手紙~現在~(ゾイ亜美)
「まさか、私自身だったなんてね……」
亜美から衝撃の過去を聞かされた彩都は、家へと帰ってきて独り言ちる。
ラブレターを贈り、蕁麻疹を作る元凶になったのが、まさか自分自身だとは思わずついうっかり聞いて後悔することになるとは。
他人であれば、そいつを詰る事も出来ようが、自身ともなると話は別。怒りの矛先を向けることも出来ない。
「どうすればいいかしら……」
考えた所で妙案など浮かぶはずも無く、行き詰まる。自身の行いとは言え、昔の事。昔は昔、遠い昔の前世の出来事。
過去の自分に会いに行って説教する訳にも行かない。
ならばどうする方が良いのか?思案を重ねる。
「やっぱり、これしかないかしら?」
色々考えた末、彩都が出した答えはこれだった。
「私からも手紙を書けばいいのよ!」
そうだわ!何故これにたどり着かなかったのかしら?と閃いた名案に彩都は、縋り着いた。
眼には眼を歯には歯をと言う諺がある様に、手紙には手紙をと言う事だ。
手紙で出来た傷は手紙で治すのが一番だと彩都は考えたのだ。
「でも、ラブレターだとまた蕁麻疹が出るし……」
蕁麻疹を治さなければならない荒療治。
出る事を想定して覚悟の上で贈らなければならないが、可愛い恋人。そんな愛しの恋人に痒い思いはさせられない。それが彩都の想いだった。
「好意のある男性から、意味を持つ内容の手紙だからダメなのよね。多分」
ラブレターと思われないただの手紙であれば良いのか?と考えるが、それがまた中々に難しい。
いざ考えると、ラブレターと普通の手紙との境界線が分からない。
「女友達感覚で書くってのもありかしら?」
男として書くとどうしても色恋になってしまう。なら、女として書けばどうか?逆転の発想である。
しかも都合のいい事に彩都は女装の麗人で、得意分野。まさかこの為に女装家になったのでは?
全ては過去で犯した自身の行いを自分で解決する為に導かれた運命では無いかと思い始め、俄然燃えてきた。
「よし、書くわよ!」
女装をして机に向かう。
意気込んだものの、いざ女として書こうと思っても何を書いても普通の手紙には仕上がらない。
千里の道も一歩からと言う諺がある様に、少しづつ治すしかないのか?と悟りの境地になる。
「そう言えば、亜美の誕生日が近いわね」
手紙を書きながら彩都はふともうすぐ亜美の誕生日が近い事に気づいた。
「このチャンスを逃す手はないわね!」
手紙の内容がどう転んでもラブレター寄りになってしまった彩都。
そんな中、カレンダーをチラ見すると都合のいい事に亜美の誕生日と書かれている9月10日が目に入ってきた。
プレゼントと共に手紙を渡す。これは結構当たり前でも、中々にハードルが高い。彼女の誕生日にそれを出来ている男性がいるだろうか?
そう思い付いた彩都は、藁をも掴む思いで実行する事にした。
「あら、今年の中秋の名月は亜美の誕生日と被るのね」
そう言えば今年の中秋の名月はいつかしら?
ふと気になり、調べると亜美の誕生日とダダかぶり。これはある意味好都合。
彩都にとってこれ以上無いほど良い方向へと向かっている。
まるで頑張れと後押ししているかのように。