鉄樹開花‐四ツ葉チハルの場合‐







[四ツ葉家・チハルの部屋]



「では、ハルカさん。お入り下さいませ。」
「うん。それじゃあ、お邪魔します・・・」



と、言う事で私はまずチハルちゃんの部屋に行く事にしました。
緑色を基調にした部屋の中は、真面目なチハルちゃんの性格が現れているかのように、ベッドも雑貨品もデパートで展示されている売り物みたいに綺麗に整理整頓されていて、モデルルームかな?と思ってしまいました。
テーブルの上や勉強用の机の側には小さな観葉植物が置かれていて、天井に届きそうなくらいに大きな桐の本棚には、様々なジャンルの本が棚を埋め尽くすくらいにしまってあって、圧倒されそうになりました。
部屋の角に弓道の道具が置かれているのを見て、そう言えばチハルちゃんは弓道部に入っていた事を思い出したり、高級そうな加湿器が動いていたりして、チハルちゃんって色白で凄く美肌だからお肌のケアに気を付けているんだなぁ、と思ったりして・・・
あと・・・椅子の上に、モンシロチョウ?



「わぁ、凄く綺麗な部屋・・・!オーガニックな感じがして、私こう言う部屋って好き。」
「チハルちゃんの部屋、いつ来ても綺麗だよね。慣れては来たけど、僕もうっかり汚さないようにしないと・・・」
「お2人共、お褒めに預かり光栄ですわ。ですが、どうかその点はお気になさらずに椅子に座って・・・あっ、ですが『あの子』が椅子にいますわね・・・『アマミヤ』、こちらへ。」



そう言って、チハルちゃんが右手の人差し指を宙に差し出すと・・・椅子にいたモンシロチョウがゆっくり飛んで来て、チハルちゃんの人差し指に止まりました。
四姉妹の中で、チハルちゃんを蝶に例えるならモンシロチョウみたいだと思っていましたが、こうして見るとやはりそう思います・・・



「このモンシロチョウ、『アマミヤ(天宮)』は四ツ葉家の花嫁候補となる女性の元に天より使わされる、『霊蝶』と言う特別な蝶なんですの。13年前、私がまだ3歳だった頃に出会いまして、それからはずっと一緒ですわ。」
「13年前!?蝶って、半年も経たずに死んじゃうのに・・・」
「だからこその、『特別な蝶』なのです。勿論、他のお姉様にもそれぞれ違う霊蝶がいらっしゃいますし、霊蝶は・・・アマミヤは、私が四ツ葉家の花嫁候補の1人だと言う確かな証でもありますの。」
「そうなんだ・・・じゃあ『四ツ葉家の四姉妹』は、本当に1人1人が蝶のような姉妹なのね。それとアマミヤちゃん、じっとチハルちゃんの指から動かないけど・・・おとなしい子なの?」
「霊蝶はそれぞれ性格が違ってて、アマミヤはチハルちゃんがとってもお淑やかな子だからおとなしいのかな?って僕は思ってる。」
「ふふっ、その通りですわ。ヒロフミさん。さっ、それでは改めてハルカさん。こちらにお座り下さいませ。」



こうして、チハルちゃんの指から離れて机に止まったアマミヤちゃんに導かれるように、漆が塗られた木製の茶色い四脚椅子に座った私は、まずチハルちゃんにどうしても聞きたかった「あの質問」をする事にしました。



