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和菓子

「もーらい」
「あっ透きたねえぞ!!」
はぐ、と大福に噛みつき透は至福の表情を浮かべる。
「あー大福うまー!」
「透!!」
額に青筋を立てながら怒る長兄に、ミカエラは少々引いていた。
「に、兄さんさすがに大福を取られたくらいで」
その瞬間、ミカエラの手のどら焼きの半分が消えた。
「あぁー!!!!!何をするこの愚兄!!!」
どら焼きを口に収め、咀嚼しながら満足げな拳がそこにはいた。
「はっはっは、甘い甘いぜミカエラちゃんよォ!!つかどら焼きうめぇな」
唇についた餡を指で拭い、拳は勝ち誇った顔を見せる。
一方のミカエラは怒りのあまり半泣きになりながら兄を睨みつけている。
「この愚兄がぁ・・・!私のどら焼きをかすめ取るなど・・・!」
「まーまーミカ兄落ち着いて」
そこに割り込んできた透が、酒饅頭を千切ってミカエラの口に放り込む。
「むぐっ」
もぐもぐもぐ、と口を動かせば一気におとなしくなる。
「うまいでしょ?」
「…うまい…」
ははは、と笑いながら透の手から大福を奪い、かじる。
たまには三兄弟そろってこういうのも悪くない。そう、拳は思った。

―そんなこともあったなあ、と。拳は思う。
今や愛しの弟たちは隣にいない。
三人で過ごしたあの家は焼け落ちた。
和菓子店の店主である老婆は、もう死んでしまった。
あの店ももう残っていない。
「…大福、もう何年も食ってねえな」
透は今どこにいるのだろうか。風の噂では、どこかの廃病院に潜伏していると聞いた。
「また、食いたかったなあ」
三人で。
それはもう叶わない願いだが、まあ、口に出すくらいはいいだろう。
矢が刺さり潰れた右目から液体が零れ落ちる。もう片方の目も霞んでよく見えない。
「お前もそう思うだろ、いや、思わねえか」
見えないがわかる。目の前で自分を見つめている姿をとらえる。
ぐいぐいと体を起こそうとするダレカ。無駄だ。だって、もう―。
心臓に木の杭が刺さって、抜けないのだから。
足の感覚がない。手の感覚も怪しい。必死になって拳を助けようとするそのダレカは泣いている。
「な、ミカエラ」
冷たい土の感触に身をゆだね、消え去る意識の中、拳は最期にそう呟いた。
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