様子のおかしい叔父さんのゴルーグと行くナギサジム・エキシビション
【ゴルーグとナギサのスター】
シンオウリーグもとい、四天王のゴヨウさんから直々にメールが来た。
内容は「リーグ関係者の代理という建前でナギサジムに行って、ジムリーダーとエキシビションマッチを行ってほしい」というもの。唐突だしよくわからないけどいつものバイトとは比べ物にならない、倍以上の報酬が記載されていたのでナギサシティまでウッキウキで来てしまった。来てしまいましたお馴染みになりつつある私「ロウ」でした。
倍以上のお給料とはいえ、金に釣られた訳じゃあないよ、決して、ええ決して。リーグの役に立とうというテンガン山超えの高い意識で来ていますとも。やべぇな何か買おうかな。
ウッキウキで来たのには他にも理由がある。それは……ゴルーグだ。
そう、置いて来たんだ!ゴルーグを!自分のポケモンでもないのに置いて来たとか言うのはおかしい気もするけど、兎も角ここにシュウのゴルーグはいない!!つまり今ここにいるのは私と私のポケモン達のみ!!音痴を自覚しているので普段は封印してる鼻歌も歌っちゃうくらいウキウキだぜYEAH!!!
「きみとーいっしょがーいちばんー ンフフフーン いやぁなんでいつも一緒にいるのかなぁとは思ってたけど、こうして離れるとなんか解放感あるね。まだ時間あるし、ちょっとカフェとか寄っちゃう?!」
「ピィカッチュ!」
肩に乗っているピカチュウも何となくご機嫌だ。
ゴルーグの事が嫌いって訳じゃないんだけど、毎日あのテンションに接してると正直 鬱陶しいし疲れるんだよね……何はともあれ、とりあえず宣言通りオシャレに時間潰ししようではないか。
と思ったのに、周りがなんだか騒がしくなってきた。
「オォイ!ありゃあなんだ!?」
「飛行機か?ロボットか?鉄人か!?」
【この時、空を指差す周囲の人々につられて顔を上げたロウは気付いていなかった。この物語はあくまでも「喋るゴルーグとその周囲のポケモン達の活躍()を描いたもの」であり、彼女は "メインキャスト" ではなく "どこまで行っても語り手" という事実に。
例えるなら地球上で最も剣吞な危険地帯である街で活動する秘密結社における、特殊な視力を持つ少年の様な立ち位置なのである】
「ロウさーん!ロウさぁーん!!お忘れ物を届けに参りましたよー!!
ゴルーグです、貴女のゴルーグですよぉー!!!」
「イ˝ ヤ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ゴルーグゥゥゥゥゥァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「ビィィィカァァァァァァァ!!!??」
一方その頃、クロガネシティもといクロガネ病院では。
「夫人、シワス夫人……あ、いや今は婦長と呼んだ方がいいか」
「あらシュウさん、ごきげんよう。呼び方はどちらでも構いませんよ。お好きになさってください」
「そうかすまない。
それはさておき、俺のゴルーグを知らないか?今日も病院の手伝いをすると言っていたからいる筈なんだが……」
「ゴルーグさんならナギサシティに向かったロウさんに忘れ物を届けに行くと、つい先程 文字通り飛び出して行きましたよ」
「聞いてないんだが 」
叫んだ後、気絶したり失神したりしなかった私を誰か褒めてほしい。
街の外れまで誘導してようやくゴルーグを着地させる。普通の鳥ポケモンやドラゴンポケモンなら街中に下りても何ら問題はないだろうけど、流石に(飛び方のインパクトが強過ぎる)ゴーレムポケモンを着地させる訳にはいかない。目立ち過ぎる。
「まったくもーうっかり屋さんなんですからぁー」
「(言い方ウッッッザ……)
ハイハイどうもすみませんね。 ……つか忘れ物って、何?出る前にちゃんと荷物確認したんだけど」
「ほらぁこちらですよ!バッチケースです!」
Oh,なんということをしてくれたのでしょう。お前が持っているイッシュ、ホウエン、ジョウト、カントーの合計4つのバッチケースは確かに普段は念の為に持ち歩いているけども、色々悩んだ結果「今回は流石に必要ナッシングだろ」という結果に至りシンオウ以外のはあえて置いて来た物だったのです。というか私の部屋に置いてた筈なのにどうやって持ってきた。
それを伝えると「何ですって!?」と言いながら口元に片手を添える。奥様かお前は。
「オォウ……つまり余計なお節介、無駄足でしたか……ゴルーグショォック……」
「いやまぁ、折角持って来てくれた訳だし一応受け取っておくよ。無くて困る事も、あって良かった事も多分無いと思うけど。
……荷物増えるだけだし」
「ぴっかちゅ……」
地味に重いんだよねバッチケース……嵩張らないのが救いだけど、40個もバッチがあると流石にズッシリ来る。
大きなゴルーグの手から大事そうに抱えられていた小さなケースを受け取って(しかしよく握り潰さなかったな)地面に降りていたピカチュウを抱え直す。仕方ない、私を思いやって来てくれた訳だし、ありがたく気持ちを受け取るつもりで行こう。
「じゃあ私行くから。なんやかんやで案内役の人との待ち合わせ時間になっちゃったし」
「……では私もご一緒しましょう!」
「ありがとうゴルーグ帰ってくれ。クロガネにお帰り」
「いいえ!いいえ!!何と言おうと頑固として、ロウさんに嫌われてでもついて行きます!!
何か嫌な予感がするのです!!こう、ゴルーグセンサーにビシバシと来ているのです、ロウさんに不埒な輩が近付くぞという予感が!! "みぶるい" と言うやつですね!!」
「お前の特性ノーガードだろうが!
いいよ来なくて、ボールにしまえないから目立つし嫌だよ」
「でしたらそらをとぶで上空からついて行きます」
「もっとやだ」
「おーう待ってたぜロウってなんだその後ろのデッカイ奴はー!!?」
「オーバさんお待たせしてすみません 」
「ロウさん逆です逆、台詞 とルビ が逆ですし、それ前回シュウさんがやりましたのでぶっちゃけネタ被りです」
デジマ……?ネタ被りとか一番恥ずかしいやつじゃん。いや今はそれどころではなく。
名前の通りと言ってしまいそうなオーバーリアクションで私達を出迎えたのはご存知シンオウリーグ四天王の「オーバ」さん。なんでもこれからエキシビションをするジムリーダーさんとは友達同士らしい。
「改めまして遅れてすみませんでした。そして後ろのはイッシュ地方のポケモンのゴルーグです。こいつはシュウの手持ちなんですけど私の忘れ物を届けに来て、そのままついて来てしまって」
「はぇーこの前会った時に、お前がイッシュから連れてきたポケモンも見せてもらったけど、こんなポケモンもいるんだなぁ……」
「とはいえ私は進化系ですので、トレーナーとのバトルでお目にかかる事の方が多いかと思いますよ!
