愛月撤灯‐四ツ葉トウカの場合‐







[四ツ葉家・トウカの部屋]



「はいっ、ハルカちゃん♪どうぞっ♪」
「で、ではお邪魔します・・・」



と、言う事で私はまずトウカさんの部屋に行く事にしました。
紫を基調にした部屋の中は、トウカさんのようにさぞ大人っぽい・・・と思っていたら、やや大きめな化粧品用の棚や沢山の服が入っていそうな棚を除いて、ソファーベッドやカーテン、クッションやカーペットなどの家具に大人っぽさは感じず、クッションがのほほんとした顔が付いた星形のものだったりと、むしろ可愛い感じがしました。
一目で分かる、アニメグッズが沢山置かれたカラフルな棚も部屋の奥にあって、何より私の目に入ったのはベッドに置かれた・・・



「あっ!おっきなみがわりくんのぬいぐるみ!」
「うふふっ♪ハルカちゃん、やっぱり最初に食い付いたわね~?わたし、可愛いものがとにかく好きで、特に『みがわりくん』が大好きなのっ♡フウナちゃんと一昨日にガシャポンしたって聞いたけど、ハルカちゃんもみがわりちゃんが好きなのね~。」
「は、はい。お2人には負けますが・・・」
「僕がトウカお姉ちゃんの部屋に行った時も、ハルカと同じ反応だったなぁ。まさか、こんな大人っぽい人の部屋に大きなみがわりくんのぬいぐるみがあるなんて思いもしなかったし。」
「『ギャップ萌え』、ってこう言う感じなのかなぁ?わたしは好きなものを好きでいるだけなんだけど・・・そうよね~♪みがわりちゃ~んっ♡」



ニコニコしながらみがわりくんのぬいぐるみに駆け寄って抱き付くトウカさんを見ていると、今まで思っていた「大人っぽさ・色っぽさ」は全く感じず、正反対の「子供っぽさ・可愛らしさ」を感じました。
四姉妹と仲良くなる前の第一印象で、私が最も子供っぽく感じたのはフウナさん、逆に最も大人っぽく感じたのはトウカさんなのですが、今となっては真逆に感じます・・・



「何だか、一番大人っぽいトウカさんがこんなに可愛い感じなのって意外だね。ヒロフミ君。」
「僕は四姉妹と一ヶ月くらい一緒に過ごしてるけど、実は姉妹の中で一番トウカお姉ちゃんが子供っぽいと思うんだ。だからこそ、時々感じる色気が逆に一層刺激的と言うか・・・」
「あらあら~♪ヒロくんったらお姉ちゃんを子供扱いするなんて、ねぇ?ハルカちゃんが帰ったら、ヒロくんにお姉ちゃんの方がオトナって所、色々教えないと・・・♡」
「へっ!?」
「け、結構ですっ!生意気言ってごめんなさいっ!」
「うふふっ、冗談よっ♡なのにヒロくんだけじゃなくて、ハルカちゃんまで慌てちゃうなんて・・・そんなハルカちゃんに、みがわりちゃんを抱っこさせてあげるわね♪」
「あ、ありがとうございます。トウカさん・・・あっ、さらさらでふわふわ・・・♪」



こうして、トウカさんから受け取ったみがわりくんの大きなぬいぐるみを抱っこした事で落ち着きましたが・・・さっき、とても艶っぽい声色で「お姉ちゃんの方がオトナって所~」と言いながら、指で服を掴んで非常に豊かな胸元と深い谷間を見せるトウカさんを見て、私までドキドキしてしまいました・・・
こう言う所はやはり、トウカさんが一番大人っぽいです・・・



「そ・う・だっ♡『貴女』もいらっしゃい♪『コミヤ』ちゃん♪」



と、化粧棚に向かってトウカさんが右手の人差し指を宙に差し出しながらそう呼ぶと、化粧棚の上にいた蝶・・・オオムラサキが滑空のように飛んで来て、トウカさんの指に止まりました。
棚がパープル柄だったとは言え、まさかオオムラサキがいたとは・・・ですが、四姉妹の中でトウカさんを蝶に例えるならオオムラサキだと思っていたので、よく似合う2ショットです・・・



