「禁断の書物」番外戦 エピソード・オブ・バラン~地球に神が降りた日~
それからしばらくして、バランは「生き残りの丘」と呼ばれるラゴス島の残骸たる小島にいた。
丘にはかつてゴジラ一家が住んでいた大樹が残っており、根元に建てられたリエラの墓には沢山の花が添えられている。
そこに立つバランは黒い僧衣に茶の編笠の風体に、手に金の錫杖を持っており、その姿はまるで僧侶のようであった。
バラン「・・・あの日の約束は果たせなかったが、今度こそ約束しよう。
常に、女性第一であれ。
常に、僧のようであれ。
常に、岩屋の神であれ。
そして常に、自分に正直であれ・・・」
誓いの言葉の後、バランは墓の前で胡座(あぐら)を掻いて清めの読経を始める。
これが彼が出来る、彼女への最大の餞別だったからだ。
きっと、空の彼方から彼女が聞いてくれていると信じて。
ーー・・・さようなら、リエラ。
多分、初恋だった・・・
読経が終わったバランは、静かに生き残りの丘を去った。
リエラの墓には、周りの花より一際麗しい白い花が一輪、増えていた。
ゴロザウルス「さぁて、今日も村の為に・・・あっ、あんた・・・」
翌朝、日課の見回りの為に村の入り口に来たゴロザウルスの目に、昨日突然無言でいなくなった「あの怪獣」がいた。
ビオランテから一応ずっとこの島にいた怪獣である事だけは聞いたが、昨日の事があって少し気まずい。
ゴロザウルス「あんた、昨日も来たよな?いきなりいなくなったけど、なん・・・」
バラン「なんだ、お主は怪獣島を最も愛すると豪語しておきながら、拙僧の名前も知らんのか?ゴロザウルスのゴローよ。仕方ない、特別に教えてやろう・・・
拙僧はバラン。風のように現れ、風のように去って行く風来坊だよ。」
ゴロザウルス「・・・へっ?」
バラン「ほらほら、若いのがしゃきっとせんか!とりあえず拙僧をゴジラとスペースの所に連れて行ってくれ。こう見えて、キング夫妻とは親交があったのでな。」
ゴロザウルス「えっ、と・・・ゴジラもスペゴジもビオが預かってるけど?」
バラン「な、なんとぉーっ!?ビオめ、余計な手間をかけさせよってからに・・・分かった、礼を言うぞ。それではさらばだ!」
ゴロザウルス「お、おう!じゃあな・・・」
ーー・・・なんだろ、この存在感あるのか無いのか分からない感じ・・・
昨日とまるで違う「彼」・・・バランの言動にゴロザウルスは呆気に取られるばかりだった。
が、この言動こそがバランの出した答えであった。
昨日リエラの墓前で誓った、彼女が思い描いていたであろう理想の自分の姿として、バランはこれから生きて行こうと思ったのだ。
バラン「全く、預かっているのなら最初から言わないか!面倒な事をさせよって・・・」
ビオランテ「最初から私に頼らんと決めたのは、お前じゃぞ?なら、私が最初から答えを出すのは本末転倒じゃからのう。」
バラン「それにしても手段が・・・」
ビオランテ「まぁ、せっかくまともな男になったと言うのに細々言うでない。それに、今のゴジラは少しお前には見せられないからのう・・・」
バラン「ゴジラが?それはどう言う・・・はっ!?」
ゴジラ「・・・」
アッシリ湖・ビオランテの家。
一室で再会したスペースはやや背が伸びた以外そのままであったが・・・ゴジラはまるで中身の抜けた脱け殻のように、瞳に虚無を湛えながらベッドに座っていた。
母と故郷を失ってからゴジラは悲しみと絶望に囚われ、元気印がトレードマークだったとは思えない程の、今の状態になってしまっていた。
スペース、彼の隣にいる兄弟の幼馴染みのシン・インファント・モスラ、そしてビオランテも常に心配しているが、どうしようも出来ずにいるのが現状だった。
バラン「なん、と・・・!」
シン「あれ、あなただれ?」
スペース「あっ、えっと・・・そうだ、バランだ。」
バラン「やぁ、久しぶり。拙僧を覚えていてくれて嬉しいぞ、スペースよ。」
スペース「母さんが、いつも話してたから・・・」
バラン「そうか・・・で、隣にいるお主が『守護神の一族』で二人の幼馴染みのシン、だな。拙僧はバラン。リエラの知り合いだよ。」
シン「リエラさまの?あたし、しらないなぁ?」
バラン「ゴローすら知らないような男だ、仕方ない。それで、これは一体・・・」
ビオランテ「母と故郷、同時に失えばこうなろう。特に思い入れが強かった分な。」
スペース「オレも何も出来なかった・・・母さんをすくうことも、ラゴス島をまもることも・・・そして今も、弟もすくえない・・・」
シン「あたしも『守護神の一族』なのに・・・くやしい・・・!」
スペース「・・・『紅い悪魔』、デストロイアをオレはぜったいにゆるさない・・・!必ず、オレがたおしてやる・・・!!」
ビオランテ「それはいかんと、何度言えば分かるんじゃ。あいつは今のお前が敵う存在では無い、お前に何かあれば皆が更に悲しむんじゃぞ!」
スペース「でも!!」
バラン「ビオの言う通りだ、スペースよ。もしお主が死んだら、天国にいるリエラが永遠に報われんぞ?その怒りは分かるが、無謀な事は止めるんだ。」
スペース「・・・お前には言われたくない・・・かんじんな時にいなかったくせに!お前がいれば、母さんは助かったかもしれなかったんだ!なのに、お前は地球なんかに行って・・・!」
シン「やめて!!スペゴジ!あの時、あたしのお母さんも地球に行ってたの!だから・・・」
バラン「・・・全くその通りだ。拙僧は怪獣退治をしただけで人間から崇められ、内心浮かれて神になった気分だったからな・・・だからこそ、拙僧はリエラの思いに答える・・・スペースよ、仇討ちなど止めろ。お主にはまず、やる事があるだろう?負に囚われている弟を救うと言う、兄としての使命が。それを成さぬまま無駄死にして、これ以上リエラを悲しませるな。」
スペース「・・・」
シン「そうよ!スペゴジまでいなくなるなんて、あたしぜったいにいや!!あたしはまたゴジラとスペゴジといっしょに、なかよくすごしたいの!だから、そんなこと言わないでよぉ・・・!」
スペース「シン・・・」
バラン「拙僧を恨むなら、恨んでくれて構わん。だが、生き方だけは間違えるな。拙僧と違って、お主とゴジラはこの怪獣界の希望そのものなのだからな。」
スペース「・・・分かった。オレはもうあんたをうらまない・・・ひどいこと言って、わるかった。」
シン「スペゴジ・・・!」
ビオランテーー・・・あのスペゴジの一言、あやつにとっては最もきつかっただろうに。
バランよ、お前の変わろうと言う思いは本当なのだな・・・