様子のおかしい叔父さんのゴルーグと行くナギサジム・エキシビション

【ロウVSデンジ・中編 ~ジムリーダー相手にゴリ押しって恥ずかしくないんですか?~】

どうしよう、次で3ラウンド目な訳だが、誰を出そうか一向に決まらない。「相手でんきタイプ使いなんだからじめんタイプで攻めればいいじゃん」って思われてるかもだけど、実は私、じめんタイプはフライゴンしか持ってない。だから初手はロズレイドで行ったんだ。でんきにはくさをぶつけんだよ、じめんがいないならくさぶつけるしかねぇ。
……まぁじめんタイプがいたとしても初手から出す様な真似はしないけどね、1体で無双とかつまらないし。

「どうした、腹でも痛くなってきたのか?」

「いや、次どうしようかと思いまして……何かリクエストあります?なんて」

「は、リクエスト? ……じゃあ、"シンオウに生息していない" ポケモンを見せてくれよ」

それほぼイッシュのポケモンを見せろと言っている様なものではー!?
いや言ってるわアレ、めっちゃわくわくしてる表情だよアレ!くそうなんて好奇心旺盛なジムリーダーだ、まさかそこが人気なのかそうなのか。

「(……ん?なんでこの人、私がシンオウ以外のポケモンも連れ歩いてるの知ってる様な口振りなんだ?さっきまでシャンデラいたしそれか?もしくはオーバさんから聞いたのかな……)」

深く考えても仕方ない。とりあえずシンオウにいないポケモン……最終進化系とかならいないだろうしいいか。少し上空に出る様に設定してボールの開閉スイッチを押す。
ちなみに私、ボール投げない派です、むしろ取り出さない。24体いるってのが一番の初見殺しだけど、2回目のバトルがあった時の為に "どのボールに何のポケモンが入ってるか" バレない様に上着の中でボールの出し入れして、ポケモンも基本そうやってるんだ。あれね、モンスターボールから出るビームみたいなやつでね。
ズルくないかって?世の中 出そうとしてるポケモンを的確に当ててくるトレーナーもいるからね、これくらいズルくないズルくない。

「おわぁっ!?ボスゴドラかーってなんかデカくね?」

ボールから出て来て着地した揺れに倒れそうになるオーバさん。そうです私の「ボスゴドラ」はちょっとデカい。平均は高さ2.1m・重さ360.0㎏だけど、この子は2.5mに460㎏と二回りくらいデカい。原因は私の食べさせ過ぎです。ホウエンのチャンピオンには「栄養状態が非常に良いね、それでいて健康そのもので素晴らしいよ!」とお墨付きを頂きました。
まぁそれ以外にも "ある事" でお墨付きってか評価は受けたんだけど、それは私がどうにかしたものではなくボスゴドラの生まれつきのものだし、今回は触れません。また別の話ってコトネ!

「……ボスゴドラかぁ」
「ア"!?うちの子にケチ付ける気かコラァ!」

「お前のポケモンに文句はないがチョイスに文句がある。ボスゴドラは(主にミオシティで)見た事あるからなぁ」
「ケチ付けてんじゃん!!」

「まぁいい行くぞ、レントラー!」

「レントラー」か、ボスゴドラの様子に変化がないって事は特性は「いかく」じゃないのか。
……レントラーっていかく以外の特性あったんだ……

「ぎゅう……?」

「ボスゴドラ、バトルだよ構えて……いやいやこっち来ちゃダメだってば」

「ロウさんロウさん、ボスゴドラさんが
『ママお腹空いたーご飯ー』
と仰っていますよ。 ……えっロウさんママなんですか!?」
「喧しい後で説明する!!(超小声)
お腹空いたの?ほらポフィンあげるからフィールド戻って」

服の裾を掴むボスゴドラによじ登り、頭の上でポフィンケースをひっくり返して食べさせてやる。そうです1個で足りる訳が無いんですよボスゴドラだから。
とりあえず小腹が満たされたらしく私を肩から降ろして、のしのしとフィールドに戻っていく。笑顔が可愛い。

