1/3の純情な感情
ただずっと、こうして見ているだけ。それだけで良かったのに、どうして止められなかったのだろう。
傍にいられる。それだけで満足だった。
身分違いの恋。分かっていたから、この想いは自分自身の心の中だけに留め、ひっそりと温めるだけ。
いずれあなたはこの王国の、地球国の王様として君臨する。
妾は、それを傍で占いで成功する様導く役割で、ただの占星術師。
王子には、正当なフィアンセがいる。
この王国を統治するに相応しいそれを支えるちゃんとした女性が、昔からいる事は知っていた。
だからこそ、この想いはずっと秘めておこうと決意していた。
しかし、あの日あの時に見てしまった事により、全てが台無しになってしまった。ーーー王子と月の王国の血を引く者と逢瀬をしている。
にわかには信じがたい光景だった。
だが、今までに見た事もない王子の幸せそうな顔を見ると、二人は特別な関係にある事が見て取れる。
どうして……何故、絶対的な神の掟である“地球と月の者は通じてはならない”と言う禁忌を犯して長くは続かぬ恋をしているのだろう?
この国と、王子の幸せの為にひっそり封印しようとしていたこの想いは一体何だったのだろう。
こんなに苦しい想いをするくらいならば、成就出来ないと分かっていても“愛している”と伝えていれば良かった。
長くは続かないとしても、王子と恋人になる未来があったかもしれない。
“お慕いしております”
この一言を伝えられない。伝えていないだけで、こんなにも苦しい想いをするとは思いもしなかった。
言葉にして伝える事は大切な事だと、思い知らされた。
そしてそんな行き場の無い想いが、間違った方向(みち)へと行ってしまうとは思いもしなかった。
飛んでもない悪魔に身を売ってしまった。
しかし、後悔などしていない。後悔しないためにこの身を売ったのだから。
ずっと、妾はずっと傍で王子を愛して来たのだ。
突然出てきた遠くのヤツに取られるなど、しかも月の王国の者になんぞ王子はやらぬ。
妾の方が長く近くで見守り、愛し続けてきたのだ。離れた場所で、パッと出の他の王国の姫などに王子を幸せになど出来るわけが無い。
そう、王子はあの容姿に騙されているだけ。王子の目を覚まし、幸せに出来るのはこの妾だけだ。
王子の心を、月の姫から取り戻し地球国の王子としての自覚を目覚めさせる!
月の王国の者共を殺しに、いざ、月へ!
END
2022.11.27
SIAM SHADE「1/3の純情な感情」発売から丸25周年記念