クリスタル・パレスにて(クンヴィ)
「クンツァイト様、お久しぶりです」
彼女の主であるスモールレディと同じピンクの可愛い髪の毛を特徴に持つセレスに、その男は呼ばれ、ああ、と短く返事をした。
「ヴィーナス様でしたら、ご自分のお部屋にいらっしゃいますわ」
クンツァイトは特に何も聞いてはいない。それにも関わらず、見透かした様にすかさずセレスは答える。
少し表情を変えたクンツァイトは、立ち止まることなく前方にいたセレスとすれ違った。
振り返ってクンツァイトを見たセレスに、振り返ることなくヒラヒラと手を振りその場を後にした。
「相変わらずクールですわん」
女性慣れしてないとも言うが、口数は元来少ない方であるクンツァイト。
誤解も受けやすいが、一部の女性からはそのクールさでモテている。
知ってか知らずか、ずっとこのスタンスを貫いているクンツァイトの目には、いつの時代も一人の女性しか見えていなかった。
トントントン
その女性の待つ部屋の前に到着したクンツァイトは、扉を叩いて来た事を告げた。
「はーい、開いてるわよ~」
中から明るい声が、より一層楽しそうにテンション高く聞こえて来た。
開いていると言われたのでドアノブを捻り、扉を開いた。
「失礼する」
「クスクスッ」
真面目に挨拶をしてきた久しぶりの夫に、相変わらずだとヴィーナスは思わず笑い声を漏らす。
「何だ?」
入ってきただけで笑われ、まるで何も分からないと言った様子のクンツァイト。
「相変わらず真面目だと思って」
妻の部屋なんだから挨拶なんて必要無くない?とヴィーナスは指摘する。
言われればそうだが、やはり自分以外の、それも女性の部屋。礼儀は紳士として弁えたいところだ。
「お前が不真面目過ぎるだけだろ?」
対照的に真面目とは程遠いヴィーナスを指摘する。
価値観や性格が真逆な二人。真逆だから惹かれ合い、上手くいっているのかもしれない。
「そう?硬っ苦し過ぎるのよね……」
自分には無いものを持っているクンツァイト。そこを好きになったと言っても過言では無い。その真面目さが好きで、参考にしたいといつも思っていた。
「それが噂の新しいマントね?」
いつもの挨拶が一段落したヴィーナスは、クンツァイトの身に付けていたマントを見て呟いた。
先日、ゴールデンキングダムにて内々で行われた四天王就任式。その時にキングエンディミオン直々に新しいマントを支給されていた。
その事を事前にキングから聞いていたヴィーナスは、是非見たいとクンツァイトをセレスを通して伝達していた。
「お前が見たいと言っていたとセレスに聞いたのでな」
「キングに頼んでもクイーン以外には見せてくれなかったから。ケチよね。でも、実際付けてるところを見たかったから、かえって良かったかも」
主をケチ呼ばわりされたクンツァイトは少し眉毛がピクっとなったが、言いたい言葉をグッと堪えた。
たまの2人での時間を台無しに支度はなかった。何より、お陰でこうして会えたのだ。感謝こそすれ、怒るのは違うと考えた。誰よりも心は大人で成熟している。
「……って、偉い雰囲気が変わったわね」
マントを見たヴィーナスはとても驚いた。それもそのはずで、誰がどう見ても全く違う毛色だった。
「ああ、今までとは全く違うな。より、ゴールクリスタルに近い色だ」
クンツァイトは得意げに説明する。
前世でもダークキングダムの時も、マントの色はシルバーだった。クンツァイトの髪の色と同じで、それはそれで合っていた。
しかし、シルバーミレニアムの人間では無いのに、マントまでシルバーは滑稽だとクンツァイトは感じていた。
どうせならこれを機に新調しては?とクンツァイト自ら、キングに提案していた。
「でも、それゴールドじゃないわよね?」
元祖ゴールドヘアーであるヴィーナスは、色味が違う事に苦言を呈した。
近い色とは言うが、明らかに違う。