「禁断の書物」番外戦 エピソード・オブ・バラン~地球に神が降りた日~
バラン「・・・はぁ。」
あてもなくバランは島をさまよい、やがて数百年留まっていたあの崖の先にたどり着いた。
地球に行く前に戻ったかのように、バランは虚無の表情で空を見上げ、リエラとの会話を思い出してはうつむいて溜息を付き、また空を見上げる・・・これを繰り返す。
ビオランテ「やはり、ここにおったか。」
そんな中、バランがここにいる事を悟ったビオランテが見かねて歩み寄って来た。
一歩踏み外せば海の藻屑になる崖を、まるで平地を歩くかのように欠片も動揺する事なく、ビオランテは振り返ったバランの前まで来る。
バラン「お前か・・・」
ビオランテ「事情はゴロザウルスから聞いた。情けないのぉ、誰からも覚えていられなかったからと言うだけで凹みよってからに。見かけによらず繊細と言うか、たるんだ精神じゃ。」
バラン「・・・」
ビオランテ「お前はこのままリエラとの約束を無駄にする気か?結局ここで時間だけを無駄に過ごす日々に戻るのか?」
バラン「・・・!」
ビオランテ「女の約束を破り、何も成せずに怪獣界にいようなぞ、私が許さんぞ?地球に戻るか、怪獣界で・・・」
バラン「うるさいっ!!!お前に私の何が分かる!!私の何倍は生きている古株のお前に、たかだか400年しか生きていない私の何が分かると言うんだ!!約束を守りたくとももう守れないこの悔しさが!もう地球にも居場所など無い、だが怪獣界にいながら怪獣達から必要とされないこの虚しさが!自分で自分が分からないこの悲しみが!お前に・・・!お前に、分かるのかぁ!!!」
ビオランテ「・・・分かるわけが無かろう、私はお前じゃないのだから。じゃが、一つ分かるとするなら・・・その叫びこそが、お前の意志そのものではないのか?」
バラン「!!?」
絶叫しながら涙を流していたバランは、ビオランテの言葉に口を開いたまま硬直する。
その言葉が、真意を突いていたからだ。
ビオランテ「全く、本当に世話の焼ける面倒な男じゃ。なら、ついでにもう一つ・・・お前が去った後、ある女がここで言っておった。」
『バランさん。貴方はきっと人間達と過ごす内に、貴方らしさを見つけられるはずです。このまま帰って来なくても、私は気にしません。
ただもしも人間を、地球を好きになったなら・・・どうか、夫が愛した地球を貴方が守って下さい。
貴方はきっと、神にだってなれます。だから、貴方が見つけたらしさのまま、誰かに必要とされる者になって下さいね・・・』
バラン「っ!?リ、リエラ・・・!」
時間を越えてバランに届いたリエラの言葉は、確かにバランの心に染み渡っていた。
用件を済ましたビオランテはただ一言バランに言い残し、崖を去って行った。
ビオランテ「あとは、お前が決めるんじゃな・・・」