手紙~過去~(ゾイ亜美、ゾイマキュ)
それは、ゾイサイトと親しくなったある日の事だった。
その日の護衛は私ではなく、ジュピター。
私は、公務が忙しくて代わってもらった。
戻ってくる頃には公務は終了していて、地球から帰ってくるジュピターをテラスで紅茶を優雅に飲みながら待っていた。
「ただいま」
「お帰りなさい、ジュピター。……って、それは?」
楽しそうに戻って来たジュピターの右手に持っていた“それ”に気づいた私は、気になってしまって聞いてみた。
嬉しそうな顔を見ると、ネフライトからの贈り物かしら?なんて客観的に思っていた。
「ああ、これ?マーキュリーにって渡されたんだ~」
「わ、私に?」
何故、そこで私なのだろうと疑問に思う。
「今日の王子側の護衛はゾイサイトだったからさ」
「そう」
ジュピターが幸せそうだったから、てっきりネフライトと護衛が同じだと思っていた。
「はい、ゾイサイトからの恋文」
「こ、こ、こ、こ、こ、こ」
サラッとそう言うジュピターを他所に、私は動揺を隠せないでいた。
「ハハハ、そんなに動揺しなくても。マーキュリー可愛いな」
「ジュピターは慣れてるだろうけど、私は……って言うか、ゾイサイトとはそんな関係じゃ……」
「照れるなって!そろそろ素直になれよ」
「私たち、守護戦士よ。そんな事にうつつを抜かすなんて、ダメよ」
「満更でもなさそうだな」
余裕の顔で渡された“それ”を受け取る。
“マーキュリー殿へ”と書かれたその字は、確かにゾイサイトの筆跡そのもの。
封を開けて思い切って読むことした。
“親愛なるマーキュリー殿
いかがお過ごしでしょうか?
暫く護衛を御一緒出来ておらず
どうしているかと貴女の事ばかり
考えている自分がいます。
そちらは四季が無いと聞いてますが
こちらは今は過ごしやすい春です。
色んな草花が綺麗に咲き誇っています
草花はネフライトの独壇場で詳しくは無いですが
貴方と愛でられたら嬉しいです。
つきましては、次の護衛でお茶を飲みながら
お花見をしませんか?
地球と月の違いについても語らいましょう。
それでは、前向きに検討をお待ち申しております。
ゾイサイト”
愛の言葉はどこにも書かれてはいなかった。
けれど私は、初めての“それ”を貰い、とても気恥ずかしくてむず痒い想いがした。そしてーーー
「か、か、か、かゆーーーーーい」
体を見ると、今まで生きて来て見たことも無い物が身体中に出来ていた。痒い原因は、間違いなくこれ。
そして、これが出来た原因。それは間違いなくゾイサイトからの手紙。ーー所謂、ラブレターと言う奴。
私は、プリンセスを守る戦士としてありとあらゆる知識を吸収していた。
あけても暮れても、月の王国のために勉学に励んでいた。
私の辞書に“恋愛”の文字は無くて、それについて勉強をして来なかったし、必要性を感じなかった。
しかし、ここに来てプリンセスの護衛をする中で、ゾイサイトその人を異性として気になっていたのは確かで……
そんな中、こんな物を貰うとは思いもしなくて、動揺を隠せ無い。
免疫力が無い私に対して彼は、こんな事をスマートにしてこられるところを見ると、慣れているのだと感ずいた。
「ちょっ、マーキュリー大丈夫かい?」
ジュピターに心配されてしまった。
きっと、自分が頼まれて渡した手前、こんな事になるとは思わず、少なからず責任を感じているのだろうと思う。
私自身もこんな事になるなんて思いもよらない自体に、どう対処すれば良いのか分からず、途方に暮れる。
「どうしましょ?地球……に行くのは違うわね」
完全に頭が回らなくなって、冷静ではいられなくなっていた。
「はっ!と、図書館!」
そう叫ぶと私は、心配してくれているジュピターを横目に脱兎のごとく図書館へと一目散に向かっていった。
「医学書、医学書」
体の異変なのだから医学書なら答えが書いているはず。そう考えた私は、一心不乱に調べ始めた。
その間も正体不明の吹き出物は痒くてたまらない。
「あったわ!恐らくこれで間違いないわ」
そこに記されていたのは“蕁麻疹”と言う文字と、実際になるとどの様な事になるか、絵が描かれていて分かりやすく解説してある。
ただ、治し方までは分からなかった。
とりあえず痒いのをかかない方がいいと書いてあったので、我慢する事にした。
それから数日して蕁麻疹と言うものと共に痒さもひいて言った。
けれどこの数日の事を思うと、いてもたってもいられず、予定通り次の護衛を買って出た。
予告通りそこには呼び出した張本人のゾイサイトが涼しい顔で待っていた。
「やぁ、マーキュリー。来てくれたんだね」
「ええ。ゾイサイト、どういうつもり?」
「何の話かな?」
「この“手紙”の事よ!」
「ああ、君に中々会えないから、想いをしたためたんだよ。何か問題でも?」
「大ありよ!貴方は慣れてらっしゃるでしょうけど、慣れてないから私……」
そう言って、ジュピターから手渡された下りから、蕁麻疹と言うものが出来て数日大変な思いをしたことを説明した。
「それは、悪い事をしたね。けど、こうしてそのお陰で会いに来てくれたわけだ」
災い転じて福となすって奴だね。とゾイサイトは悪びれることなく楽しそうに言ってのける。
「もう、貴方という人は!」
これが、ラブレターを初めて貰った私の反応だった。
前世の記憶が蘇ってない時に貰ったら、同じく蕁麻疹が出てしまう体質を受け継いでしまったみたい。
あの後、前世では自重してやめてくれたけれど、現世では関係ないのに、ただただ彩都さんには申し訳ない気持ちになった。
☆☆☆☆☆
「と言う事がありました。すみません」
蕁麻疹が出る体質になった原因を詳しく話してくれた亜美。
「謝る事は無いわ」
そう、彼女が悪い訳では無い。
軽率に、彼女にラブレターでデートの誘いをした私が浅はかだった。
何故私は前世で、ラブレターを書いて彼女に送ったのかしら?ジュピターに伝言頼むだけで良かったはず。
「全ては私の軽率な行いのせいだったってわけね。こちらこそ、前世の私が申し訳ないことをしたわ」
「そんな……」
原因が自分である以上、自分が何とかしなければならないわね。
さて、これからの私、一体どうする?
一生かけて償うのは当然の事よね。
寧ろ、彼女以外考えられないから当たり前の事だし……
っていうか過去の私、何してくれてるのよ!?
そのせいで今世まで障害が出来て苦労する事になったじゃない!
とは言え、彼女との深い繋がりや絆が出来たことは感謝するわ、ゾイサイト。
END
2022.05.23
恋文&キスの日
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