「大丈夫ですか?見た感じと話し方からしてボスゴドラにしては随分幼い様な……」

「それも後で説明するから……ん、なんかデンジさん、レントラーに話しかけてない?」

フィールドに出ていた筈のレントラーを呼び戻してしゃがみ込んで何か話している。打ち合わせですかね。

「あのボスゴドラがじめんタイプの技を覚えていない限り、相性的にお互いに致命傷を与えられない戦いになるだろう。だがあの図体だ、お前の素早さに追い付ける訳が無い、巻き取ってしまえばこちらの独壇場だ。相手の防御力のせいでかなり長期戦になるだろうが、やるぞ」

「……」

「どうしたレントラー、何か気になるか」

「ぐるる……ブァウ!!」

お、戻って来た。
お腹も満たされてようやくバトルだと理解してくれたらしく、ボスゴドラも構えている。見た事ないポケモンを怖がったりするけど、幸い病院にもレントラーはいたのでその点も大丈夫そうだ。

「よっし2匹共準備はいいな、バトル始め!」

「走れレントラー!ほのおのキバ!」

様子見だろうか、タイプ一致技を出してこないって事はそういう事だろう。しかし速い。やっぱでんきタイプは速いわ。
でも、速さに目が慣れて来た。さっきのサンダースよりは見切るのが楽だ。

「今だ右!」

「何っ!?」

飛び掛かられる寸前にボスゴドラの体が右に動く。ついさっきまで立っていた位置でガチンッと思い切りキバが閉じられた、炎と共に火花が散っていく。うへぇ正面から見ると怖ぁ。
続いてレントラーは小さく「ぐえっ」と声を溢した。ボスゴドラが首を掴んだからだ。

「(相性的に通りは悪いが続け様にいった方が蓄積はできるか)
ボスゴドラ、跳べ───ヘビーボンバー!」

「跳べって、ええぇぇ!!?」

「跳んだ……あの図体であそこまで!?」

「はねる」よりは当然高く、けれども「そらをとぶ」程ではなく、レントラーを引っ掴んだまま跳び上がり宙を舞うボスゴドラ。先にレントラーを地面へぶん投げ、そのまま半回転して体で一番硬い部位であろう背中を下にして、重力に従って落ちる。衝撃ですごい量の砂煙がフィールドを覆う。

「レントラー!!」
「そのままストーンエッジ!」

足の力だけで跳び起き、レントラーの下から鋭い岩を突き刺す。惜しいな急所外れた。

「ぐおぉーぅぐるわぅー」
「ナイスだボスゴドラ!カッコイイよ!でもいちいちこっち見ないの危ないから!!」

「とりあえず私も手を振っておきましょうか。ボスゴドラさーんヘビーボンバー見事に決まってましたよ~」

「ぐおぉーぅ!」
「前向け!!ゴルーグも手振らなくていいから!!」

うーんあれだけどうにかならんかな……褒めてほしいのか、ボスゴドラは一連の動作が済んだり技を叩き込むと逐一こっちを振り返ってしまう。公式戦の時は大丈夫なんだけど、どうも今回は「練習試合か何か」だと思ってるな。

「くそ、あんな事ができるボスゴドラなんて、初めて見たとかそういうレベルじゃないぞ……!
っ大丈夫かレントラー!」

「がっ、ぐぅ……ブワゥ!!」

流石に立ち上がるか。ストーンエッジは兎も角 はがねタイプの技のヘビーボンバーはレントラーには通りが悪い。ところでやっといて何だが骨 大丈夫だろうか、折れてない?大丈夫そうだすごい勢いで走って来る。

「ぐおぉぉう」
「ほら前見て来てる来てるレントラー来てるから!!メタルバースト!」

「ぎゅ?ガァウ!!」

ぎ、ギリギリ間に合った……メタルバーストを発動したおかげで身体が薄い膜の様なものに覆われるボスゴドラ、そしてそこに突き刺さる電気を纏ったレントラーの鋭いキバ、おぉう的確に鎧を避けて噛んでいる。痛いよ絶対。

「(妙だな、"キバの入りが悪い" 。 ……まさかあのボスゴドラは……)
レントラー、そのままかみなりのキバで更に喰らい付け!」

咆哮と共にキバが喰い込んでいく。まずい、そろそろ振り払うか。

「ぎゅ~」
「頑張れボスゴドラ、メタルバースト発動して吹っ飛ばせ!」

瞬間、身体を覆っていた膜が爆発した様に光り輝く。目が眩みそうになる光の中でレントラーが吹き飛ばされていくのが見えた。隙を狙ったつもりだったけど流石はジムリーダー、2発目のストーンエッジは見事に躱されてしまった。
しかし何か変だな。デンジさんレントラーは6年前のジム戦でも戦ったけど、その時とは違って妙に "弱い" 気がする。気迫といい技の発動といい、あらゆるものがさっきのランターンやサンダースを超えているのに、実際の威力があまりにも弱すぎる。特性がいまいちわからないけど、もしかしてそのせいだろうか?

