プロジェクト・テイル・リバース
更に時間が過ぎて、ゴジラタワーの管制室ではDG連合、ティフォン、ヒジュラスが退屈そうに時間を持て余していた。
クリスは隣の展望台で自分好みの少年になるであろう怪獣の物色をかれこれ二時間は続けており、ナイフヘッドは半ば強引にクリスの同伴に現在進行形で付きあわされ、ガイガンとメガロは退行化装置の最終調整中で、レザーバック夫妻は帰って来てドゴラを隣の応接室に監禁したかと思えば、またも家族サービスに直行。
特に怪獣を物色する気も、レザーバック夫妻の家族サービスに参加する気も、ましてやガイガン・メガロを手伝う気もない彼らにとっては、作戦決行までの時間は退屈でしか無かったのだ。
カナエ「あぁ~、早く色々ぶっ壊してぇ~!レオに汚名挽回してぇ~!」
アサナ「うるさいなぁ、ノゾミ君。耳障りだから静かにしてよ。」
カナエ「カナエ、だ!右の首と間違えんな!」
ヒジュラス『それに「汚名挽回」では無く『汚名返上』だ。この低脳め。』
カナエ「うるせぇな!焼鳥野郎は黙ってろ!」
ヒジュラス『焼鳥、だと!?低脳の分際で、この我を愚弄するかぁ!』
カナエ「おう、やるってか?今の俺は超ムシャクシャしてんだ、別に相手がお前でもいいんだぜ?」
デスギー「はっはっはっ!いいぞいいぞ、やれやれ!!」
ブラウニー「やめろバカ共!お前らのせいでせっかくのこの作戦が失敗するなんて、オレは嫌だからな!」
ティフォン「・・・所詮は下級民族のする低俗な行為か、到底見ていられんな。」
カナエ、ヒジュラス、ブラウニー、デスギー「『「「なにぃ!!」」』」
アサナ「やれやれ・・・ボクは早くチハヤちゃん達を虐めたいのになぁ・・・もういっそ、今からあの装置を起動しちゃおっか・・・んっ?」
と、窓越しにアサナの目に入ったのは、こちらへ向かって飛ばされて来る何者かの姿であった。
その何者かは窓に当たる前に落下して行き、アサナが窓から覗き込んでみると、そこにはゴジラタワーの手の爪部分にスーツの首部分が引っかかり、必死にもがいているカントがいた。
そう、先程カントはアンバーに手を出そうとして「‐」バランの怒りを買い、彼の強風によって飛ばされた挙句にここまで飛ばされて来てしまったのだった。
カント「くっ、この私とした事が、こんな醜態を晒すなんて・・・!」
アサナ「・・・誰?」
ブラウニー「あいつ、この世界のラドンじゃねぇか。何してんだ?」
カナエ「知らねぇけど、なんかダッサくって笑えんな!」
ティフォン「汝ら、奴を救済する気は皆無なのか?」
アサナ「だってボク、誰かを助けるより誰かが困ってるのを見る方が断然好きなんだもん。助ける気なんてないよ?」
ブラウニー「奴は女好きらしいから、どうせどっかの女に手ぇ出して報復を受けたんだろうな。だが、自業自得はたとえ悪しき怪獣でも助ける義理なんて、ない!こちとら余計な体力を使いたくねぇからな。」
カナエ「オレもパス。人助けなんて趣味じゃねーっての。」
デスギー「おれもだ。と言うか、そういうお前は行かないのか?」
ティフォン「我は提言しただけ、実行するのは別。当然の事だろう?下級の世話は下級がせよ。我の手を煩わせるな。」
デスギー「な、何だとぉ!!」
アサナ「だよねぇ。フォン君はそう答えるよねー。」
ブラウニー「ケーッ!何なんだよ、あの態度!」
カナエ「やっぱあいつ、超ウゼぇ!」
ヒジュラス『・・・』
カント「嗚呼、こんな状況で・・・アンバーさんが見える・・・あのバランとデートをする、アンバーさんが見える・・・!」
アンバー『バラン、そろそろ戻った方がいいのでは無いですか?一応はスペース様達を待たせている状況ですし・・・』
「‐」バラン『其うは行かん。又スケコマシが戻って来る可能性が在るのでな。其れとも、私と行動するのは嫌か?』
アンバー『いえ、そんな事はありえません。わたくしとバランは同じ世界に生きる「同志」なのですから・・・それに何だか、バランとデートしているみたいですし。』
「‐」バラン『ば、馬鹿者!私が其んな事等、考えて要る訳が在るか!』
アンバー『ふふふ、冗談ですよ。バランがそうしたいのでしたら、もう少し歩きましょう。』
「‐」バラン『・・・全く、突然軽口に成る奴だ。御前は・・・』
こんな所にいるとは露知らず、カントから逃げている――と言う名目での散歩をしている――「‐」バランとアンバーの姿をカントが見ている・・・いや、見せられている皮肉。
今の不恰好さだけでなく、その皮肉が目の前にしているカントの精神は、もはや目も当てられない程に荒んだ状況だ。
カント「あのバランめ・・・ただの堅物で面倒な男かと思ったら、中々やるじゃないか・・・!