あ、ご挨拶が遅れて申し訳ありませんバッフロンの様な素敵なお兄様、私 ゴルーグと申します。ロウさんの後見人の様な立場のトレーナー、シュウさんのポケモンです。特技はばくれつパンチです。どうぞお見知りおきを」
「ああこりゃどうもご丁寧に。
…………はっ!?ポケモンがしゃべ」
「ロズレイド、シャンデラ!エナジーボールとシャドーボール連射!!!」
ボールを放り投げた次の瞬間、断末魔を上げるゴルーグからオーバさんを引き摺って距離を取る。
「喋ってません。腹話術です」
「い、いやでもよ、今 確実にあいつから声が」
「喋ってません決して喋ってません腹話術ですリピートアフターミースタンドバイミー!!!」
「顔こっわ!!?喋ってませんね腹話術です!!!俺の聞き間違いです!!!」
よし、なんとか誤魔化せたな……
「誤魔化せてるんですかねそれ……
……ヒョウタさんには一から説明していたのに何故それ以外の人には正直に話さないんですか?」
「シッいいから今回だけは喋るな!
いいか、オーバさんは良くも悪くも結構お喋りな上に嘘吐くのヘッタクソなんだよ。それでもって(見た目はああだけど)マジもんの四天王だ。四天王の勤め先はポケモンリーグ、リーグには四天王と誰がいる?」
「………………アッ」
この間の自分を誘拐しよう とした謎の美女ことチャンピオン・シロナさんの事をようやく思い出したらしい。(※何の事か気になる人は2作目冒頭を見てね)結構なダメージを受けたにも関わらずすぐさま立ち上がって、ポケモンらしい雄叫びをあげた。いやゴルーグはポケモンだわ、頑張れ私。最近すんなり受け入れてるぞ こいつの事を。
ゴルーグの決死の方向転換によって "私が変なテンションでやった腹話術" という私に対するちょっとしたダメージだけで完全に誤魔化す事に成功した。
大丈夫、これくらいの恥辱なんざ大した事ないさ。寝起きでボッサボサの頭のまま庭で欠伸しつつ水やりしてるところを……よりにもよってヒョウタさんに見られたこの間よりは……あっ無理これ以上考えたら泣く、むしろ吐く。やめよ。
「うっしじゃあジム行こうぜ。お前も一緒にな!」
「は……ご、ゴオォォォ!」
「(ポケモンなのに無理してポケモンらしく鳴いている感が拭えない……)」
鳴き声の前に当たり前の様に街を歩く姿も違和感 半端ないんですけどね。こればっかりはしょうがない。目の前の光景に肩を竦めていると、「移動するならエスコートして頂戴」と私の手を取って来たロズレイドに合わせてようやく歩き出す。歩いてるだけなのにゴルーグの地響きやべぇな、橋落ちない?大丈夫?
「(そういえばナギサシティのジムリーダーって、私が旅してた頃と変わってないから多分 "金髪のあの人" だよね……6年前はジムリーダーになって間もないって聞いたけど、今はシンオウ最強って言われてるらしいし、どんな感じになってるのかな……)」
実は私、リーグ公認ジムの現在のジムリーダーの半数以上に会った事が無い。
私がクロガネシティを出て旅をしたのは12歳になる年、もう6年以上も前だ。(トレーナーになる子供はリーグ推奨年齢の10歳ピッタリで旅に出るけど、私は養子だったし養母にも色々都合があったのでちょっと遅れてしまった)6年もあればジムリーダーも変わるってもんなんだろう。ヒョウタさんに出逢った頃に聞いたけど(私のトラウマかつ天敵の)トウガンさんはクロガネジムからミオジムに移ったらしいし、"辿り着くまでが鬼畜極まりない試練" で有名なキッサキジムは私と同い年くらい、トバリジムに至っては年下の女の子がジムリーダーらしい。
「(まぁジムリーダーだけじゃなく四天王も1人変わってたけど……
そもそもその頃もナギサジムみたいに若いジムリーダーはいたからなぁ。ナタネさんはテンションがそのままで大人になってたし、メリッサさんに至っては昔と何一つ変わってないのが逆に怖いんだよなぁ……)
ジムの手伝いとかでその内トバリジムやキッサキジムに行く事もあるかなぁ。ねぇレイドさん、シャンデラ」
「キュン、キュアゥン」
「ンッンーンゥーン」
「───って訳でそん時デンジが……おい、おーい、ロウ!人の話ちゃんと聞いてたか?!」
「んなぁっ聞いてます聞いてます。ミミロップみたいな "見た目が完全にメスのポケモンとして産まれたオスの気持ち" についてですよね」
「そんな哲学的な話してねぇよ!!
……でもそれ考え出すと下手したらちょっと嫌な気持ちになりそうだからやめろよ!」
考え事をしつつ話にツッコみツッコまれつつ歩いたお陰で割とすぐ着きましたナギサジム。
……着いたけど何か様子がおかしい。具体的に言うと、どう見ても "休業中" というか "閉鎖されている" 状態だ。
「おいおいまさかデンジの奴、リーグから来た通知忘れやがったのか!?ジム閉まってんじゃねぇか!」
「つかジムが閉まってるとか久々の光景なんですが」
「初めての光景じゃなくて久々なのかよ!経験者だったのかよお前!」
「オーバさんがいるとツッコミしなくていい(しかも今はゴルーグも黙ってる)から楽だわぁ……」
しかし不味いな。このままじゃ私のお給料が無い……いや、ゴヨウさんに会わせる顔がないぞ。大事な事だから言っておくけど、お金の為にここまで来た訳じゃないからね。畜生どこ行きやがったジムリーダー、私のボーナスはよ出てこい。
「ロウさんロウさん、ナギサジムのジムリーダーってあの方じゃありませんか?」
「えっどこ?どこにいんの!?