「紹介するわね。このオオムラサキの『コミヤ(湖宮)』ちゃんは、四ツ葉家の花嫁候補となる女性の元に天より使わされる、『霊蝶』と言う特別な蝶なの。13年前・・・わたしが5歳だった頃に出会って、それからずっと一緒なのよ♪」
「13年前!?蝶って、半年も経たずに死んじゃうのに・・・」
「だ・か・ら『特別な蝶』なのっ♡しかもコミヤちゃんはメスだけど、羽根の模様はオスの模様だし・・・」
「えっ、この模様ってオスの模様なんですか!?」



これは後でちゃんと調べて分かったのですが、私達がオオムラサキと聞いて思い浮かべる「青紫の中に白い斑点がある」羽根の模様は確かにオスのもので、メスは模様は同じながら青紫の所が黒に変わっていました。
無知だったとは言え、トウカさんをオスの模様の方でイメージしていたと思うと・・・



「実はそうなの♪でも、コミヤちゃんはわたしが四ツ葉家の花嫁候補である証で・・・あっ、チハルちゃんとアキミちゃんとフウナちゃんにも、それぞれ違う種類の霊蝶がいるのよ~?」
「そうなんですね・・・では『四ツ葉家の四姉妹』は、本当に1人1人が蝶のような姉妹なのですね。それと・・・コミヤちゃん、さっきからずっと私を見ながら勢いよく羽ばたいているのですが・・・」
「霊蝶はそれぞれ性格が違ってて、コミヤはトウカお姉ちゃんが実は子供っぽい感じの人だから、好奇心旺盛なのかな?って僕は思ってるんだ。」
「うふふっ、ヒロくんせいか~い♪さっ、ハルカちゃんもそこのソファーに座って。」



そうして私達は雲のような形をしたソファーベッドに3人で座る事になり、私はトウカさんにどうしても気になっていた「あの質問」をする事にしました。



「えっと、そう言えばトウカさんに聞きたい事があるのですが・・・」
「どうしたの~?」
「水曜日の放課後に、私が来る前にヒロフミ君と被服室にいましたよね?私、会話を聞いてたんですけど・・・な、中で本当にそ、そう言う事をしていたのですか・・・?」
「そう言う事?」
「えっ、あの時近くにいたの?」
「・・・あっ、『そう言う事』っ♡それであの時のハルカちゃん、顔がとっても赤かったのね~。あの時はね、ヒロくんに『プレゼント』の作り方を教えてただけよ~?」
「プレゼント?」
「それなのに、ハルカちゃんったら・・・♡」
「・・・本当は今日、ハルカが帰る前まで秘密にしたかったんだけど・・・これ、僕と友達になってくれたお礼。トウカお姉ちゃんにも手伝って貰いながら、自分で作ってみたんだ。手芸部のハルカの作る物に比べたら微妙かもしれないけど・・・受け取ってくれたら、嬉しいな。」
「こ、これって・・・!」



そう言うとヒロフミ君は、私に手作りのワッペンを渡してくれました。
フェルトで出来た、盾のような形をしたワッペンの中央には、後光の差す十字架のような紋章・・・私が前に好きだと言っていたアニメ「発光妖精と守護神」に登場する「インファントのシルシ」が描かれていました。
結構複雑な形ですのに、私の為だけに慣れない裁縫をしてまで作ってくれたワッペンからは、ヒロフミ君の真心が伝わって来て・・・だからあの時、ヒロフミ君はとても嬉しそうだったのですね・・・
それなのに、私はヒロフミ君の事を邪(よこしま)な目で見ていたなんて・・・!恥ずかしいと共に、悲しくなって来まして・・・



「あ・・・ありがとう、ヒロフミ君・・・それから、ごめんなさい!私、ヒロフミ君が頑張ってこんな事をしてくれてたのに、ヒロフミ君がトウカさんといやらしい事をしてたなんて、誤解しちゃって・・・!」
「ハ、ハルカ!?」
「あらあら・・・?」



・・・私は、いつしか涙を流してしまっていました。
ヒロフミ君もトウカさんも、私に喜んで貰おうとしてくれた事ですのに、逆に心配させてしまうなんて・・・ですが、だからこそ余計に悲しくなって・・・
涙で濡らさないように、みがわりくんのぬいぐるみは手前に置きましたが、涙は止まりそうにありません・・・



「ぼ、僕は何も気にしてないから、そんなに自分を追い詰めないでいいよ、ハルカ!」
「う、うん・・・でも、こんな素敵な物、貰っちゃったら・・・」
1/4ページ
好釦