第一章『覚醒ー2つの聖石ー』
セレニティと逢えなくなってからどれ程の月日が経ったろうか?
「暫く逢えそうに無いの…」
そう告げられ、長くとも本の1ヶ月程度だと思い、納得して受け入れた。
だが、自分が思っていた以上に長期的に逢えず、戸惑っていた。
唯一公務や王国を継ぐための準備や様々なイベントへの出席により多忙を極めていた事が逢えない寂しさを紛らわせていた。
それでも限界が近づき始め、人知れずセレニティを想い大きなため息を吐いていた。
愛しい人は想い出の中にいるけれど、忘れてしまいそうで…。
逢って触れたい、彼女の温もりに安心したいと想いは溢れていた。
月と地球で禁断の恋だと充分承知はしていても若さ故の過ちだと片付けられる程覚悟無く無鉄砲にセレニティを愛した訳ではなかった。
セレニティと出会い、恋に落ち、愛し合った事に後悔はしていない。
未来が無いと分かってはいても溢れる想いは止められなかった。
彼女との恋に身を焦がしている間にすっかり成人を迎え、そろそろ身を固めて王国を継がなければならない年齢に差し掛かっていた。
セレニティと逢えない時間は国中の身分相応の女性と次から次へと見合いをさせられた。
しかし、どの女性もセレニティには適わずピンと来ないばかりか、より一層の想いが育って行った。
1000年を生きる彼女も見た目は若いけれどもう相当年上で、王国を継ぐ適齢期を迎えていると以前ヴィーナスから聞かされた。
きっと今の自分と同じで長らく逢えないのにはフィアンセとの婚約が交わされているのかもしれない。
そう考えれば長く逢えないのも納得できるし、腑に落ちる。
考えたくもないが、王国を継ぐものとして当然の事だと納得せざるを得ない。
願わくば自分が彼女の隣で支えたい…。
虚しい浅はかな思考に支配され、更に落ち込む。
流れる時間が違う月と地球ではどう願っても同じ刻(とき)を生きる事は出来ない。
どう足掻いても一緒にはなれない。
頭では分かっていても心は追いつかない。
覚悟の上で愛し合ったはずなのに、いざ長く逢えずにいると想いは溢れ募るばかりだった。
いっそこの地位を捨てられれば楽なのに、それも出来ない。
この地球(くに)が好きだし、父上や母上を裏切れないし、四天王にも申し訳ない。
セレニティの方だってそうだ。
幻の銀水晶の正統な継承者としてクイーンとなり、この太陽系惑星を治める身。
心配して慕ってくれる4人の優しくて頼もしい戦士もいる。
俺よりももっと立場は上で大変だ。
本当ならば雲の上の存在で会うことすら無く終わるはずだった。
それがいつの間にかこんなにも大きな存在になっていた。
そして逢えなくなってポッカリと穴が空いてしまう程に自分の一部になっていたなんて…。
一人、セレニティを想い物思いにふける為、書庫で月の王国に関する書物を色々と読もうと手にしたが、文字が全く入って来ない。何も頭に入らない。
ただ、見ているだけだった。
セレニティに逢いたいけれど、こっちから逢いに行く事は出来ない。
こちらから月へ行く事はタブー。
行く手段がない。絶望的である。
暫く本をボーッと見ていると目の前が光り輝いて驚く。
そして光の中からセレニティの姿が現れ更に驚く。
「エ、エンディミ…オン!?」
「セ、セレニ…ティ!?」
何故セレニティがこんな場所に突然現れたのか、状況がさっぱり呑み込めない。
逢いたいと思う気持ちが幻影を見ているのか?
それともいつの間にか眠ってしまい、夢の中で逢っているのだろうか?
「これは、一体…」
言葉を失い、言い淀む。
「エンディミオン、私、銀水晶の力に目覚めたみたいなの」
「という事は銀水晶の力でここに?」
「そうみたい」
なるほど、そう言う彼女の手には銀水晶と思しき宝石が収まっていた。
銀水晶の力とは距離も簡単に越えられるのか?凄い聖石だ。
「でも、どうして…?」
「エンディミオンのお陰よ」
「俺の?」
「ええ、貴方を想っていたら銀水晶が現れて気付いたらここに来ていたの」
どういう事なのだろうか?銀水晶とは人を想う純粋な心が使いこなせるようになると言う事なのだろうか?
やはり彼女はこの太陽系を統べる偉大なる月の姫君なのだと、実際の銀水晶を見てまざまざと見せつけられ、感動しながらも劣等感に苛まれてしまった。
自分が隣にいるにはやはり身分不相応、そう言われているようだった。
願わくば隣にいたい、ただそれだけの事願いも叶わない。
自分も彼女と同じ様に力が、クリスタルがあれば…。
彼女を護れる力が、身分が欲しい。
胸が締め付けられる想いに苛まれていると銀水晶では無い輝きが辺り一面に光り輝き、見た事もない金色のクリスタルが現れた。
そして俺の手の中に収まったと同時に光も消えた。
セレニティを見ると、彼女も驚いていて目をクリクリしている。
この金色のクリスタルは一体…?
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