レガ母蘇・愛の物語「暇を持て余した神々の遊び」







怪獣界、地球。
この星にもまた、モスラ一族の聖地・インファント島が存在する。
双子のモスラ一族・アジゴとアジマが島に留まり、遥か昔に島民達が去ってからは選ばれた人間達が居住区で島に留まり、怪獣界のインファント島と繋がる島の中央の祭壇をずっと守り続けている。
その理由は、ただ一つ・・・この島は「神」が眠りに付く、神聖な場所だからだ。



『・・・今日も世界は、悪しきにも善しきにもならなかったのね。』



祭壇の裏手にある草原、そこに一人の女性がいた。
地面に付く程に長い、白銀の髪。
両手よりも長い袖に肩が露出した、モスラの紋章が刻まれた円形のアクセサリーが胸元で光る、十二単とエスニックな風味が混ざった橙色のロングドレス。
腰程に長い揉み上げをお下げにした姫カットの髪型に、蛾のような触覚が一対付いた頭。
ハイライトの無い、青空のような色の垂れ目。
水平線を見ながら物思いに耽る、浮世離れしたこの女性の名は・・・「母蘇羅(モスラ)」。
怪獣界の神話に伝わる「三大神」が一柱、全てのモスラ一族の祖となりし者・・・世界の守護を司る最高神「守護神」である。
今ここにいる彼女は意識のみが具現化された、人間体の形を模した幻影のようなもので、本体は世界全体への影響を考慮して祭壇で眠りに付いている。
「神」、それも最高神の「三大神」の一柱が故に「悠久の怠惰」の中にいる事を強いられる母蘇羅は時折この草原に来て、世界の善し悪しを計っては物思いに耽る・・・そんな日々を幾億万年、過ごしていた。
双子モスラと人間達こそ島には常にいるが、彼らにとっても迂闊に触れ得ざる者である母蘇羅に、積極的に話しかける者はいない。
よって、この悠久の怠惰が解かれるのは「破壊神」が再びこの世界に現れ、「創造神」と共に迎える厄災の時、「終わりの始まり」の到来。
それから、もう一つは・・・



レガシィ「あっ、母蘇羅たんみぃ~つけたっ♪」



と、そこへ突如草原に現れたのはレガシィコング。
異世界「UW」の住人であり、双子モスラすら滅多に入らないこの草原に何故彼がいるのか・・・しかし、母蘇羅はその事を疑問にも思わない様子で、彼に話しかける。



母蘇羅『あら、貴方は前に新しく「私達」に加わった、レガシィコングちゃんね?ここは私のプライベートの場所だから、あまり近寄らない方がいいわよ?』
レガシィ「オトメの秘密の花園、ってやつ?でもむしろ、それなら邪魔される事もなさそうだし・・・母蘇羅たん、ボクちゃんと今からデート行こうよ!」
母蘇羅『デート?どうして?』
レガシィ「実はボクちゃん、母蘇羅たんって好みなんだよねぇ~。何だか、初恋の人の近所のお姉さんに似ててさぁ~。だから、お近づきになりたいなぁ~。」
母蘇羅『お近づきになるのは、いいわよ。』
レガシィ「ほんと?じゃあ母蘇羅たん!今からボクちゃんとスカルアイランドデートしよ~よっ!ねーねー!」
母蘇羅『貴方の世界で?それじゃあ、コングちゃんに迷惑じゃないかしら?』
レガシィ「じゃあさ、ボクちゃんといつものあそこでデートしてみないっ?」
母蘇羅『あそこで?でも、「招待」についての話はまだ先よ?』
レガシィ「ノンノン!デートだよ、デート!男と女が二人っきりで愛を確かめ合うアバン、チュー!ルだよ~!」
母蘇羅『それって、恋人同士がする事ね?出会ったばかりの私とコングちゃんには、関係無いんじゃないかしら?』
レガシィ「んもー!母蘇羅たんったら、ボクちゃんの予想以上に恋愛ってやつを知らないんだねぇ・・・まっ、男って言える存在をゴジさんと『破壊神』くらいしか知らないんじゃ、仕方ないかぁ・・・でもだからこそ、ボクちゃんとデートしようよ!母蘇羅た~ん!」
母蘇羅『どうして、そんなに私とデートがしたいの?そんなに私とじゃないと、駄目なの?』
レガシィ「あったりまえじゃん!ボクちゃんはこう見えて、好きになった女のコには一途なんだよ、ねっ!恋って、怪獣でも神様でもそういう事は大事だとボクちゃんは思うな~。」
母蘇羅『恋・・・?』
レガシィ「そう、恋だよ!ボクちゃんはキミに、恋しちゃったのよ~♪」



