様子のおかしい叔父さんのゴルーグと行くナギサジム・エキシビション

【ロウVSデンジ・後編 ~最終的に拳で殴り合うのはロマンですか?~】

「さぁ行くぞ、マルマイン!!」

「マルマイン!?」

おいちょっと待て、マルマインって、マルマインこそシンオウ地方にいないポケモンじゃないか!いや進化前のビリリダマはいるけど、あいつらだって季節によってたまーに大量発生して、それ以外は全く姿を現さない。そんなポケモンを出してくるなんて……
そしてこの展開にはまさかのオーバさんが一番ビックリしておられます。なんということでしょう、友人がマルマインを持っている事を存じ上げなかったようです。

「最近捕まえて進化した奴でな。どのぐらいイケるか俺に見せてくれ、マルマイン」

「リリリリリリ!」

デンジさんに向かってその場でジャンプし、ぐるりとこちらを睨むマルマイン。ビリリダマよりは愛嬌があるけど、何とも言えん顔だ……
あの様子とさっきのデンジさんの言葉から察するに、ちゃんとしたバトルは初めてっぽいがトレーナーとの信頼は既に築けている様だ、指示は問題なく通るだろう。注意しないと。

「え、ええっと、ロウはバクフーンのままで行くか?」
「バオウ!」

「お前が返事すんな。でもまぁこのままで」

「よしわかった。デンジ、後でマルマインについては聞くからな!
……いつの間にゲットしやがったんだ?
兎も角、バトル開始!」

「マルマイン、エレキボールだ!」

チャージしたかと思った瞬間、既にバクフーンが被弾していた。
嘘だろなんつー速さだよ……!?そういえばマルマインって結構素早いポケモンだったような……あの見た目からして移動に空気抵抗とか関係なさそうだしなぁ。

「畳み掛けろ、シグナルビーム!」

「っ撃ち破れ、かえんほうしゃ!」

どうやら今回もバクフーンこっちの方が上らしい。先程のライチュウのチャージビームと同じ様にシグナルビームはあっけなく炎に破られ、マルマインは炎に巻かれる。
と思っていたのに、かえんほうしゃを受けながら真っ直ぐ突っ込んできた。何あいつこっわ。

「球体だからビーム状の攻撃に強いのか!?(※混乱による謎理論です)
ええい兎に角 近付かせるな、なんか怖い!じしんだ!!」

「フンッ、グガァァァァァ!!」

ちゃぶ台返し地震を繰り出し、突っ込んできたマルマインの足、いや足無いわ動きが止まる。よし、相手はでんきタイプ単一だ。タイプ不一致とは言え先程のライチュウ宜しく結構なダメージになる筈だ。
───なのに、どうしてデンジさんは笑っているんだ。これは、まさか既に何か、"嵌められている"?

「ありがとよ、こんなに早くじしんを使ってくれるなんてな。
マルマイン、"いちゃもん" だ!」
「いちゃもん!?」

いちゃもんは「同じ技を2回連続で使えなくする」という、しかも時間経過で回復できない意外と厄介なものだ。しまったここで妨害系の技を使われるなんて……!
俯いていたマルマインが顔を上げ、やや困った様な目を此方に向けて、

『兄ちゃん あんな、その技めっちゃ痛いからやめてくれる?もぅめっちゃ痛いねん』
「シャベッタアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!??」
「アンギャオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!??」

「いちゃもんってあんな感じの技でしたっけ?」

あんぐりと口を開けたのも束の間、「やべぇよ痛ぇって言われたぞどうする!?」と言わんばかりに私の様子を伺うバクフーン。驚いたけどどうやら今のでしっかりいちゃもんの効果は出てるらしい。……いや いちゃもんってあんな感じだったっけ??
技を封じられた場合、無理に使わせようとするとむしろ大きな隙になってしまう。じしんはもう捨てるべきだろう。まずったなぁマルマインの弱点をつけるのは "じめんタイプの技だけ" だ。さっきの一発でどのくらい削れたんだ。

