威風堂堂‐四ツ葉フウナの場合‐
[四ツ葉家・フウナの部屋]
「ささっ、ルカルカもヒロっちも入って入って☆」
「はい、それではお邪魔し・・・うわっ!?」
と、言うわけで私はまずフウナさんの部屋に行く事にしました・・・が、フウナさんが部屋の扉を開けたと同時に、一匹の蝶がいきなり私に向かって飛んで来ました。
蝶はすぐに上へ向かって行ったので、私とぶつかる事は無かったのですが、突然の事だったのでつい大声が・・・
「やっぱり、そう来たか・・・」
「えっ?」
「てへっ、驚かせてゴメンゴメン☆でもこれが、アタシと『あの子』流のルカルカへの歓迎なんだ!って訳でシオちん、カモーン!」
少しだけ申し訳無さを感じさせつつ、ウィンクしながら少し舌を出して私にそう言ったフウナさんが左手の人差し指を宙に差し出すと、さっきの蝶・・・ナミアゲハがフウナさんの人差し指に停まりました。
四姉妹の中で、フウナさんを蝶に例えるならナミアゲハみたいだと思っていましたが、さっきの事もあってまさにその通りに見えます・・・
「ジャジャーン!!このナミアゲハの『シオちん』こと『シオミヤ(潮宮)』は、四ツ葉家の花嫁候補となる女性の元に天より使わされる『霊蝶』と言う特別な蝶なの!13年前、つまりアタシが5歳の頃に出会ってから超ズッ友なんだ☆」
「13年前!?蝶って、半年も経たずに死んじゃうのに・・・」
「そんなの、シオちんが『特別な蝶』だからに決まってんじゃーん!他にも色々特別なトコはあるけど、やっぱこの子がいるって事がアタシが四ツ葉家の『花嫁』の証ってトコが、何よりの推しポイントかな?あっ、ちなみにハルハルとアッキーとトーカンにもそれぞれ違う霊蝶がいるよ☆」
「そうなんですね・・・では『四ツ葉家の四姉妹』は、本当に1人1人が蝶のような姉妹なのですね。それと、シオミヤちゃんがいたずら好きなのって・・・」
「霊蝶はそれぞれ性格が違ってて、シオミヤはフウナちゃんが遊び心満載な人だから、いたずら好きなのかな?って僕は思ってるんだ。ちなみに僕も、最初フウナちゃんの部屋に行った時に全く同じ事をされて、それからも部屋に来る度にいたずらされてるんだよね。」
「まっ、ヒロっちの言う通りって事☆それじゃあ改めて・・・ようこそ!アタシの部屋へ!」
そうして入ったフウナさんの部屋は・・・入る前はビビットな感じの部屋なのかな?と勝手にイメージしていたのですが、意外にも落ち着いた雰囲気の部屋でした。
何と言いますか、高校生の部屋と言うよりは本当に大人の女性の部屋と言う風情で・・・ベッドやカーテン、電灯や机などの家具がモダンな雰囲気の強い物が多く、恐らくそれが主な理由だと思います。
大きなテレビの側には様々なゲーム機が置かれていたり、今まで集めたガシャポンのフィギュアが飾られた棚があったり、部屋の中にハンモックがある所はまさにフウナさんっぽい感じなのですが、一方で部屋の端に新聞が積まれていたり、机に置かれた本をよく見ると大学入試用の本格的な参考書だったりと、正反対の印象を感じる物が混在していて・・・
ある意味、これこそが四ツ葉フウナと言う人を現しているのかな・・・?と思ったりしました。
「な・・・なんと言うか、多種多様な部屋ですね。」
「それ、ヒロっちが最初にアタシの部屋を見て言った第一声と同じだよー?まっ、今流行りの『ダイバーシティ』って感じになってるって事じゃないかな☆」
「ダイバーシティ、えっと・・・」
「確か『多様性』って意味だよ、ハルカ。フウナちゃん、たまに難しい言葉使うんだよね・・・」
「ゴメンゴメン、アタシは時代の先を行くフューチャリングな女子でいたいから、ねっ?まぁまぁとにかく、アタシの部屋にいらっしゃーい☆」
