烏鳥私情‐四ツ葉アキミの場合‐







[四ツ葉家・アキミの部屋]



「さぁ、入ってくれ。」
「うん。じゃあ、お邪魔します・・・」



と、言う事で私はまずアキミの部屋に行く事にしました。
青を基調にした部屋の中は、全体的にスタイリッシュな感じと言うか・・・イケメン男子のようなアキミのイメージに近い、女子の部屋と言うよりも男子の部屋に見えました。
全身が映る大きな鏡があったり、主に有名な刑事もののドラマや映画が目立つDVDが並ぶ棚に化粧品が幾つかはあるのですが、それ以外の家具・・・ベッドもカーテンも机も電飾も、女子っぽさを感じさせるフリルなどの可愛らしい要素は一切無い、男子の部屋や学校・会社に置いてありそうな無地のものしか見当たらず、部屋の脇にはキャンプ道具やダンベルを始めとしたトレーニング道具もありました。
言われなければここが女性の、しかもあの四ツ葉アキミの部屋だとは殆ど分からないでしょう・・・



「・・・男子の部屋?」
「いや、間違いなくアキミの部屋だよ、ハルカ。」
「ハルカもヒロフミと同じ反応をするのか・・・なら、『お前』も何処かでハルカを見ているな?来い、『オオミヤ』。」



そう言いながら、アキミが右手の人差し指を宙に差し出すと、カーテンの上に止まっていた蝶・・・アオスジアゲハが飛んで来て、アキミの人差し指に止まりました。
四姉妹の中で、アキミを蝶に例えるならアオスジアゲハだと思っていたので、その光景自体は良いのですが・・・何だか、そのアオスジアゲハにずっと見られている気が・・・?



「このアオスジアゲハの『オオミヤ(大宮)』は、四ツ葉家の花嫁候補となる女性の元に天より使わされる、『霊蝶』と言う特別な蝶だ。13年前、あたしが4歳だった頃に出会って、そこから一緒だな。」
「13年前!?蝶って、半年も経たずに死んじゃうのに・・・」
「『特別な蝶』だからとしか言いようが無いが、13年間成虫のまま生きている。勿論、他の姉妹にも違う霊蝶がいるし、霊蝶は四ツ葉家の花嫁候補としての証でもある。つまりオオミヤの存在そのものが、あたしが花嫁候補として選ばれたと言う事の証明なんだ。」
「そうなんだ・・・じゃあ『四ツ葉家の四姉妹』が『1人1人が蝶のような姉妹』なのは、そう言う意味も含まれてるのね。それと・・・そんなオオミヤちゃんにずっと見られてる気がするんだけど、気のせい・・・だよね?」
「いや、気のせいじゃない。あいつはお前が部屋に入った時から、ずっとお前を見ていた。」
「霊蝶はそれぞれ性格が違ってて、オオミヤはアキミが・・・えっと、厳しめな性格だから警戒心が強いみたいで・・・僕も最初は、オオミヤにやたら警戒されたし・・・まぁ、とりあえず座ろっか。」
「そうだな。オオミヤも相手に悪意が無いと分かれば、警戒はしなくなる。無視していていい。」
「う、うん。」



こうして私達は、サラサラとした触感が心地良い群青色の座布団に座ったのですが、アキミの指を離れたオオミヤちゃんが、今度は私の上をゆっくり回るように飛び始めまして・・・
気にはなりつつも、無視していいと言ったアキミの言葉を信じて、改めてアキミの部屋を見ていると・・・すぐ目に付いたのは、壁に掛けられた沢山の賞状でした。
聖アンファンテ学園だけで無い、中学時代からの運動部の優秀賞、それに町からの感謝状も幾つもありまして・・・中には、この町以外の所からの感謝状もありました。
川で溺れた子供を助けたり、ひったくりを自力で捕まえたり、山火事の中からご老人を無事な場所まで連れて行ったり・・・アキミが紛れも無く、いつもその身を懸けて本気で人助けをして来ていた、輝かしい確かな証拠が・・・そこにはあったのです。



「・・・ハルカ、賞状が気になるのか?」
「えっ、と・・・うん。色んな感謝状があるなって思って。やっぱり、アキミって凄い。」
「僕も人助けは何度かしてるけど、これを見るとアキミには敵わないなぁ・・・って思って、気が引き締まるんだ。」
「これはあたしが『こうして来た』事の証で、『こうあるべき』事の標(しるべ)。それだけだ。自慢するつもりは無いし、人助けに程度も無い。」
「そうなんだ・・・相変わらず、アキミはストイックね。」
「当然だ。まぁ・・・だからこそ、あたしといてもあまり面白味が無いのも、分かってはいる。もう別の姉妹の部屋に行っても、あたしは構わないぞ?」
「ううん、私はつまらないなんて思ってないよ。むしろ、もっとアキミの事が好きになったわ。実は私ね、将来看護の道に進もうって思ってて・・・昔、旅行で乗った船がトラブルで無人島に漂着した時、気を失った私のおばあちゃんに何もしてあげられなかったのが、きっかけなの。」
「海難事故、か・・・あたし達にとっても、他人事ではないな・・・」
「えっ?」
「いや、何でも無い。それで、おばあさんは無事なのか?」
「うん。おばあちゃんはそれからすぐに助けられて、今も元気だよ。」
「そうか、それは良かった。家族が無事なのが、何よりだからな。」
「それに・・・私にとって、おばあちゃんは早くに亡くした両親の代わりに私を育ててくれた、親みたいな存在なの。だからこそ、今度はおばあちゃんを助けられる人になりたいって思って・・・どんな人でもいつでも助けたいって言うアキミに共感して、すぐに仲良くなれたんだと思うの。」
「僕はまだ進路は決めてないけど、ハルカからこの話を聞いた時に、こんなにもしっかり看護の道を行くって決めてるハルカは本当に凄いって思ったし・・・誰かを助けたいって思いが強いからこそ、アキミの事が好きになったのは僕もハルカも一緒だね。」
「そうね、ヒロフミ君。だから私にもっと、色々な事を教えて。アキミ。」
「っ・・・あたしを褒め倒そうと、簡単に『ごほうび』はやらんぞ・・・」



そう言いながら、目を瞑って照れ隠しに下を向くアキミの姿は、友達になれたからこそ見れた彼女の素の姿で・・・イケメン系女子だと学校の誰もが思っているアキミに、こんな等身大の女の子の部分があるのだと分かって、正直言って可愛かったです・・・♪
オオミヤちゃんも私を信用してくれたのか、こっそりとアキミの頭の上に止まっていて、何だか安心しました。
こうして、本当の事を言い合えるのが・・・「友達」、と言う事ですよね。



「・・・だが、かつての事故のトラウマに負けず、むしろ看護の道に進もうと言う決心をしたお前のその夢は、あたしはとても立派で素晴らしく、尊い目標だと思う。いつかハルカが、あたしよりも多くの人を救える者になれるよう・・・あたしも、応援しているぞ。」
「ふふっ、フォローありがとう。」
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好釦