「落ち着けバクフーン。まだ手はある。あれを───」
「遅いな」

あ……?そうだ、マルマインの素早さは群を抜いているんだった。狼狽えていたバクフーンの足元まで転がって来たマルマインはニヤリと不敵に笑う。

「叩き込め、かみなり!!」
「あ」

未だに開いていた天井。そこから見える、突き抜けた青空に暗雲が一か所だけポツリと出現する。それを認識した瞬間青白い雷がバクフーンを貫いた。
……完全に気を抜いてた。かみなりなんて躱せた筈なのにな。でも心配はしていない、だってバクフーンはまだ "立っている" 。デンジさんもそれをわかっているんだろう。マルマインと同じ様に、いや多分マルマインがトレーナーの真似したんだろう、そんな不敵な笑みを浮かべていた。

「(素早さで勝てないなら近付けさせないのが一番だな。大ダメージは受けたがまだ疲労は出て来てない、イケる)
バクフーン!あれやるぞ "炎の竜巻" !!」
「なんだそりゃ!?そんな技聞いた事ないぞ!?」

そりゃそうですよ、勝手に作りましたので。
足元にいたマルマインを蹴っ飛ばし、ブレイクダンスの要領でその場で回転しながら炎を吐き出す。"かえんぐるま" の様にぶつかる訳ではなく、"ほのおのちかい" の様に相手を焼き尽くす訳でもなく、ただただその場で炎を巻く。瞬く間にバクフーンの体は───周囲が炎に呑まれ、壁の様に競り上がっていく。
あっという間に "炎の竜巻" の完成です。本来はコンテストの為に編み出した "映え技" だったけどバトルにも意外と役立つ。トレーナーならコンテストも出場しておくもんだね。

「くっ……なんて熱量だ……!!」

「ビ、ビリリリリリリリ……」

炎はただ熱いだけのものじゃない。熱く、煌々と燃える炎は大きければ大きい程 眩しく、その熱量で文字通り目も開けられない程の光にもなる。ちなみにお気付きかもしれませんが屋内ではできません。大炎上不回避。
ポケモンの中でも不可思議な生態と言われるマルマインも、流石に視力を潰されればどうにもならないらしい。何とか接近を試みているみたいだが、熱くてそれ以上動けずその場でぐるぐると回る事しかできていない。

「今だ、きあいだま!」

炎の竜巻の中からきあいだま太陽が飛び出しマルマインを吹き飛ばす。相手からは見えないけどこちらからはしっかり見えるというマジックミラーばりの防御性もございます。良ければ貴方のポケモンにも是非、練習めっちゃ必要だけどね!トレーナーも燃えるし、燃えたし。

「(なるほどな、あの炎は目眩ましとこちらの攻撃に対する防御の役割もあるわけか。だが)それだけの炎を焚きながら移動なんて出来る訳が無い、動けないのと同意義だ。
マルマイン、もう一度かみなりだ!!」

さっきの様に青空に小さな暗雲が出現し青白い雷が巨大な炎を上から真っ二つにかち割る。
炎の中にいた筈のバクフーンは、何の疲弊も見せずに立っている。

「なっ……!?」
「炎の中心にいると思いました?残念、"火元が移動しても燃え続けるのが炎" なんだよなぁ!
きあいだま!からのかえんほうしゃで追撃!」

「ガゥルオォォォォォォォォォ!!!!!」

咄嗟に思いついたコンボは見事にマルマインに炸裂し、こんがりと焼き上がった球体は偶然にもデンジさんのすぐそばに転がっていった。あれだけ撃ち込んだんだ、終わりだろ、う……
いやまて、あいつこっち見てる。

「かえん───」
「リィィィィィリリリリリ!!」

「マルマイン!?」

デンジさんの指示もなく最後の力であろうシグナルビームを放つ。勝ったと思い込み初動が完全に遅れたバクフーンに見事にヒットする。が、すぐに持ち直しおまけのかえんほうしゃで巻き上げ、マルマインはようやく動かなくなった。最後の最後で妙な粘りを見せたな。

