「禁断の書物」番外戦 エピソード・オブ・バラン~地球に神が降りた日~
所変わって、地球・日本。
戦国時代が終わりを告げ、徳川幕府が日本を治める江戸時代を迎えた、旧暦8月25日(現在の10月14日)の盛岡藩(現在の岩手県)。
北上川上流に生い茂る森の中の野道を、五人の男女が歩いていた。
「‐」バラン『然し、此処迄道中の地形や光景が一緒とは・・・異世界で在っても、イワヤの地は聖地なのだな。』
アンバー『本当ですね・・・以前、わたくしの世界の岩屋村に行った時のようです。』
護国バラン「私の世界の岩屋村もそうだが・・・この世界の日本はまだ徳川が治めているのか。懐かしいな。」
一行の内の三人は、以前の出雲「招待」時にも顔を合わせた異世界のバラン一族、「‐」世界出身の「‐」バランとアンバー、人間界出身の護国バランだった。
???「まだ江戸時代だから古い感じはするけど、これがデジャヴってやつかな?僕の世界の岩屋村もほとんど同じだよ。」
???「私はこの地から離れて久しいが、懐かしさを感じるな。護国聖獣時代に戻ったような気分だ・・・」
残り二人の男女は初めて「招待」される異世界の怪獣であり、お互いにそれぞれ違う世界から来ているのだが・・・この二人もまた三人のバランと同じ共通点を持つ存在。
肩から下げた巨大な黒い郵便袋と、額に付けた緑のゴーグルがトレードマークの、茶を基調にしたジャケットを着た周りに比べてやや背が低めの薄い茶髪の男は、獣人界出身のバランである「フレア」。
怪獣達のパイプラインとなる郵便屋を勤めるフレアはここ近年、「カンピ・ルーラ(アイヌ語で手紙・運ぶの意)」のコードネームで「招待」状を異世界の怪獣達に渡す役割も担っており、多くの怪獣達と顔見知りだったもののその生真面目さから仕事を優先して「招待」には参加せず、今日はある事情からどうにか参加にこぎつけた。
長い銀髪、赤色の装飾が散りばめられた真っ白の巫女装束の様な着物と千早を着た、切れ長の目と揉み上げに付けた祭祀用の牙が特徴的な流麗なる女は、UW出身のバランである「志那刀(シナト)」。またの名を、「波羅蛇麒(バラダギ)」。
UWにおける「護国三聖獣」の先代、即ち今の護国三聖獣の先輩であった波羅蛇麒は仲間の晏麒羅(アンギラ)こと「安奇都(アキツ)」、罵螺醐羅(バラゴラ)こと「香久追(カグツ)」と共に「くに」を護り続けた「生ける伝説」と呼ばれる存在で、今は秋田県の奥地で静かに暮らしている。
そう・・・彼ら五人は世界は違えど同じ「バラン」の名を持つ「同志」であり、最後の一人である怪獣界のバラン・僧バランの呼び掛けと、バラン一族贔屓とされているある招待主の働きで、この夢の対面が実現したのだった。
彼らが向かっているのも当然僧バランが滞在している「岩屋の地」改め「岩屋村」であり、僧バラン曰くは大概のバランの誕生日である今日に岩屋村に呼びたい理由があるらしい。
「‐」バラン『正か、我が同志全てが一同に会す機会が来る等思わなかった・・・!新たなる同志、「カンピ・ルーラ」改めてフレア!志那刀!本当に感謝掏るぞ!』
フレア「いやいや、まさか僕までバラン一族の会『同志の集い』の一員になれるなんて光栄だよ!みんなに悪いけど、勇気を出して仕事休んでみてよかった・・・」
シナト「騒がしいのは好みじゃないが、私と同じバランだけあって居心地は悪くないよ。」
「‐」バラン『まぁ、此の世界の同志足る法師は埜々(やや)騒がしい奴だが・・・成るべく寛大に頼む。』
護国バラン「私もその法師様に会うのは初めてだが、同じバランだ。同志も信頼しているし、悪い奴では無いのは保証出来るだろう。」
アンバー『わたくしも賛成致します。実際にお会いしましたが、わたくし達とはまた違う、活気ある素敵な方ですよ。』
シナト「そうか・・・」
フレア「それにしても、男女ごとに見事に似た感じだね。アンバーさんとシナトは白っぽい女性だし、そっちは双子レベルで瓜二つだし・・・なんか、僕だけ場違いみたいに思えるよ。」
「‐」バラン『気に掏るな!誰が何と言おうと、御前は同志だ!文句を言う輩共は、私が相手を仕手遣る!』
フレア「あ、ありがとう。」
護国バラン「フレアは前々から同志が好きそうな生真面目な男だと思っていたが、正解だったな。」
シナト「相手にするなら、真面目に越した事は無いだろう。」
アンバー『ですが、時に異なる性格の方と交流してみる事で、良き結果になる事もままあります。「招待」、今この時がまさにその好例ですね。』
シナト「なるほど、それは尤(もっと)もだ。助言有難う。」
アンバー『お褒めに与(あずか)り、感謝致します。わたくしも同じ女性バランのシナト様と出会えた事を、大変嬉しく思っていますよ。』