様子のおかしい叔父さんのゴルーグと行くナギサジム・エキシビション
【ロウVSデンジ・前編 ~でんきタイプの最適解はくさタイプですか?~】
何らかのパネルを操作して開いて行くジムの天井。何で最近のジムって天井 開くんですかねぇ……
デンジさんに肘で突っ突かれ、仕方なく大声でゴルーグを呼ぶ、5秒も経たない内に飛行機みたいな轟音と共にゴルーグが飛んで入って来た。
「ゴルーグ華麗に着地っ。いやー最近のジムはすごいですねぇ!まさか天井が開くとは!」
「……(確かに)大型のポケモンに合わせて天井をかなり高くしてるジムは何度も見た事あるけど、開くのを見たのは久々だわ……この手の仕掛けがあるのはほとんど くさタイプとかひこうタイプのジムだったし」
「へぇーそうなのか。それってやっぱり日光を利用して "ソーラービーム" とかを活用する為だったりするのか?ひこうタイプは飛び回る為だろうな」
「まぁそんな感じでしたね。くさタイプは日光浴びるだけでも活発になりますし。デメリットとして、苦手なほのおタイプも元気になってしまうーって言ってましたけど、タマムシシティのエリカさんとかが」
エリカさんが確かに言っていた。そう言いつつ私の前に来ていたらしい挑戦者のポケモン(ほのおタイプ)を薙ぎ倒していた事は伏せておこう。笑顔が怖いんだよあの人……
話している私達には目もくれず、ライチュウと一緒に定位置に歩いていくデンジさん。歩く速度がはえーよホセ。まぁいいか今に始まった事じゃないんだろう、あの様子を見れば何となくわかる。
私も位置に付こうと踏み出したところでオーバさんに呼び止められて、肩に手を置かれ小声で囁かれる。
「……今更だがよ、ゴヨウさんが今回のエキシビションを用意したのは "ロウっていうトレーナーを通してデンジを一喝する" のが目的なんじゃないかと、俺は思ってんだ」
「? どういう意味です?」
「いやーこれまでも今と似た様な事はあったんだ。ここに来た時もそうだっただろ?デンジにはお前がリーグとは無関係な外部のトレーナーだって事は隠してるが、それでもジムの審査以外でリーグが介入して、ジムリーダーのバトル……エキシビション組むなんて事はそうそうねぇんだ。 ……だってのに、結構前から今日のこれに関しては何度も通知してたのに、あいつ待ってるどころかジム閉めて勝手にコンビニ行ってやがった」
「気にするのはやめとこうって思ってたんですけどやっぱコンビニ行ってたんですね」
「袋に店名入ってたからな、やっぱコンビニだった。それは関係ないから一旦置いとくぞ。
とことんやる気がねぇんだよ今のデンジには。本人は "挑戦者と戦っても手応えがなくてつまらない" とか言ってるけどそりゃそうだろ、あいつジムリーダーだぜ?」
確かにそうだ、ジムリーダーよりも強い挑戦者ってのは極稀。そんな天性の才能・センスを持ったトレーナーなんて一握りいるかいないかだろう。仮にそんな天才を除いて、努力家の強いトレーナーがいたとしても "何かしらの理由で一度バッチ集めをリタイアしたトレーナー" の可能性が高いし、やっぱり "強い新米トレーナー" なんてそうそういない、いても努力でそうなっているとしたらもう新米じゃないよね、年数は兎も角ベテランだよね。
しかもデンジさんは自他共に認める「シンオウ地方最強のジムリーダー」。ゴヨウさんから聞いたけど四天王への昇格話もあったらしいし、そんな人と対等に戦えるトレーナーは……まぁ、いない、かも……いや探せばいる。きっといる。シロガネ山にいた "あの人" とか強かったし。
「今みたいにデンジがやる気がなくなる度に俺やゴヨウさん、あとたまーにリョウなんかも協力して発破かけて何とかしてたんだが……キレたんだろうなぁ、流石のゴヨウさんも……」
「(キクノさんの名前が出てこなかったのは協力してくれなかったんじゃなくて、協力したらむしろいじめっぽくなるからだろうか、タイプ相性的に)
キレたんですか、あのゴヨウさんが」
「まー俺の推測でしかないが、多分「挑戦者弱くてやる気出ねー」って言ってるデンジに対して、俺達が知る限りシロナさんよりも強いトレーナー ───つまりロウ、お前をぶつけて『調子に乗るのもいい加減にしろ、うだうだ言ってないでジムリーダーとして仕事しろ』って言いたいんじゃないかと思う。
お前にとっちゃいい迷惑だとは思うが、俺からも頼む!バトルでボッコボコにしてやってくれ!そうすりゃ多少は元通りに………………なると思うからよ!!」
間がなげぇよ間が。本当に大丈夫なんだろうな……
待たされてややイラつき始めたデンジさんにどやされて、小走りで審判の位置に行くオーバさんを見送ってから改めて私も位置に付く。
「ロウさん 相手の流れ弾、いえこの場合は流れ電気でしょうか、それについてはお気になさらず。全て私が受け止めましょう。ええゴルーグですので、じめん・ゴースト ですので!!」
「なんか久々に聞いたなそれ。 ……今 それを待っていた自分がいる事に驚きつつ悔しい思いしてるよ。
でもまぁ確かにいてくれるのはありがたいかな、電気技ってやっぱ動きが変則的で避けにくいし」
「準備は良いか、始めるぞ」
「そういうの審判が言うもんなのでは?まぁいいですけど」
モンスターボールを構えているところを見ると、どうやら一番手は足元にいるライチュウではないらしい。こっちはどうしようかな、出来るだけシンオウにもいるポケモンの方がいいよな……
「レイドさん、ちょうど出てるし行ってくれる?」
軽くムチで私の頬をビンタしてからフィールドに歩いて行く。うーん "ちょうど出てる" が余計だったらしい、次から気を付けよう。頬っぺた痛い。
こちらのやり取りに軽く驚きながらデンジさんが出したのは「ランターン」。くさ・どくタイプのロズレイドの相手をするには、相性的に不利な筈だけどきっと対策してんだろうな、油断できないのが面倒だ。
「よっし、両者で揃ったな。そんじゃまぁ俺も真面目に審判やるか!
