句を言える窓口に穏やかで、その朗らかさに暴言など吐き掛けられないキクノを配置するという徹底した防御。
むしろ何をすればここまで手を打つのか、それ程までにロウが暴れた過去でもあるのか。

「ひょうたさん」

携帯から顔を上げロウを見る。と、またも肩が跳ねた。今にも大粒の涙が零れ落ちそうな瞳に自分が写っていたからだ。

「わたし、私もうジム戦でヘビーボンバーとかじしん使うのぜったいやめます……」
「なっ泣かないでロウちゃん!大丈夫、普通ジムはかなり丈夫に作られてるしフィールドに直接衝撃を与える様な技を使ってもジムの外、街に影響が出ない様にちゃんと衝撃を吸収する様になってるから!!
(でも、それで街のソーラーパネルが破損したって事は、ロウちゃんのポケモンがかなり強いって事なんじゃ……)」

「アホみたいにネット通販で買い物しちゃったのに支払い ど" う" し" よ" う" ~" 」
「ロウちゃんやっぱりこれ返すよ!!近々仕事でイッシュに行く機会あるし、僕自分で買うから!!」

「それは受け取ってくれないと余計に泣きたくなるのでも" ら" っ" て" く" だ" さ" い" ぃ" ぃ" ぃ" 」

この後、実はまだ体力があったゴルーグが起き上がり、「ところでロウさん、バトルで得た賞金とポケモンレースの優勝賞金でイッシュの口座に1000万くらい貯金あるってこの間 仰ってませんでした?」と発した事で別の気まずさが2人を包むのだが、なんやかんやでヒョウタについて行く形でロウもイッシュに行く事になるのであった。
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