はぁ、ここで誰かが都合良く助けに来てくれないものですかねぇ・・・こんな姿をレディ達に、アンバーさんに見られでもしたら・・・ううっ。」
ヒジュラス『・・・退け、愚民共。』
するとヒジュラスはそう言うや窓を開けて外に飛び降り、そのまま飛翔してカントの右肩を掴む。
カント「なっ!?貴方は・・・?」
ヒジュラス『今の貴様は見苦し過ぎて見ていられん・・・特別に助けてやる。感謝するんだな。』
続けてヒジュラスはカントの右肩を掴んだまま上昇して爪から彼を離したかと思うと、今度は窓に向かってカントを投げた。
カント「お、おわっ!?」
突然の事に受身も取れないままカントは管制室の床に転がり込み、DG連合も思わず体を避ける。
程なくしてヒジュラスも管制室に戻った。
カント「あいたた・・・なんて身勝手な助け方だ・・・」
ヒジュラス『助けただけいいと思え、愚民め。』
カント「それもそう、ですね・・・ありがとうございます。高級炭火焼鳥みたいな貴方。」
ヒジュラス『や、焼鳥だとぉ!?貴様、この我に助けてもらっておきながらぁ!!』
デスギー「はっはっはっ!様にならないが御似合いだなぁ!!」
アサナ「えー、助けちゃうの?つまんないなぁ。ボクはまだまだ苦しむ姿が見たかったのに。」
ブラウニー「それにしても意外だな、アンタがまさか人助けもとい怪獣助けをするような奴だったとは。」
ヒジュラス『昔、同じような経験をしたのでな。その好しみで助けてやっただけだ。』
ティフォン「そんな戯言程度で、汝の人気には直結せんぞ?無駄な徒労をして如何する?」
ヒジュラス『黙れ、独裁者。我は我のしたい事をしただけ、ただの自己満足だ。貴様に口出しされる覚えはない。』
ティフォン「ふぅん・・・下級の分際でこの我に尊大な大口を叩くではないか。」
カナエ「お前、気に入らねぇ奴だと思ってたが、この金メッキ野郎に噛み付くってのは嫌いじゃねぇぜ?」
アサナ「キミに褒められても嬉しくないと思うよ?タマエ君。」
カナエ「カナエ、だぁ!お前、わざとやってんだろ!」
カント「ちなみに・・・デスギドラと何だか彼に似通った貴方達、そしていかにも偉そうな人がいると言う事は、あまり好ましくない展開でしょうかね?」
ガイガン「お前がそう思うんならそうなんだろう、お前の中ではな。」
メガロ「僕らはよっしゃ、ラッキー!だけど。」
そこにやって来たのは、装置の最終調整を終えたガイガン・メガロであった。
二人の顔を見て、カントは自分が置かれた状況を即座に理解する。
カント「・・・やっぱり、そうなりますか・・・」
ガイガン「相変わらず話の分かる奴だ、ならちょっと来て貰おうか。」