……って喋るなぁ!!!」
「うおっ急にどうした、デンジいたか!?」
あれ?ゴルーグの声、オーバさんに聞こえてない……?
「いきなり話し掛けて申し訳ありません!
これには訳がありまして、歩きながら考えていたのですが私 普段は "送信対象を無制限の状態" にした、いわば "拡張型のテレパシー" で喋っているんですよ。つまり拡張をやめて、送信対象を絞り込めば今の様にロウさんにだけ私の声が聞き取れる状態にできる、と先程 気付いたんですよ~」
「…………
それっ……っ!!!ッッッッッ!!!!!」
「1作目の段階で 気付けや」って思ったのは私だけじゃないと思いたい。いや考えてみれば、テレパシーって超能力でやる電話みたいなもんだからそりゃ送る対象選べるわな、なんで今まで気付かなかったの……私もシュウも……
オーバさんには聞こえてない、つまりここでゴルーグにツッコめば私がいきなり1人でキレ出したという事になるので、言いたい事を堪えて顔と口パクで威嚇する。
「オォウ……ロウさんの顔が怖い……美形の威嚇ってなんでこんなに怖いんでしょうね」
「……!!!(知るかぁ!!!)」
「おっ、ロウ!デンジいたぞ、ほらあそこ!」
ナギサジム街の中でも結構高台にある。なのでジムリーダーこと「デンジ」さんを見付けたらしいオーバさんは必然的に橋の下を見下ろしながら指を差していた。その先を見ると……コンビニかどっか行っていたのか、そのご尊顔には似合わないレジ袋を持って呑気にトテトテ歩いている金髪のスターが。あーやっぱりちょっと老け、いや大人になられている。
「オォォォォォォイデンジィィィィィィィィィ!!!!!」
「うるっさ、うっさ!ちょっと街中で叫ばないでくださいよ声でけぇな!!」
その大声のお陰でオーバさんの存在に気付いたらしい。ちょっと鬱陶しげに顔を上げてこちらを見上げた瞬間、目があった。跳ねて地上に出てきてしまったコイキングみたいだった瞳が、途端に輝いていく。そしていきなり走り出した。
足早、足はっやいな!?なんだあのスピード流石でんきタイプのエキスパート。
「おいデンジ、お前どこに行ってオイオイオイ!俺をスルーすんな!!」
「……オーバ、こんな……こんなロボットどこから持ってきたんだ、詳しく聞かせろ!!」
……ロボット?
首を傾げて、なんとなくゴルーグを見上げる。ゴルーグも自分を指差しながら首を傾げてあっなるほどそういう事!?いや違うよ!?
「すいませんこいつポケモンです!イッシュにいるゴルーグっていうポケモンです!!ノーロボット イエスポケモォン!!」
「何っこれがポケモン!?海外にはこんなポケモンがいるのか……ちょっと調べさせてくれ」
「あっ何をするのですかっ、本ポケに許可も取らずに体に触れるのは如何なものかと!!私は人語を理解できるから良いものを、これが凶暴なポケモンだったらどうするのです危ないでしょう!!ああおやめください!封印は、封印の留め金を触るのだけはおやめください!!」
私が何か言う前にゴルーグをベタベタと触り始める。なんなんだこのジムリーダー……自由すぎる。そしてゴルーグはこんな時でも一応人間を気遣ってくれるんだな、優しいね……でも私にしか聞こえてないんだよねそれ。
ノールックでオーバさんに何か差し出したと思ったら、
「オーバ、アイス溶けっから冷蔵庫に入れてきて」
「ふっざけんなパシってんじゃねぇよ!」
そう言いつつ差し出された、ジムの鍵だろうか?それとレジ袋を引ったくって裏口にドスドス歩いていくオーバさん。優しいね……
「こいつが本当にポケモン……?どういう仕組みで動いているんだ……」
「アァーおやめください!うっかり何かが発動して、ビームとか出てしまいそう!助けてくださいロウさーん!!」
オロオロしながらもデンジさんに危害を加えない様に変な格好で固まっているゴルーグ。うーんこれはこの間のシロナさんによる誘拐未遂よりも可哀想だ。そして多分この人私の事 眼中に入ってない、声は聞こえてるけど認知されてない。
「ちょっ、ちょっと!ゴルーグがすごい困ってるし嫌がってるんでやめてもらえますか!?やめろって言って、聞けよ!!とりあえず離れ、ろ!!」
腕全体を使って胸板を押してデンジさんを突き放し、間に割って入っていく。
少々荒っぽくなってしまったがこれが最善だろう……うわぁなんですかその「誰お前 いたの?」と言わんばかりの目は。ええ ええすいませんね初めからいたんですわ。あ ん た が 気 付 い て な か っ た だ け で な ! !
「ゴルーグは私について来ただけでトレーナーは身内……別の人なんです、しかも今はクロガネシティにいるんで。後から何か言われるのも嫌なんで変な事しないでください」
「オォウ、ロウさん優しい……ありがとうございます、この御恩一生忘れません!!」
「今喋んないで頭混乱するから(小声)」
傍から見ると結構 剣吞なこの雰囲気をポケモンも感じ取っているらしい。シャンデラにぶら下がってゆらゆらしていたピカチュウが飛び降りて、私の足元で両手を広げて立ち塞がる。お、漢だ、漢だぜ兄貴ィ……でも可愛い、ピカチュウって最高だな。
ちなみにシャンデラの方はかなり迷惑していたみたいだ。ピカチュウが降りた途端すり寄って来た。ごめんな、女の子にぶら下がるなって後でピカさんに言っとくから。
「ほら、ピカチュウもやめろって言ってるじゃないですか」
「ピィカ!ビカッちゅっ、ぴぴぴ、ちゃあぁ~!!」
「いや今度は何してんだアンタ!!?」
何をしてるかと言いますと、しゃがみ込んで仁王立ちしたピカチュウの頬っぺたをモッチモチと。人のポケモンだっつってんだろ何してんだこの野郎。
自分でも予想外のスピードでピカチュウを取り上げる。何なのこの人、6年前とだいぶ印象が違うってか、別人なんだけど?!前はもっとヒョウタさんやナタネさんに似た様な雰囲気というかそういう感じだったと思うんだけど……
「そのピカチュウ、"ピカチュウのままで" 随分育ってるな。進化させないのか」
「そんなの人の勝手だろ!!