「マルマイン戦闘不能!よってロウのバクフーンの勝ち!
……おい、ロウ。なんかバクフーン変じゃねぇ?」

「えっ?」

怪訝そうにこちらを見るオーバさんの視線を辿ると、明らかに足がふらつきそこにいる筈のない敵に拳を振るうバクフーンの姿が。酔拳でもやっとんのかお前は。
そうだ、確かシグナルビームには "10%の確率でかなり確率は低いが相手をこんらん状態にする" 追加効果があった……こんな低確率を引き当てるなんて、当たり所が悪かったか油断してたか、このエクレアめぇ……兎も角こんらんにかかったんじゃとても連戦はできない。とりあえずバクフーンはここで退いてもらおう。

「良くやってくれたマルマイン。最後に一矢報いてくれるとはな、最高に痺れたぜ」

「リリリ、りりりりぃ……」

「痺れたっつっても電気技じゃなかったですけどね」

マルマインをボールに戻したデンジさんが「さて」と別のボールを取り出した。
真打登場、ってとこですか。わかりますとも、ゴルーグですの……嫌だ私は何を言おうとしたんだ。

「ついに真打登場というやつですね。わかりますとも、ゴルーグですので!ゴルーグですので!!」
「そうだよそれを待ってたんだよお前が言えや」

「Oh,突然の理不尽なキレ芸。これにはゴルーグである私もビックリです。しかもしっかり小声で仰っておられるところが尚ビックリ」

「せからしかぁ……」

「ロウ」

突然デンジさんに声を掛けられる。何と言うか、オーバさん以外の人の名前をまともに呼んでいるところが想像できないのでちょっとビビってしまう。そんな私の様子には興味が無いらしく、青い瞳はゴルーグを見つめていた。
えっなんでゴルーグ見てんの?

「そいつは戦えないのか。お前の言う事を聞いている様に見えるが」

「はぁ?いや、まぁ、一応普段から(何故か)一緒にいますし、指示は聞きますよ。
(本ポケに「逆らう様な真似はしない」って言われたし)」

あっその顔、嫌な予感しかしない。
今日一の良い笑顔を見せたデンジさんはボールを投げる、出て来たのはエレキブル。エレキッドの最終進化系か、確か攻撃力が高かった様な。

「ならそいつ、ゴルーグで来いよ。見た目通りの置物じゃ折角ついてきたのに勿体無いだろう?」

「それぜぇったい私利私欲から来る勿体無いだろ……とんだバトルジャンキーだぜ」
「何か言ったか」

「ゴルーグはじめん・ゴーストタイプなのでエレキブルは不利ですよーって言ったんですぅ」

「俺がタイプ相性程度で尻込みすると思うか?」

でしょうねーそうだと思ったよ……
とりあえず本ポケに承諾を得ない事にはどうにもできない。ゴルーグを見上げると大きな拳を握って私を見下ろしてくる。

「私は構いませんよ。必ずやロウさんに勝利をもたらしてみせましょう!」

「頼もしいな……でも(めんどくさいから)断ってほしかった……
わかった。そう言ってくれるなら出てもらおうかな。じゃあ技構成考えようか……」

ポケモンバトル時に使用できる技は "4つのみ" という規定が設けられている。トレーナー同士の合意さえあれば、公式戦以外でならその規定は無視できるけど。
つまりポケモンの技は "人間の都合で4つだけ使用できる状態" にされているだけで平時でなら "4つ以上の技が使用できる" 。技に関するリミッターやら科学的な機械で制限とか出来る訳ないしね、技って言ってるけどポケモンにとっては人間が泳いだり走ったり何だりしたり、道具を使って炎や電気を起こしてるのと規模が違うだけでやってる事は同じだし。日常生活をするだけなら技はいくらでも使える。