フウナさんの部屋に入って、私達はハンモックに腰掛ける形で座りました。
ハンモックは初めて座りますが、今にもバランスを崩しそうな危なげな感じの中に、普通の椅子では感じられないような深くゆったりとした感じが同居しているような、不思議な座り心地でした。
部屋の両端にある、しっかりとしたトーテムポールのような形の支柱に支えられているので、余程体勢を崩さない限りは大丈夫だと思いますが・・・
「どう、ルカルカー?ハンモック、面白い座り心地でしょー?」
「は、はい。」
「まだ不安そうだねー?でもでも、このハンモックはこうやって揺らして、もっ!」
「きゃっ!」
「うおっと!?」
「・・・ダイジョーブ☆百人は流石に無理だけど、3人くらいならモーマンタイだよー?」
「び、びっくりしました・・・それと、『モーマンタイ』?」
「『無問題』、中国語で『大丈夫』って意味。でもハルカは初めてハンモックに座るんですから、あんまりやり過ぎは駄目ですよ?フウナちゃん。」
「りょっ☆アタシもこう見えて四姉妹の長女なんだから、やり過ぎはしないってー。」
そう言いながら私とヒロフミ君にウィンクするフウナさんですが・・・どうにも、忘れた頃にまたもう一度はやりそうな感じがフウナさんから漂っていました。
ハンモックのロープに止まって揺れを楽しむシオミヤちゃんも、共犯者になりそうな感じがします・・・
「危なかったって言えばヒロっち、今回の暗号は難しかったのによく覚えてたねー?えらいゾ☆」
「今回は四字熟語だけなので、何とか。」
「暗号?」
「この家に入る前に、門の前で僕が四字熟語を言ってたでしょ?あれがこの家に入る為の暗号で、声紋認証で僕か四ツ葉家の関係者が言わないと開かないようになってるらしくて、暗号も時々変えてるんだ。」
「そうなんだ・・・」
「で、今回は『アタシ達が好きな四字熟語』にしてて、『鉄樹開花』はハルハル、『烏鳥私情』はアッキー、『愛月徹灯』はトーカン、『威風堂々』はアタシが好きな四字熟語なんだ!」
「えっと・・・すみません、『威風堂々』しか意味が・・・」
「まっ、意味は後でググればいいし今は気にしなくてオッケー☆それと、この街にも幾つかこの家に繋がる抜け道があるんだけど、そこも結局最後の扉は暗号が無いと開かないようにしてるし、塀も門もミサイルでも使わないと壊せないらしいから、ある意味日本で一番怪しいけど一番安全な場所かな?塀の上も吹きっさらしに見えて、外から中が見えない特別な強化ガラスで覆ってあるし・・・」
「す、凄いですね・・・だから誰も四ツ葉家の場所も、放課後の行き先も知らないんですね。」
「まさに文字通りの『箱入り娘』だよねー、アタシ達。けど、だからこそ・・・そんな『箱』に入っていられる娘でいられるように、いつもいつでも気を付けないとね。ここまでしてまで守る価値が『四ツ葉家』には・・・『今の』アタシ達にはあるから。」
さらりといつも通りに、ですがとんでもない事を話すフウナさんからは、言い様の無い凄味を感じました。
そして同時に、私は思いました・・・そんなフウナさんの心を捉えて離さない存在に、ヒロフミ君はどうしてなれたのか。
昔からのしきたりだったり、一度会っていたり、ヒロフミ君がいい人なのは分かっていますが、フウナさんがヒロフミ君を愛しているのは、それだけが理由では無い気がしまして・・・
なので、私はフウナさんに質問してみました。
「あの・・・四姉妹は昔、ヒロフミ君と運命的な出会いをしてから好きになった、と言ってましたけど・・・フウナちゃんは、ヒロフミ君のどんな所が好きなんですか?」
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