ロダン温泉湯煙事件 前編・後編







そうして夕日が沈み、夜を迎えると共にロダン温泉の隣の工場跡にて、ゆいの肝試しリベンジが開始された。
月明かり一つ無い工場跡は本当のお化け屋敷のようであり、入場門では怯えるゆいの背中をシュウが押し、スタートを促す。



ゆい「う・・・うぅ・・・」
シュウ「おら、行って来い。一人前になるんだろ。」
ゆい「う、うん・・・!あたしは、一人前のゴジラになる・・・これくらい、出来るもん!」



今回の内容は、ゆいが一人で明かりを持って温泉の隣の工場跡に入り、奥の部屋に置かれたランプを持って帰って来る、と言うもの。
ルート自体はそう長くも複雑でもないほぼ一本道だが、工場跡には既に幽霊役として何名かの怪獣が、ゆいの行く先々に潜んでいる。



アンバー『ゆい様、どうかわたくし達に負けず、頑張って下さいね・・・』



Jr.「やるからには、手加減はしないからね・・・ゆいちゃん。」



レジェンド「・・・ゆい、覚悟。」



サバイヴ「なんで俺が・・・まぁ、ミニラ仲間としてやってやるか・・・」



ドゴラ「あの時はうやむやになったけど、つぎはもっとびっくりさせるぞ・・・!」



シュウから直々に指名されたカントもまた、ランプが置かれた最終目的地の管理室跡の前で幽霊役のトリとして待機していた。



カント「約束させら・・・した以上は、責任を持ってやりますよ・・・問題は、ゆいさんが私の所まで来れるかですけど・・・」



・・・かーえせ・・・



カント「・・・んっ?声?」



・・・かーえせ・・・かーえせ・・・



カント「かえせ?誰かが道具の貸し借りでもしているのか?全く、こんな時に・・・」



・・・を、あ・・・を、かーえせ・・・



カント「ちょっと、もう肝試しが始まるんですから揉めるのは止めて下さい?」



い・・・を、た・・・うを、かーえせ・・・



カント「だから、揉め事は・・・」









かあぁぁぁぁぁ!
ええぇぇぇぇぇ!
せえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!



カント「ぎゃ、ぎゃああああああああああああっ!!」



謎の声が聞こえる、工場跡奥の廃水処理場に行ったカントが見たのは、今回の「招待」にはいなかった「影」・・・そして、絶叫。
そのおぞましい絶叫と、「影」の素顔を見てしまうと言う恐怖の応酬を受けたカントもまた絶叫した後に失神、その場に倒れた。






アンバー『来ましたね、ゆい様。では、そろそろ肝試しに似合うさむ~い風を・・・』



ぎゃああああああああああああっ!!



アンバー『!?』
ゆい「っ!!き、きゃああああああああああああ~!!」



一方、工場に入ろうとするゆいにアンバーが冷風を送ろうとした瞬間、工場の中から聞こえて来たカントの絶叫にゆいだけでなく、幽霊役の面々も動揺。
途方もない恐怖と、それに対する克己心が並んだゆいは感情の赴くまま、工場内へ猛ダッシュした。



Jr.「な、何だったんだ今の・・・あれ?ゆいちゃん?」



レジェンド「・・・?」



サバイヴ「びっくりした・・・誰だよ、邪魔すん・・・あっ!」



ドゴラ「び、びびってなんてないよ・・・ゆうれい役のあたしがそんな・・・」
ゆい「きゃああああああああああああっ!!」
ドゴラ「ひっ!!」



カントの絶叫に気を取られた幽霊役も猛ダッシュ中のゆいを驚かせる間は無く、そのままゆいは奥の管理室の扉をタックルで破壊して部屋の机に置かれたランプを持ち出し、一分も経たない内に工場跡を脱出した。



ゆい「きゃああああああ・・・あっ、あれ?」
シュウ「おう、ゴボウ抜きか。やるじゃねぇか、ゆい。」
ゆい「・・・あれれ?」



こうして、肝試しリベンジはゆい本人も知らないまま、刹那の間に幕を閉じたのだった。






カント「・・・」
???「・・・あっ、ラドンだ。」



工場跡奥の廃水処理場跡では、失神したカントに「影」が近寄っていた。
至る所が鉱物のように鈍く光る灰色のセミロングヘア、ボロ布同然の茶色い上着、何処か危険さを漂わせる、鮮やかなサイケデティックカラーの瞳孔が常に開ききった楕円形の目。
「影」の正体見たり・・・彼の名は、ヘドラ。
かつて、高度経済成長期の日本が起こした社会問題・・・公害が生んだ怪獣であるヘドラは汚れた場所が好きであり、宇宙にルーツを持つ宇宙怪獣でもある彼は世界中・・・いや、宇宙中の悪環境な所を神出鬼没に巡り続けている。
それで最近はこの工場跡を住処としていたのだが・・・



ヘドラ「ラドン、白眼になってる~。僕のシャウトにびっくりしたのかなぁ。僕は思いっきり歌ってるだけなんだけどな~?」



そう、ヘドラは更に「かえせ!太陽を!」と言うカルトソングを夜になると歌っていたのだが、この工場跡にまさか住人がいるなどと誰も思う筈が無く、ヘドラの歌声はいつしか「返せ」の幽霊として噂になっていたのであった。



ヘドラ「すいぎん、コバルト、カドミウム~♪
なまり、りゅうさん、オキシダム~♪
シアン、マンガン、バナジウム~♪
クロム、カリウム、ストロンチウ~ム♪」
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好釦