えーただいまよりリーグ代行人・ロウとジムリーダー・デンジによるエキシビションを開始する!!ちなみに使用ポケモンは3体」
「6体にしろ」
「はぁ!?お前っリーグから3体って決められてんだぞ、フルバトルやる気か?!」
「尺の都合と文字数の関係的に3体だとありがたいって声が聞こえるんですけど」
「関係ないね、6体使用のフルバトルに変更だ!(尺と文字数……?)」
何処までマイペースなんだこのジムリーダー!!
オーバさん はご自慢の髪型をがしがしと掻いた後、私に手を合わせて頭を下げたのでとびっきりの笑顔を浮かべてサムズアップしてから、思い切りダウンさせてやった。ええ ええやってやりますよここまで来たらやってやらぁな。
「じゃあフルバトルに変更!使用ポケモンは6体な!!はい始めぇ!!」
「ちゃんとやれよ審判!投げるな匙を!!」
「ランターン、ほうでんだ!」
しまったツッコんでいる場合じゃなかった。
襲い掛かって来る光には目もくれず、「どうするのよ?」と言わんばかりに呆れ顔をされる。流石の余裕ですロズレイドさん。
「マジカルリーフで狙え!」
ほうでんはどう足掻こうが命中率100% "必ず当たる" 技だ。だったらポケモンに当たる前に、こっちも同じ命中率の技で相殺してしまうのが手っ取り早い。
無数の葉っぱが飛び、電撃とぶつかり合って燃え散っていく。うわぁすごい威力、当たりたくないねレイドさん。
「へぇ、マジカルリーフでほうでんを防ぎきるとはな。大したもんだ」
「そりゃあどうも。完全な思い付きでしたけど」
「───なら続け様に叩き込んだらどうなるんだろうな?」
「いらんこと言ったわごめんレイドさん」
宣言通りと言わんばかりにほうでんをぶっ放してくるランターン。撃ち続けているせいで頭のランプだけじゃなく、身体ごと光り輝いている。
こんなのまるで電撃の豪雨だ!これ一番危ないの避ける手段がないオーバさんなのでは……
「ぬぅ!すごい威力のほうでん ですね!これは当たったらロズレイドさんでもまずいかと!」
「(本当にガードしてくれてる)大丈夫だ問題ない、多分」
「多分」
「仕方ないな。マジカルリーフでガードしながら突っ込め!」
「ハッ、そりゃあ思い付きにも程があるんじゃないか!?」
デンジさんの言う通り、今思い付いたので理論上 出来るかどうかはわからない。ただ "ロズレイドなら出来るだろう" という確証しかない。
「……チッ、キィ!」
こちらを見て舌打ちしながらマジカルリーフを纏って走っていく。いつもすいませんね無理な戦法で。とは言え正確に、かつ燃え尽きて落下してくる葉っぱだったものが当たらない絶妙な位置でマジカルリーフを操り、ランターンに距離を縮めていく。
「ぴ、ピィ、ピュアン!」
「あんなやり方でほうでんを突破してきただと……!?
(もう少し後に取っておきたかったが仕方ないか)狼狽えるなランターン、れいとうビーム!」
「どくづきだ、"構えろ"!」
電撃が止むと同時に "三種の神器" でお馴染みのこおりタイプの技「れいとうビーム」が放たれる。着弾するよりも早く両の花束からムチを出して、交差させて防御の姿勢を取るロズレイド。
「ぎぃっ……!」
「ナイスだランターン!もう一発───」
「いいや "今のはノーカン" だ。撃て、エナジーボール!」
「ッ、キィィィアァァァァァ!!!」
「なっ、に……!?」
凍り付いたムチを引き千切らんばかりに振って氷を打ち破る。粉々に砕けたそれは毒々しく、けれども2つの違う紫が混ざり合った色に染まっていた。うーん何とも芸術的。
その直後に放ったエナジーボールは見事にランターンに命中、指示で出したのは1発のつもりだったんだけど、憂さ晴らしの如く間髪入れずに更に3発撃ち込んだ。おまけと言わんばかりにマジカルリーフまで叩き込んでいる、やり過ぎでは。
いやそれにしてもどくづきでの防御、間に合ってよかったぁ……
「ぴぃ、ぴゅいぃ……」
「勝負あり!ランターン戦闘不能、よってロウのロズレイドの勝ち!」
「オーバさん大丈夫です?」
「死ぬかと思った!!」
「ですよねーイッタイ脛蹴らないでレイドさん」
こっちに戻って来ていたロズレイドに見事なローキック(技ではなくただの暴力)をかまされる。良い蹴りをお持ちで……
このままロズレイドで戦うか聞かれるが、とりあえず戦う本ポケに確認を取って了承を得た。オーバさんには「ポケモンの尻に敷かれてんなぁ」と言われるけど、今に始まった事じゃないのでほっといてほしい。いつもこうな訳じゃないし。
「……なるほどな、そういう無茶苦茶な戦法でこれまでも勝ってきたのか?」
「人がいつも無茶苦茶な事してる様に言うのやめてもらえます!?正攻法の時もありますし!!」
「正攻法ねぇ……でんきタイプ くさタイプをぶつけてる時点でそうは思えないが、まぁいい。
次だ、行くぞサンダース!」
イーブイの進化系の1つ、「サンダース」が軽い身のこなしでボールから出てくる。可愛い、私も同じイーブイ系列のブラッキー持ってるけど別の可愛さがある、刺々しいけど。
「サンダースならこっちへの危険は幾分か大丈夫だな、直線的な技が多いし」
「すいません審判、友達同士で気ぃ抜けてんのか知らないけどポケモンの技構成を予測出来る事 言っちゃうの良くないと思います!!」
「しまった、今の無しな!バトル始め!!」
「オーバ、後で覚えておけよ」そう呟いたデンジさんの目はマジでした。
何か思案しているらしく、さっきみたいな先手は打ってこない。ロズレイドが軽く振り返るけど、そのまま待機してほしい、手で合図を出すとフンッとサンダースに向き直ってくれた。
……無理な指示したせいか、ちょっと怒ってるな……後が怖いよこれ。
「(いくらガードしたと言っても、ロズレイドにはれいとうビームのダメージが入っている筈だ。残り1つの技が読めないが恐らく "特殊技" と見て間違いない。特性が怖いところだが……2分の1の確率、ここは接近戦で攻める!)
