悔しさを胸に抱いて(ウラセレ)
たった一つの恋で今、月の王国が終わろうとしているーーー
あの日、招かれざる客によってかけられた呪いが本当に実現する未来を迎えるなんて……
“この王国はやがて滅びる。美しい王女は王国を継ぐことなく死ぬ”
プリンセスの誕生祝賀パーティに、月の裏から来た影を纏った悪魔の言葉。
自分だけ招かれなかった嫉妬からか、クイーンから銀水晶で封印される直前に苦し紛れに放たれた言葉。何の確証も無い。ただの言葉だったはずだ。
なのにクイーンは、この言葉を重く受け取った。
祝賀パーティ終了後、王国が滅びる事を恐れたクイーンは、滅びないようにと様々な対策を講じた。
そのうちの一つが滅びの戦士の異名を持つセーラーサターンの本格的な配属。
力が強すぎる為、その守り人として力を抑える役目をと僕を始め、ネプチューンとプルートにより強い武器ーーータリスマンを託し、それぞれ外敵から太陽系、そして月の王国を守る様命じた。
その日を境に僕達は、月の王国やそこに伝わる聖石ーーー銀水晶を守る為に一人孤独に遠くから月を見守る日々が始まった。
僕は一人孤独に見守りながら、クイーンが何故そこまであの言葉に脅えているのか理解出来ないでいた。
あの日見たクイーンと銀水晶の力は絶大で、向かう所敵なしと言ったところだ。この力を前にどんな敵も敵わないと悟った。勿論、僕もその内の一人だ。
例え反復を翻す奴がいたとしてもその力を前には誰も敵いはしない。銀水晶もクイーンも、とても強い。
だがもし、外敵から銀水晶を狙い、月を滅ぼしに誰かやって来た時は容赦なくこのスペースソードで殺ってやる!その覚悟をセーラーウラヌスとして月の王国を守る戦士を始めた時から覚悟はとうに出来ていた。
だがしかし、誰がプリンセス自体が災いを齎し、滅びるなどと予想しただろうか?
誰が、太陽系の内側からの、強いては太陽が災いを生み月の王国が終わりを告げると考える?
僕は予想だにしていなかった。
まさかたった一つの恋で、永く繁栄していた美しき王国ーーーシルバーミレニアムが滅びるなど、あるはずは無い。あっていいはずがない!
助けに行きたい!そう願っても、僕たちはクイーンの絶対的命令により、ここを動く事すら許されない。
太陽系外からの侵略者によって攻撃されているのなら僕たちの役目だから動けるだろう。戦えるだろう。
だがこれは太陽系の内側で起こっている事。
事もあろうに月の王国の侵略者は地球人だ。手を出す事は出来ない。
月の王国の次に大切にされてきた地球の王国。まだまだ未熟で長寿では無いが、いずれは大きな王国となる。それまで黙って見守る事を命じられてきた。
そのため、“月と地球の住人は、通じてはならない”と言う神の掟がある。
それなのに、好奇心旺盛な我らがプリンセスと来たら、地球へ降り立っただけでなく事もあろうか地球の王子と恋仲に。
お互い分かっていたはずだ。この恋は長くは続けては行けないことを。
しかし、別れることが出来なかった報いなのか、月を滅ぼしてでも来世で一緒に生きて行きたいのか……
ネヘレニアの呪いの言葉は現実となり、今正に月の王国は終わろうとしている。
クイーンはあの日以来の銀水晶解放をし、必死の思いで諸悪の根源ーーーメタリアを封じ込めに成功。
しかし、結局プリンセスは死んでしまい、王国も元に戻す事は出来ずにいた。
これまでか……そう思った瞬間、タリスマンから光が解き放たれ、僕の身体を包んだ。
眩しくて目を閉じ、次に開けた時にはネプチューンとプルートがいた。あの日以来の再会だ。ーーー決して嬉しくはない、喜べない再会。
「滅びの戦士の召喚、と言うわけか」
「とうとう本当に、この日が来てしまったようね」
「せっかくの再会が、こんな形になるなんてね……」
それぞれがそう重い口を開けて最後の言葉を交わしたその時だった。
再びタリスマンが光を放ち、封印が解かれセーラーサターンが現れた。
彼女は容赦なく沈黙の鎌を振り下ろし、全てを無に帰した。
「この世界に終焉をーーーデス・リボーン・レボリューション!」
死にゆく中で僕は、何も出来ずただ見ている事しか出来なかった自分自身を呪った。
クイーンの命令は絶対!
しかし、もしもう一度セーラーウラヌスとしてプリンセスや月の王国を守る戦士が出来るなら、今度は遠くからでは無くもっと近くで自由に守りたい。
そんな柄にも無いことを願いながら僕は、永遠の眠りについた。
END
2022.11.08
天王星食の日