Pray
ルンフイ「・・・こうして、真の『王』となった今はタイタンズを統率しながら世界の均衡を保ちつつ、人間達と衝突しないように私やカロルと共に動いているの。」
アンバー『・・・承知しました。あまりに凄烈な、神の闘争の如き出来事の連続に、上手くお答え出来る語彙(ごい)を持ち合わせていない事を、どうか許して頂きたいのですが・・・貴方が「王の一族の一人」から「真の王」に至った事を、わたくしは心から嬉しく思います。やはり貴方は、素敵で偉大なお方ですね・・・レジェンド様。』
レジェンド「・・・感謝。」
ルンフイを語り部にした、レジェンドが「真の王」に至るまでの物語を聞いたアンバーは、万感の思いから溢れ出た賛美の言葉・・・物語の〆となる言葉をレジェンドに告げた。
愛美華「レジェンドさんの所で、そんな事があったのねぇ・・・私も語彙に自信があるわけじゃないけど、『神話』と『神同士の契り』って、こうして生まれるのかしら・・・私も兄様と、こんな再会がしたかったわぁ♪」
カロル「そ、そうなんじゃねぇの?これで用件も終わりッスから、早く帰りましょうぜ?王に女王?」
愛美華も物語に聞き入り、満足気に何度も相槌を打ちながらレジェンドとルンフイを見る一方、カロルは逆に物語が進むにつれて冷や汗の量が増えて行き、明らかに気不味い雰囲気を醸し出して行く。
理由は明白であり・・・この「神話」はレジェンドやルンフイにとっては自身の神性を示し、高める物語なのに対して、カロルにとっては自身の神性をひたすらに削いで行く、ただただ恥を晒されるだけの物語・・・今時の言葉で言えば「黒歴史」でしか無いからだ。
ルンフイ「どうして?私はもっと、アンバーと話がしたいわ。『招待』とは、そう言うものなのでしょう?」
レジェンド「・・・そうだな。」
カロル「えぇっ・・・」
愛美華「貴方、どうしてそんなに慌てているの?自分の短絡的なイキリから始まったしくじり人生が、アンバーさんにバレたから?俺みたいになるな!的な感じ?」
カロル「分かってんならわざわざ聞くなよ、オイ!イヤミか!」
アンバー『あの、カロル様・・・』
カロル「言うな!他人のお前が気にする事じゃねぇ・・・あぁ、お前はいいよなぁ・・・誰からも好かれる、心優しいヤツでよ・・・笑え、笑えよ・・・どうせオレなんか、地べたを這いずってごますりする事しか出来ねぇ会社員なクソバードなんだ・・・」
アンバー『そうではなく、わたくしは・・・先程の話でレジェンド様とルンフイ様が仰っていた事に、心から同意します。』
カロル「・・・えっ?」
アンバー『貴方は決して、悪人ではありません。どんな手段を使ってでも生きたい、死にたくない・・・そう思うのは、生物として当然です。貴方はその生存本能を「偽りの王」に付け込まれ、心を操られた被害者なのです。本当なら貴方は、レジェンド様とルンフイ様と共に「偽りの王」と戦っていた筈ですのに・・・
他人の心を支配し、侮辱し、踏みにじる。わたくしが最も許せない事の一つです・・・!』
カロル「え?いや、そこまで・・・」
愛美華「あら、意外に憤ってるわね?怒るアンバーさんまで見られるなんて、ほんと今回は貴重な『招待』だわ♪」
アンバー『すみません。この件にはわたくしも心苦しい記憶がありますので・・・それに過ちを省みて、心を入れ替え出来うる償いを行い続けたからこそ、レジェンド様もルンフイ様も貴方をお許しになり、側近としての立場を与えられたのです。
貴方は間違いなく、立派で気高き怪獣(タイタンズ)ですよ。カロル様。』
カロルーー・・・ ・え、何なんスかこのヒト?
女神なんスか?
やべえッスね、オレ近づいちゃいけねェやつだ・・・近づいたら尊さで死ぬ・・・!オレが!
つうか女王と似てる所があると王は言ってたッスけど、ちょっと違うな・・・
あっちが過ちを正して許す「女王」なら、こっちは過ちをも包み込んで浄化する「女神」じゃねぇッスか。
やべえよやべえよ、そんなヒトに関わりすぎたらヤバイって!