「あのーロウさん、私レントラーさんについて気付いた事があるのですが」

「えっ何?やっぱどっか怪我か何かしてる?」

「いえそういうのではなく。
もしやあのレントラーさん、特性が "とうそうしん" なのでは?」

「……とうそうしん?」

何それ。初めて聞いたよ。いやもしかしたらどっかで聞いてて忘れてるだけかもだけど。トレーナーならタイプ相性と同じくらい特性に気を使えよって思うかもしれないけど、そんなに特性って気にする必要ある?あればちょっとしたハンデになるーぐらいじゃない??違うの……
ていうかコリンク系統はみんな "いかく" じゃないの……?
審判、オーバさんにおい何座ってんだアフロ。とりあえずタイムを要求し、携帯で検索を始める。

「へぇ、相手の性別によって攻撃力が変わるんだ……
デンジさんすいません!そのレントラーって特性とうそうしんなんですか?」

「だったらなんだ」

「……私のボスゴドラ、メスです」

「そいつメスなのか!?嘘だろ!?」
「なんでじゃいどっからどう見ても可愛い女の子だろ!!」
「ロウさん逆ギレは良くありません、逆ギレは」

「(やっぱりか、道理でレントラーの動きが悪いと思ったんだ)」

「ぐあーぅ」

ほら見なさいよ欠伸してても可愛い。いや欠伸するのは良くない、良くないよ。今バトル中だからね!

「審判!公平性を期してポケモンを交代してもよろしいですか!!」

「おー……デンジ、どうよ」
「却下だ。特性で攻撃力が下がろうとも俺とレントラーはお前とボスゴドラに勝つさ、なぁ」
「ブァウ!!」

「えぇーだってアンフェアですよ?いいんですか」

「お前こそ、オスのポケモンに交代すれば不利になるのはそっちだぞ。わかってるのか」

「わかってますけど、"攻撃力が上がるだけ" でしょ?相性にさえ気を付ければ何の問題もない」

そう言うとまたしてもニヤリと笑って「やっぱり面白いな」と。そんな月並みな台詞をバトル中に言われるとは……
でも却下されてしまったので仕方ない。このままボスゴドラに頑張ってもらおう。眠そうにしてるけど、カゴの実を食べさせてやや無理矢理 眠気を起こす。

「ぎゃあわぅ!!」
「バトル中に寝たらダメなの!!駄々捏ねない!!暴れ、ちょっとほんとに暴れないで外の橋落ちるかもしれないから」
「橋の心配すんならさっきのヘビーボンバーの時点でヤバくね?」

「続けるならこっちから行くぞ、もう一度……いや、ワイルドボルトだ!!」
「ワイルドボルト!?お前それ……技変えやがったな?!」

一瞬で身体が電気に、光に覆われる。なんてこったワイルドボルト使えるのか!
オーバさんの口振りからしてどうやら4つ目の技は何か別のものだったらしい、それをこの土壇場で変えて来た……ルール違反では?5つ目ではないしノーカン?

「はわわ、ロウさん来ますよまずいですよォー!?」

「(ストーンエッジ……ダメだワイルドボルトあの状態じゃ当たらない。電気で加速して避けられる……なら)
メタルバースト、構えて!」

「ぐぅ……ガウッ!!」

鋼の光と電気の光がぶつかり合って見た事ない量の火花が飛び散る。その中にはボスゴドラが纏っている鎧が削れて、粉末状になったものが混じっていた。火花と舞い散る鋼が何とも言えない、幻想的な光景だけどもはがねタイプの身体削るとかなんて威力だよ。