サンダース、でんこうせっか!一気に距離を詰めろ!」
「マジカル───」
「き、がっ……!!」
ダメだ、速過ぎる。
走って来たというより超低空のジャンプで距離を詰めて、そのまま突っ込んで身体ごとロズレイドにぶつかる。これがでんこうせっかの威力かよ?!
「にどげり!ぶっ飛ばしてチャージビームを叩きこめ!!」
「(理由はわかるけど)タイプ一致 技やっとかよ!
っ、ロズレイド!"手を出せ"!」
「ロウさん せめてどくづきで対抗した方がいいのでは?!」
頭上から聞こえてくるゴルーグのアドバイスは最もだ。でもやろうにも速過ぎてこの状態じゃ太刀打ちできない、悪あがき程度の指示しか出せないな……体勢を立て直してからじゃないと。
にどげりをモロにくらい、更にチャージビームで吹き飛ばされる。が、どちらも威力自体は低めの技なので、軽やかに着地する。
そしてロズレイドは、ニヤリと上品に微笑んだ。どうやら "上手く刺さった" らしい。
「(素早さはこちらが勝ってるな。このままイケる)
サンダース、もう一度でんこう……サンダース?大丈夫か!?」
「ぎゅうぅ……げえぇ……」
何とか立ってはいるが、サンダースは足を引き摺り、見るからに顔色が悪くなってきた。
「しまった "どくのトゲ(※)" か!くそ、懸念していた方だったか……!
(まさかさっきの "手を出せ" っていうのはこの為の指示か?にどげりを受けたあの一瞬で刺したのか!?)」
(※ロズレイドの通常特性の1つ。物理技で攻撃してきたポケモンを毒状態にする事がある)
流石ジムリーダー やっぱり特性自体はわかってた、か。これを指示ミスと取るか、レイドさんが見事にやってくれたと取るか……後者かな。
ただ「チャージビーム」を使ったおかげ(※)だろう、サンダースの纏う電撃が強くなっている。流石に次 特殊技を使われたら いくらロズレイドでも膝をつく可能性がある。これは接近戦に持ち込むしかない。
(※チャージビームは70%の確率で特功を1段階上げる追加効果がある)
「ロズレイド走れ、距離を詰めろ!」
「キュンッ!」
「っ耐えろサンダース!ミサイルばりで足止めだ!」
「グゥルル……ファァァァァ!!!」
あの体のどこからミサイルばりの針を飛ばして、
「あっぶね!!」
「ロウさん大丈夫ですか!?」
「うおおおおロウ大丈夫か!?ミサイルばりキャッチしたのかすげーなお前!!」
顔の前で掴み取った、スピアーのものよりも細くて、刺さったらそれはそれでめっちゃ痛そうな針を投げ捨てる。本当に危なかった……
それ以降のはゴルーグが防いでくれたらしく、飛んできたのは1本だけだった。ところで何その防ぎ方、まもるの応用?
