叔父さんのゴルーグの様子がやっぱりおかしい

【ゴルーグと異物】

詳細は省くが叔父さんのゴルーグがテレパシーで喋れる様になった。いい加減受け入れろよと心の中にいるもう一人の私が呆れているが、それでも私は受け入れない。無理、色々と。
だってほら、想像してみてほしい。
出掛けようとしたら3mを超えたゴルーグが体全体を使って全力かつ完全にドアを塞いでいるこの様子を。文字だけでは伝えるのが難しいこの状況カオスを生み出すゴルーグって何なの?

「何処に行こうと言うのですかロウさん!この私を置いて何処に!!」

「いや置いてくも何もお前 私のポケモンじゃないし、シュウと一緒に居なよ」

「オォウ何と言う事でしょうロウさんが冷たい、ゴルーグですがショックです……
では致し方ありません、ここを通りたくば私を倒してから行きなさい とおせんぼォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」



シャンデラがシャドーボールとエナジーボールを連射して無事に制圧した。シャンデラってタネマシンガンみたいにわざの連射できるんだなぁ、しかも2種類同時に。ちなみに念の為 言っておくとゴルーグはおしえわざでとおせんぼう覚えるけど、シュウのゴルーグは使えない。どうやら「そらをとぶ」と同じパターンらしい、詳しくは1作目を見て。
構ってちゃんなのか何なのかよくわからないけど何故 私に付きまとってくるんだろうか。トレーナーはシュウなんだからシュウの言う事だけ聞いていればいいのに。その肝心のシュウは「お前が心配なんだよ」とかしか言わないし、心配してるとしても心配の仕方おかしくない?

「少しくらい静かにしてほしいなぁ……つかあんなに喋ってたら人間だけじゃなくてポケモンだってビビるんじゃないかな、ねぇシャンデラ」

「ンー ンゥ~ンー」

同じゴーストタイプでも何かが畑違い(?)らしくぐるぐると回るシャンデラ。これは肯定してる時の回転ですね。事実 私のポケモンの何匹かはゴルーグを見て若干の怯えを見せていたり、バクフーンに至っては新種のポケモンだと思ったのかバトルを挑んでいた。やめろ死ぬぞ相性的に。

そんなやや鬱陶しくて騒がしさ倍増の日々の中、突然「野暮用でイッシュ地方に行ってくる」と言い出したシュウがゴルーグを含めた手持ちのポケモン達を連れて出て行った。
イッシュって事は数日かかるかなーと思っていたのにその日の夕方、家に帰宅すると既に帰ってきていたらしいゴルーグが、何故か広いポケモン用の庭の隅っこで膝を抱えて項垂れていた。 ……思ったより帰り早いな。
ゴルーグの傍らには元気付けようと声を掛けていたらしい、シュウのジバコイルとアーマルドが先にこちらに気付いて「こっちに来てくれ」と言わんばかりに鳴き声をあげる。

「ちょっ、ちょっと、どうしたゴルーグ。やっぱ流石にシンオウとイッシュの往復飛行はキツかったんじゃ……
どっか痛めた?ポケセン行った?」

「ギギギ、ゴオオオオ……?
あ、アあロウさンお帰リなサイマせ……いエ、体に異常ハあリマセんので、ドうゾオ構イナく……」

なんだ?何かノイズ?みたいなのが混じって、テレパシーなのにいつもより発する言葉が聞き取りにくい。やっぱりどっか調子悪いんじゃ……?