大方あんたも "ライチュウにした方が強い" とか言うタイプでしょ、"わかってますよそんな事" 。トレーナーであればポケモンは進化させてなんぼですからね……っなんです?」
じりじりと詰め寄って来て顔を近付けられる。お、なんだ喧嘩でも売る気か、ジムリーダー相手でも買うぞコラ。
「お前のピカチュウは良く育ってる、これなら進化させた方が今より、いや他のライチュウよりも圧倒的に強くなるだろう。それはお前も "わかってる" と来た。
俺が聞いてるのは "それでもピカチュウのままで育ててる理由" だ。何かこだわりがあるのか?それともブッ」
「あっ」
腕の中からスルスルっと肩の上に移動したピカチュウが「ピッカ!」と両手でデンジさんの口元を押さえる。似た様な事してるニャルマー見た事ある、これがネコチャン……いやピカチャンか?
というかなんでこの人嬉しそうにしてんの。でんきのエキスパートだからなの?こわ……と思ったけど確かにジムリーダーってこんな感じだわ、自分の好きなタイプのポケモンに構われると嬉しくなっちゃうのがジムリーダーの生態だったわ。
デンジさんの手が再びピカチュウに伸びた瞬間、私の体が浮かび上がった。
「いけません、いけませんよ!!未成年かつお年頃の女性に対してその様に不躾に近付くなど!ジムリーダーとは言え慎みを持って頂きたい!!
それにロウさんにはもう心に決めた殿方がいるのですよ!!!」
ピカチュウごとゴルーグに持ち上げられたらしい、大きな手に座らせられ頭の上まで持ち上げられる。デンジさんのつむじが……つむじどこだこの人。それにしてもなるほどこれが3.8mの、いやもっとか4m越えの景色。高いわ、そして意外と寒いわ。と言うかゴルーグ余計な事言ってない?そういうの言わなくていいから!!!
どうやらさっきのは私だけに聞こえるものではなく、拡張型のテレパシーだったらしく、デンジさんが目をぱちくりとさせた。これまずくない?ヤバくない??バレたくない???
「……今こいつ喋ったか?」
「幻聴です。まごう事なきどこに出しても恥ずかしくない立派な幻聴ですお疲れなのでは???ジムリーダーって忙しいですもんねぇ!!」
「アイスしまってきたぞ~っておわー!?何してんだ?!そんな高く持ち上げたら危ないだろ、ロウは仮にも女の子だぞ!!」
「誰が仮にもじゃい消火したろかコラ。
っていうか人ん家のアイス食ってんじゃねぇよ!ガ◯ガリ君似合うなぁ!!」
ガリ◯リ君を齧りながら戻って来たオーバさんがゴルーグの胴体を軽く叩く。
それにしてもゴルーグのお蔭で助かった。距離感わからんもんこの人。友達のオーバさんも大概だけど。オーバさんの言う事を聞いてか胸の辺りまで手が下ろされる。安定感がすごい、乗ってても平気だなって思えるこの安心感。やっぱりゴルーグ、100人乗ってもだいじょう……頑張っても3人しか乗れんな……
「なぁお前トレーナーカード持ってるか」
「はい?ああ、持ってますけど。あれ何処にしまったっけ」
しばらく荷物を漁ってから財布にしまっていた事を思い出してようやく取り出す、と同時にライチュウに奪われた。え、どこから来た誰のライチュウ!?躾がなってないぞこの野郎。
「サンキューライチュウ」
「あんたかよ!!人の物をポケモンに奪わせるなよ!」
「……ロウ……顔立ちもそうだがシンオウ人らしくない名前だな。カロスかその辺りの出身か?」
「アッハッハッハ、どっちも良く言われますけど、私は生まれも育ちもシンオウでしてよ。多分だけど。
……えっ隣のアフロが散々呼んでたのに今 私の名前 認識したんですか?マジンガー??」
「おい隣のアフロって俺の事かおい」
生まれは何処か全くわかりませんが育ちはシンオウですよ、そこは確実ですし。
トレーナーカードと私の顔をじっくり見比べられる。あーカードの写真 結構前のやつだもんなーとか思っていたら「でんきタイプみたいな髪色してんな」と呟かれる。それも良く言われますけどね、でんきタイプじゃねぇから。ただ単に生まれつきツートンカラーなだけなんで、金髪の中に黒毛混じってるだけなんで。
「シンオウリーグ殿堂入り……イッシュとホウエン、セキエイリーグは2回も行ったのか」
「ああはい。ホウエンからジョウトに行って、そっちのジムに挑戦したんですけどジョウトはリーグが無いから、ジムバッチ集めたトレーナーはカントーのセキエイまで行くんですよ。だからワタルさん……セキエイのチャンピオンに "ジョウトから来たんでカントーのジムバッチ全部集めたらもっかい来てもいいですか" ってちゃんと聞いてもっかい行ったんですよ。
何かやろうと思った時は相手にちゃんと確認しろって養母に教わったので」
「流石ロウさん、大人の教えをしっかり生かしていらっしゃるのですね!
あ、これは送信先ロウさんに指定しているのでご安心ください」
「指定してなかったらまたエナボ(※)とシャドボ(※)乱射するところだった(小声)」
(※エナジーボールとシャドーボールの略称の様です)
ニヤリと、まるで新しい玩具を見つけた様な悪ガキの笑みを向けられる。
あ、これ滅茶苦茶 嫌な予感。ゴルーグこのまま飛んで、いや飛ばないで、忘れてたけどエキシビションの 為にナギサシティまで来たんだった。やらなきゃお給料もらえない。でも帰りたい。泣くわ。
「よし早く中に入れ、バトルするぞ。オーバは審判な!」
「……ロウさんの実力がわかった途端 俄然やる気を出されましたね」
「何だったんだ今までの 無駄なやり取りは……スイッチ入るまで時間かかり過ぎだろ……無駄に文字数使ったぞ」
「文字数?何の話だ?」
「気にせんでください……」
さっきオーバさんに差し出したのとは違う鍵を取り出してウッキウキでジムの正面入口を開ける。えぇーもしかしてこの人、結構なバトルジャンキーだったりします……?