「あっ、チハルちゃんに一つ聞きたい事があるんだけど・・・」
「はい、何でしょう?」
「月曜日の昼休みに、司書室でヒロフミ君と何をしていたの?な、なんか『触っていいですわよ?』とか聞こえて・・・」
「・・・やはり、あの時の事についてご質問なされるのですね。あの時は・・・」
「・・・チハルちゃんに、『流星神ヴィクトライザー』のおもちゃを触らせて貰ってたんだ。」
「『ヴィクトライザー』?土曜の朝にやってる特撮ヒーロー番組だっけ?」
「その通りですわ、ハルカさん!私、実は特撮モノをこよなく愛していまして・・・それで月曜の朝に、抽選で当たったヴィクトライザーの限定アイテムが届きまして、私と同じくヴィクトライザー好きのヒロフミさんに早速お見せしたく思い、鞄に入れてこっそり持参していましたの・・・!」
「『触って』って、そう言う事だったんだ・・・ヒロフミ君がヒーロー系が好きなのは知ってたけど、チハルちゃんが特撮モノが好きなのは聞いてなかったから、意外・・・」
「まぁ、いきなりだったから僕もあの日一緒に楽しんじゃったし、嬉しくなる気持ちも分かるけど・・・名門校におもちゃを持って来るのはマズイと思うかな?チハルちゃん?」
「はい・・・その点はその場の感情の高まりに任せ、仮にも『四ツ葉家の四姉妹』の1人である自覚に欠けた行為をしてしまい、本当に申し訳無いと猛省しておりますわ、ヒロフミさん・・・」
「べ、別にそこまで深刻に反省しなくていいよ!?とりあえず僕はあまり気にしてないし、僕も共犯みたいな感じだし・・・」
「いえ、ヒロフミさんこそ全く悪くありませんわ!全ては、私の責任なのですから・・・ですが、同時にその優しいお言葉に、心から感謝致します・・・それと、ハルカさんにも謝罪しなければいけません・・・」
「私にも?」
「実は司書室での一件の時、貴女が部屋の様子を伺っていた事は分かっておりました。なので、放課後の会話の際に少し話術を使わせて頂きまして・・・まず、少し開放的に会話をして貴女と親密になり、私が不徳な事をする筈が無いと貴女に思わせた後、貴女の長所を指摘する事で貴女の中で私の存在を『特別』にして、『司書室での事』から意識を逸らしました・・・ただ、貴女に良い印象を持った事やお話した事に、何一つ嘘はありません。だからこそ、貴女を騙すような行為をしてしまい、誠に申し訳ありません・・・!」



そう言いながら頭を下げるチハルちゃんから嘘は全く感じず、私を騙した事への罪悪感をひしひしと感じました。
話術を使ったなんて言わなくても大丈夫な事なのに、こうして嫌われる覚悟で誠心誠意を持って謝る所が、まさにチハルちゃんらしいと言うか・・・私は逆に、愛おしく思えて来ました。



「・・・私は騙されたなんて思ってないし、チハルちゃんが悪い子だとも思ってないわ。だから、顔を上げて。チハルちゃん。」
「チハルちゃんはこの家や僕との関係の秘密を守りたかっただけだし、絶対に悪い事で話術を使うような子じゃない。僕が保証するよ。」
「ハルカさん・・・ヒロフミさん・・・」
「ヒロフミ君の言う通りよ。あの時、時間を忘れるくらいチハルちゃんと楽しく話せたのは、チハルちゃんも私もお互いに、心から一緒にいて楽しいって思えたからだって思うの・・・だから私、チハルちゃんの事・・・もっといっぱい、教えて欲しいな。」
「・・・あ、ありがとうございます・・・!貴女の言葉に、誇張抜きで私は救われました・・・貴女と親しくなれて、本当に良かったですわ・・・!」



チハルちゃんは今にも涙が流れそうなくらいに潤んだ瞳で、私の両手を強く握りながら再び頭を下げた後、心からの満面の笑みで私を見つめました。
そんなチハルちゃんを見て・・・私、最初に話した時からチハルちゃんの事を、内心私に妹がいたらこんな感じなのかな?と思っていたのですが・・・とんでもありませんでした。
まさに天から舞い降りた天使のような、見るだけで心が癒される朗らかな笑顔をするこの子が、私の妹だなんてとんでもない!
そう思うくらい、満面の笑顔のチハルちゃんは可愛かったのです・・・!



「・・・か、かわいい・・・」
「えっ?ハルカさん?」
「あっ!い、いや、何でもないの。気にしないで。」
「可愛いって、笑ったチハルちゃんの事?確かにチハルちゃんの笑顔って、とにかく可愛いって感じだよね。」
「も、もう。ヒロフミさんもハルカさんも、恥ずかしいですわ・・・」
「でも、これも私の嘘の無い本心からの言葉だよ。ヒロフミ君も、だよね?」
「勿論。こんなに可愛いチハルちゃんの笑顔が見れるなんて、僕達はなんて幸せなんだろう・・・って思える。チハルちゃんは、それだけ素敵な魅力を持っているんだよ。」
「チハルちゃんは誰もが認める、『四ツ葉家の四姉妹』の1人なんだから・・・ねっ?」
「・・・ヒロフミさんとハルカさんからの、溢れる程の優しさ・・・私の方こそ、そんなかけがえの無い素敵なものを頂けて、幸せですわ・・・♪」
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好釦