怪獣今昔物語集







ロダン温泉での肝試しリベンジ終了後、再び自由行動に戻った一行は各々で旅館を楽しんでいた。
そんな中、アンバーとスペースは土産屋横のベンチで、カント殺人(?)事件のゴタゴタからちゃんと食べられずじまいでいたアイスクリームを再度満喫していた。



アンバー『スペース様、これはミントと言うハーブとチョコレートが入った、チョコミント味のアイスです。今わたくしの世界の巷では、チョコミントが流行っているのですよ。』
スペース「・・・うん、スースーするがチョコと合って旨いな。新しい感じの味だ。」
アンバー『そうですか?お気に召して頂けて、良かったです。』
スペース「あぁ。それにしても、あのアイスはオレの分までお前が用意したみたいだが、本当にいいのか?」
アンバー『お昼に頂いた、パフェのお礼です。それに折角異世界に来たのですから、怪獣界には無いものを味わって頂きたいですし。』
スペース「そうか、ありがとう。オレはゴジラ一族こそが至高の怪獣だと考えているが、お前はゴジラ一族と並ぶ例外の存在みたいだな。」
アンバー『誉れのお言葉、心から感謝致します。その誉れに似合うよう、日々是(これ)精進を心得て行きますね。』






「‐」バラン――・・・何だ、此の胸に去来する苛々と悲壮感は。
「あいすくりん」なら、私も食そうとした・・・彼の、脳裏を唐突に且つ強烈に刺激掏る強い冷感と甘味に耐え、共に食そうと思っていた・・・!
其れでも、アンバーは彼奴を選んだと言うのか・・・!?



・・・だが、そんな二人をアイスを食べてもいないにも関わらず、やや青ざめた顔で土産屋の物陰から見つめているのは、「‐」バランであった。
顔面蒼白の理由はもはや、言うまでも無い。



ラゴス・ゴジラ「おっ、アニキとアンバーでアイス食ってんじゃん!なんかお似合いだな!オレも食おっと!」
ゴジラ・レッド「アイスか。たまにはいいな。お前も食べるか?シーサー?」
キングシーサー「はい!と、言うわけで私達もご一緒して、よろしいでしょうか?」
レジェンド「・・・己も。」
「‐」バラン『!?』
スペース「お前達もか?オレは別にいいぞ。」
アンバー『わたくしも良いですよ。是非、ご一緒に食べましょう。』



「‐」バランーー・・・誰でも良いのか?本当に良いのか?
私も行く冪(べき)か・・・駄目だ、此処で行けば彼奴らの尻馬に乗った様に思われる・・・!



明らかに不審な様子を見せながら、内心焦る「‐」バランをよそに、ラゴス・ゴジラ、ゴジラ・レッド、キングシーサー、レジェンドがスペースとアンバーに相席。
ベンチはすっかり埋まり、一人座れるかぐらいの空きしか無くなってしまった。



ゴジラ・レッド「そういや、今管理人室でぐったりしてるカントからスペゴジに伝言だ。『何故いかにも無害そうな貴方が、アンバーさんとスイーツを食べていたんだ!』だってよ。」
スペース「何故アンバーと共にスイーツを食っているかだと?彼女と一緒に食うと楽しいから、それだけだ。」
レジェンド「・・・曇りなき、眼。」
ゴジラ・レッド「へっ、やっぱりそうだよな。」
キングシーサー「つまり、スペースさんとアンバーさんはスイーツ仲間なのですね。」
アンバー『はい。好きなものが同じと言うだけで、お互いに恋愛感情はありません。』
スペース「オレもそうだな。シンが好きそうな話題だが、勝手にオレとアンバーまでセットで巻き込まれるのは勘弁だ。」
ラゴス・ゴジラ「そのカントってラドンにバランもだけど、なんでアンバーと他の男が一緒にいたらピリピリするんだろ?こんなに楽しそうなアニキ、たまにしか見れないのにな~。」


スペースーーそのピリピリの理由を、凄く言いたいが・・・言えない・・・!
それはお前が自力で気付かないといけないんだ・・・オレが言えば、シンのこれまでの忍耐が全て無駄になる・・・!