「まぁいいか、早く済ましてボーナス貰お……
じゃあゴルーグは外で待ってて。ボール無いからジムの中に連れて行けないし」
「畏まりました。ここでロウさんのご健闘を祈っております」
「?そいつのボール持ってないのか?」
「さっきも言いましたけどゴルーグは私のポケモンじゃないし、今回はついてきただけなんで。ついさっき同じ事 言ったんですけどねっ!」
この人私の事 認識するまでの話マジで聞いてないな……ていうかなんで連れて行くと思ってんの。私のポケモンじゃないんだって。
当のデンジさんはそれを聞いた途端 顎に手を当てて何かを考えて、
「じゃあ "あれ" 使うか」
またしても嫌な予感が。じゃあってなんぞ??
シンオウリーグもとい、四天王のゴヨウさんから直々にメールが来た。
内容は「リーグ関係者の代理という建前でナギサジムに行って、ジムリーダーとエキシビションマッチを行ってほしい」というもの。唐突だしよくわからないけどいつものバイトとは比べ物にならない、倍以上の報酬が記載されていたのでナギサシティまでウッキウキで来てしまった。来てしまいましたお馴染みになりつつある私「ロウ」でした。
倍以上のお給料とはいえ、金に釣られた訳じゃあないよ、決して、ええ決して。リーグの役に立とうというテンガン山超えの高い意識で来ていますとも。やべぇな何か買おうかな。
ウッキウキで来たのには他にも理由がある。それは……ゴルーグだ。
そう、置いて来たんだ!ゴルーグを!自分のポケモンでもないのに置いて来たとか言うのはおかしい気もするけど、兎も角ここにシュウのゴルーグはいない!!つまり今ここにいるのは私と私のポケモン達のみ!!音痴を自覚しているので普段は封印してる鼻歌も歌っちゃうくらいウキウキだぜYEAH!!!
「きみとーいっしょがーいちばんー ンフフフーン いやぁなんでいつも一緒にいるのかなぁとは思ってたけど、こうして離れるとなんか解放感あるね。まだ時間あるし、ちょっとカフェとか寄っちゃう?!」
「ピィカッチュ!」
肩に乗っているピカチュウも何となくご機嫌だ。
ゴルーグの事が嫌いって訳じゃないんだけど、毎日あのテンションに接してると正直 鬱陶しいし疲れるんだよね……何はともあれ、とりあえず宣言通りオシャレに時間潰ししようではないか。
と思ったのに、周りがなんだか騒がしくなってきた。
「オォイ!ありゃあなんだ!?」
「飛行機か?ロボットか?鉄人か!?」
【この時、空を指差す周囲の人々につられて顔を上げたロウは気付いていなかった。この物語はあくまでも「喋るゴルーグとその周囲のポケモン達の活躍()を描いたもの」であり、彼女は "メインキャスト" ではなく "どこまで行っても語り手" という事実に。
例えるなら地球上で最も剣吞な危険地帯である街で活動する秘密結社における、特殊な視力を持つ少年の様な立ち位置なのである】
「ロウさーん!ロウさぁーん!!お忘れ物を届けに参りましたよー!!
ゴルーグです、貴女のゴルーグですよぉー!!!」
「イ˝ ヤ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ァ˝ ゴルーグゥゥゥゥゥァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「ビィィィカァァァァァァァ!!!??」
一方その頃、クロガネシティもといクロガネ病院では。
「夫人、シワス夫人……あ、いや今は婦長と呼んだ方がいいか」
「あらシュウさん、ごきげんよう。呼び方はどちらでも構いませんよ。お好きになさってください」
「そうかすまない。
それはさておき、俺のゴルーグを知らないか?今日も病院の手伝いをすると言っていたからいる筈なんだが……」
「ゴルーグさんならナギサシティに向かったロウさんに忘れ物を届けに行くと、つい先程 文字通り飛び出して行きましたよ」
「
叫んだ後、気絶したり失神したりしなかった私を誰か褒めてほしい。
街の外れまで誘導してようやくゴルーグを着地させる。普通の鳥ポケモンやドラゴンポケモンなら街中に下りても何ら問題はないだろうけど、流石に(飛び方のインパクトが強過ぎる)ゴーレムポケモンを着地させる訳にはいかない。目立ち過ぎる。
「まったくもーうっかり屋さんなんですからぁー」
「(言い方ウッッッザ……)
ハイハイどうもすみませんね。 ……つか忘れ物って、何?出る前にちゃんと荷物確認したんだけど」
「ほらぁこちらですよ!バッチケースです!」
Oh,なんということをしてくれたのでしょう。お前が持っているイッシュ、ホウエン、ジョウト、カントーの合計4つのバッチケースは確かに普段は念の為に持ち歩いているけども、色々悩んだ結果「今回は流石に必要ナッシングだろ」という結果に至りシンオウ以外のはあえて置いて来た物だったのです。というか私の部屋に置いてた筈なのにどうやって持ってきた。
それを伝えると「何ですって!?」と言いながら口元に片手を添える。奥様かお前は。
「オォウ……つまり余計なお節介、無駄足でしたか……ゴルーグショォック……」
「いやまぁ、折角持って来てくれた訳だし一応受け取っておくよ。無くて困る事も、あって良かった事も多分無いと思うけど。
……荷物増えるだけだし」
「ぴっかちゅ……」
地味に重いんだよねバッチケース……嵩張らないのが救いだけど、40個もバッチがあると流石にズッシリ来る。
大きなゴルーグの手から大事そうに抱えられていた小さなケースを受け取って(しかしよく握り潰さなかったな)地面に降りていたピカチュウを抱え直す。仕方ない、私を思いやって来てくれた訳だし、ありがたく気持ちを受け取るつもりで行こう。
「じゃあ私行くから。なんやかんやで案内役の人との待ち合わせ時間になっちゃったし」
「……では私もご一緒しましょう!」
「ありがとうゴルーグ帰ってくれ。クロガネにお帰り」
「いいえ!いいえ!!何と言おうと頑固として、ロウさんに嫌われてでもついて行きます!!
何か嫌な予感がするのです!!こう、ゴルーグセンサーにビシバシと来ているのです、ロウさんに不埒な輩が近付くぞという予感が!! "みぶるい" と言うやつですね!!」
「お前の特性ノーガードだろうが!