アンバーから心が洗われる言葉を贈られながら、何故か急に彼女を見る度に余所余所しい様相を示すカロル。
急に燃え始めた髪からは火の粉が舞い、本心では歓喜に沸き上がっていながら、その喜びを素直に現せない理由・・・それは、実は静かで聡明な女性を避ける傾向にあり、火山のマグマに耐えられる身体になったが故に氷属性のモノは身体に支障をきたしてしまうカロルにとって、アンバーはまさにその条件を全て満たしている存在であると気付いたからだった。
さながら、冷え切った南極の氷でも溶岩を近付ければすぐに溶けてしまうかのように、カロルの中でアンバーはつい遠ざけてしまう存在になってしまったのだ。
アンバー『・・・あの、カロル様?わたくし、何か出過ぎた事を言ってしまったのでしょうか・・・?』
愛美華「・・・これはむしろ、逆な気がするわ。髪も燃えてるし、火遊びする気満々よ?この人。」
カロル「はあ?別にオレ燃えてねェし、火遊びなんてする気ねェし!」
アンバー『か、髪が燃えているのは確かなのですが・・・大丈夫ですか?わたくしの冷風で、消火しましょうか?』
カロル「い、いやこれ生理現象で、オレこう言う体質なんッス!だから気にしなくていいッスから、ホント!」
アンバー『は、はい・・・』
レジェンド「・・・とにかく、アンバーの言う通りだ。カロル。お前は己が側近、タイタンズの一員だ。」
ルンフイ「全ては過ぎた事、それを無かった事には出来ない・・・なら、それを繰り返さない事と、良き事を重ねる事しか出来ないの。カロル、あなたはそれが出来ているじゃない?だから、もう自分を恥じないで。」
愛美華「・・・だ、そうよ?しくじり翼竜さん?」
カロル「あ、ありがとうございます!!王!女王!そして・・・め・・・めが・・・」
アンバー『?』
カロル「・・・な、なんでもねぇッス。」
アンバー『カロル様?』
ルンフイ「ごめんなさい、アンバー。カロルが失礼な態度をして。憶測だけど、カロルは心に抱えていた痼(しこり)を取り除いたあなたに、熱烈な感謝を伝えたいだけだと思うの。だから、許してあげて。」
アンバー『は、はい。カロル様の悩みが解消されたのなら、わたくしは良かったです。それと、愛美華様?もしやわざとカロル様に悪態を付いて、わたくしからの返事の流れから、レジェンド様とルンフイ様からの本音を引き出しましたね?』
愛美華「ふふっ・・・それは想像に任せるわ?心優しいアンバーさん?」
アンバー『そう仰ると思いました・・・ですがあまり、偽悪的な振る舞いも考えものですよ?』
愛美華「分かっているわよ♪さっ、それじゃあ話を変えて・・・さっきの話を聞いていた時にね、レジェンドさんとルンフイさんは前々から、と言うよりルンフイさんは一度死んでいるように聞こえたのだけど・・・どう言う事かしら?それにルンフイさんも、今の所は死んだ所で終わってるし・・・
実はここにいるルンフイさんは幽霊でした、なんて怪談オチなわけ・・・ないわよね?」
アンバー『・・・わたくしも、愛美華様と同じ事を疑問に思っていました。出来ればでよろしいので、お答え頂けますでしょうか?』
レジェンド「・・・彼女に、『死』の概念は存在しない。彼女の命に、限りは無い。例え命を奪われようと、その命は再び卵より蘇る。」
カロル「それまでの記憶と、弱点の克服と一緒にな。何度殺されようと、何度でも卵から生まれ変わる・・・だから『久遠の女王虫』とも言われるんッスよ、あのお方は。」
アンバー『つまり、ルンフイ様は例えるなら不死鳥・火の鳥のように「転生」を行える、と言う事でしょうか?』
ルンフイ「・・・その通りよ。私は遥か彼方の昔から、王の側にいたの。そして、私の王への『誓い』と『想い』は・・・その頃から一切合財、変わる事は無かった・・・」