「反応が遅れてしまい申し訳ありません!!お怪我はありませんか……?」
「大丈夫大丈夫、トレーナーならよくある事だし」
ちなみにロズレイドはと言うと、元々ミサイルばりは一発逆転を狙える様な大技よりは命中率が高いが、外れる事もある技だ。全弾 躱して、その流れ針 がこっちに飛んできていたらしく無事にサンダースの元まで辿り着いていた。
「サンダース でんこうせっかで距離を」
「両手でキメろ、どくづき!」
足を狙ったおかげで反応が遅れてくれて助かった。毒をたっぷり滲ませた右の花束で鋭くボディーブローを打ち込み、すかさず左でストレートを顔面に叩き込む。
「オォウ、良いブローとストレートをお持ちで……」
「レイドさん意外と武闘派のロズレイドだからな。しかも毒効かないからってルカリオ相手に練習して……(まずい、"狙ってる" 。流石にまだ立てるか)
次くるぞ、構えろ!!」
「チャージビーム!」
「きゅあ……キィ!」
どくづきでガードするがかなりの至近距離で、しかもさっきのチャージビームで威力は上がっている。その証拠にロズレイドのムチが少し焼け焦げていた。
しまった……せめてエナジーボールを構えさせておくんだった。どくづきじゃ相性的に電気技が通りやすい。しかも今のでロズレイドに消耗が見えて来た、まだ立つのも余裕そうだが、溜息が増えて息遣いが荒くなってきている。
「ロズレイド、まだ頑張れそうか」
「キュア˝ァ!!」
「よし、逆ギレ気味の返事ありがとう それなら大丈夫だな。後ちょっと頑張って!」
「……サンダース、大丈夫か」
「げぇ……きゃおう……!!」
「(この状態だと接近戦はもう厳しいな……ミサイルばりで狙うか、チャージビームで削るか……)」
踏ん張る姿勢を見せるがサンダースはかなり苦しそうだ。毒がかなり回って来てるな。
「(技は4つ全部出た、確かに全部 "直線的" なものだった。なら、次で終わらせる)
キメるぞロズレイド!エナジーボール、2発!」
「相殺しろ!チャージビーム!」
1発目、チャージビームで見事に相殺されて爆発が起きる。薄っすらと見えるデンジさんの視線は煙の上を向いていた。が、2発目がサンダースに当たった音で視線が一瞬で落とされる。
「ギャアッ!!」
「何っ!?」
「あーえっと……?煙が……おぉっ!?さ、サンダース戦闘不能!ロウのロズレイドの勝ち!」
「っ……いつの間に……」
恐らく2発目のエナジーボールについてだろう。ちょっとズルいやり方をしてしまったので謝る代わりに手順の説明をする。
「先に "2発" って言ったのを聞いて騙されてくれて助かりました。1発目は "相殺される事を前提に撃った" もの、つまり完全なフェイク。2発目が本命。これは常套手段ですから。
問題は "どの位置から本命を撃つか" 。デンジさんは経験上そういう機会が多かったんだと思うんですけど、上を見てましたよね。煙を避けてジャンプして上空からの追撃っていうパターンが多かったんでしょう。私はちょっとズルい手段でやったんですよ。
─── "1発目の死角に2発目を仕込んだ" んです、もちろん相殺される1発目の爆風に巻き込まれないギリギリの距離で」
「まるで何処かの御庭番衆のお頭がやりそうな戦法ですね!ゴルーグの私もビックリ!」
「実際漫画を参考にして編み出しました。メイジ ケンカク ローマンタン♪(小声)」
「Oh,まさかのリアルガチ。更にゴルーグビックリです」
「……死角に、2発目……
(そんな指示は聞こえなかった。つまりあいつ、普段からそういう戦法やってるって事か)」
サンダースをボールにしまいながら片手で顔を覆うデンジさん。
と思ったらいきなり声をあげて高らかに笑い出した。何なの、マイペースな上に情緒不安定なの!?
「ハハハ、ハハハハハ!!いいな、まだ始めたばかりなのにロズレイドだけでもう2体も倒された!それなのにこんなにも楽しい、最ッ高のバトルだ!!
お前みたいな滅茶苦茶な戦い方する面白いトレーナー初めてだよ、ロウ!!!」
「これ褒められてます?どうです審判」
一応確認すると どうやらこれは褒められているらしい。その後方にいるプロデューサーみたいな、はしゃぐ子供を見守る父親みたいなドヤ顔やめてください審判、ウザいし嬉しくないんで。
えぇーデンジさんマジもんのバトルジャンキーなのではー?自分で言うのも何だけど、あんな戦い方されてジムリーダーとしてそれでいいんです?良いんだろうなぁこの人にとっては、見てればわかる。 ……そして今更ながら思うが、「お前みたいなトレーナー初めて」と仰っておられるが6年前にもジム戦で戦ってるんだよなー……流石に覚えてないよね、あの頃は今と違ってトレーナー成りたてだったしちゃんと正攻法してた(と思う)し。
「きゅあぁぁ……?きゅうん……
(特別翻訳:2体も倒されたのになんで笑ってるのかしら?あのツンツン頭、怖いわ……)」
劣勢なのにいきなり笑い出したデンジさんに引きつつロズレイドが戻って来る。流石に消耗しているし、ダメージも結構受けてる体で3体目の相手は厳しい、ここで退いて休んでもらおう。
「お疲れ様ですレイドさん。頑張ってくれてありがとう」
「きゅ、キュン、キュアン!
