三度目の正直(ネフまこ)


漸くこの日がやってきた。
俺の心を読んでくれたように晴天。
しかも、一粒万倍日で天赦日、寅の日な上に大安吉日。これ以上ない程のお日柄の良さ!正に何をするにも最良の日。
更には俺もまことも学校は愚か、バイトも無い。
こんな日に俺とまことは、かれこれ一ヶ月以上前からの約束であるバイク二ケツで出かける初日になっていた。

「まこと、行くぞー」

二度のお預けを食らった俺は、漸く合法バックハグが出来るとあって張り切っていた。
前日から前乗り(色んな意味で)していた俺は、前日の激しい運動もなんのその。元気いっぱいに7時に起きる程元気いっぱいだった。

「まだ約束まで時間あるだろ?」

まことが言う通り時刻はまだ9時。約束の時間は10時30分。
約束とは、火川神社でレイちゃんに安全祈願の祈祷をして貰う約束になっていた。
やはり何をするにも神頼みは大事だからな!俺の大事なまことに“もしも”の事があったら……そう考えるだけで胸が締め付けられる。

「そうだけど……早く行って久しぶりのレイちゃんを拝みたい!」
「何だよそれ、レイは逃げねぇよ。和永くんは良いのかよ?」
「ああ、そんな奴もいたな」
「そんな奴って……同じ四天王なのに、可哀想に」

そう、火川神社には和永もオマケで働いている。けれど、俺はアイツ、と言うか衛以外の男には正直興味は全くない!
まぁ、いたら相手してやらんでも無い。くらいの気持ちだ。

「じゃあ行くぞ!」

そう指揮してまことに誕生日プレゼントで貰ったメットを脇に抱えまことの家を後にした。

「オッケー♪」

それに続いてまこともメットを片手に抱えて鍵を閉めてマンションを後にした。

「いよいよ、だな?」
「ああ、緊張する」

そう言ってまことが前に乗り、続いて俺が後ろに乗った。ハンドルを握り、緊張した面持ちでアクセルをかける。
それを俺はまことにバックハグしながら唾を飲み込み見守る。
まことにバックハグしてみて思ったが、こうして後ろから抱き着くとガタイが良いと思ってたけど、まことも女だな……結構華奢だ。そんな雑念に塗れていると、バイクは颯爽と走り出した。

「おお、気持ちいいな~」

まことを信頼して身を任せている俺は、余裕でドライブを楽しんでいた。当の本人は、全く余裕が無さそうで、全然返答が帰って来ない。……大丈夫か?
そんな不安を他所に、安全運転で目的地へと着々と向かっていった。

「ふぅ、やっと到着!」

数分後、氷川神社へと到着した。バイクを止めた瞬間、まことは初めての運転で神経をすり減らしたのか、心底ホッとしてる。
敵と戦う使命を持っていて、常に危険と隣り合わせ。その事を考えるとバイクはマシだと思うが、やはり初めての危険な乗り物だから勝手が違うのかもしれねぇな。

「お疲れさん!」

メットを外したまことに労を値切らいながら、頭を撫でてやる。

「勇人がいるから安心と思ったけど、その分責任もあっていい意味で緊張した」

けど、無事到着して良かった。とまことは胸を撫で下ろしていた。
しかし、ホッとするのも束の間。今度は眠気を誘う祈祷が待っている。文字通り張り切って早起きして、しかもまこととの初乗りを終えた俺は、急激な眠気に襲われていた。

「さて、レイちゃんに会いに行こうぜ!」
「いや、だから祈祷な?って、和永さんは良いのかよ……」

最早何が目的なのか、見失っている俺にまことは呆れ果てて笑っていた。
笑う余裕が出てきた様で、俺の渾身のボケも幸を制したと言う訳だ。

「レイ、来たぜ!」
「まこ、早い到着だったわね」
「勇人が早くレイに会いたいって言うから」
「和永さんでは無くて?」
「ああ、男にキョーミねぇから。よ、レイちゃん。久しぶりだな?」
「お久しぶりです」
「お、来たな!怪力カップル!」

和永のネーミングセンスの無さに俺は、無視を決め込んだ。マジでいてやがったか。レイちゃんのひっつき虫め。

「じゃあ早速、祈祷しましょうか」

そう言ってレイちゃんは祈祷の間に俺とまことを案内してくれた。当の本人は、祈祷用の和装があるらしく、着替えにどこかへ消えて行った。
戻って来るまでに和永から祈祷時の説明が偉そうに何項目か伝えられた。眠かった俺は、完全に聞いていなかった。

「お待たせ。では、始めます」

レイちゃんの合図でどこからとも無く祈祷用のBGMが流れ出す。その音を聞いて、俺は益々眠気に襲われる。
これではいかん!そう思い、頭を切り替えるためにレイちゃんの祈祷の舞に集中した。
しかし、これはこれで俺の雑念の思考回路が最低な方向へと向かっていった。

(レイちゃんの巫女姿、綺麗だな……まことの巫女姿も見てぇな)

(巫女姿のまこと、どうやって脱がそうかな?)

(いや、巫女姿のまま後ろからやるか?)

昼間から、いやまだ朝だが。朝っぱらからする様な妄想では無い事で俺の頭はいっぱいになって行った。
祈祷中にかなり不謹慎な妄想だが、お陰で眠さはどこかへと吹っ飛んで行き、意識はしっかりシャキッとしていた。

「ありがとうございました」

ボーッと見ていると、レイちゃんが一礼して祈祷は無事終わったようだ。
祈祷の間は正座をしていた俺とまことは、たったの10分程度でも体育会系の俺たちは慣れない正座に痺れていた。

「くくくく、アッハハハハハハー」

中々立ち上がれない俺たちを見て、失礼極まりない和永は爆笑していた。クソっ後で覚えておけよ!

「お疲れ様。お昼、ランチ御一緒しません?」
「レイのじいちゃんが、友達来るなら祈祷終わったら上がってどっか言っていいってさ」
「じいちゃん、気が利くかっけぇ人だな!」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「おう、まことがいいなら俺も賛成!お礼に奢るわ!」

そして俺たちは、和永の車に乗ってランチへと行く事になった。
予め予約していたらしく、神社の孫娘らしく和食が美味しそうな店へと案内された。
大食いの俺の胃を満たしてくれるボリューミーな定食。美食家で食べ物にはうるさいまこと。更にはお嬢様な辛口レイちゃん、ついでにまぁまぁボンボンな和永。四人それぞれのニーズにフィットする素晴らしい和食屋に、俺たちはかなり満足になった。
そして、後に俺とまことのデートの一環での行きつけに決定した。

「美味かった!」
「今日は何から何までありがとう、レイちゃん。それに和永さん」
「こちらこそ楽しかったわ」
「俺も楽しかったぜ」

そんな会話をしながら、火川神社へと戻ってきた。
そして、またまことのバイクに乗って、俺たちは日が暮れるまでドライブデートを思う存分楽しんだ。




END

2022.08.19

バイクの日

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