ゴジラ・レッド「まぁ、バランはオレがチャイルドパパ達と一緒に東京に行ってた間に、アンバーにフラれたんだよな?なら、カントと違って未練がましいわけじゃ無いだろ。」
キングシーサー「もしかしたら、せめて好きだったアンバーさんを悪い男の人から密かに守っているのでしょうか?」
ラゴス・ゴジラ「オレはそう思う。だって、オレが大好きなアニキやシン、ジュニアにイシュタルを守りたいみたいに、バランだって大好きなアンバーを守りたいって思うのは当然だろ?」
アンバー『そ、そうですね。ラゴス様。』
レジェンド「・・・己も、闘志を向けられた事がある。」
ラゴス・ゴジラ「えっ?」
スペース「お前にも?それはおかしいな。流石にあいつはレジェンドを悪だとは思っていないはずだが・・・」
アンバー『皆様、バランがご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません・・・後でわたくしから注意しておきますので、今はこのアイスをお詫び代わりとして・・・』
ゴジラ・レッド「気にすんな。お前は何もしてねぇんだから、代わりに謝る必要もねぇんだよ。」
レジェンド「・・・己も、気にしてはいない。」
キングシーサー「そうですよ、アンバーさん。気持ちは分かりますが、あまり自分を犠牲にしないで下さい。」
ラゴス・ゴジラ「バランの問題なんだから、バランに謝らせないとな!」
スペース「そう言う事だ、早くアイスを食べるぞ。溶けたら折角のアイスが台無しだ・・・だからお前は何も気にするな、アンバー。」
アンバー『・・・心得ました。皆様の配慮、心から改めて感謝致します・・・!それでは、わたくしもアイスを心行くまで楽しませて頂きますね。』



今日を含めた、これまでの数々の「招待」で生まれた絆がもたらす皆の心温まる言葉に心を打たれたアンバーは、微かに潤んだ瞳を少し大きな瞬きの間に元に戻し、やや溶けかけていたチョコミントのアイスを口に頬張った。
彼女の口に広がる、ひんやりとしたクリームに混ざりあった酸味と甘味のハーモニーは、アンバーの表情をすぐさま満面の笑顔にした。



アンバー『・・・やはり、アイスクリームはいつの世も美味ですね♪』


キングシーサーーー・・・アンバーさんが男性だけではなく、女性からも人気があるのが、分かった気がします。
心からの笑顔が綺麗な、ちゅらかーぎー(美人)ですからね。



「‐」バランーー・・・ラゴス、それに御前達め・・・!
余計、行き難く成って仕舞っただろうが・・・!



アンバーが歓喜の味を噛み締める一方、逆に苦渋を舐めさせられているのは「‐」バラン。
もはや今、ここでアンバー達と合流する選択肢は間違い無く彼の頭には無かった・・・が、運命は容赦無く残酷な選択を「‐」バランに突き付ける。



ラゴス・ゴジラ「あっ!やっぱ近くにいたな、バラン!」
「‐」バラン『!!!』
アンバー『えっ?バランもいらしていたのですか・・・?』
ゴジラ・レッド「噂をすれば、ってやつか?」
キングシーサー「ちょっと、時と場合が悪いですね・・・」
ラゴス・ゴジラ「バラン、とりあえずレジェンドに謝れ!レジェンドは悪い奴じゃない!オレと同じで、アンバーが大好きなだけなんだ!」
レジェンド「・・・?」
スペース「おい、ゴジラ。ややこしくなるからお前は黙っていろ・・・とりあえず、あと一人くらいは座れる。お前も、アイスを食い直すか?」



アンバーを取り巻く男達の事情を理解せず、誤解を生みかねない発言まで言い放つラゴス・ゴジラに対し、スペースは極力「‐」バランに配慮して、さりげなく自分達のコミュニティの輪に入れようとする。
しかし、今の「‐」バランにとってはこの助け船すら泥船にしか見えず・・・



「‐」バラン『・・・私に構うなっ!』



「‐」バランは普段のイメージに似つかわしく無い程に、踵を返してそそくさと走り去って行った。
一心不乱に廊下を走った末、即座に行方を眩した「‐」バランを、誰も止められはしなかった。



アンバー『えっ?あの、バラン?そんな事言わずに・・・行ってしまいました・・・』
ラゴス・ゴジラ「待てよバラン!アニキが珍しく甘い物一緒に食べよって言ってんのに・・・」
スペース「だから、お前は黙っていろ!」
ラゴス・ゴジラ「あいてえっ!!」