(特別翻訳:は、張り切るのは当然よ、貴女の為ではなく私の勝利の為だもの!)」
「別にあんたの為じゃないんだからね!」みたいな表情を向けられる。流石にそこまでツンデレな感じじゃないだろう、レイドさんは。背後でシャンデラが鳴いてるけど労りの言葉でもかけているんだろうか、珍しい事もあるな……
「ンーンゥンゥーン、ンンーン。
(特別翻訳:なるほどこれがツンデレ、みじんもつたわってないのちょうウケる)」
「キャンッ!!(特別翻訳:お黙り小娘ッ!!)」
「うおっ急にどうしたのレイドさん。傷に障るよ早くボール戻って戻って。
ついでだしシャンデラも戻すね、(ゴルーグにツッコむ為だけに)出してそのままだったし」
「ンゥーンー」
なんとなく睨み合っているような2匹をボールに戻す。ボールに入る直前まで剣呑だったのは、もしやさっきのは労わってたんじゃなくて何かバカにしてたのか?トーンがそんな感じだったし。
それはどうでもいいんだ。さて、デンジさんの手持ち数は残り4体。私は……24体連れ歩いてるって言うの忘れたなぁ、後の5匹誰にしよう……
「でもまぁ今の段階で文字数ヤバいから読みやすさ優先で一旦ページ区切りまーす!!」
「あ、章タイトルの前編ってそういう意味なんですね」
「章タイトル?」
「ページ区切り?何の事だ?」
「気にしないでください!」
何らかのパネルを操作して開いて行くジムの天井。何で最近のジムって天井 開くんですかねぇ……
デンジさんに肘で突っ突かれ、仕方なく大声でゴルーグを呼ぶ、5秒も経たない内に飛行機みたいな轟音と共にゴルーグが飛んで入って来た。
「ゴルーグ華麗に着地っ。いやー最近のジムはすごいですねぇ!まさか天井が開くとは!」
「……(確かに)大型のポケモンに合わせて天井をかなり高くしてるジムは何度も見た事あるけど、開くのを見たのは久々だわ……この手の仕掛けがあるのはほとんど くさタイプとかひこうタイプのジムだったし」
「へぇーそうなのか。それってやっぱり日光を利用して "ソーラービーム" とかを活用する為だったりするのか?ひこうタイプは飛び回る為だろうな」
「まぁそんな感じでしたね。くさタイプは日光浴びるだけでも活発になりますし。デメリットとして、苦手なほのおタイプも元気になってしまうーって言ってましたけど、タマムシシティのエリカさんとかが」
エリカさんが確かに言っていた。そう言いつつ私の前に来ていたらしい挑戦者のポケモン(ほのおタイプ)を薙ぎ倒していた事は伏せておこう。笑顔が怖いんだよあの人……
話している私達には目もくれず、ライチュウと一緒に定位置に歩いていくデンジさん。歩く速度がはえーよホセ。まぁいいか今に始まった事じゃないんだろう、あの様子を見れば何となくわかる。
私も位置に付こうと踏み出したところでオーバさんに呼び止められて、肩に手を置かれ小声で囁かれる。
「……今更だがよ、ゴヨウさんが今回のエキシビションを用意したのは "ロウっていうトレーナーを通してデンジを一喝する" のが目的なんじゃないかと、俺は思ってんだ」
「? どういう意味です?」
「いやーこれまでも今と似た様な事はあったんだ。ここに来た時もそうだっただろ?デンジにはお前がリーグとは無関係な外部のトレーナーだって事は隠してるが、それでもジムの審査以外でリーグが介入して、ジムリーダーのバトル……エキシビション組むなんて事はそうそうねぇんだ。 ……だってのに、結構前から今日のこれに関しては何度も通知してたのに、あいつ待ってるどころかジム閉めて勝手にコンビニ行ってやがった」
「気にするのはやめとこうって思ってたんですけどやっぱコンビニ行ってたんですね」
「袋に店名入ってたからな、やっぱコンビニだった。それは関係ないから一旦置いとくぞ。
とことんやる気がねぇんだよ今のデンジには。本人は "挑戦者と戦っても手応えがなくてつまらない" とか言ってるけどそりゃそうだろ、あいつジムリーダーだぜ?」
確かにそうだ、ジムリーダーよりも強い挑戦者ってのは極稀。そんな天性の才能・センスを持ったトレーナーなんて一握りいるかいないかだろう。仮にそんな天才を除いて、努力家の強いトレーナーがいたとしても "何かしらの理由で一度バッチ集めをリタイアしたトレーナー" の可能性が高いし、やっぱり "強い新米トレーナー" なんてそうそういない、いても努力でそうなっているとしたらもう新米じゃないよね、年数は兎も角ベテランだよね。
しかもデンジさんは自他共に認める「シンオウ地方最強のジムリーダー」。ゴヨウさんから聞いたけど四天王への昇格話もあったらしいし、そんな人と対等に戦えるトレーナーは……まぁ、いない、かも……いや探せばいる。きっといる。シロガネ山にいた "あの人" とか強かったし。
「今みたいにデンジがやる気がなくなる度に俺やゴヨウさん、あとたまーにリョウなんかも協力して発破かけて何とかしてたんだが……キレたんだろうなぁ、流石のゴヨウさんも……」
「(キクノさんの名前が出てこなかったのは協力してくれなかったんじゃなくて、協力したらむしろいじめっぽくなるからだろうか、タイプ相性的に)
キレたんですか、あのゴヨウさんが」
「まー俺の推測でしかないが、多分「挑戦者弱くてやる気出ねー」って言ってるデンジに対して、俺達が知る限りシロナさんよりも強いトレーナー ───つまりロウ、お前をぶつけて『調子に乗るのもいい加減にしろ、うだうだ言ってないでジムリーダーとして仕事しろ』って言いたいんじゃないかと思う。
お前にとっちゃいい迷惑だとは思うが、俺からも頼む!バトルでボッコボコにしてやってくれ!そうすりゃ多少は元通りに………………なると思うからよ!!」
間がなげぇよ間が。本当に大丈夫なんだろうな……
待たされてややイラつき始めたデンジさんにどやされて、小走りで審判の位置に行くオーバさんを見送ってから改めて私も位置に付く。
「ロウさん 相手の流れ弾、いえこの場合は流れ電気でしょうか、それについてはお気になさらず。全て私が受け止めましょう。ええゴルーグですので、
「なんか久々に聞いたなそれ。 ……今 それを待っていた自分がいる事に驚きつつ悔しい思いしてるよ。
でもまぁ確かにいてくれるのはありがたいかな、電気技ってやっぱ動きが変則的で避けにくいし」
「準備は良いか、始めるぞ」
「そういうの審判が言うもんなのでは?まぁいいですけど」
モンスターボールを構えているところを見ると、どうやら一番手は足元にいるライチュウではないらしい。こっちはどうしようかな、出来るだけシンオウにもいるポケモンの方がいいよな……
「レイドさん、ちょうど出てるし行ってくれる?」
軽くムチで私の頬をビンタしてからフィールドに歩いて行く。うーん "ちょうど出てる" が余計だったらしい、次から気を付けよう。頬っぺた痛い。
こちらのやり取りに軽く驚きながらデンジさんが出したのは「ランターン」。くさ・どくタイプのロズレイドの相手をするには、相性的に不利な筈だけどきっと対策してんだろうな、油断できないのが面倒だ。
「よっし、両者で揃ったな。そんじゃまぁ俺も真面目に審判やるか!
