スキお礼SS


④『キュンです(クン美奈)』

「ねぇ、手でハート作ってみて」
「何故そんな事しなきゃいけないんだ?」
「いいから!私が見たいのよ!」

急に美奈子は公斗に手でハートを作るようせがんで来た。どうせろくでもない方向に行くに違いないと危険を察知した公斗は即座に拒否する。
しかし美奈子は引き下がってくれない。
ますます怪しさを増す。
普段愛してるだとかストレートに愛の表現をしていない事をきっと不満に思い、言わない代わりに手で表現して欲しいのだろうと、それはそれで罰ゲームで、今まで言ってこなかったことを後悔し始める。単純に手でハートはキャラではなかった。

「愛してる、美奈子」

どうしても回避したかった。
苦肉の策で唐突に愛の言葉を言って取り繕う。

「なっ//急に何なのよ?照れるじゃない!」
「これからはちゃんと言葉にするから勘弁してくれ」

急に愛してると言われ、顔を真っ赤にして照れる美奈子に公斗は満足した。

「あ、あぁ~そーゆー事?なぁんだ、違うのよ!」

どうやら違っていた様で恥をかいてしまった。

「公斗のハートが見たいの!ねぇ、お願い!見せて?」

両手を握り、目をキラキラと輝かせてお願いしてくる。全く諦める気配がない。

「はぁ……分かったよ」

観念してやる事にした公斗は、両手の親指と人差し指を曲げてくっ付け、大きなハートを作り出した。

「どうだ?コレでいいだろ?」
「やっぱり公斗はコッチなのね!」
「このハートでは無いのか?」

美奈子の一言に衝撃を覚えた。
これ以外のハートがあるのか?
これ以外のハートの作り方が分からない。
心の中で混乱を極める公斗。

「今はそっちのハートじゃないのよ。今はコレよ!」

そう言って美奈子は笑顔で右手の親指と人差し指をクロスしてみせる。なるほど、ハートに見えなくはないと納得する。

「今はそれが主流という事か?」
「そう、これなら両手で使ってもハートが2つ出来るでしょ?」

左手でもハートを作って楽しそうに言ってくる。

「なるほど、確かにお手軽だな」
「じゃあ真似してやってみて」

やはりそう来るか、とうんざりする公斗。
やらなければいけない空気に負け、嫌々ながら美奈子の真似してやってみることにした。

「これでいいか?」

やってみせるが何か違う。

「ちょっと待って、何その不格好なハートは?」
「お前のやってた通りだが?」
「何か違うのよねぇ……何が違うんだろう?」

公斗のハートをまじまじと見ながら違いを見極めようと自分の手と照らし合わせて考え始める美奈子。

「分かった!クロスする指、上下反対なんだわ!だから何か違和感あったのよ!」
「そんなのどっちが上でもいいだろう」
「うん、別にいいとは思うけど、下手に見えるからある意味凄いわ」
「せっかくしてやったのにダメ出しか……」
「仕方ないじゃない!キュンですポーズして欲しかったのに何か違うんだもん」
「なんだそのキュンですポーズって……」

聞き慣れない単語の出現に公斗は置いてきぼりをくらい、狼狽えた。

「このハートの事を“キュンですポーズ”って呼んでるのよ。大流行してるから覚えておいてね!」

覚えたところで活用などしないだろうと公斗は忘れる事にした。

「ねぇ、念の為に聞くけど……あんたってウインク出来る?」

“キュンですポーズ”の試練を終え、ホッと一安心している所に間髪入れずに第2の試練がやってくる。
カウンターパンチの名人だと内心思った。

「……もういいだろう!」
「あ、思った通り出来ないんだ?」

バカにされた公斗はウインクをして見せたが、美奈子の言う通り出来ずに顔の表情筋が無意味に動いているだけだった。

「アハハハハハハ~~、ひー勘弁して!マジでお腹痛い」

ピクピクと残念に動く顔に痺れを切らした美奈子は等々耐えきれなくなって大爆笑してしまった。

「お前はつくづく失礼な奴だな」

何故俺はコイツにこんなに心底惚れているのかと迷子になる公斗。

「だって仕方ないじゃない!アイドル志望の彼氏とは思えない程不器用なんだもん!」
「人には向き不向きがある。ウインクは昔からどうしても出来ないんだ」
「苦手なのに無理してやってくれたのね!ありがとう♪そして笑っちゃってごめんね」
「……まぁ許してやらんでもないが?」

素直じゃない言い回しをしながら公斗は美奈子の唇にキスをした。
結局、自分は何だかんだでどんな美奈子も愛しているとキスをして思い知った。



END

2021.12.29

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