母蘇羅――・・・恋。
知ってはいるけど、抱いた事の無い感情。
「神」が抱く必要も機会も無い、感情・・・
だから私には、コングちゃんがどうしてそんなに私に拘るのかが、分からない・・・
でも、これがもしかしたら最初で最後の「恋」なのかも知れない・・・それならいっそ、コングちゃんに任せてみるのもいいかもしれないわ。
だって、コングちゃんはわざわざこの聖域にまで来て、私を迎えに来てくれた子なんだから・・・



レガシィ「ここまで言わせちゃうなんて、ほんとニブチンだなぁ~?でも、ボクちゃんはそんな所も・・・あれ?あれれ、母蘇羅た~ん?」
母蘇羅『なんでもないわ。それじゃあコングちゃん、行きましょうか。』
レガシィ「えっ?ホントにいいの?」
母蘇羅『ええ。それとデートに行くなら私、今回は留守をアジゴとアジマに任せて、「意識体」じゃなくて「本体」で行くわ。せっかくのデートを「意識体」のは失礼だし。』
レガシィ「イエーイ!!ヤッター!!トロピカルヤッホー!!じゃっ、ボクちゃん先に行って準備してるからね~!絶対に来てよ~!!」



デートの約束を取り付け、願望が叶ってハイテンションなレガシィコングは自分の体を粒子に変え、空へ去って行った。
母蘇羅もアジゴ・アジマに島の留守を任せる為、祭壇へと戻って行く。



母蘇羅――・・・デート、「恋」ってどんなものかしら?
「招待」関係の事じゃないけれど、自由な事をしてもいいわよね?
一度くらいは「恋」を経験しても・・・大丈夫よね?



やがて、あまりにも巨大で美しい「蝶」がインファント島から空の彼方へと飛び立ち、その飛翔を祭壇からアジゴ・アジマが、島の居住区から人間達がそれそれ祈りを捧げながら見つめていた・・・






「高次元領域」。
招待主達が「招待」を開催する際に集う、三次元宇宙より更に上位の次元に存在する、特殊隔離空間の事である。
この領域では全ての思念が形になると言う特徴があり、招待主は普段それを「招待」のシュミレーションに使っている。



レガシィ「おっ、母蘇羅た~ん!こっちこっち~!ホントに来てくれてボクちゃん、うれし-!たのしー!だいすきー!」
母蘇羅「そんなに嬉しい事なの?」
レガシィ「い~から、ほらっ!見てみて!」



そして、今・・・この高次元領域に母蘇羅とレガシィコングがいると言う事実は、二人が自分の世界・・・母蘇羅が「怪獣界」、レガシィコングが「UW」の招待主である事を意味していた。



母蘇羅「これは・・・」
レガシィ「ようこそ、レディ。ボクちゃんの故郷へ。」



そんな二人のデート場所としてレガシィコングがこの領域に創造したのは、辺り一面に鮮やかな草花が咲き乱れる、岩山のふもとに広がる花畑であった。
まるでインファント島にいるかのようなその光景に、母蘇羅はつい見とれる。