えーただいまよりリーグ代行人・ロウとジムリーダー・デンジによるエキシビションを開始する!!ちなみに使用ポケモンは3体」
「6体にしろ」
「はぁ!?お前っリーグから3体って決められてんだぞ、フルバトルやる気か?!」
「尺の都合と文字数の関係的に3体だとありがたいって声が聞こえるんですけど」
「関係ないね、6体使用のフルバトルに変更だ!(尺と文字数……?)」
何処までマイペースなんだこのジムリーダー!!
「じゃあフルバトルに変更!使用ポケモンは6体な!!はい始めぇ!!」
「ちゃんとやれよ審判!投げるな匙を!!」
「ランターン、ほうでんだ!」
しまったツッコんでいる場合じゃなかった。
襲い掛かって来る光には目もくれず、「どうするのよ?」と言わんばかりに呆れ顔をされる。流石の余裕ですロズレイドさん。
「マジカルリーフで狙え!」
ほうでんはどう足掻こうが命中率100% "必ず当たる" 技だ。だったらポケモンに当たる前に、こっちも同じ命中率の技で相殺してしまうのが手っ取り早い。
無数の葉っぱが飛び、電撃とぶつかり合って燃え散っていく。うわぁすごい威力、当たりたくないねレイドさん。
「へぇ、マジカルリーフでほうでんを防ぎきるとはな。大したもんだ」
「そりゃあどうも。完全な思い付きでしたけど」
「───なら続け様に叩き込んだらどうなるんだろうな?」
「いらんこと言ったわごめんレイドさん」
宣言通りと言わんばかりにほうでんをぶっ放してくるランターン。撃ち続けているせいで頭のランプだけじゃなく、身体ごと光り輝いている。
こんなのまるで電撃の豪雨だ!これ一番危ないの避ける手段がないオーバさんなのでは……
「ぬぅ!すごい威力のほうでん ですね!これは当たったらロズレイドさんでもまずいかと!」
「(本当にガードしてくれてる)大丈夫だ問題ない、多分」
「多分」
「仕方ないな。マジカルリーフでガードしながら突っ込め!」
「ハッ、そりゃあ思い付きにも程があるんじゃないか!?」
デンジさんの言う通り、今思い付いたので理論上 出来るかどうかはわからない。ただ "ロズレイドなら出来るだろう" という確証しかない。
「……チッ、キィ!」
こちらを見て舌打ちしながらマジカルリーフを纏って走っていく。いつもすいませんね無理な戦法で。とは言え正確に、かつ燃え尽きて落下してくる葉っぱだったものが当たらない絶妙な位置でマジカルリーフを操り、ランターンに距離を縮めていく。
「ぴ、ピィ、ピュアン!」
「あんなやり方でほうでんを突破してきただと……!?
(もう少し後に取っておきたかったが仕方ないか)狼狽えるなランターン、れいとうビーム!」
「どくづきだ、"構えろ"!」
電撃が止むと同時に "三種の神器" でお馴染みのこおりタイプの技「れいとうビーム」が放たれる。着弾するよりも早く両の花束からムチを出して、交差させて防御の姿勢を取るロズレイド。
「ぎぃっ……!」
「ナイスだランターン!もう一発───」
「いいや "今のはノーカン" だ。撃て、エナジーボール!」
「ッ、キィィィアァァァァァ!!!」
「なっ、に……!?」
凍り付いたムチを引き千切らんばかりに振って氷を打ち破る。粉々に砕けたそれは毒々しく、けれども2つの違う紫が混ざり合った色に染まっていた。うーん何とも芸術的。
その直後に放ったエナジーボールは見事にランターンに命中、指示で出したのは1発のつもりだったんだけど、憂さ晴らしの如く間髪入れずに更に3発撃ち込んだ。おまけと言わんばかりにマジカルリーフまで叩き込んでいる、やり過ぎでは。
いやそれにしてもどくづきでの防御、間に合ってよかったぁ……
「ぴぃ、ぴゅいぃ……」
「勝負あり!ランターン戦闘不能、よってロウのロズレイドの勝ち!」
「オーバさん大丈夫です?」
「死ぬかと思った!!」
「ですよねーイッタイ脛蹴らないでレイドさん」
こっちに戻って来ていたロズレイドに見事なローキック(技ではなくただの暴力)をかまされる。良い蹴りをお持ちで……
このままロズレイドで戦うか聞かれるが、とりあえず戦う本ポケに確認を取って了承を得た。オーバさんには「ポケモンの尻に敷かれてんなぁ」と言われるけど、今に始まった事じゃないのでほっといてほしい。いつもこうな訳じゃないし。
「……なるほどな、そういう無茶苦茶な戦法でこれまでも勝ってきたのか?」
「人がいつも無茶苦茶な事してる様に言うのやめてもらえます!?正攻法の時もありますし!!」
「正攻法ねぇ……
次だ、行くぞサンダース!」
イーブイの進化系の1つ、「サンダース」が軽い身のこなしでボールから出てくる。可愛い、私も同じイーブイ系列のブラッキー持ってるけど別の可愛さがある、刺々しいけど。
「サンダースならこっちへの危険は幾分か大丈夫だな、直線的な技が多いし」
「すいません審判、友達同士で気ぃ抜けてんのか知らないけどポケモンの技構成を予測出来る事 言っちゃうの良くないと思います!!」
「しまった、今の無しな!バトル始め!!」
「オーバ、後で覚えておけよ」そう呟いたデンジさんの目はマジでした。
何か思案しているらしく、さっきみたいな先手は打ってこない。ロズレイドが軽く振り返るけど、そのまま待機してほしい、手で合図を出すとフンッとサンダースに向き直ってくれた。
……無理な指示したせいか、ちょっと怒ってるな……後が怖いよこれ。
「(いくらガードしたと言っても、ロズレイドにはれいとうビームのダメージが入っている筈だ。残り1つの技が読めないが恐らく "特殊技" と見て間違いない。特性が怖いところだが……2分の1の確率、ここは接近戦で攻める!)