「押し切れぇ!!」
「重量で負けるかよ……メタルバースト発動!」

さっきのとは比にならない光の爆発。それでも、目が潰れてでも見なければ。見えていれば "当てれるのだから" 。メタルバーストの威力にも負けずに喰らい付いていたレントラーが、ほんの一瞬たじろいだ。

「───そこだ、ストーンエッジ!」

今度は外さない、3発目も急所も。
光が収まったフィールドに立っていたのはボスゴドラだった。

「ひぇ~目がチカチカする……」

「オーバさん大丈夫です?(あんたも炎で目がチカチカするバトルするやん……)」

「おおーなんとかな。レントラー戦闘不能!よってロウのボスゴドラの勝ち!」

はぁ~何とかなったか……正直ボスゴドラが油断しきってて無理かと思ったけど勝ってよかった。
勝つ度にフィールドから戻って来て、胴上げの様に私を抱き抱えるのもいつものルーティーンみたいなものだ。頬擦りが硬い上に冷たい。でも仕方ない、ここで拒んだら泣くから受け入れるしかない。

「よしよしわかった、わかったから降ろして。次どうしようかな……」

「ガウ、ゴアオゥ!!」

「えっこのまま出てくれんの?珍しい」

「『ママの為に頑張る~!』と仰っています。いやー頑張り屋さんですねボスゴドラさん!トレーナーの役に立ちたいという思い、気持ちは痛い程に理解できますよ。ゴルーグですので、ゴルーグですので!!」

まずいゴルーグの「ゴルーグですので」を待っている自分がいる。嫌だ……でも今回私ばっかり喋って、発言が少ないのもあって言う回数が少ないから……でも待ってる自分が嫌……

「ロウはそのままボスゴドラで行くんだな。デンジは?どうするよ」

「俺はライチュウで行く」

「(機動戦士で行くみたいな言い方だな)」

「ガ◯ンダムで行くみたいな言い方されましたね」
「伏字くらいちゃんと使えや」

ずっと足元で見ていたライチュウがついに出て来たか。シロガネ山にいたあの人のピカチュウと比べたら能力自体は高いだろうけど、あのピカチュウ───というより "あの人のポケモン" と "私達が知るポケモン" は比較対象にならない。どうやったらあそこまでなれるのかわからないが、比べ物にならないというのは正しくこの事だと思えたのは、あれが初めてだった。
思考を目の前のライチュウに戻そう。お腹ポンポコリンだけど素早さはかなりのものだ、でんきタイプは一部を除いてみんな素早いからね。ボスゴドラにはさっきみたいな耐えながらカウンター狙いの戦いをしてもらうしかないだろう。

「(問題は技構成だな。あの人……デンジさんだいぶ "ノッて来てる" からな……何が飛び出すか把握しきれない)」

さっきのレントラーのワイルドボルトから見てすぐにわかった。自覚してるかは把握したくないが、デンジさんはテンションでバトルスタイルが大きく変わるタイプだ。盛り上がって来るとちょっとしたルール違反も平気でやるような、そんなめんどくさ……いや、ちょっと癖が強い人だ。

「準備いいな?んじゃバトル開始!!」

素早さが負けているのは明白、なら初手はカウンター狙いで行くしかない。

「メタルバースト、そのまま待機で」
「ゴォウ!」

どうやらこちらの出方に合わせてライチュウは距離を詰めてくるつもりらしい。速い、圧倒的な素早さは予想通りだ。さて、何が出る?電撃か、あるいは状態異常か?
……いや待て、ダメだ。カウンターはダメだ。足元にいる私のピカチュウを見て目の奥が冷えていく。"ピカチュウに出来る事はライチュウにも出来る" 、当たり前の事だけど、その当たり前が勝機を逃す一手となる。
だって、"ピカチュウはかくとうタイプの技を覚えられる" 。

「っボスゴドラ!メタルバースト解除!回避に───」
「ライチュウ、きあいだま!!」

十分に詰められたその距離感での回避は不可能だった。

「ォォオオオオオオ!!!」
「ボスゴドラ!!」

メタルバーストは……続いてる。まだイケる!
指示と同時にボスゴドラの身体が輝き、ライチュウが吹き飛ばされる。ダメだ やっぱりでんきタイプにはがねタイプの技は通りが悪い、大したダメージにはなっていないらしく、軽く着地して次に備えている。

