前に進むために


全部、思い出した。
私は、セーラーVなんかじゃない。それは仮の姿。プリンセスを守る四守護神のリーダー。
プリンセスの為、みんなを先導するために先に戦士として目覚めたんだった。

「どうして……?」

こんな大切な事を忘れていたんだろう?
アルテミスだって、散々使命があるってヒントのような事を言っておきながら何にも教えてくれなかった。
人が悪いわね。……って人じゃなかったわね。

「みんなどうしてるんだろう?」

きっと、近くに転生していると言う確信があった。
その中でも一人、セーラーマーキュリーに似ている子が親友として身近にいる。

“空野ひかるちゃん”

私の戦士としての直感が、彼女はマーキュリーでは無いと言っている。
何でも覚えているアルテミス自身も何度も会っているし、何も言ってこない。
最も、私に自力で思い出して欲しくて何も言わないでいたのだろうけど。

「ひかるちゃん!」
「なぁに、美奈?」
「ひかるちゃんってさ、セーラーVをどう思う?」

何気なく探りを入れる。
駆け引きって苦手だけれど美奈子、頑張る!!!

「どうって……?」

明らかに困惑した表情で質問返しをしてくる。やっぱり、セーラーマーキュリーじゃないかも。

「何か思い出したり、感じたりとか……しない?」
「そう言われても、特には……」
「そっか。ごめんね、変な事聞いちゃって」
「本当、変な美奈」

ひかるちゃんとはこの会話だけで充分だった。違う。彼女はセーラーマーキュリーじゃないわ。
所謂、他人の空似って奴。頭もマーキュリーと同じで私から言わせると良いけれど、そこまでじゃないし。
しっかし、こうして見ると本当にひかるちゃんってセーラーマーキュリーにそっくり。セーラー戦士にスカウトしたくなっちゃう。

そしてもう一人、身近に前世の戦友に似ている人がいる。ーーー斎藤先輩だ。
戦友と言うよりは、想い人。戦士としてでは無く、女性として本気で愛したたった一人の人ーーークンツァイト。

忘れていたとはいえ、まさか転生しても似た顔の人に淡い恋心を抱いていたなんて。私も進歩がないと言うか、なんと言うか。
我ながら呆れるわね。でも、単純に顔で選んでるだけなのよ。
イケメンばかりに一目惚れしてるだけなんだけど、それでも前世と変わってないわね。私、本当にあの顔がずっと好きなのね。

「斎藤先輩!」

いつも会うあのいちょう並木道へと足を運んだ。クンツァイトかどうか、確かめたくて。

「よう、美奈子!よく会うな?」
「本当、よく会いますね。運命、ですかね?……なぁんちゃって。あははははは」
「そうかもな」

ドキンッ

その一言に心臓がドキリと高鳴る。
今そのセリフはズルい!期待しちゃうじゃないですか!

「クンツァイト……」

聞こえないくらいの小さな声で、昔の名前を呼ぶ。本当に、似ている。

「え?聞こえねぇ」
「斎藤先輩、先輩は前世って信じてたりしますか?」
「何だよそれ?美奈子、そう言うのが好きなのか?」

若干、バカにした感じの言い方だった。それだけで充分だった。
ひかるちゃんに続いて、斎藤先輩も似ているだけで、他人の空似。クンツァイトなんかじゃ、無かった。
そもそも、敵に回ってしまった四天王がまた同じ地球に転生しているなんて保証はどこにも無い。
仮に転生していたとしても、また敵に回っている可能性の方が高い。こんな所で普通に男子高校生なんかして不良してないわよね。

「大丈夫です。ありがとうございました!」

これで斎藤先輩とも会う事はもう無いだろうな。そんな予感がして、お別れに感謝の言葉を出していた。
“もしかして”なんて少しでも期待した私がバカだった。ひかるちゃん時と同様、アルテミスが何にも言ってなかったんだから、明らかに違うって分かってた。

でも、もしかしてそうだったら嬉しかったなって。また好きになれてよかったなって思ったんだ。

きっと、本当のクンツァイトはやっぱり悪の組織に寝返ってしまっているんだろうな。悲しいけど、エースの言った通り、戦い続けて好きな人をこの手で殺める運命なんだ。
大丈夫。覚悟は出来ているわ、とっくの昔にね。

だから斎藤先輩、今までありがとうございました。
そして、クンツァイト!首を洗って、待ってなさいよ!




END

2022.07.29

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