サンダース、でんこうせっか!一気に距離を詰めろ!」
「マジカル───」
「き、がっ……!!」
ダメだ、速過ぎる。
走って来たというより超低空のジャンプで距離を詰めて、そのまま突っ込んで身体ごとロズレイドにぶつかる。これがでんこうせっかの威力かよ?!
「にどげり!ぶっ飛ばしてチャージビームを叩きこめ!!」
「(理由はわかるけど)タイプ一致 技やっとかよ!
っ、ロズレイド!"手を出せ"!」
「ロウさん せめてどくづきで対抗した方がいいのでは?!」
頭上から聞こえてくるゴルーグのアドバイスは最もだ。でもやろうにも速過ぎてこの状態じゃ太刀打ちできない、悪あがき程度の指示しか出せないな……体勢を立て直してからじゃないと。
にどげりをモロにくらい、更にチャージビームで吹き飛ばされる。が、どちらも威力自体は低めの技なので、軽やかに着地する。
そしてロズレイドは、ニヤリと上品に微笑んだ。どうやら "上手く刺さった" らしい。
「(素早さはこちらが勝ってるな。このままイケる)
サンダース、もう一度でんこう……サンダース?大丈夫か!?」
「ぎゅうぅ……げえぇ……」
何とか立ってはいるが、サンダースは足を引き摺り、見るからに顔色が悪くなってきた。
「しまった "どくのトゲ(※)" か!くそ、懸念していた方だったか……!
(まさかさっきの "手を出せ" っていうのはこの為の指示か?にどげりを受けたあの一瞬で刺したのか!?)」
(※ロズレイドの通常特性の1つ。物理技で攻撃してきたポケモンを毒状態にする事がある)
流石ジムリーダー やっぱり特性自体はわかってた、か。これを指示ミスと取るか、レイドさんが見事にやってくれたと取るか……後者かな。
ただ「チャージビーム」を使ったおかげ(※)だろう、サンダースの纏う電撃が強くなっている。流石に次 特殊技を使われたら いくらロズレイドでも膝をつく可能性がある。これは接近戦に持ち込むしかない。
(※チャージビームは70%の確率で特功を1段階上げる追加効果がある)
「ロズレイド走れ、距離を詰めろ!」
「キュンッ!」
「っ耐えろサンダース!ミサイルばりで足止めだ!」
「グゥルル……ファァァァァ!!!」
あの体のどこからミサイルばりの針を飛ばして、
「あっぶね!!」
「ロウさん大丈夫ですか!?」
「うおおおおロウ大丈夫か!?ミサイルばりキャッチしたのかすげーなお前!!」
顔の前で掴み取った、スピアーのものよりも細くて、刺さったらそれはそれでめっちゃ痛そうな針を投げ捨てる。本当に危なかった……
それ以降のはゴルーグが防いでくれたらしく、飛んできたのは1本だけだった。ところで何その防ぎ方、まもるの応用?