「(レントラーとのバトルでダメージが溜まっている筈なのにきあいだまを耐えた……そうか "がんじょう" か。厄介な特性だが、次で確実に落とす!)
ライチュウ、走れ!足を狙うんだ!」

体格差を狙ってきたな。メタルバーストはもう使えない、耐える前に倒される。ヘビーボンバーも(見た目の威力は兎も角)大したダメージにはならないだろう。なら、命中率は心許ないがストーンエッジしかない、もうイチかバチかに賭ける。

「ボスゴドラ、ライチュウよく見てて。合図出したらストーンエッジな」

「ぐぅぅ……」

辛そうな声でこちらを見て、ライチュウに視線を戻す。オォンごめんよ、もうちょっと頑張ってくれ。出来れば弱点を突くような技は出してほしくないなぁ……
着々と、けれども目を離せばすぐに視界から消えそうな速度で距離を詰めるライチュウに狙いを定める。頼むぞ当ててくれ。

「(……足運びが妙だ。速度を調節してる?足を狙っているなら出す技はなんだ……)
っ、今だ!」

「グオオオオオオ!!!」

賭けは───外れた。見事に躱された。
揺れ動き飛び出した地面の反動を利用して軽やかに、鋭い岩に手をついて宙を跳ぶ。タイミングばっちりだったのに、いやタイミングが合っていたからこそか、そんな跳び箱みたいな躱し方ありかよ……

「くさむすび!」

瞬きするよりも速くボスゴドラの足に草を巻き付け、口と手を使って思い切り引く。何処からの草なんだろうあれ。

「グゥオォォォォォォ……!!!」

足を取られた事により思い切り倒されるボスゴドラ。「くさむすび」は相手の重さによって威力が変動する技だ。平均より100kgも重いボスゴドラにはひとたまりもない。
……って、思うじゃん?

「おお、ボスゴドラ戦闘不能!よって……え?」

ぐらりと、ゆっくり立ち上がり、逃げられる前に瞬時にライチュウの首を掴む。はがねタイプうちの子が鈍足だと誰が言った?

「ヂッ、ぢゅうぅ……」

「立ち上がった、だと……っ逃げろライチュウ!チャージ───」
「前に教えたもんな。ストーンエッジは躱されたのなら、"とっ捕まえてでも当てればいい" !!
ぶちかませボスゴドラぁ!!!」

フィールドを、ジムを震わす程の咆哮をあげて、ついさっき跳び箱の要領で躱されたストーンエッジの岩に、ライチュウを思い切り叩き付けた。岩は粉々に砕け散りオレンジ色の身体に、急所にはハッキリと鋭い傷跡が残る。

「ぢゅあぁ……!!」

「ライチュウ!っと、なんだ?!あ……?」

倒れ込んだ衝撃で地面が揺れる。悪あがきするところはトレーナーに似てしまったな。そんなの似なくていいのに。いくら "がんじょう" とはいえ、さっきのは本当に最後の力を振り絞って立ち上がってくれたんだろう。
"とうそうしん" で攻撃力が下がっていたとしても、最後のワイルドボルトはどうやら本気で来ていたらしい。それが一番の痛手だったんだ。レントラー戦の時からダメージを受け過ぎていたのに、しかも相手の技構成の予測を初手で間違えた。

「完全に私の慢心、ミスだな。ごめんボスゴドラ。頑張ってくれてありがとう」

「きゅうぅ……」

フィールドに伏したボスゴドラに駆け寄ると、ココドラの時と同じ鳴き声で擦り寄って来る。早くボールに戻さねば。

「……審判、仕事仕事」
「あ?お、おおおお!そうだったそうだった!えーと、ボスゴドラ今度こそ戦闘不能!よってデンジのライチュウの勝ち!!」

「……これでやっと1体か。
まさか瀕死の状態で、あんなやり方で一矢報いてくるとは思いもしなかったな」

なぁライチュウ、そう言って一旦主人の元へ戻ったライチュウの頭を撫でてボスゴドラの置き土産の様子を見る。
あの様子から見てさっきの一撃はかなりの痛手の筈だ。次で決められるだろう。けど、ライチュウの素早さに負けず攻撃も流しきれるのは誰だ……?

