手紙~現在~(ゾイ亜美)
ーーー9月10日、亜美の誕生日当日。
試行錯誤をしながらも手紙は書き上げた。
誕生日と言う事もあり、結局そう言う感じの在り来りな内容に落ち着いてしまった。
しかし、このベタな誕生日レターが吉と出てくれることを彩都は願った。
誕生日プレゼントも買った。
手紙よりこっちの方が何故か簡単に決まった。
亜美と一緒に月見がしたかった彩都は、土曜日と言う事もあり、夕方に亜美のマンションへと向かった。
どうせ早く行ったところで医者志望の亜美は机に向かってひたすらに勉強している事だろう。
そんな彼女の為に、今日も普通に仕事をしている彼女の母親に変わり、夕飯を適当に買って用意してやる。
「亜美、お誕生日おめでとう」
マンションもとい、億ションへと着いた彩都は、早速亜美に祝いの言葉を送った。
「ありがとう」
「何してたの?勉強?」
「ええ」
当然と言わんばかりの返答に、やっぱりと言った感じで彩都は苦笑いで呆れた。
期待を裏切らない子である。
「自分の誕生日にまで勉強か……」
「良い医者になりたいんですもの」
志が高いのは買うが、息抜きも必要だろうと彩都は感じた。何だかやせ細って見える。無理しているのではないかと、心配になる。
「たまには癒しも必要よ。今日は中秋の名月。一緒に見ましょう」
「ええ」
勉強の片手間で3食する亜美の為に、ファーストフードで買った夕飯。月を見ながらも手軽に食べられると考えての事だった。
「誕生日プレゼントと夕飯よ」
「ありがとう。良い匂い」
プレゼントと夕飯を亜美に渡しながら、家の中へと入っていく彩都。
「食べながら見ましょう」
お腹が空いていたのか、午後六時過ぎになると夜も更けてきたので月も綺麗に見えてきた。早々に夕飯にしようと亜美は、ベランダのある部屋へと彩都を招いた。
「月が綺麗ね、亜美」
「キザですね、彩都さんは」
言葉の意味を瞬時に理解した亜美は、サラッと交わす。
回りくどいとはいえ、愛の告白をしてしまった彩都。ハッとなり、彼女の体が心配になってチラッと見てみる。
「大丈夫そうね」
「え?」
「蕁麻疹よ」
「ああ、本当ですね。これくらいの回りくどさなら良いのかも」
ロマンティックな雰囲気では無かったことも要因してか、蕁麻疹は出ておらず彩都はホッとした。
しかし、プレゼントと一緒に入っていた手紙を手にしたらどうだろうか?きっと又、全身に出てしまうだろう。
「こうして一緒に月見しているのは、感慨深いわね」
「月は見上げるのではなくて、住む所でしたからね」
「もう亜美はあそこに帰らなくて良いんだね」
月よりの使者は、プリンセスの護衛が終わればそこへと帰っていってしまう。
その後ろ姿を見送り、毎度切ない思いをしていたゾイサイト。その隣では、もっと思い詰め王子がいたから、その態度を表に出すことはしなかったが、見送るのは辛かった。
「ええ、今はここが私の居場所」
月を見上げ、亜美は笑顔でそう答えた。
今は月へは帰らない。ずっと地球にいる。
それは揺るぎない事実。例え、未来で衛とうさぎがキングとクイーンになったとしても、地球でクラスという事が決まっている。
それは、彩都にとってはとても安心するには充分なほどの事実だ。
「一生、離さないからね!」
ロマンティックな雰囲気になりかけたが、蕁麻疹の事が頭を過りキスするのを彩都はグッと堪えた。
「プレゼント、開けてみて」
理性と戦い、やっとの思いで切り替えプレゼントを開けるように促す。
「ステーショナリーセットと、手紙?」
彩都が渡したプレゼントは、日頃勉強ばかりしている彼女がいつも持ち歩いてくれそうなものだった。
筆箱、シャーペン、消しゴム、色ペン等など。そこに加えてノート数冊と為になりそうな参考書と医学書。亜美が気に入りそうな青色で固める。
「レターセットまで?」
そして極めつけがレターセット。
ラブレターで蕁麻疹が出る体質の亜美。
考え抜いた最終結果が、レターセット。
手紙を書いて交換すればいいのでは無いか?
交換日記ならぬ、交換レター。
これで慣れて貰えれば、と彩都は閃いた。
少しづつ、一歩づつ。そう考えた結果だ。
「手紙を交換して蕁麻疹治してみたらと思ってね」
「ごめんなさい。変な体質で」
「謝るのは無しよ!元は私がまいた種。自分でケリをつけなきゃ!」
「彩都さん……」
「あ、その手紙は私が帰った後で読んで。まぁ誕生日だからベタな事しか書いてないけど。じゃあ、私はこれで帰るわ」
彩都は、単純に目の前で手紙を読まれる事が気恥ずかしかった。
そこに加え、その手紙を読んで蕁麻疹が出て苦しむ亜美の姿を見るのも辛かった。
この手紙とレター交換で少しづつでも治ってくれればと願わずにはいられない彩都は、中秋の名月である満月に祈った。
「亜美の蕁麻疹が、完治しますように」
END
2022.09.10
水野亜美生誕祭&中秋の名月