お嬢様学校の憂鬱


4月、新しい学校生活の始まり。

私も、この4月から高校に進学。心機一転。
と言いたいところだけど、中高一貫校のTA女学院。
全く代わり映えのない学友に、校舎の景色、そしてお嬢様言葉……。

“高校デビュー”なんて言葉があるけれど、同じメンツにそれは通用するはずも無く、皆、変わらない姿で登校している。

勿論、お嬢様学校で、都内でも憧れられているミニスカートをあしらった制服で、高校デビューする必要も無いからと言う理由もある。規則も厳しい。

中学生活で我が校がどんなものかは熟知している私は、この3年間の事を考えると、結構憂鬱。

セーラー戦士の中で、私だけ違う学校と言うのも原因かも知れない。
今頃美奈たちは、楽しく十番高校に一緒に登校しているのかしら?
そんな事を思いながら、クラスを確認して教室へと向かった。
教室に着くと、座席を確認して、自分の机に着席する。
人間関係が煩わしい私は、周りとは話したりせずに座っていた。

「火野さん」

ボーッと物思いに耽っていると、不意に話しかけられ、驚く。
呼ばれた方向に顔を向けると、そこにいたのは“超常現象研究部”、通称“超常研”の部長、その人が。

「ことの部長!」

私を熱心に超常現象研究部に誘ってくれていた人。
“考えておきますわ”と、入る気なんて更々無いのに常套句で断り続けていた。
それでも根気強く誘ってくれていたけど、結局敵と戦ったりして忙しくて、顔も出さずに中学生活を終えた。ある意味会うのが一番気まづい人物である。

「同じクラスみたいですわね」
「そうだったのですね」

気まづさを感じている私に対して、気にしてない風に声をかけて気さくに話してくれた。
中学時代は同じクラスになる事がなかったことの部長。それでも会えば声をかけてくれた彼女と、高校スタートの1年目に同じクラス。
何気に心強いと感じている私がいた。

「火野さん、これから1年、よろしくお願いしますわ」
「こちらの方こそですわ、ことの部長」
「およしになって!私はもう、部長では無いのですから」

“ことの部長”、ついつい中学時代と同じ愛称で読んでしまったけど、部活動は今はしていない。うっかりしていたわ。でも……

「そうでしたわね。では、何とお呼びすればよろしいかしら?」
「“ことの”だけで良いですわ。私も“レイ”って呼ばせて頂きたいですの」

部長を返上すると、“呼び捨て”にすると言う試練に、いきなりハードルが高くなってしまった。
別に呼び捨てにするのは慣れている。
現に、美奈もうさぎも、まこも亜美も、戦士全員を呼び捨てに呼んでいる。
けれど、ここはお嬢様学校。丁寧な言葉を生業としている魔女の学校。そんな場所で呼び捨ては如何なものなのか?

「呼び捨ては、ちょっと……」
「どうしてですの?私と貴女の仲じゃない!お嬢様言葉も無しで、フラットに行きましょう」

そう言われましても、ことの部長?
やはりお嬢様学校でフラットにお話するのは中々にハードルが高くなくて?
とは流石に口に出して話せない。
外で会うかは分からないけれど、取り敢えず学校外で善処してみようと思う。

「ええ、そうですわね」

ここは苦笑いで誤魔化す!

「そうそう、レイは部活はどうなさるの?超常現象研究部、一緒に入らない?」
「ごめんなさい、ことの……さん。私、弓道部に入部しようって、ずっと決めてましたの」

早速のレイ呼びに押され、私も頑張って見たものの、恥ずかしくて呼び捨てにしきれなかった。やっぱり、ここではそういうキャラじゃないというか……。
部活の話も、早速“来たわね”と言う感じ。
ただ今の私は、本当にやりたい部活がある為、常套句に頼らなくても良かった。

「弓道部?まぁ、かっこいいですわね!流石、レイですわ」
「ありがとう。ことの……さんも、一途に好きを貫いてらして、とても素敵よ」

本当に、ずっと超常現象を熱心に調べていて、頭が上がらない。

「是非、やってるところを見たいわ」
「見にいらして。私も超常現象研究部、顔を出させて頂きたいですわ」

建前ではなく、本音だ。本当に、超常現象研究部に顔を出して見たかった。
罪滅ぼしがないと言えば嘘になるけど、決して無理はしていない。単純に気になったから。

「部活は違うけど、レイと同じクラス。これから、楽しくなりそうだわ!」
「本当、ことの……さんと同じはお心強いわ」

誰かと同じクラスで楽しい。そんな事を、小学校の時から考えた事も、思った事も無かった。
けれど、孤独や戦士をしていた中学生活で、私を怖がったり嫌ったりすることなくいつも気さくに接してくれた、唯一の人。
そんなことの部長との高校生活。自然と心が踊っていた。

どんな高校生活が始まるのか?
ことの部長のお陰で楽しみになって来た。
ずっと入りたかった弓道部にも入るし、やっと本当の意味での学生生活が、私の青春が、ここから始まる予感がした。

新たな敵の侵略と言う課題があるけど、学校ではなるべく考えない様にしないと。
高校生活を、後悔ないように送ろうと決意を固めた。




END

2022.04.17

火野レイ生誕祭2022

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