「禁断の書物」番外戦 エピソード・オブ・バラン~地球に神が降りた日~







あれから、私はこの地の神となった。



ただ怪獣を倒しただけなのに、私は人間の「神」、バラダギ様となったのだ。



数年の時が流れた今も、分からない所はあるが・・・あの日私は「答え」を見つけたのかもしれない。



ずっと怪獣界にいて分からなかった答えが、地球に来ただけで分かるとは・・・なんとも言えないが。



ただ、今のこの満足感は間違いなく岩屋の民と、私を地球へ行かせたリエラのお陰であるのは事実だ。



神である以上は、もうしばらく離れられないが・・・いつかはリエラに報告しなければ。



今の私を、お前は正しかった事を・・・






バランが地球に来てから約10年。
あれからバランは「神」として村を襲う野盗や武士を退治し続け、すっかり村人達からの羨望を集めていた。
その折、岩屋の地に二人の訪問者が現れた。



神主「だまらっしゃい!バラダギ様に会おうなど、なんとあきれたお方達だ・・・!帰らっしゃい!」
バラン「どうした?私に用があるのだろう?ならば通せ。」
神主「バ、バラダギ様!?しかし・・・」
バラン「ん?お前達は確か、地球のインファント島にいる双子のモスラではないか?」



そう、この二人は地球のインファント島に留まり、聖域と守護神を守っている双子のモスラ、アジゴとアジマだった。
目的は同じく10年程が過ぎた怪獣界に起こったある事件を、バランに伝える為であった。



バラン「なっ、なんだと・・・!?」
神主「どうされました、バラダギ様?」
バラン「・・・帰る。私は、怪獣界に帰る・・・!」
神主「なんと!!神の世界に帰られるのですか、バラダギ様!?ですが世は未だ終わる気配の無い争いに満ちております、今こそ我らにはバラダギ様の加護が・・・」
バラン「うるさい!勝手に私を神にしながら、その神をお前達が縛るとでも言うのか!笑止千万!お前達が何を言おうと私は帰る、お前達の傲慢に付き合うのも、今日が最後だ!」
神主「バ、バラダギ様!!どうかお待ち下さい!!どうか怒りをお納め下さ・・・!」
バラン「人間如きが、私に命令するな!さらばだ!!」






そうしてバランは岩屋の地を捨て、「道」を通って久方振りの怪獣界へと帰還した。
・・・一言、未練の言葉を呟きながら。



ーー・・・少し、言い過ぎたか・・・?










ビオランテ「ほれ、あそこがかつて『ラゴス島』だった所じゃよ。」
バラン「・・・!!?」



S.D.42 怪獣界・怪獣島。
言葉を失う、とはまさに今のバランの事であった。
怪獣界に帰還し、ビオランテに連れられた彼が見たのは、怪獣界を去る前の記憶とはあまりにも違う光景・・・突然過ぎる悲劇が引き起こした、受け入れがたい現実だった。
小さくも豊かで活力に満ちていたキング達の家・・・ラゴス島はもはや見る影も無くなり、僅かに海から突き出た島の残骸が、ここにラゴス島があった事を虚しく示していた。



ビオランテ「嘆く気持ちは分かるが、自分を責めるでない。お前が地球に行った間に『赤い悪魔』が来た、ただそれだけじゃ。」
バラン「だが・・・っ!!」



バランの脳裏に何度もトリップする、リエラとの最後の会話。
彼女との約束を果たせなくなってしまった懺悔と後悔の思いは、自然とバランの目から涙を流させていた。



バラン「・・・リエラ、すまない。本当にすまない・・・!!私が神を気取り、浮かれている間にお前は・・・っ!!すまない・・・本当にすまない、リエラ・・・!」






ひとしきり嘆いた後、バランは中央の村に向かっていた。
今は別の所にいるゴジラとスペースに会いに行く為だ。
バランはあえてビオランテの力を借りずに一人で、リエラの忘れ形見である二人のせめてもの助けになろうと決めたのだった。




バランーー・・・こんな事であがなえるとは思っていないが、何もしないよりはマシだ。
岩屋を捨て、帰って来た私には・・・


バラン「んっ?あいつが村人か・・・そこの者に聞きたい事があるんだが、ゴジラとスペースゴジラは何処だ?」
ゴロザウルス「それは・・・って言うかお前、誰だっけ?」
バラン「・・・!?」



村人のゴロザウルスが発した、さりげなくだが当たり前の一言。
だがそれは、バランに残酷な真実を突き付けるのには十分だった。



バランーー・・・そうだ。
私はずっと怪獣島にいたのに、誰とも話そうとしなかった・・・
この島の怪獣達にとって、私は最初からいないも同然だったんだ。
私を最も知るキングもリエラもいない、少し会っただけのゴジラとスペースが覚えている筈もない。
あとはせいぜいビオランテのみだが、あいつは知っていて同然だ。
そんな私がのこのこ帰って来て、何が出来る?
偽りの神にもなれなかった私が、救世主にでもなれると思っているのか?
・・・私には、やはり無理だ・・・
私に居場所など、無かったんだ・・・!



再び言葉を失い、バランは無言で村を去って行った。
残されたゴロザウルスは事態が飲み込めず、頭に付いた疑問符が取れず首をかしげる。



ゴロザウルス「お、おい・・・行っちゃったよ。しっかし、この村を知ってるって事は怪獣界の怪獣だろうけど、誰だっけか・・・まぁ、別に村には入れてやったのになぁ。」
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好釦