いいよ来なくて、ボールにしまえないから目立つし嫌だよ」
「でしたらそらをとぶで上空からついて行きます」
「もっとやだ」
「おーう待ってたぜロウってなんだその後ろのデッカイ奴はー!!?」
「オーバさん
「ロウさん逆です逆、
デジマ……?ネタ被りとか一番恥ずかしいやつじゃん。いや今はそれどころではなく。
名前の通りと言ってしまいそうなオーバーリアクションで私達を出迎えたのはご存知シンオウリーグ四天王の「オーバ」さん。なんでもこれからエキシビションをするジムリーダーさんとは友達同士らしい。
「改めまして遅れてすみませんでした。そして後ろのはイッシュ地方のポケモンのゴルーグです。こいつはシュウの手持ちなんですけど私の忘れ物を届けに来て、そのままついて来てしまって」
「はぇーこの前会った時に、お前がイッシュから連れてきたポケモンも見せてもらったけど、こんなポケモンもいるんだなぁ……」
「とはいえ私は進化系ですので、トレーナーとのバトルでお目にかかる事の方が多いかと思いますよ!
あ、ご挨拶が遅れて申し訳ありませんバッフロンの様な素敵なお兄様、私 ゴルーグと申します。ロウさんの後見人の様な立場のトレーナー、シュウさんのポケモンです。特技はばくれつパンチです。どうぞお見知りおきを」
「ああこりゃどうもご丁寧に。
…………はっ!?ポケモンがしゃべ」
「ロズレイド、シャンデラ!エナジーボールとシャドーボール連射!!!」
ボールを放り投げた次の瞬間、断末魔を上げるゴルーグからオーバさんを引き摺って距離を取る。
「喋ってません。腹話術です」
「い、いやでもよ、今 確実にあいつから声が」
「喋ってません決して喋ってません腹話術ですリピートアフターミースタンドバイミー!!!」
「顔こっわ!!?喋ってませんね腹話術です!!!俺の聞き間違いです!!!」
よし、なんとか誤魔化せたな……
「誤魔化せてるんですかねそれ……
……ヒョウタさんには一から説明していたのに何故それ以外の人には正直に話さないんですか?」
「シッいいから今回だけは喋るな!
いいか、オーバさんは良くも悪くも結構お喋りな上に嘘吐くのヘッタクソなんだよ。それでもって(見た目はああだけど)マジもんの四天王だ。四天王の勤め先はポケモンリーグ、リーグには四天王と誰がいる?」
「………………アッ」
この間の自分を
ゴルーグの決死の方向転換によって "私が変なテンションでやった腹話術" という私に対するちょっとしたダメージだけで完全に誤魔化す事に成功した。
大丈夫、これくらいの恥辱なんざ大した事ないさ。寝起きでボッサボサの頭のまま庭で欠伸しつつ水やりしてるところを……よりにもよってヒョウタさんに見られたこの間よりは……あっ無理これ以上考えたら泣く、むしろ吐く。やめよ。
「うっしじゃあジム行こうぜ。お前も一緒にな!」
「は……ご、ゴオォォォ!」
「(ポケモンなのに無理してポケモンらしく鳴いている感が拭えない……)」
鳴き声の前に当たり前の様に街を歩く姿も違和感 半端ないんですけどね。こればっかりはしょうがない。目の前の光景に肩を竦めていると、「移動するならエスコートして頂戴」と私の手を取って来たロズレイドに合わせてようやく歩き出す。歩いてるだけなのにゴルーグの地響きやべぇな、橋落ちない?大丈夫?
「(そういえばナギサシティのジムリーダーって、私が旅してた頃と変わってないから多分 "金髪のあの人" だよね……6年前はジムリーダーになって間もないって聞いたけど、今はシンオウ最強って言われてるらしいし、どんな感じになってるのかな……)」
実は私、リーグ公認ジムの現在のジムリーダーの半数以上に会った事が無い。
私がクロガネシティを出て旅をしたのは12歳になる年、もう6年以上も前だ。(トレーナーになる子供はリーグ推奨年齢の10歳ピッタリで旅に出るけど、私は養子だったし養母にも色々都合があったのでちょっと遅れてしまった)6年もあればジムリーダーも変わるってもんなんだろう。ヒョウタさんに出逢った頃に聞いたけど(私のトラウマかつ天敵の)トウガンさんはクロガネジムからミオジムに移ったらしいし、"辿り着くまでが鬼畜極まりない試練" で有名なキッサキジムは私と同い年くらい、トバリジムに至っては年下の女の子がジムリーダーらしい。
「(まぁジムリーダーだけじゃなく四天王も1人変わってたけど……
そもそもその頃もナギサジムみたいに若いジムリーダーはいたからなぁ。ナタネさんはテンションがそのままで大人になってたし、メリッサさんに至っては昔と何一つ変わってないのが逆に怖いんだよなぁ……)
ジムの手伝いとかでその内トバリジムやキッサキジムに行く事もあるかなぁ。ねぇレイドさん、シャンデラ」
「キュン、キュアゥン」
「ンッンーンゥーン」
「───って訳でそん時デンジが……おい、おーい、ロウ!人の話ちゃんと聞いてたか?!」
「んなぁっ聞いてます聞いてます。ミミロップみたいな "見た目が完全にメスのポケモンとして産まれたオスの気持ち" についてですよね」
「そんな哲学的な話してねぇよ!!
……でもそれ考え出すと下手したらちょっと嫌な気持ちになりそうだからやめろよ!」
考え事をしつつ話にツッコみツッコまれつつ歩いたお陰で割とすぐ着きましたナギサジム。
……着いたけど何か様子がおかしい。具体的に言うと、どう見ても "休業中" というか "閉鎖されている" 状態だ。
「おいおいまさかデンジの奴、リーグから来た通知忘れやがったのか!?ジム閉まってんじゃねぇか!」
「つかジムが閉まってるとか久々の光景なんですが」
「初めての光景じゃなくて久々なのかよ!経験者だったのかよお前!」
「オーバさんがいるとツッコミしなくていい(しかも今はゴルーグも黙ってる)から楽だわぁ……」
しかし不味いな。このままじゃ私のお給料が無い……いや、ゴヨウさんに会わせる顔がないぞ。大事な事だから言っておくけど、お金の為にここまで来た訳じゃないからね。畜生どこ行きやがったジムリーダー、私のボーナスはよ出てこい。
「ロウさんロウさん、ナギサジムのジムリーダーってあの方じゃありませんか?」
「えっどこ?どこにいんの!?