「いやどう見ても調子悪そうだぞお前。何かあったの?シュウに怒られた?」

「俺は何もしてないぞ」
「オッヒャ」

何時の間に背後に……しゃがみ込む私の頭を軽く撫でてから、シュウはその手で蹲ったままのゴルーグの腕を撫でる。

「やっぱり流石のお前も堪えたか、ゴルーグ」

「ソウイう訳デは……」

「何、イッシュでなんかあったの」

シュウを問い詰めると思い切った様に「実は」と話し始める。
何でもイッシュに行ったついでにゴルーグの故郷の「リュウラセンの塔」近辺まで立ち寄ったら(単体で活動してる事が多いポケモンなので、一度に複数体 出会えるのも珍しいんだけど)偶然野生のゴビット達に出会ったらしい。
そこでまぁいつもの様に

「おおゴビット!我が同胞、同士、同型機達よ!私達に初めましてはなかなかありませんから、必然的に久しぶりですね!私、こちらのトレーナー シュウさんのお陰で進化しましたよ!」

と、こんな具合にゴルーグは話し掛けていった。ゴルーグにとってそれは最早 "いつもの事" 、"日常" だったんだろう。
でもゴビット達は───不可解な、今まで出会った事がない生き物を見たかの様に、酷く怯えた。

「Αε2 7ζ 1tn5tvΩ 87σΔ?!」

「Σνγτχ? $tλ2θtm KμΓ%η」

「2gρ! Ετn#m Κχ%7!」

差し出された携帯の画面を覗き込む。シュウが何気ない思い出として撮り始めたらしい動画には逃げながら石や泥を投げ、何かを言っている様なゴビットが写っていた。

「当然人間俺達にはゴビット達が何を言ってるのかなんてさっぱりわからん。だがゴルーグはわかるからな。
……解るだろうさ、元はここでこいつらと暮らしていた、"ただのゴビット" だったんだ」

そういえばそうだ。シュウのゴルーグは別に「特別なポケモン」でも何でもない、至って普通の何処にでもいるポケモン、その内の1匹というだけで、トレーナーにゲットされて鍛えられたから進化しただけで。その普通のポケモンがひょんな事がキッカケ───トレーナーの思い付きで人語を話せる様になっただけ。
ゴルーグを嫌悪し罵っていたのかもしれないゴビット達だって、同じ様な特訓ことをすれば、もしかしたら。

「良いンデす、アの子達ノ反応ハモう少シ考えテイレバ容易に解ッた事デす。配慮が至ラナかっタダけ、ゴルーグなノニ情ケなイ限リデす……
シュウさンやロウサんト話せルノガ嬉シくて少し……ハしャギスぎてイた様です」

テヘッなんて言って首を傾げるゴルーグを見上げてシュウは黙ってその場を離れた。

「もう野生には返せないだろう。 ───言葉なんて教えるもんじゃなかったな」

私にしか聞こえないくらい、小さな声でそう呟きながら。

「……っ、あの、あのさゴルーグ」

「何でしョウ?ロウさん」

「あんまり普段こういう事 言わないから説得力無いけどさ、シュウって寂しがり屋なんだよ、多分、家族に関しては」

思い当たる節があるのか静かに肯定する。ポケモンにまで家族に対する溺愛ぶりバレてっぞシュウ。

「確カニ……お仕事ノ都合とは言え奥様や坊っちゃん、弟様ト離レてイル時は特に寂シそウデスね。シンオウにいる間は、ロウさん達がいらっシャるお陰かその様ナ事はありマセンが。ご家族との毎日ノお電話が終わった途端 燃え尽キテますからね、真っ白な灰に」

「えっ、毎日電話してんの?」

「しテマすよ。電話ヲ切った後 小一時間「帰りたい」とブツブツ言イナがら頭ヲ抱エるまでが1セットです。
ねぇルドくん」

同意を求められたアーマルドが、ぎゃうぎゃう鳴きながら頷いている。ちょっと視線を上げるとジバコイルも目を伏せながらうんうんと。マジかぁこんな時に身内のそんな話 聞きたくなかったな……まさかそこまでとは……

「いや、あの、うんまぁ……シュウもそういうところあるからさ(今知ったけど)
多分旅の中で話し相手がいるって良い事だと思うんだ。トレーナーなら誰でもポケモンに話し掛けてると思うけど、"会話する" のは流石に無理だからね。人、いやポケモン……うーんまぁいいや誰かと話すだけでも考えってまとまるものだし、その分 他のトレーナーよりシュウは得してるんじゃないかな……多分ね、多分」

