クリスタル・パレスにて(クンヴィ)
「ああ、やはりゴールド過ぎるのは如何なものかと思ってな。ゴールドはマスターだけで十分だ」
ここに来ても主推しを貫くクンツァイト。側近のリーダーとして奥ゆかしく、目立たない様と控え目な色を提案していた。
「主おもいね?でも、その色、逆に目立ってるわよ?」
「やはり目立っているか?」
「ええ、軍服がシルバーでしょ?真逆で、色が浮き彫りになっているのよね。それに……」
「それに?」
ヴィーナスは痛い所を着いてくる。そのヴィーナスが、言葉を言い淀む。
クンツァイトは続きを促すように、同じ言葉を食い返した。
「その色、なんて言うか……うんこ色っぽいのよね。美しくないわ!」
「う、なっ」
ヴィーナスの衝撃の単語に、クンツァイトは絶句し言葉が出なくなってしまった。
よりゴールドに近い色にした事で、裏目に出てしまったようだ。
しかも、美の女神であるヴィーナスその人に“美しくない”と大否定され、挙句にこの世で最も醜い単語を口に出させてしまった。
「こ、これは銅の色だ!断じて、その様な醜い色では無い!」
「銅……ねぇ?どう見てもうんこ色なのよね……」
最早、躊躇すること無く醜い単語を連呼するヴィーナスに、クンツァイトは頭を抱える。
「前の色の方が良かったなぁ~」
人の気も知らず、そんな事を口走るヴィーナス。
「この色の良さが分からんとは……」
「分かりたくも無いわよ!前の色は私が大好きなシルバーでお気に入りだったのよ?あのシルバーマントに包まれたい、なんて夢を持つくらい」
こっちの方の気持ちのが分かってないとばかりにヴィーナスは残念な理由を口走る。
「そんなにあのマントが好きだったとは知らず、すまん」
「良いわよ。プリンセスとクンツァイトの色だから好きだっただけだから」
こっちこそ変な事言ってごめんねとヴィーナスは続けて謝った。
「でも、どうして銅なの?」
「オリンピックの色を参考にしたまでだ」
「ああ、金銀銅?」
「ああ、金はマスター。銀はクイーンで、その下に銅の俺たち四天王と言うわけだ。縁の下の力持ちって所だな」
「あーあ、自分で言っちゃってるわ」
じゃあその考えで行けば私たち四守護神もその色の何かを身に付けなければならないのかとヴィーナスは一瞬、嫌な事が頭の中を過ぎった。
言おうとしたが、その唇はクンツァイトの口によって塞がれている事に気付いたのは、数秒後の事。
久しぶりの口付けに、静かに瞼を閉じて暫し受け入れ、ロマンティックな時間に浸る。自然と深くなり、激しくなる。
「そんな格好でウロウロするな」
身体を重ね合わせた後、あられも無い格好でウロウロし始めたヴィーナスにクンツァイトは呆れる。
「これを羽織るといい」
そう言って差し出されたのは、クンツァイトが先程まで羽織っていた例のマント。
「それは嫌!」
うんこ色と揶揄したマントを羽織ることだけははばかられた。どうにも抵抗がある。
これを羽織るくらいであれば裸の方がまだマシだ。
「何故だ?マントに包まれたいと言っていたでは無いか?」
「それは前のシルバーマントに限るわよ!こっちは無理!」
断固拒否の姿勢を示し、崩さないヴィーナス。裸のままで腕を組み、睨みつける。
「何故だ?う……んこ色だからか?」
ずっと言うことに対して抵抗があった言葉。少し言い淀みはしたが、クンツァイトは意を決して言ってみた。
「そう、何か臭ってきそうだから嫌よ」
「臭ったりせん!もしも臭ったとしても、仕事で流した汗で、かっこいいものだ」
神聖なるマントに対して、散々な言い草のヴィーナスにクンツァイトはムキになってしまった。
事後の出来事とは思えない程、ロマンスとは程遠い会話にクンツァイトは嫌気がさしそうだった。
「お二人共、仲良しですわん♪」
セレスは一人、そう呟いた。
クンツァイトとすれ違ってから気になり、後を着いてひっそり外で聞き耳を立てて聞いていた。
2人のやり取りは、セレスには仲良しそのものに見えていて、第一子の誕生は近いとセレスは確信していた。
END
2022.09.03
クン美奈の日