「(まぁそこにホエルオーよりも大きな個体差があるんだけどね~……)」

例えばコダックなんか顕著な例だ。トレーナーが鍛えていれば4つの技を覚えていられるが、そうじゃない場合は頭痛に悩まされるコダックにとって "普段使わない何かをずっと覚えておく" というのは難しい。普段使いさせていないと "みずでっぽう" でさえすぐに出す事は出来ない。逆に言えば練習させてないと頭痛によって起きる "ねんりき" や "サイコキネシス" なんかの制御すらも出来ない。
ただペットとしてポケモンを飼う事は不可能であり、少なくとも技と呼ばれる行動は人間が責任もって管理・制御・練習etc.が必要だってポケモンに関するどっかの研究会が言ってたし。
さてそれを踏まえてのシュウのゴルーグ。シュウが会話能力を与えたせいで知能が上がったのか、もしくは意思疎通が楽になったおかげか、ゴルーグは習得できる技のほぼすべてを使う事ができる。だからバトルする時は "トレーナーが技を4つ選ぶ" 事になる。
これはポケモンとしては "異常" だ。ポケモンも生物だから物忘れだってする。自分が覚えられる技の全てを記憶しておくというのは、伝説のポケモンでもない限りかなり難しい。

「───の4つで行こうか。まぁ電気技は通らないしエレキブルは攻撃力が高いからそこ注意していこう。あと素早さで先手取れる訳がないし特性がノーガードだからできるだけ耐えて当てて」

「了解致しました!」

手を頭に当てて敬礼するゴルーグ。そして私を飛び越えてフィールドに着地した。普通のポケモンはこんな技構成を直前で変えるなんて無茶振り了解できないんだぞ……

「デンジはもう出せるポケモンはエレキブルだけだからな、これが最後だぞ!デンジ、ロウ、準備はいいか?」

「いつでも?」

「私もOKです」

「良い返事だ!んじゃ始めぇ!」

「ブァウル!!」

デンジさんの指示も聞かずエレキブルは突っ込んできた。様子を見るにこれは想定内らしい。
攻撃力の高い、所謂「物理アタッカー」型のポケモンは意外と多才だ。恐らくゴルーグの弱点を突ける技の1つ2つ使えるのは間違いないだろう。特に "パンチ系" の技には注意しないと……

「突っ込んでくるならこちらから攻めるぞ。じしんだ!」

「大変揺らしますので、お足元ご注意くださーいっ!!」

くそ、バトル中も喋るんだったコイツ……私にしか聞こえてないとわかっていても気が散る。
地面を連続で殴り付けてエレキブルの足元を揺さぶる。タイプ一致してるだけあってバクフーンのとは比べ物にならない威力だ。
だというのにエレキブルは若干フラ付いた程度ですぐに体勢を整えまた走って来る。

「やっぱ1撃じゃ倒れる訳ないわな!!」

「当然だ、俺のエレキブルはそんなヤワじゃねぇよ!れいとうパンチだ!!」

「ばくれつパンチ!」

直前でジャンプしてゴルーグの頭 目掛けて凍った拳を振るう。倍以上も体格差があるってのに向こうもとんでもない攻撃力らしい。見事なクロスカウンターが決まると同時に、反動によって生まれた突風がフィールドを駆け抜ける。ピカチュウが飛ばされない為かいつの間にか足元にくっついていた。

「ブァルゥゥゥゥ……!!」

「ぬぅぅぅ流石のパンチ力、相手にとって不足無しというもの!それではばくれつパンチのおかわりでも如何でしょう!?」

「ぶぅおっ!?」

体格差を生かして跳び上がったエレキブルの更に頭上から拳を振り落す。地面に叩きつけられた事で今度は砂埃が爆発したかの様に舞い上がった。

「エレキブル!もう一度れいとうパンチだ!」

「ぬぅっ……!?」

砂埃の中からエレキブルが跳び出してきて見事な氷のアッパーカットを叩き込む。そして意趣返しと言わんばかりにさっきのゴルーグの様に頭上から拳を落とす。
……ばくれつパンチの追加効果でこんらん状態になっている筈なのに、なんだあの動きは。表情を見るに明らかにこんらんは入っている。だが虚ろに見えるその目は、しっかりとゴルーグを捉えている。さっきの指示もスムーズに動いていたしデンジさんの声もばっちり聞こえているみたいだ。なんと厄介な。

