アメとムチ


「あーあぁ……こんなに雨が続くと憂鬱だなぁ……」
うさぎはずっと降り続く雨を見ながら憂鬱な気分に浸っていた。
「そうね、だからと言って宿題が出来ない理由にはならないわ」
この日、夏休みの宿題が進んでいないうさぎ、まこと、美奈子の3人のためにレイの家で亜美主催の元集まり宿題をしていた。

「亜美ちゃん冷たい……」
勉強となると亜美は鬼になる。
今日もいつもの様に厳しい。
うさぎ同様心ここに在らずな美奈子が嘆く。

「こんなに雨が続くと神社にも人が来なくて儲からないし、暑すぎても来ないし、八方塞がりよ」
一緒になって勉強しているレイが嘆く。
客商売なので雨や酷暑は閑古鳥が鳴いてお手上げ状態のようだ。
「でもお陰で宿題は捗ってほとんど出来たけどね」
「流石はレイちゃんね。3人にも見習って欲しいわ」
痛い言葉が矢となって3人の心にグサグサ突き刺さってきた。
「暑すぎて宿題に手をつけられなかったんだよな」
夏休みは既に半分が終わり、折り返しに入っていた。
しかし、3人はほぼ手付かず状態。

「まもちゃんに会いたい」
「まずは宿題を半分は片付けないと。衛さんもそれを望んでいるはずよ」
「亜美ちゃん厳しい……」
「あなた達の為を思って言ってるのよ?さっきから全然進んでないじゃない!」
「休みは休むためにあるのにぃ~」
「美奈、屁理屈言ってないで手を動かしなさい!うさぎちゃんもまこもね?」
さっきから全然進んでいない事を見透かされ、指摘された3人は一気にテンションが下がった。

「宿題も雨も何とかならないかな?」
「宿題はあなた達次第でしよ?」
「愛のムチが痛い……」
「ムチばっかじゃなくてアメも欲しいよな……」
「じゃあ終わったら飴買ってあげるから、頑張って!」
そう言う問題じゃなくて優しくして欲しいという意味だったのに、と3人は深いため息をつきながら渋々宿題に手をつけた。

「この大雨も飴ちゃんに変わらないかなぁ……」
宿題に煮詰まってうさぎは思わず突拍子も無いことを口にする。
「それいいわねぇ~♪水害も無いし、美味しいし一石二鳥!」
「色んな味のキャンディーが降ってきたら楽しいだろうなぁ~」
同じく煮詰まっていて嫌気がさしていた美奈子とまことも乗っかる。

「キャンディーなんかが空から降ってきたら水害じゃない違う災害で結局大変になるわよ?」
あんた達本当にバカね?と言わんばかりに呆れるレイ。

「キャンディーが降ると言えば昔、レインボーキャンディーが降ってきたことがあったけど、全然何とも無かったわよ?」
美奈子はセーラーV時代に目の前で飴が降ってきたことを急に思い出した。
遠い記憶の中に思いを馳せ、美奈子は黄昏始める。

「それ知ってる!怪盗エースの綺麗になれるキャンディーでしょ?欲しかったけど、手に入らなくて残念だったなぁ……エースも突然引退しちゃって、今頃どうしてるんだろ?」
あの後、引退した事になっている。
勿論、みんなの記憶を隠蔽したのはセーラーVのコンパクトの力のお陰だ。
表向きは病気で引退した事になっている。
映画も途中までしか撮れ無かったからお蔵入り。
美奈子が出演している事も、芸能界で華々しくデビューすることも消えた。
まさか“エースは私が殺したからこの世にはいません”なんて事言える訳もなく、美奈子は口数が少なくなる。

「うさぎもエース好きだったの?」
「うん、美奈Pも?」
「かっこよかったもんねぇ~」

うさぎと美奈子は何かと馬が合う。
エース好きも同じだった様だ。
美奈子はセーラーV時代の事をいつかみんなに言える時が来るだろうか?と手強い宿題と戦いながら思っていた。



END

2021.10.26

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