「禁断の書物」番外戦 エピソード・オブ・バラン~地球に神が降りた日~
これから何が待ち受けるのか、私には分からない。
私の思う通り、無駄足に終わるのかもしれない。
だが、何処かで私は信じたかった。
彼女が信じた、私への望みを・・・
「あ、悪鬼の使いじゃ!!」
「逃げろぉーーーっ!!」
「わあああああああ!!!」
地球・日本。
世は室町幕府の失墜に端を発した「戦国時代」に突入。
日本各地で天下を取らんと戦国武将達が群雄割拠し、各地で果てない争いが続けられていた。
そんな中、陸奥国(後の岩手県)・岩屋の地の人間達は最近、「悪鬼の使い」と呼ばれる巨大な化け物の脅威に脅かされていた。
まるで竜に翼を得たるかの如き、禍々しい姿をしたその化け物は定期的に現れるや家も畑も土地も荒らして行き、その度に民の命は奪われて行った。
民はなすすべも無く、この地に伝わる山神「婆羅陀巍(バラダギ)」に祈りを捧げる事しか出来なかった。
神主「バラダギ様、バラダギ様・・・!どうか悪鬼の使いを退け、我らをお救い下さい・・・!その為ならばこの命、バラダギ様に捧げます・・・!」
今日もまた、「悪鬼の使い」が岩屋の地に現れた。
「悪鬼の使い」が迫って来ている中、神主は祠の前で逞しい力士像の姿をした婆羅陀巍山神像に祈りを捧げ、救いを求める。
グォジィィィ・・・
しかし、神主の祈りも虚しく「悪鬼の使い」は岩屋の地を荒らし回り、祠の前にまで迫っていた。
それでも神主は、祈りを止めない。
神主「あ、あぁ!!バラダギ様!!わしの命が奪われる前にどうか、この命を糧に変えて現れ下さ・・・!?」
そして、「悪鬼の使い」がその尾で神主ごと祠を壊そうとした・・・その時。
天から光の柱が降りて来たかと思うと、柱から吹いた凄まじい風が、「悪鬼の使い」を弾き飛ばした。
神主「あ、あっ!貴方様は・・・!!!」
バラン「・・・全く、着地地点に被るな・・・!」
そう、バランだ。
彼は単に着地の邪魔になった「悪鬼の使い」を退かせただけなのだが、光と共に化け物を追い払ったその姿は、神主にとって目の前のバランこそが求めていた「婆羅陀巍山神」であると思うのに、疑いの余地は無かった。
神主「バ、バ・・・バラダギ様じゃ~!!!」
バラン「バラダギ?私の名はバランだ、間違えるな・・・しかし、あの怪獣・・・もしや、セルヴァムか?」
バランが呟いた、「悪鬼の使い」の正体・・・それは怪獣界に「破滅の使徒」として伝わる怪獣・セルヴァムであった。
その正体が何者かは怪獣界の者も分からないが、創造神の加護やキングの活躍によって今の怪獣界にはいなくなったとされていた怪獣であり、バランも驚きを禁じえない。
バラン「縄張りの主張をしているのか?だが、私に向かって来るのならば・・・!
そったらお前、念仏唱えろーーッ!!!」
バランを敵と認識し、再度向かって来るセルヴァムに対し、まるで人が変わったように激情に駆られながらバランは力強く読経を開始する。
バラン「~、~・・・!」
グォジィィィ・・・
バラン「・・・金剛界、曼陀羅!!はぁっ!!!」
そして、セルヴァムが目と鼻の先に迫ったと同時にバランの体は竜巻に包まれ、再びセルヴァムを弾き飛ばし・・・
グウィドゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・
竜巻が消えると共に、バランは本来の姿である「怪獣体」に戻っていた。
まるで山がその場に座しているかのようなその勇姿を見て、つい腰を抜かした神主は涙を流していた。
神主「まさか、生きている内にバラダギ様の神の姿を拝めるとは・・・我が生涯に、一片の悔い無しじゃあ・・・!!!」
バラン「地獄の底に、叩き落としてやるーーッ!!」
バランは両脇の皮膜を広げて飛び掛かって来たセルヴァムを飛翔してかわし、セルヴァムの真上で旋回して尾をセルヴァムの頭にぶつける。
セルヴァムはよろめいて田畑に転倒し、着地したバランは旋風で追い打ちをかけようとするが、後僅かの所で飛翔したセルヴァムにかわされてしまう。
バラン「うぬらめが、八つ裂きだーーッ!!」
だが、バランはセルヴァムを追う事なく周囲に六つの風の輪を形成し、空中からバランに追撃しようと迫って来るセルヴァムに向かわせる。
バラン「これで終焉(ゲームオーバー)だ、
ド外道ーーーッ!!!」
風の輪はセルヴァムの全身を捉え、バランの言葉通りセルヴァムを八つ裂きにした。
グォジィィィ・・・!
断末魔の刹那にセルヴァムはただの肉塊と化し、山中の林に落下。
バランは勝利の咆哮を、岩屋一帯へ響かせる。
それはもう、「悪鬼の使い」の脅威に脅える日々が消え去った事を意味していた。
グウィドゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・!
バラン「・・・はぁ、はぁ・・・今まで戦いなどした事もなかったが・・・そうか、私の中には・・・こんなにも激しい思いが眠っていたのだな・・・」
戦いが終わり、人間体に戻ったバランは我に返って冷静さを取り戻し、自身も知らなかった自分の本心に息を荒げる。
今まで胸中で抑圧されていた感情、迷いから薄れかけていたあらゆる事への欲望、戦いの中で目覚めた怪獣の誰もが持っている闘争本能、空虚な自分には無いと思っていた正義の心、そして・・・無意識に探し求めていた満足感。
それら全てが戦いをきっかけに溢れ出し、突然に向き合った本心を知ったバランは自分の存在を見直し始めていた。
村人「あっ、バラダギ様だ!!」
村人「バラダギさまーー!!」
村人「バラダギさま~っ!!」
と、そこへバランの存在を神主と勝鬨(カチドキ)の咆哮で知った村人達がバランの元へ駆け寄って来た。
何が起こっているのか分からず、バランは駆け寄る村人達を見渡す。
バラン「・・・?だから、何故バラダギと呼ぶ。私の名は・・・」
村人「バラダギ様!私達を『悪鬼の使い』から救って下さり、ありがとうございます!」
村人「神を信じていれば、必ず救われるのですね!」
村人「バラダギさま~!ありがとう~!」
村人「ありがたや~!ありがたや~!!」
村人「やはりバラダギ様は、我らを最後に護って下さる・・・!」
神主「偉大なるバラダギ様に・・・感謝ッ!!!」
村人達「「「はは~っ!!!」」」
図らずも自分達を救ったバランへ、感謝の思いを伝える為に村人達は一斉に頭を地に付ける。
理解が追い付かないバランは動転するが、それと同時に言いえぬ程の満足感が心に押し寄せていた。
バラン「・・・ち、超スーパーすごいどすばい・・・!」