「ゴルーグ、イケるか!?」

「無論です。この程度で倒れる様な脆いゴルーグではありません!」

頼もしい言葉だがれいとうパンチで結構ダメージが入っている筈だ。特性も相まってあまり長期戦はできないだろう。

「やはり簡単には倒せないか。良いな、これでこそ痺れる最高のバトルってもんだ!!
エレキブル、ワイルドボルト!!」
「はぁっ!?」

何言ってんだこいつ。いや年上にこんな事言うの失礼だけどマジで何言ってんの。
さっきゴルーグはじめん・ゴーストタイプって伝えた筈なのになんで……その後あの人、何て言ったっけ。

『俺がタイプ相性程度で尻込みすると思うか?』

レントラーの比ではない電気を纏って突っ込んでくるエレキブル。輝きすぎて体すら見えなくなる程の電気だ。あれに当たったら並みのみずタイプやひこうタイプはたまったもんじゃないだろう。
正面から電撃の突進を受け止めるゴルーグ。電気はじめんタイプのゴルーグには当然通らない。が、

「ッギ、ゴオォ……!?」

「ゴルーグ!!」

そうか "この為のワイルドボルト" だったのか。電気で攻撃するんじゃなく、 "あくまでも電気はブースター代わりに使って、本命は突進の純粋な威力を高める" のが目的だったんだ。重さ約140㎏の弾丸によるボディーブローなんかいくら巨大で重量もあるゴルーグでも耐えるのは難しい。
それでも何とか踏ん張り、腕を振って重心を戻し倒れかけた体を持ち直す。よかった、もしこれがこおりタイプだったりゴーストタイプの技とかだったら間違いなく致命傷になっていた。

「一気に叩き込むぞ、連続でれいとうパンチ!!」

「(このタイミングで使うしかないか)10まんばりき!」

「参ります!!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァ!!!」
「ヴァァァルゥ!!バルバルバルバルバルバルバルバルバルヴァルアァァァァァァ!!!」

「ヤバいぞこういう感じの殴り合い、どっかで、どっかで見た事ある!!」

「びがぁぢゅ……!?」

体格差もタイプ相性も物ともしない殴り合いが始まる。ゴルーグが1発叩き込めばエレキブルは素早く2発殴り返し、その倍返しと言わんばかりにゴルーグは更に重い1撃を打ち込む。ところで素早さって何だっけ。エレキブルのスピードにゴルーグが完璧に追い付いてるんだけど素早さって何だっけなぁ。
それは兎も角、ノーガード特性のおかげでこちらもダメージがかなり入っているけどそれは向こうも同じ筈だ、お互いに弱点を突く技で殴り合いさせているんだから今の時点で相当なものだろう。
だからこそ、決定打になる一撃はトレーナーがその瞬間を見付けなければ。

「……今だ、じしん!」

「足元失礼しまぁす!!」

「なんだと!?」
「バル!?」

エレキブルの拳をひらりと避けて(ノーガードなのにそれ避けるんか)代わりに地面を殴り付ける。狙い通り、造り出した大きな隙に撃ち込んだその一撃は、いとも簡単にエレキブルの体軸を崩した。

「っエレキブル、れいとうパンチ!!」

「ばくれつパンチ!!」

「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ヴァァァァァルアァァァァァァァ!!!」

勢い良く振りかぶった冷気を纏うその腕を───エレキブルは一瞬、不思議そうに見つめた。初撃のばくれつパンチの追加効果が残っている、まだ "こんらんしている" 何よりの証拠だった。
それは寸でのところでデンジさんも気付いたらしい。瞳孔が大きく開くのと同時に、ゴルーグの拳が虚ろな目を浮かべたエレキブルの顔面に直撃する、その光景が瞳に写り込んだ。
デンジさんの真横を飛び、ジムの壁に叩き付けられたエレキブルは、立ち上がる事無く壁に凭れ掛かり気を失っていた。