「ぴっか、ピカチュウ!」

「ピカチュウ?行ってくれるのか」

「ピカチュウ・ライチュウ対決ですか!最高にアツい展開ですね!!理解できますとも、ゴルーグですので!ゴルーグですので!!」

「なるほど、アニメでやりそうでやらなかった事を私がやったろうじゃないか。
行くぞピカチュうわぁっ!?」

無理矢理出て来た反動で尻餅を突きそうになる。咄嗟にゴルーグのものと思われる硬い感触が背中を支えてくれた。
勝手に出て来たそいつは、

「ブゥゥゥルオオオオォォォォォォォ!!!!!」
「バクフーン!?まさか今頃になってバトルの気配に気付いて喧嘩したさに出て来たな!?」
「こんな大騒ぎに今頃気付いたのですか!?」

「おお!そいつはバクフーン!ほのおタイプのポケモンだな!!」
「オーバ、落ち着け。盛り上がるな動くな仕事しろ」

空に向かって炎を吐き出しドラミングの様に胸を叩き、拳をぶつけ合わせてライチュウを睨み付ける。バクフーン同期の自分勝手は今更とはいえ、自分が出る気満々だったピカチュウが走っていく。抗議するつもりだな。

「ピィカ、ビカッヂュ!ビィーカァ!!」

「ぐぁあ?ガウッ、グルァァァウ!!」

「ごめんピカチュウ、そうなったバクフーンの説得は無駄に時間かかるから、今回は譲ってやって……」

「……びぃ」
「バウッバウガァウ!」

嬉しそうにサムズアップするんじゃない、ピカチュウに忖度させてるんやぞわかってるのか。
ほのおタイプのポケモンが出て来たことでワサワサしている審判もといオーバさんに落ち着けと言い、とりあえずバトルが再開される。

「ライチュウも素早いがお前なら追い付けると思う、多分。兎も角できるだけ被弾せずに攻撃を流すか相殺させるぞバクフーン、わかった?聞いてる!?」

「……バァウ!」
「本当にわかってるんだろうな……」

「ほのおタイプねぇ。オーバのポケモンよりも強いか見てやろうじゃないか。行くぞ、ライチュウ チャージビーム!」

「かえんほうしゃで迎え撃て!」

バクフーンとピカチュウは手持ちの中では結構 新参の方だ。でも唯一ジョウトとカントー、2つの地方を跨いで旅してきた。そんなバクフーンが放つ技がただの野暮ったい「かえんほうしゃ」だと思わないで頂きたい。

「っ、なんだあのかえんほうしゃは?!」

「スゲー!!あんな風に撃てるもんなのか!!」
「審判落ち着いて下さい。最早観客モードじゃん……」

「みずでっぽう」や「はかいこうせん」を参考にして編み出した、ビーム状に限りなく近い状態で放たれる「かえんほうしゃ」。スピードも勿論 段違いだ。
収束された電撃は炎にあっけなく撃ち消され、寸でのところで躱したライチュウの腹毛を焦がしていく。掠っただけでも威力を解らせる牽制にはなるだろう。

「ぢゅあ……」

「よく躱したライチュウ! ……距離を取っていると逆に厄介だな。さっきと同じやり方で攻めるぞ、走れ、距離を詰めろ!」
「ライッ!!」

走ってきた、という事はボスゴドラの時と同じ様に "至近距離で特殊技をぶっ放す" つもりだろうか。なら走ってる間に決めるまでだ!

「(このタイミングで使うのかよと思われそうだが)じしんだ、狙え!」
「何っ!?」

「バウッ!フンッガァァァァァァァァ!!!」

手を地面へ突っ込み思い切り持ち上げ返す、まるでちゃぶ台返しみたいだ。どういう原理なのかは全く解らないが、その衝撃でフィールドが揺れ走っていたライチュウの真下がひび割れ、地面が殴りかかっていくかの様に隆起する。