「そうでしョウか……」

「そうだよ。ほらゴルーグも話してる内にテレパシーのノイズ減ってきたし」

「お、オお……?
お、おお、おおおお!?本当です!調子戻ってきました!!」

ゴルーグがいきなり立ち上がったせいで、側にいた(大型に分類されるポケモンである筈の)アーマルドがゴロンと転がる。背中を思い切りぶつけた様な音が聞こえたけど、アーマルドの皮膚は硬い甲殻に覆われてるので問題ない、多分ノー問題。

「ウオォォォォォォゴルーグ 完 ・ 全 ・ 復 ・ 活 !!今ならギャラドス100体に一斉に襲い掛かられても押し切れそうです!!!」

「大丈夫か死ぬぞタイプ相性的に。あと叫ぶなご近所迷惑だから」

「この広大なお庭があるお陰でお隣と結構距離ありますがそれでもダメですか」

ダメです。
まぁ元気出てよかったよかった。口八丁はこういう時 役に立つな。

「いやぁ今回の事で少し自分を省みる等してみましたが、やはり人間と話せるというのは良い事ですね!こうして人語での会話能力を得た事、後悔しませんとも。命の恩人でもあるシュウさんには感謝しかありません!
私の機能が完全に停止するか廃棄されるお暇を頂くその日までシュウさんのお傍を離れるつもりはありませんが、これからも全力でお仕え致しますとも!」

「……そっか。それ後でシュウにも言ったげて。
そうだ、元気出たついでにポフィン食う?今ならタダであげるよ」

「なんと!?私にくれるのですか?ポフィンを?!珍しい……ロウさんがとても優しい、感謝感激感涙です!と言っても涙は無いんですよね、ゴルーグですので!ゴルーグですので!!」
「しまったこれはこれでうるさくなってしまった」

ゴルーグにポフィンを渡したせいで自分にもちょうだいと言わんばかりにアーマルドがのしのし近付いてくる。シュウが手取り足取り肉体言語有りで力加減を教えてくれたお陰で、アーマルドだけは平気なんだよな……他の化石ポケモンは無理だけど。とりあえず1個あげておこう。

「……あれちょっと待って、ゴルーグって口あるっけ」

「うんまい!このポフィン コクがありますぞ!コクと言うより香ばしさですが台詞の言ってみたさが勝ってしまいました、ゴルーグでしたので。
いやー流石ロウさんポフィン作りが相変わらずお上手ですね!」
「食えんのかよお前 口どこだよ!!!」

「ぎゃーう (特別翻訳:ここにあるよー)」
「いやアーマルドの事じゃないから!!」

……しまった、気になったのに食う瞬間を見ていなかった。マジでどうやって食ったんだゴルーグ。



「そういや、イッシュでゴビット達と出会った時なんで人語で話し掛けたの?ゴルーグ語(?)でいけばよかったじゃん。アーマルドそれ焦げたやつだから食べないで」

「いやぁー正直 元の交信言語使うより人語の方が遥かに楽なんですよね。ゴビットによっては警備区域が1つ変わるだけで標準設定されている言語がマルっと変わったり、古代人主人がいなくなったせいでゴビット同士で新しい言語を生み出して、基本的な交信すらできなかったりするんですよー その点、人語であれば理解できない個体はまず存在しませんし語弊、誤解を生まず問題なく通じると考えた次第です。
……まぁよく考えると、私が知る限りこれまで人語をゴビット、ゴルーグ同士の "交信言語に設定した" 創造主はいませんでしたので、今回は裏目に出てしまいましたね」

「なんだろう、AIにも通じる何らかの闇を垣間見た気がする。ていうか、前から思ってたけどゴビットとゴルーグお前らってほんとにポケモンって事にしていいの……?
ところで人語は交信言語じゃないって事は標準設定……でいいのか、設定されてるのは所謂 古代の言語みたいなもんで今の言葉とは全然違うって事?」

「ええ、そういう認識でよろしいかと」

「……お前、それシロナさんに知られたら今度こそ監禁されるかもな」
「ヒエッ」
4/7ページ
スキ