余計な一言を叫んだラゴス・ゴジラは、傍にいた同族によって床に倒れる程のツッコミを受ける。



レジェンド「・・・愛の鞭?」
ゴジラ・レッド「まぁ、そうなるな。バランもラゴスも。」
キングシーサー「バランさん、これからどうするんでしょうか・・・」
スペース「知らん。逃げた以上は、あとは自分で解決して貰うぞ。」
ラゴス・ゴジラ「いてて・・・うーん、『招待』で色んな怪獣と仲良しになれたけど、なんかまだよく分からない時があるんだよなぁ。」
ゴジラ・レッド「お前にもまだ足りない経験があるって事だ。バランやカントの気持ちは、オレで言うシーサーみたいな女が出来ないと分かんねぇだろうな。」
キングシーサー「そ、そうですね・・・読心術が使えるラゴスさんなら、この『好き』の違いは分かりやすいと思いますよ?」
ラゴス・ゴジラ「えっ?要はレッドはキングシーサーが大好きなんだろ?オレだってアニキもシンも、ジュニアもイシュタルも大好きなんだけどなぁ。」
アンバー『その「好き」の違いをラゴス様がご理解さえ出来れば、シン様やスペース様達の心労が報われる日が来るのですが・・・』
スペース「これは、まだまだ先になりそうだな・・・」



レジェンドーー・・・やはり、アンバーを見ていると何かを思い出しそうになる。
忘れてはいけない筈の、何かを。



『・・・りやり、氷を飲み込もうとするか・・・私(わたくし)が小さくし・・・これを飲んで、火傷を・・・
ご自愛下さい。私の王(キング)・・・』



レジェンド「・・・私の、王?」
アンバー『あの・・・レジェンド様?わたくしが、どうかしましたか?』
レジェンド「・・・否、何でも無い。」



レジェンドの欠けた記憶の彼方から彼を「私の王」と呼び、アンバーを介して朧気に浮かび上がるこの「声の主」とレジェンドが再会するのは、それから約二年後の話である・・・










あァァァんまりだァァアァ!!
うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
おおおおおおのれェェェェェ!!
わたしのォォォォォ!!
けェェェェェかくがァァァァァ~~~~!!



メガニューラ達『『『ひっ!?』』』
メガニューラA『ま、また「返せ」の霊か!?』
メガニューラB『いや、あれの正体はヘドラだったとオーナーが言っていたぞ!』
メガニューラC『じ、じゃあ、あの声は一体・・・!?』






「‐」バラン『・・・伏有(ふう)、此れ位で良いか・・・』



一方、あれから肝試しリベンジに使われた廃工場の奥に辿り着き、柄にも無い大号泣を終えた「‐」バランは深く一息付いた。
あえて羞恥心を捨て、感情のまま叫び泣く事は涙と共にストレス・有害物質を排出し、脳内に鎮静化成分を分泌させる作用がある。
つまり「号泣」は相当なストレス解消と思考のクールダウンに繋がり、素早くかつ確実に頭を冷やす為に、「‐」バランは誰もいないこの場所で、とても人前では出来ないこの手段を取ったのだった。



「‐」バラン『大分、感情の混濁が鎮静化したな・・・良し、アンバー達に話を付けて来るか・・・』



冷静な思考が出来るようになった「‐」バランは目元の涙を拭い、廃工場を出て再びアンバー達の元に向かう。
だが、彼は一つだけ気付いていなかった・・・



ヘドラ「・・・あれ、誰だろ~?いい叫びだったなぁ・・・
アイス、クリーム♪
ユー、スクリーム♪」



この廃工場は今、ヘドラの住み処になっている事を。






「‐」バラン『・・・済まなかった。』



その後、恥を忍んでスペース達の元に戻って来た「‐」バランは、双方の問題を同時に解決しようと思慮したアンバーの心配り・・・
スペース達には、「‐」バランに対する不満不平は元の世界に帰ってから自分が責任を持って話し合うので、痼(しこり)無く今回の「招待」を終わらせる為に、今は全て水に流して「‐」バランの事を受け入れて欲しい・・・
「‐」バランには、ラゴス・ゴジラが貴方がレジェンドに敵意を持っていると勘違いしている、スペースは普通に貴方とアイスを食べたかっただけなのに逃げられて不愉快に思っている、だから二人に謝罪だけして欲しい・・・
と頼んだ結果、90度直角に頭を下げながら謝罪の意を示す「‐」バランの構図が出来上がったのだった。



レジェンドーー・・・謝罪とは、やはりああするものなのか。
己も、機会が訪れたら実践してみよう。



一同も受け入れ、こうして「‐」バランは再び皆と合流する事に成功。
後腐れ無く、「‐」世界に帰って行ったのだが・・・






ヘドラ「あぁぁぁんまりだぁぁぁ!!」
リトル「うわっ!?ヘドラさん、どうしたの?」
ヘドラ「え~っとねぇ、マタギみたいなバランっぽい人が前に・・・」



後に開催された、「中生代を生きた元恐竜組怪獣・ジュラシック思い出し『招待』ツアー」にて、究極のストレス解消法を獣人界の面々から質問された「‐」バランは、再び叫ぶ事となってしまうのだった・・・



「‐」バラン『あ・・・あァァァんまりだァァアァ!!』



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好釦