……って喋るなぁ!!!」
「うおっ急にどうした、デンジいたか!?」
あれ?ゴルーグの声、オーバさんに聞こえてない……?
「いきなり話し掛けて申し訳ありません!
これには訳がありまして、歩きながら考えていたのですが私 普段は "送信対象を無制限の状態" にした、いわば "拡張型のテレパシー" で喋っているんですよ。つまり拡張をやめて、送信対象を絞り込めば今の様にロウさんにだけ私の声が聞き取れる状態にできる、と先程 気付いたんですよ~」
「…………
それっ……っ!!!ッッッッッ!!!!!」
「
オーバさんには聞こえてない、つまりここでゴルーグにツッコめば私がいきなり1人でキレ出したという事になるので、言いたい事を堪えて顔と口パクで威嚇する。
「オォウ……ロウさんの顔が怖い……美形の威嚇ってなんでこんなに怖いんでしょうね」
「……!!!(知るかぁ!!!)」
「おっ、ロウ!デンジいたぞ、ほらあそこ!」
ナギサジム街の中でも結構高台にある。なのでジムリーダーこと「デンジ」さんを見付けたらしいオーバさんは必然的に橋の下を見下ろしながら指を差していた。その先を見ると……コンビニかどっか行っていたのか、そのご尊顔には似合わないレジ袋を持って呑気にトテトテ歩いている金髪のスターが。あーやっぱりちょっと老け、いや大人になられている。
「オォォォォォォイデンジィィィィィィィィィ!!!!!」
「うるっさ、うっさ!ちょっと街中で叫ばないでくださいよ声でけぇな!!」
その大声のお陰でオーバさんの存在に気付いたらしい。ちょっと鬱陶しげに顔を上げてこちらを見上げた瞬間、目があった。跳ねて地上に出てきてしまったコイキングみたいだった瞳が、途端に輝いていく。そしていきなり走り出した。
足早、足はっやいな!?なんだあのスピード流石でんきタイプのエキスパート。
「おいデンジ、お前どこに行ってオイオイオイ!俺をスルーすんな!!」
「……オーバ、こんな……こんなロボットどこから持ってきたんだ、詳しく聞かせろ!!」
……ロボット?
首を傾げて、なんとなくゴルーグを見上げる。ゴルーグも自分を指差しながら首を傾げてあっなるほどそういう事!?いや違うよ!?
「すいませんこいつポケモンです!イッシュにいるゴルーグっていうポケモンです!!ノーロボット イエスポケモォン!!」
「何っこれがポケモン!?海外にはこんなポケモンがいるのか……ちょっと調べさせてくれ」
「あっ何をするのですかっ、本ポケに許可も取らずに体に触れるのは如何なものかと!!私は人語を理解できるから良いものを、これが凶暴なポケモンだったらどうするのです危ないでしょう!!ああおやめください!封印は、封印の留め金を触るのだけはおやめください!!」
私が何か言う前にゴルーグをベタベタと触り始める。なんなんだこのジムリーダー……自由すぎる。そしてゴルーグはこんな時でも一応人間を気遣ってくれるんだな、優しいね……でも私にしか聞こえてないんだよねそれ。
ノールックでオーバさんに何か差し出したと思ったら、
「オーバ、アイス溶けっから冷蔵庫に入れてきて」
「ふっざけんなパシってんじゃねぇよ!」
そう言いつつ差し出された、ジムの鍵だろうか?それとレジ袋を引ったくって裏口にドスドス歩いていくオーバさん。優しいね……
「こいつが本当にポケモン……?どういう仕組みで動いているんだ……」
「アァーおやめください!うっかり何かが発動して、ビームとか出てしまいそう!助けてくださいロウさーん!!」
オロオロしながらもデンジさんに危害を加えない様に変な格好で固まっているゴルーグ。うーんこれはこの間のシロナさんによる誘拐未遂よりも可哀想だ。そして多分この人私の事 眼中に入ってない、声は聞こえてるけど認知されてない。
「ちょっ、ちょっと!ゴルーグがすごい困ってるし嫌がってるんでやめてもらえますか!?やめろって言って、聞けよ!!とりあえず離れ、ろ!!」
腕全体を使って胸板を押してデンジさんを突き放し、間に割って入っていく。
少々荒っぽくなってしまったがこれが最善だろう……うわぁなんですかその「誰お前 いたの?」と言わんばかりの目は。ええ ええすいませんね初めからいたんですわ。あ ん た が 気 付 い て な か っ た だ け で な ! !
「ゴルーグは私について来ただけでトレーナーは身内……別の人なんです、しかも今はクロガネシティにいるんで。後から何か言われるのも嫌なんで変な事しないでください」
「オォウ、ロウさん優しい……ありがとうございます、この御恩一生忘れません!!」
「今喋んないで頭混乱するから(小声)」
傍から見ると結構 剣吞なこの雰囲気をポケモンも感じ取っているらしい。シャンデラにぶら下がってゆらゆらしていたピカチュウが飛び降りて、私の足元で両手を広げて立ち塞がる。お、漢だ、漢だぜ兄貴ィ……でも可愛い、ピカチュウって最高だな。
ちなみにシャンデラの方はかなり迷惑していたみたいだ。ピカチュウが降りた途端すり寄って来た。ごめんな、女の子にぶら下がるなって後でピカさんに言っとくから。
「ほら、ピカチュウもやめろって言ってるじゃないですか」
「ピィカ!ビカッちゅっ、ぴぴぴ、ちゃあぁ~!!」
「いや今度は何してんだアンタ!!?」
何をしてるかと言いますと、しゃがみ込んで仁王立ちしたピカチュウの頬っぺたをモッチモチと。人のポケモンだっつってんだろ何してんだこの野郎。
自分でも予想外のスピードでピカチュウを取り上げる。何なのこの人、6年前とだいぶ印象が違うってか、別人なんだけど?!前はもっとヒョウタさんやナタネさんに似た様な雰囲気というかそういう感じだったと思うんだけど……
「そのピカチュウ、"ピカチュウのままで" 随分育ってるな。進化させないのか」
「そんなの人の勝手だろ!!