「反応が遅れてしまい申し訳ありません!!お怪我はありませんか……?」
「大丈夫大丈夫、トレーナーならよくある事だし」
ちなみにロズレイドはと言うと、元々ミサイルばりは一発逆転を狙える様な大技よりは命中率が高いが、外れる事もある技だ。全弾 躱して、その流れ
「サンダース でんこうせっかで距離を」
「両手でキメろ、どくづき!」
足を狙ったおかげで反応が遅れてくれて助かった。毒をたっぷり滲ませた右の花束で鋭くボディーブローを打ち込み、すかさず左でストレートを顔面に叩き込む。
「オォウ、良いブローとストレートをお持ちで……」
「レイドさん意外と武闘派のロズレイドだからな。しかも毒効かないからってルカリオ相手に練習して……(まずい、"狙ってる" 。流石にまだ立てるか)
次くるぞ、構えろ!!」
「チャージビーム!」
「きゅあ……キィ!」
どくづきでガードするがかなりの至近距離で、しかもさっきのチャージビームで威力は上がっている。その証拠にロズレイドのムチが少し焼け焦げていた。
しまった……せめてエナジーボールを構えさせておくんだった。どくづきじゃ相性的に電気技が通りやすい。しかも今のでロズレイドに消耗が見えて来た、まだ立つのも余裕そうだが、溜息が増えて息遣いが荒くなってきている。
「ロズレイド、まだ頑張れそうか」
「キュア˝ァ!!」
「よし、逆ギレ気味の返事ありがとう それなら大丈夫だな。後ちょっと頑張って!」
「……サンダース、大丈夫か」
「げぇ……きゃおう……!!」
「(この状態だと接近戦はもう厳しいな……ミサイルばりで狙うか、チャージビームで削るか……)」
踏ん張る姿勢を見せるがサンダースはかなり苦しそうだ。毒がかなり回って来てるな。
「(技は4つ全部出た、確かに全部 "直線的" なものだった。なら、次で終わらせる)
キメるぞロズレイド!エナジーボール、2発!」
「相殺しろ!チャージビーム!」
1発目、チャージビームで見事に相殺されて爆発が起きる。薄っすらと見えるデンジさんの視線は煙の上を向いていた。が、2発目がサンダースに当たった音で視線が一瞬で落とされる。
「ギャアッ!!」
「何っ!?」
「あーえっと……?煙が……おぉっ!?さ、サンダース戦闘不能!ロウのロズレイドの勝ち!」
「っ……いつの間に……」
恐らく2発目のエナジーボールについてだろう。ちょっとズルいやり方をしてしまったので謝る代わりに手順の説明をする。
「先に "2発" って言ったのを聞いて騙されてくれて助かりました。1発目は "相殺される事を前提に撃った" もの、つまり完全なフェイク。2発目が本命。これは常套手段ですから。
問題は "どの位置から本命を撃つか" 。デンジさんは経験上そういう機会が多かったんだと思うんですけど、上を見てましたよね。煙を避けてジャンプして上空からの追撃っていうパターンが多かったんでしょう。私はちょっとズルい手段でやったんですよ。
─── "1発目の死角に2発目を仕込んだ" んです、もちろん相殺される1発目の爆風に巻き込まれないギリギリの距離で」
「まるで何処かの御庭番衆のお頭がやりそうな戦法ですね!ゴルーグの私もビックリ!」
「実際漫画を参考にして編み出しました。メイジ ケンカク ローマンタン♪(小声)」
「Oh,まさかのリアルガチ。更にゴルーグビックリです」
「……死角に、2発目……
(そんな指示は聞こえなかった。つまりあいつ、普段からそういう戦法やってるって事か)」
サンダースをボールにしまいながら片手で顔を覆うデンジさん。
と思ったらいきなり声をあげて高らかに笑い出した。何なの、マイペースな上に情緒不安定なの!?
「ハハハ、ハハハハハ!!いいな、まだ始めたばかりなのにロズレイドだけでもう2体も倒された!それなのにこんなにも楽しい、最ッ高のバトルだ!!
お前みたいな滅茶苦茶な戦い方する面白いトレーナー初めてだよ、ロウ!!!」
「これ褒められてます?どうです審判」
一応確認すると どうやらこれは褒められているらしい。その後方にいるプロデューサーみたいな、はしゃぐ子供を見守る父親みたいなドヤ顔やめてください審判、ウザいし嬉しくないんで。
えぇーデンジさんマジもんのバトルジャンキーなのではー?自分で言うのも何だけど、あんな戦い方されてジムリーダーとしてそれでいいんです?良いんだろうなぁこの人にとっては、見てればわかる。 ……そして今更ながら思うが、「お前みたいなトレーナー初めて」と仰っておられるが6年前にもジム戦で戦ってるんだよなー……流石に覚えてないよね、あの頃は今と違ってトレーナー成りたてだったしちゃんと正攻法してた(と思う)し。
「きゅあぁぁ……?きゅうん……
(特別翻訳:2体も倒されたのになんで笑ってるのかしら?あのツンツン頭、怖いわ……)」
劣勢なのにいきなり笑い出したデンジさんに引きつつロズレイドが戻って来る。流石に消耗しているし、ダメージも結構受けてる体で3体目の相手は厳しい、ここで退いて休んでもらおう。
「お疲れ様ですレイドさん。頑張ってくれてありがとう」
「きゅ、キュン、キュアン!
(特別翻訳:は、張り切るのは当然よ、貴女の為ではなく私の勝利の為だもの!)」
「別にあんたの為じゃないんだからね!」みたいな表情を向けられる。流石にそこまでツンデレな感じじゃないだろう、レイドさんは。背後でシャンデラが鳴いてるけど労りの言葉でもかけているんだろうか、珍しい事もあるな……
「ンーンゥンゥーン、ンンーン。
(特別翻訳:なるほどこれがツンデレ、みじんもつたわってないのちょうウケる)」
「キャンッ!!(特別翻訳:お黙り小娘ッ!!)」
「うおっ急にどうしたのレイドさん。傷に障るよ早くボール戻って戻って。
ついでだしシャンデラも戻すね、(ゴルーグにツッコむ為だけに)出してそのままだったし」
「ンゥーンー」
なんとなく睨み合っているような2匹をボールに戻す。ボールに入る直前まで剣呑だったのは、もしやさっきのは労わってたんじゃなくて何かバカにしてたのか?トーンがそんな感じだったし。
それはどうでもいいんだ。さて、デンジさんの手持ち数は残り4体。私は……24体連れ歩いてるって言うの忘れたなぁ、後の5匹誰にしよう……
「でもまぁ今の段階で文字数ヤバいから読みやすさ優先で一旦ページ区切りまーす!!」
「あ、章タイトルの前編ってそういう意味なんですね」
「章タイトル?」
「ページ区切り?何の事だ?」
「気にしないでください!」