「ちゃあぁ!!」
「ライチュウ!」

「かえんほうしゃ!ボスゴドラが残した傷を狙え!」

急所に残った傷痕が目印になり、かえんほうしゃは今度こそ命中する。おまけに若干の "火傷" も残した。

「ライチュウ、立てるか」

「ちゃい……ラ˝ァイ!!」

ふと、デンジさんと目があった。向こうも次の一手で勝負が決まると解っているらしい、そう言わんばかりに目が笑っている。
そしてやはり腐ってもジムリーダー、バクフーンの技構成の予測が出来ているみたいだ。ええそうです、"ライチュウと同じ技がバクフーンも使えます" とも。
示し合わせた様に同時に息を吸い、吠えた。

「「きあいだま!!!」」

両者の手の中で力が円を描き大きな光になっていく。ライチュウのはいかずちがその強大な威力を保ったまま収束した様な青白い光だが、バクフーンのものは炎を超えた───太陽の如く輝く光だ。
トレーナーの真似をするかの様に、同時に踏み込み力を撃ち出す。

「ガアアアアアァァァァァァ!!!!!」
「ヂュアアアアァァァァァァ!!!!!」

同じ技を同時に使った時、何が勝敗を分けるのか。それはポケモンの能力値だ。
ライチュウとバクフーンはどちらも特殊技の威力に関係する "特攻" が秀でているポケモンだ。タイプ不一致技とは言えきあいだまの威力も相当なものだろう。だが、先程のチャージビームとかえんほうしゃの撃ち合い、そしてボスゴドラが受けたきあいだまを見て把握できる。
───バクフーンの方が上だ。
ぶつかり合った瞬間 雷は形が歪み破裂する様に消え去った。撃ち出されたそれよりも多少小さくなったが、太陽は変わらず直進していく。
正しく、一瞬の光景だった。

「……ちゃあ」

負けを認めたのか、脱力し立ち尽くすライチュウは太陽に呑まれていった。
吹き飛ばされた彼をデンジさんは見事にキャッチし、その表情を見てオーバさんに首を振る。……よく吹っ飛んできた30kgのライチュウをキャッチできたな。

「ライチュウ戦闘不能!よってロウのバクフーンの勝ち!!」
「バゥゥルオォォォォォォォォォ!!!!!」

「いちいち吠えんでいい!うるさいなぁもう」

ボスゴドラも大概だけどバクフーンもこれだから扱いにくい。勝つ度に猛って咆哮をあげ、負ければそれはそれで吠える。何をしてても吠える、ちょっとアホなウインディか何かか?そんなアホなウインディことバクフーンはシャドーボクシングをして、明らかにトレーナーであるデンジさんを挑発している。やめーやそういうの。
言葉で言っても利かないだろうし、ピカチュウに「アイアンテール」を指示してバクフーンに投げつけた。

「どうなるかと思いましたが、次で5体目ですね!流石ロウさん快進撃ですねぇ!!」

「でも相手はジムリーダーだ。しかもあの性格とバトルスタイルだし、何が飛び出してくるのかわからないからよく見てないと(小声)」

抱き抱えたライチュウに顔を寄せて、恐らく労わっているのだろう。ニコリと笑った彼を一撫でしてからボールに戻す。うーん様になる。イケメンってすごいなぁ。

「ここまで追い詰められたのは本当に久しぶりだ……ハハッ、ライチュウ達には悪いが正直 楽しくて仕方がないよ!」

「そ、そりゃあどうも」

「バルゥア!!(特別翻訳:何笑ってんだツンツン頭ァ!!早く次出せやぁ!!)」
「びぃかっちゅ(特別翻訳:お前そんなんだからロウにアホだのバカだのエクレアだの言われんだぜ)」
「ガルァッ!!(特別翻訳:エクレアっつってんのオメーとブラッキーブラ助だろうが!!)」

挑発するバクフーンにピカチュウが注意してくれたみたいだが何か悪口も言ったっぽいな。慌ててフィールドからこっちに戻って来る。

「……次に出すこいつはまだ調整中でな、正直使いこなせるかどうか、俺の思う通りに動いてくれるかどうかもわからん。お前で試させてもらうぜ、ロウ」

「人を実験台にするとはそれでもジムリーダーですか。いやジムリーダーでも練習は必要ですからね、仕方ない。でもぶっちゃけ嫌です」
「お前本当にぶっちゃけるな。まぁニャルマー被られても困るが」

楽しそうにモンスターボールを取り出すデンジさん。残りは2体、このまま何事もなく勝てるか……?
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