「……エレキブル戦闘不能、よって!ロウのゴルーグの勝ち!
んで!ジムリーダー・デンジのポケモンが全て戦闘不能になった為、この勝負 リーグ代行人・ロウの勝利!!」

腹の底から息をつく。なんか久々に公式戦に近いバトルをしたせいでどっと疲れたなぁ。

「うおー!!勝ちましたよロウさーん!!うおぉーーー!!!!!」

「ゴルーグうるせー」

「ピィッカチュー!!ビィカァーーー!!!!!」

「ピカチュウもうるせぇ……」

今回一番活躍できなかった腹いせも込めているのか、私から離れてゴルーグの上に登り一緒に雄叫びを上げるピカチュウ。というか今回全員何かしらの大声を上げている気がするな……
エレキブルをボールに戻したらしいデンジさんがゆっくりとこちらに歩いてくる。まぁ待つのも失礼だしこっちも向かおうか。トレーナー達の様子から察したらしいゴルーグが吠えるのをやめて私の後ろに後退っていく、なるほどこれがシュウによる躾の結果か。
向かい合ったデンジさんは言葉を発する前に、さっきの私と同じ様に深く、深く息を付き出会ったばかりの頃よりも柔らかい笑顔を向けた。なるほどこれがナギサのスターの笑顔か。

「……完っ敗だ、悔しさで浜辺を走り回りたいくらい、俺の完全な負けだ」

「(浜辺……)ナギサっ子の共通認識か何かですかそれは。
とは言え、私もボスゴドラ倒されましたし完全勝利とまではいかないでしょ。だからデンジさんも完敗って程でもないんでは?」

その言葉にデンジさんは、何故かオーバさんも苦笑いを浮かべる。小さく「マジかよこいつ」と呟かれた気がする。なんでや何にも変な事言っとらんぞ。

「お前とバトルしてゴヨウさんが俺に何を伝えたいのか、わかった気がするよ」

「え~ほんとうにござるか~?」

「ござるかぁ~??」
「オーバうるせぇ」

「いててっ、なんで内太もも叩くんだよ!」

ほんとになんで内太もも叩いたんだろ……漫才なんだから頭で良くない?(※良くはないです)(※漫才でもないです)

「でもまぁ、挑戦者が手応え無いのは仕方ないとして、ゴヨウさんもなんでいきなりこんなの寄越すかね。おかげ様で良いバトルが出来たけどよ」

オーバさんに向けた言葉らしく私には指しか向けられない。オイこんなのってなんだ、こんなのって。というか、他の四天王を嗾けられてもやる気出さないから、私が投入されたんじゃなかったっけ。
……リーグ代行人は建前で私はリーグとは無関係な事はデンジさんには言ってないんだった。完全に忘れてたよ。

「弱いだの手応え無いだの雑魚だの屑だの三下以下だの言ってても」
「俺そこまで言ってないぞ」
「そうでしたっけ。まぁいいや、もしかしたら私みたいにリーグ戦 経験者が挑戦者として来ないとも限らないですし。いくらシンオウ最強のジムリーダーとか無敗のジムリーダーって言われてようが、シンオウから出てしまえばこんなもんだぞーって、ゴヨウさんはそう言いたかったんじゃないです?挑戦者は兎も角、腐ってると顔も知らない世界中のトレーナーに置いてかれますよ。
外野がとやかく言うのもあれですけど、少しはやる気出ました?」

「……まぁ、しばらくはロウみたいなのが来るのを待とうかな」

若干不満そうに、しかし受け入れるしかないと言わんばかりの顔でデンジさんは懐から何かカードを、ってあれ私のトレーナーカードじゃん!!そうだ、1ページ目出会った当初からライチュウに奪われて返してもらってなかった。それすらも忘れるとは、疲れてるな。早く帰ろう。
差し出された私のトレーナーカードを受け取ると、付箋の様な物が貼り付いていた。そこに書かれていたのは……電話番号とメールか何かのアドレスだった。

