いつでも一緒


ギャラクシア戦から再びうさぎの力で蘇って日常生活を送って数週間程だったとある日。
この日、レイは前世の故郷の火星へと来ていた。
いつ振りの戦闘服だろいたか?セーラー服の戦闘服に身を包んだレイことセーラーマーズは、小さい頃に過ごしたフォボス・ディモスキャッスルへと足を運んだ。

「久しぶりだわ。あの頃と何にも変わってないわね」

どれだけの年月が経っただろうか?
それでもあの時と変わらぬ在りし日の記憶の中の姿形のキャッスルに、懐かしさに胸が熱くなる。

「変わったのは私と、ここの人達がいないことかしら?」

マーズ自身、転生したからと言って変わったとは思わないが、やはり前世とは別人だと何処かで感じながら過ごしていた。
そして、火星にいた人々はあの戦いでセーラーサターンの沈黙の鎌により生を終えたのだろう。人っ子一人いない。寂しい死の星へと変わっていた。

「フォボス、ディモス……」

城の中を散策しながら、ギャラクシアとの戦いの中で散っていった二人に思いを馳せる。
セーラーレッドクロウと名乗った戦士にクリスタルを奪われた二人。その後、セーラームーンにより倒されたレッドクロウから何とかクリスタルを奪い返すことが出来た。
けれど、自分達が蘇ったタイミングで一緒に転生する事は叶わず、残ったのは二人のクリスタルだけ。
神社へ戻り、二人の気を探るも、全く感じられず心を痛めていた。

「こんなにカラスがいるのに、二人はもう……」

思えば火川神社へと家出同然に転がり込んだ時からフォボス・ディモスと常に共にしていた。
悲しい時や辛い時、楽しい時や幸せな時。常に傍にはカラスとなった彼女達が傍にいた。常に一緒で、姉妹同然の様に思っていた。
前世でも、訓練兵である二人の底知れぬ力を感じ取り、自ら指名して守護戦士としてずっと一緒に過ごしてきた。
現世でセーラー戦士として目覚めた時から傍で一緒に戦ってきたし、何よりこのマーズクリスタルを授けてパワーアップの手伝いをしてくれたのも他では無いフォボスとディモスだった。
レイにとっても、マーズとしてもフォボス・ディモスはこれからもいなくてはならない大切な存在となっていた。

「フォボス・ディモス……」

平和になって普通の日常を過ごせている事は幸せな事。そう思えば思う程、傍に当たり前のようにいた二人がいないことに日に日に寂しさが募っていた。
そんなある日、戦闘服の中に取り返した二人のクリスタルがあったことをふと思い出し、甦らせることが出来るのでは?と一筋の希望という名の光が指した。

「これで二人を転生させられるかしら?」

それは一つの賭けだった。
アルテミスとルナに相談をしてみると、やってみる価値はあるとの事で、後押ししてくれた。
そして、より火星の力を発揮出来るようにとここ、フォボス・ディモスキャッスルへと足を運んだのだ。
前世で占いをしていた祈りの間へと足を早める。

「ここも変わらないわね」

祈りの間に着いたマーズは、懐かしみながらフォボス・ディモスのクリスタルを祭壇へと置く。
そして、自身のマーズクリスタルに手を当て、呪文を唱え始めた。一か八か。本の数%の可能性に賭ける。

「神火清明 神水清明 神風清明 炎よ、我が手に!(お願いフォボス・ディモス!転生して……)」

一言一言に気持ちを込めて言葉を紡ぎ出す。
フォボス・ディモスに想いが届く様にと丁寧に。
すると、二人のクリスタルが光に包まれる。そして、人間の姿の二人が現れ、実体化した。

「……フォボス、ディモス!!!」
「プリンセス・マーズ!!!」

マーズの祈りが届き、フォボス、ディモスが蘇ってきた。三人は名前を呼び合いながら、涙を流して抱きしめ合った。
お互いの存在を確かめるようにキツくいつまでも抱きしめていた。

「プリンセス・マーズ、ご無事でよかった」
「プリンセス・マーズ、ありがとうございます。守護戦士なのに先に逝ってしまい、不甲斐なく思い、恥じております」
「二人が蘇ってくれて、本当に良かったわ。謝る事なんて無いのよ?私も同じ。セーラームーンを護れず、先に逝ってしまって守護戦士失格よ」

どれくらいの時間が経っただろうか?
抱きしめ合いながら泣いていたが、フォボスの一言で沈黙が破られた。

「けれど、それ程敵が強かったと言うこと。こうして三人、無事に再会できたのだから、喜びましょう」
「プリンセス・マーズ……」
「そうですね!」

訓練兵として群を抜いて強かったフォボスとディモス。
そして、戦いの戦士の通り名を持つ程フォボス、ディモスと同じ位強いはずのセーラーマーズ。
この三人の力を持ってしても適わないほどの強大なギャラクシアの配下の力。
それぞれに悔しい思いはあるだろう。けれど、こうして三人無事抱きしめ合える。
今はその幸せを噛み閉めれば良い。

「でも、どうして私たちを?」
「やっぱり、私の人生において貴女達は必要不可欠だと感じたからよ」
「プリンセス・マーズ……」
「私たち、ずっと一緒よ」
「プリンセス……」

前世からずっと一緒だったフォボスとディモス。転生後も傷ついたレイに寄り添ってくれたり、戦士として戦う時も傍で見守りサポートしてくれた。
そんなフォボス、ディモスはレイにとってもう生活の一部。いなくてはならない大切な存在と感じていた。
うさぎや美奈子たちも大切な友達だが、フォボスとディモスも大切な仲間なのだ。

「さて、帰りましょう火川神社へ」
「ここはどこですの?」
「火星よ」
「言われてみれば、懐かしい景色ですわ」

マーズの言葉で、自分達が今火星にいることを知ったフォボスとディモス。
懐かしさの余り、周りを見渡してはしゃぎ始めた。

「変わってないですわね」
「あの頃の事、まるで昨日の事のように思い出しますわ」
「うふふっそうね」
「あ、すみません」
「はしゃいでしまって……」

マーズの反応に、顔を真っ赤にして恥ずかしがるフォボス、ディモス。その反応がマーズにはとても新鮮で愛おしかった。

「いいのよ。もう少しゆっくりして行く?」
「いえ、今は火川神社が私たちのいるべき場所ですから」
「そうです!火川神社へ帰りましょう」
「あなた達がそう言うなら。帰りましょう」

マーズはフォボスとディモスの手を取り、クリスタルに思いを込めた。
眩いほどの光がクリスタルから放たれた瞬間、宇宙空間へと移動していた。
地球へと戻って来た三人は、戦闘服を解除したレイと共に、火川神社へと帰路に着いた。




END

2022.08.18

フォボス・フォボス生誕祭

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