大方あんたも "ライチュウにした方が強い" とか言うタイプでしょ、"わかってますよそんな事" 。トレーナーであればポケモンは進化させてなんぼですからね……っなんです?」
じりじりと詰め寄って来て顔を近付けられる。お、なんだ喧嘩でも売る気か、ジムリーダー相手でも買うぞコラ。
「お前のピカチュウは良く育ってる、これなら進化させた方が今より、いや他のライチュウよりも圧倒的に強くなるだろう。それはお前も "わかってる" と来た。
俺が聞いてるのは "それでもピカチュウのままで育ててる理由" だ。何かこだわりがあるのか?それともブッ」
「あっ」
腕の中からスルスルっと肩の上に移動したピカチュウが「ピッカ!」と両手でデンジさんの口元を押さえる。似た様な事してるニャルマー見た事ある、これがネコチャン……いやピカチャンか?
というかなんでこの人嬉しそうにしてんの。でんきのエキスパートだからなの?こわ……と思ったけど確かにジムリーダーってこんな感じだわ、自分の好きなタイプのポケモンに構われると嬉しくなっちゃうのがジムリーダーの生態だったわ。
デンジさんの手が再びピカチュウに伸びた瞬間、私の体が浮かび上がった。
「いけません、いけませんよ!!未成年かつお年頃の女性に対してその様に不躾に近付くなど!ジムリーダーとは言え慎みを持って頂きたい!!
それにロウさんにはもう心に決めた殿方がいるのですよ!!!」
ピカチュウごとゴルーグに持ち上げられたらしい、大きな手に座らせられ頭の上まで持ち上げられる。デンジさんのつむじが……つむじどこだこの人。それにしてもなるほどこれが3.8mの、いやもっとか4m越えの景色。高いわ、そして意外と寒いわ。と言うかゴルーグ余計な事言ってない?そういうの言わなくていいから!!!
どうやらさっきのは私だけに聞こえるものではなく、拡張型のテレパシーだったらしく、デンジさんが目をぱちくりとさせた。これまずくない?ヤバくない??バレたくない???
「……今こいつ喋ったか?」
「幻聴です。まごう事なきどこに出しても恥ずかしくない立派な幻聴ですお疲れなのでは???ジムリーダーって忙しいですもんねぇ!!」
「アイスしまってきたぞ~っておわー!?何してんだ?!そんな高く持ち上げたら危ないだろ、ロウは仮にも女の子だぞ!!」
「誰が仮にもじゃい消火したろかコラ。
っていうか人ん家のアイス食ってんじゃねぇよ!ガ◯ガリ君似合うなぁ!!」
ガリ◯リ君を齧りながら戻って来たオーバさんがゴルーグの胴体を軽く叩く。
それにしてもゴルーグのお蔭で助かった。距離感わからんもんこの人。友達のオーバさんも大概だけど。オーバさんの言う事を聞いてか胸の辺りまで手が下ろされる。安定感がすごい、乗ってても平気だなって思えるこの安心感。やっぱりゴルーグ、100人乗ってもだいじょう……頑張っても3人しか乗れんな……
「なぁお前トレーナーカード持ってるか」
「はい?ああ、持ってますけど。あれ何処にしまったっけ」
しばらく荷物を漁ってから財布にしまっていた事を思い出してようやく取り出す、と同時にライチュウに奪われた。え、どこから来た誰のライチュウ!?躾がなってないぞこの野郎。
「サンキューライチュウ」
「あんたかよ!!人の物をポケモンに奪わせるなよ!」
「……ロウ……顔立ちもそうだがシンオウ人らしくない名前だな。カロスかその辺りの出身か?」
「アッハッハッハ、どっちも良く言われますけど、私は生まれも育ちもシンオウでしてよ。多分だけど。
……えっ隣のアフロが散々呼んでたのに今 私の名前 認識したんですか?マジンガー??」
「おい隣のアフロって俺の事かおい」
生まれは何処か全くわかりませんが育ちはシンオウですよ、そこは確実ですし。
トレーナーカードと私の顔をじっくり見比べられる。あーカードの写真 結構前のやつだもんなーとか思っていたら「でんきタイプみたいな髪色してんな」と呟かれる。それも良く言われますけどね、でんきタイプじゃねぇから。ただ単に生まれつきツートンカラーなだけなんで、金髪の中に黒毛混じってるだけなんで。
「シンオウリーグ殿堂入り……イッシュとホウエン、セキエイリーグは2回も行ったのか」
「ああはい。ホウエンからジョウトに行って、そっちのジムに挑戦したんですけどジョウトはリーグが無いから、ジムバッチ集めたトレーナーはカントーのセキエイまで行くんですよ。だからワタルさん……セキエイのチャンピオンに "ジョウトから来たんでカントーのジムバッチ全部集めたらもっかい来てもいいですか" ってちゃんと聞いてもっかい行ったんですよ。
何かやろうと思った時は相手にちゃんと確認しろって養母に教わったので」
「流石ロウさん、大人の教えをしっかり生かしていらっしゃるのですね!
あ、これは送信先ロウさんに指定しているのでご安心ください」
「指定してなかったらまたエナボ(※)とシャドボ(※)乱射するところだった(小声)」
(※エナジーボールとシャドーボールの略称の様です)
ニヤリと、まるで新しい玩具を見つけた様な悪ガキの笑みを向けられる。
あ、これ滅茶苦茶 嫌な予感。ゴルーグこのまま飛んで、いや飛ばないで、忘れてたけど
「よし早く中に入れ、バトルするぞ。オーバは審判な!」
「……ロウさんの実力がわかった途端 俄然やる気を出されましたね」
「何だったんだ
「文字数?何の話だ?」
「気にせんでください……」
さっきオーバさんに差し出したのとは違う鍵を取り出してウッキウキでジムの正面入口を開ける。えぇーもしかしてこの人、結構なバトルジャンキーだったりします……?
「まぁいいか、早く済ましてボーナス貰お……
じゃあゴルーグは外で待ってて。ボール無いからジムの中に連れて行けないし」
「畏まりました。ここでロウさんのご健闘を祈っております」
「?そいつのボール持ってないのか?」
「さっきも言いましたけどゴルーグは私のポケモンじゃないし、今回はついてきただけなんで。ついさっき同じ事 言ったんですけどねっ!」
この人私の事 認識するまでの話マジで聞いてないな……ていうかなんで連れて行くと思ってんの。私のポケモンじゃないんだって。
当のデンジさんはそれを聞いた途端 顎に手を当てて何かを考えて、
「じゃあ "あれ" 使うか」
またしても嫌な予感が。じゃあってなんぞ??