母蘇羅「まるで、楽園にいるみたい・・・凄いわ、コングちゃん。貴方の想像力って。」
レガシィ「うーん、実は『想像』して作ったって言うより、『再現』したって感じかなぁ?ここ、ボクちゃんがフツーのコング族だった頃の髑髏島・・・平和だった頃の記憶なんだ。」
母蘇羅「平和だった、頃?」
レガシィ「キミ達の仲間になった時に話したけど、ボクちゃんは異世界の侵略者から世界と仲間を守る為に自ら『先代の加護』って言う力そのものになった、『先代達』の代表者。
でもそんなボクちゃんにも、フツーのコングだった頃があってねぇ。その時は侵略者なんていなかったから、こんなにのどかだったんだ・・・でも侵略者はいきなり現れて、この楽園もすぐにただの枯れ地になっちゃって、それからはずっと戦いと仲間が滅んで行くのを見ているだけの歴史さ・・・」
母蘇羅「そんな・・・」
レガシィ「・・・ボクちゃんも侵略者さえいなけりゃ、フツーのコングとして生きて・・・死んだのかなぁ?」



「神」になる前の過去を語るレガシィの顔は、いつもの笑顔をたたえた飄々な糸目顔であった・・・が、母蘇羅には彼が悲しんでいるように見えた。
周囲の草花の綺麗さが、残酷にさえ思えるくらいに。



レガシィ「・・・まっ、今も今で好きにやらせて貰ってるし、「招待」なんて最高のショーに参加出来るなんて、ありがSHOW TIME!なんちゃって。だからそんなに気にしないで、デートの続きを・・・」
母蘇羅「私も、『神』としてではなく怪獣として生まれて来ていたら、シンちゃんの様に恋をして、怪獣界でデートをしていたのかしら。
でも『神』だって、恋さえも出来ない時は出来ない・・・そう考えたら普通の怪獣でも神でも、違いなんてそうそう無いのかもしれないわね。」
レガシィ「母蘇羅・・・たん?」
母蘇羅「それなら私は、『神』として生まれて来た事を後悔しない。私の意志を継いだ、愛の化身達・・・モスラ一族が今日も平和の為に戦ったり、愛を育んだり、異世界の同じモスラ達と交流を深めていくのを、この目で見届けられるのだから。
コング・・・いえ、レガシィちゃんも『神』になった事を後悔はしないで。この光景は、いつか取り戻せばいい・・・今は、自分と同じ「招待」が大好きな私と出会って、恋をした。それだけで、『神』になって良かったって思わない?」
レガシィ「・・・流石は、神様歴の長いヒトだねぇ。ボクちゃんが何億年も考えてた事を、あっさりと解決しちゃうなんて・・・さ。」
母蘇羅「私、怪獣界の箱庭と同時に生まれたの。だからレガシィちゃんの何十倍の時を過ごしてるのよ?」
レガシィ「あいたァ~!そこ言われると、ボクちゃんグーの音も出ないよぉ~。チョキでもパーでも勝てないよぉ!」
母蘇羅「それより、レガシィちゃん。私にデートと恋がどんなものなのか、早く教えてくれる?」
レガシィ「それもそうだね。じゃあ、ボクちゃんのお悩み相談に乗ってくれた母蘇羅たんへのお礼として・・・サクッと教えてあげちゃおっか、なっ☆」



するとレガシィコングが左手で指パッチンをするや否や、思い出の草原は橙色の夕日の光に覆われた無人島の砂浜へと変貌した。



母蘇羅「まぁ、ここも綺麗な所ね。ここも思い出の場所?」
レガシィ「ぶっぶ~!残念でした♪これはボクちゃんが思う、デートに一番相応しいムーディな場所だよ。恋に悩んでる「招待」怪獣達もこういうとこに連れてって、愛の言葉の一つでもかけてあげればイチコロなのにねぇ~。まっ、ともあれ次の「招待」も楽しみだね、母蘇羅たん!」
母蘇羅「ええ。次はどのモスラを呼ぼうか、考えるだけで楽しみね。」
レガシィ「でもボクちゃんが今一番楽しみなのは、キミと何処までお近づきになれるか、なんだよねっ!」