「それ、俺の番号とアドレスな。お前の連絡先はさっき登録しといたから」
「ファッ⁉ いつの間に!?」

本当にいつ登録したんだ?だってカード取られてから1回も携帯取り出したところ見てないんだけど。

「連絡したら2コール以内か30分以内に返事寄越せよ。俺その待ってる間くらいしか携帯見ないし」

「デンジ 出掛けるといっつも携帯置いて行ってるしなー見ても時間の確認ぐらいしかしてねーし、メッセージ送っても既読無視するし」

「嘘やん、何の為の携帯電話なのか……捨ててまえ……」

つかそんなデンジさんとやり取りしてるオーバさんはつまり、2コール・30分以内の応答ないし返信をしているという事か……?

「携帯無いとそれはそれで不便なんだよ」
「見てないのに?置いて行くのに??」
「うるせぇ。あとオーバからの連絡は単調過ぎる上に短文を連続で送って来るのが鬱陶しい」

「んだとぉ~!?
……いやでも確かにそれバク(※)にも言われたな。次から気を付けるわ、しのびねぇな!」
(※オーバの弟。ハードマウンテンやバトルタワー、しょうぶどころで会えたりする)

「構わんよ」

それはデンジさんの言う通りだし、お気持ちわかるような気がします。いや要点がわかりやすくていいんだけどね、短文連投は流石に堪えるものがある。一気に書いて出してくれ。つかオーバさん、デンジさんと弟さんの意見が揃ってやっと直すってどうなの……?四天王だしいつもこうだとは思わないけど、いや、うん、どうだろう。
今頃リーグで胃を痛めているかもしれないゴヨウさんに思いを馳せていると、デンジさんに右手を差し出される。

「バトルが終わったら握手だろ」

「あー……私、握手しない主義なんですよね。しても左手でやります」

「は?なんでだよ。左手の握手って、確かあんま良くない意味じゃ……」

「だからですよ、私はもう "終わったトレーナー" なので。将来性があるならまだしも、何もかもやり尽くした奴に残されてるのは衰退だけですからね。そんな奴と関りを、というか2度も会いたくないでしょう。(まぁちょっとした時事ネタでもあるんですけど)
個人的にはポケモントレーナーって、そんな仲良しこよしする様なものじゃないとも思ってますし」

特にリーグ制覇を目指してるトレーナーはねー……ジムバッチの数や手持ちのポケモンに関して突っかかって来たトレーナーは、どの地方でも必ずいるし しかも1人や2人どころの話ではない。全員立ち上がる気力も失せる程に叩きのめしてやったけど。やっぱ接してて気持ちのいい奴だけじゃないのが摂理なのよな。まぁでもジムリーダーのデンジさんならたぶんそんな事ないだろう。無いといいなぁ、別のめんどくささがありそうな気がするけど。
差し出した右手を一旦引っ込めその手で顎を少し摩る。そうして「じゃあ、これならいいだろ」と、今度は右手をグーにして突き出した。

「ジムリーダーの俺に勝っておきながら終わったトレーナーなんて、良い度胸じゃないか。衰退するならそれで結構、むしろ好都合ってもんだ。俺達が強くなるのとは反対に、勝手に弱くなってくれるんだからな。
───次は絶対に俺が勝つ。これはその "予約" だ」

物は言い様ですね。なんて出掛かった言葉を飲み込んで、

「予約なんて困りますよ、デンジさんのやる気とゴヨウさんのご機嫌次第なんですから」

軽く拳を握ってデンジさんのそれにコツンとぶつけ合った。
うん、流されそうになったけど、予約とか困ります。今回のって要するに「やる気のないジムリーダーにヤキを入れようエキシビション」だった訳だし。

「ほんとに困るんで仕事はしてください」

「……チッ」
「オ"!?なんだおい舌打ちしたな!!?リアルファイトもう1ラウンドやるかオ" イ" !!!」
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