七夕伝説の様になりて
「いつ、復帰なさるおつもりで?」
「もうかれこれ産休と育休をお取りになられて一年半は経ちましたよね?」
一国のキングを掴まえて、呆れたように苦言を呈しているのはキング直属の四天王リーダーであるクンツァイト。そしてその妻で、クイーン直属の四守護神リーダーのセーラーヴィーナスだ。
互いにリーダーという地位にいる為、前世から主には何かと振り回されている苦労人である。誰より主のことを考えているが故、嫌な役も度々引き受ける。
そんなリーダー二人はこの日、キングがクイーンの為に取得した育児休暇が一年を超過した事に呆れ、言及する事にしたのだ。
「後……このくらい?」
二人に問われたキングは、観念した様に手を出し、指を一本、二本と立てていく。
「二日、ですか?」
「或いは二ヶ月といったところでしょうか?」
キングの立てた指の本数でどれくらいで復帰するか、声を出して推理するクンツァイトとヴィーナス。
後二ヶ月なら我慢出来るかと互いに心の中で黙認しようと考えていた。
しかし、次の瞬間キングから発せられた言葉に二人は衝撃でブチ切れる事になった。
「いや、二年だ!」
聞き間違えか?二人はそう思い、互いに顔を見合せた。
「今なんと?」
「二年と聞こえたのですが、聞き間違えですか?寧ろ、言い間違えてませんか?」
言葉少ななクンツァイトに対し、ヴィーナスは、畳み掛けるように言葉を投げかける。
「いいや、言い間違えてなどいないさ。後二年は育児休暇を取る!」
クンツァイトとヴィーナスの問いかけにキングは悪びれること無くあっけらかんと答える。
その言葉を聞いたクンツァイトは眉間に深く皺を刻み、重いものを挟んでも落ちない程頑丈そうな形で固まってしまう。
「何てことを仰るのですか?」
ヴィーナスはというと信じられないと呆れ返り、大きな声を出してしまう。
ただ、ヴィーナスとてキングの気持ちは何と無く分かる。クイーンと言えど、元は月野うさぎ。ドジでおっちょこちょいで危なっかしいところは昔と変わらない。
そんな彼女が第一子妊娠と聞いた時から支えなければとすぐに二人して産休を取った。元々同じ職場で働き、公務もほとんどいつも一緒。そんな二人は産休中もずっとべったり。
プリンセスが産まれ、ましになるかと思いきや益々一緒にいるキングとクイーン。
産休や育児休暇は正当なる休みだ。一国のキングとクイーンが率先して取ることで一般市民も取得しやすくなる。見本を見せると言う事では理にかなってる。
しかし、こうも堂々と後二年休むと言われると国政が回らない。
「まぁ、気持ちは分からなくは無いですが……」
深い溜息をつくヴィーナス。
そんなヴィーナスは戸惑っていた。地場衛としてうさぎを置いてアメリカの大学に一年以上留学をして離れ離れになっていた。夢の為に熱心に勉学に真摯に向き合っていた地場衛時代を見ていた。
それなのに、結婚をしてクイーンに子供が出来た途端その真面目さはどこに行ったのか?と問いただしたくなるほど凋落した。
常にクイーンとプリンセスにべったり。
留学で離れた反動か。それとも罪滅ぼしか。はたまた性格か。或いはその全てか?
元々地場衛は月野うさぎに甘かった。激甘!
地場衛と違い、月野うさぎの方は元から頑張ることが苦手な怠け者。これではクイーンとしてせっかく威厳も出てきて頑張っていたのに、長期的にキングが休むと悪影響を及ぼす。元の月野うさぎに戻ってしまうとヴィーナスは危惧していたし、この二人の独身時代と結婚して今の状況がまるであの伝説の二人と類似しているとヴィーナスは考え、頭を抱えてしまった。
「プリンセスの成長を見守りたいと言う気持ちと、クイーンが心配で助けたいと言うキングの気持ちは理解しております。ですが、セーラーカルテットがプリンセスの側近としてクイーンの手助けをしてプリンセスの世話をしてくれます」
「それは、分かっているがやはりきちんと育児をしたい!」
ヴィーナスは説得を試みるが、キングも中々に頑固で食い下がろうとしない。
「今のあなた方はまるで七夕伝説の織姫と彦星の様ですね!このまま怠け続けて本当に二年育休を取るおつもりならコチラにも考えがあります!」
食い下がらない頑固なキングに、ヴィーナスは怒りを爆発させる。
「……か、考えって?」
キングが聞き返すと、クスッと不敵な笑みを浮かべて口を開ける。
「天帝がそうしたように、愛の女神である私が織姫と彦星と同じ様に離れ離れにさせて一年に一度しか会わせない様にしますよ!」
ほら、織姫と彦星も夜空に輝く星で、キングとクイーンも前世は地球と月を守護に持つ人達なのだから同じで調度良いでしょ? とヴィーナスは尚も笑顔を崩さずとんでもないことを提案してくる。
そんなヴィーナスの提案にキングは焦りを見せる。
「そ、そんな……本気、なのか?」
「マスター、彼女は至って本気です。観念なさって下さい」
「ど、どうすれば?」
「二年の育児休暇を撤回して、三日後から働いて下されば最低限のお咎めで手を打ちましょう」
「お咎めは、免れないのか?」
ヴィーナスの言葉に動揺を隠しきれないキング。
「ええ、何せキングにしか出来ない書類仕事が山の様に溜まってますから」
尚もニッコリと笑顔で恐ろしい事を口にするヴィーナスにキングはゾッとする。
たったの一年半程しか休んでいなくても、書類仕事は溜まるのかと想像するだけで恐ろしかった。
「一体、どんなお咎めだ?」
「一ヶ月、エリュシオンにあるゴールデン・キングダムで住み込みで働くで手を打ってあげますよ!」
「勿論、連絡は一切取らせません!」
「大丈夫ですよ?クイーンとプリンセスの面倒はカルテットと私で見ますから」
ヴィーナスのみならず、クンツァイトまでも恐ろしい提案をする始末。キングは衝撃で固まった。
その後、ヴィーナスから愛の天罰を下されたキングは一転、今までで一番暗くなり、逆にクンツァイトとヴィーナスは上機嫌で楽しそうだったと城の部下が噂していたと言う。
END
2023.07.07 七夕の日
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