そう言うや、レガシィコングは母蘇羅の背後から彼女の両肩を手で掴む。
しかし、母蘇羅は特に驚いてはいない様子だ。



母蘇羅「どうしたの、レガシィちゃん?」
レガシィ「あれっ、驚いたりドキドキしたりしないの?」
母蘇羅「どうして?神が簡単に驚いたら、いけないじゃない。」
レガシィ「・・・じゃあ、これならどうかなぁ?」



母蘇羅の反応がいまいちだと判断したレガシィコングは、今度は母蘇羅の体を一回転させると背後にあった岩盤に優しく彼女を押し当て、左手を母蘇羅の顔の横に置くや開眼した顔を近付け、パーソナルスペースを縮めて行く。
所謂、「壁ドン」だ。



レガシィ「そうやってボクちゃんのアタックに気付かないふりするなら、実力行使しちゃうゾ?母蘇羅たん?」
母蘇羅「・・・実力行使?そんな事をしなくても、私はまだ帰らないわよ?」
レガシィ「がくっ!あの~、母蘇羅たん?これ、ボクちゃんの世界じゃイマドキの女子が憧れる恋のシチュエーションなんだよ?普通なら、ドキドキ胸キュンするもんなんだよ?」
母蘇羅「そうなの?人間って、変わっているのね。」
レガシィ「・・・仕方無い、こうなったらここまでいっちゃおっか・・・!」



それでも心揺さぶられない母蘇羅に、レガシィコングは母蘇羅の体を抱き寄せると左手で彼女の腰を持ち、右手で母蘇羅の顎を持ちながらお互いの鼻が当たりそうな距離まで顔を近付ける。
壁ドンと並ぶ恋愛の胸キュンなシチュエーション、所謂「顎クイ」だ。



レガシィ「こんなにアピってんのに、まだボクちゃんの気持ち・・・気づかない?」
母蘇羅「・・・レガシィちゃん?これも『恋』なの?恋をしている人はみんな、これをするの?」
レガシィ「あのさぁ・・・母蘇羅たん?いつまでもそんな冗談みたいな事を言うなら・・・このままキスしちゃうよ?」



レガシィコングは極限まで母蘇羅とのパーソナルスペースを縮め、もはや互いの唇が当たりかねない距離になってしまう。



レガシィ「キミでも分かるよね?キスは・・・」
母蘇羅「レガシィちゃん、口づけがしたいの?じゃあ、はい・・・」
レガシィ「・・・!!?」



・・・が、レガシィコングが思うよりも突然かつ早く、母蘇羅の感情一つ変わらない思い付きによって、二人の唇は重なったのだった。






ビオランテ――・・・流石は守護神、なんと恐ろしき者よ。
感覚と認識が、完全に常人離れしておる。
全てのモノを愛する博愛の神にとっては、一つのモノだけに愛を注ぎ込むと言う事が理解出来んのかもしれんのぉ。
これはあの新入り、これから新しい苦労を抱え続けよるな・・・
まぁ、年下の癖に私の事をいきなり「ビオちゃん」なぞと呼ぶ無礼な奴の身など、知った事ではないがのう。



また、領域の端から二人の様子の一部始終を見ていたビオランテ――無論、彼女も怪獣界担当の招待主の一人である――も、母蘇羅の異常とも言える感覚を理解しつつ、それにこれからも振り回されるであろうレガシィコングを軽く嘲笑するのであった。






レガシィ「や、やるねェ。母蘇羅たん・・・でもボクちゃん、あの時のキスが『恋』になるまで何億年でも諦めないからね?
それじゃあ、チャオッ♪」



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好釦