ある日のフルーツパーラー“CROWN”で


学校終わり、今日も私は父が経営する“フルーツパーラーCROWN”へと向かう。客では無く、バイト。
社会勉強を兼ねてやっているけれど、結構楽しい。
周りにはオーナーの娘だとバレているけれど、だからと言って誰も特別扱いや媚びたりして来ない。楽な環境になっている。

TA女学院の制服からウェイトレスへとチェンジ。
時間になったからバイトを開始する。
店内を見渡すと、ある人が目に入ってきた。私は一目散にまっすぐ、その人が座っている席へと移動する。

「元くん、いらっしゃい」
「宇奈月、そろそろかと思って」

元くんこと、兄の元基だ。暇さえあればここに来る。
兄もバイトだけど、大学生だから私より早く終わる事もしばしば。こうして私の事を待っている。
……ったく、シスコンなんだから!

「レイカさんは、いいの?」

そう、兄は今絶賛片想い中。ううん。私から見たらもういつ付き合ってもおかしくない。そんな雰囲気の二人だ。
レイカさんは女性だから、告白して欲しくて待ってるんだろうけど。肝心要の兄は謎の奥手で、中々進展しない。

「レイカさんも来るんだ」
「やっと付き合い始めたんだ?」
「いや、まだだけど?」
「全く、何やってんのよ!」

呆れた。大学生になってもこれ。もう誰がどこからどう見ても良い雰囲気なのに!
本人が告る勇気ないのは、問題よねぇ。
片想いし始めてから一体何年経つんだか。
その間に私が恋人出来ちゃったじゃない。
元くんの周りでもきっと何組もカップルが出来てるんじゃないかと思う。人それぞれペースがあるとはいえ、歯痒い!
これは何とかしなければ!!!

「ごゆっくり♪」

イライラしている心とは裏腹の言葉を言い残し、私はその場を立ち去った。
暫くはウェイトレスの仕事をこなしていると、レイカさんが入って来るのをチラッと映る。
二人とも笑顔で楽しそうに談笑していて、幸せそう。
やっぱりどこからどう見ても恋人の雰囲気そのもの。妹の私から見たってお似合い。
これがまだ御付き合い始まってないと周りの人に言うときっと驚くわね。

「レイカさん、いらっしゃい」
「宇奈月ちゃん、ご無沙汰ね」

兄がトイレに立った隙を見て、レイカさんにご挨拶。話しかけるとにっこり笑顔で返してくれる。素敵な人。
私はとっくにこの人が義理の姉になっても上手くやって行けそう。そこまで妄想出来ている。なのに兄は告白さえまだ。

「また、遊びに連れて行ってくださいね!」
「ええ、宇奈月ちゃんさえ良ければいつでも」

そんな私とレイカさん。実は兄を差し置いて何度か二人で遊んだことがある。
やっぱり同性だから何かと馬が合うし、楽しいのよね。後はやっぱり兄との関係が気になって探る事も忘れていない。
レイカさん自身だって私から兄の情報は知りたいはず。現に色々二人で兄の事をしゃべたりしているし。ーーーウィンウィンって奴ね。

「元くんとは、その後は?」
「ううん、全然!進展なし!現状維持よ」
「すみません。奥手な兄で。尻、叩いときますので」
「あはは、いいわよ。私も古幡くんからの告白を待っているのも悪いのよね」
「そんな事ないです!男の人から告白されたいと思うのは女性として普通の事ですから」
「そう、よね。宇奈月ちゃんありがとう。元気出たわ」
「いえいえ、それじゃあごゆっくり♪」

兄がトイレから戻ってきた事を確認した私は、その場から立ち去った。
レイカさんが告白して欲しい気持ちはよく分かる。 恋愛に置いて惚れた方が負け。告白した方が負け。そんな暗黙の了解みたいなところがある。
レイカさんはそうなるのが嫌なのかもしれない。
二人が恋人になるのはいつかは分からないけれど、暖かく見守るしかないみたいね。


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