それぞれのHappy birthday











――どうしても行くのか、ガジャ・ナーガよ。



――ああ・・・すまないが、これは最初から決めていた事。カルナとウシャスとの約束なんだ。



――そうか・・・ならば友として、主の旅立ちを素直に祝うとしよう・・・



――・・・ありがとう。
そしてさらばだ。我が仲間達。
私はまだ見ぬ新天地へと旅立つ・・・私の願いを聞き入れてくれた事を、心から感謝する。
後継者の件は、私が「彼」に話しておく。後の事は、お前達に任せたぞ。
私はお前達と行った全ての事を、生涯忘れない・・・



高次元領域、人智も怪獣も及ばない遥かなる世界の果て、黄金の光に包まれた空間・・・
今、一人の招待主が自分と「大切な者」との願いを叶える為に去って行った。
その名は「ガジャ・ナーガ」。
「象の様な蛇」の意味の名を冠した、とある世界で悲しみを背負って生まれし巨大で偉大なるゴジラ。
しかし彼の悲しみと現世への未練は今日を持って終わり、新しい朝を迎える為に異世界へ旅立とうとしていた・・・が、彼にはあと一つだけしなければならない事があった。
それは彼の使命と意思を受け継ぐ、新しい招待主を決める事。
そして彼はもう、その後継者を誰にするかを心に決めていた。










「う、うぅ~ん・・・」


――・・・目を覚ませ。
生と死、怨嗟と慟哭、呪われた運命を乗り越えし者よ・・・


「まだ俺、レム睡眠中で・・・って、ええっ!?」



夜の出雲大社、宿舎内で眠る「彼」の夢枕にガジャ・ナーガは現れた。
ガジャ・ナーガが後継者として選んだ相手、しれは・・・



――また会ったな、呉爾羅よ。


呉爾羅「お、お前は・・・!」



そう、呉爾羅であった。
もう会う事の無いと思っていた相手がまさか夢の中に出てくると思わず、呉爾羅も驚きが隠せない。



呉爾羅「・・・ガチャ・ナ二ガキタ!」


――ガジャ・ナーガだ。


呉爾羅「そうとも言う・・・ってか、あんたさっき新境地に行くとか言ってたのに、なんでまだ出雲にいるんだよ!ピース綾部か?行く行く詐欺か?」


――相変わらず、珍妙な事ばかり言う者だ。
私は一つ果たなければならぬ用件があり、ここに来ただけ。そして、それはお前に深く関係がある事だ。
しかし、この事は他の者には聞かれたくない・・・よって、続きは外に出て話す。
待っているぞ・・・






呉爾羅「・・・はっ!」



暫し後、呉爾羅は眠りから覚めた。
どうやら本当に呉爾羅の夢の中の事だったらしく、他の護国聖獣達は寝息を立てて熟睡している。



呉爾羅「・・・もしかして、愛の告白?」






外に出た呉爾羅は夜空を見上げ、呼び出し人を待つ。
程なくして、その夜空を覆わんとばかりに巨大なガジャ・ナーガが現れた。



――来てくれたか、感謝する。


呉爾羅「用件って何だ?実は俺を愛してましたとか、麻薬の取引とかなら応じないからな!」


――全て違う。
私の用件、それはお前にこの世界の新しい招待主になって欲しいのだ。


呉爾羅「俺が、招待主?」


――そうだ。
私が新天地に行けば、この世界の招待主がいなくなってしまう。
各世界に最低一人は招待主がいないと「招待」の人選等が公平で無くなる・・・それは避けたいと、私が去る条件として他の招待主が言って来た。
そして私は、お前なら大丈夫だと思ったのだ。


呉爾羅「・・・これ、はいorイエスしか無い感じ?」


――否、お前が嫌なら他の者に声を掛ける。
ただ、私としてはお前が最も適任だと思う。
神に近しく生と死を越え、「招待」にも数多く参加し、親交的で誰にも公平に接する、今のお前ならば。


呉爾羅「じゃあ・・・俺、明日から中の人の故郷をひたすら回るお礼参りの旅に出ようと思ってたんだけど、招待主になったらそれは禁止?」


――その点は大丈夫だ。
招待主が集まるのは「招待」を行うと「代表者」が決めた時だけ、それ以外は各々好きにしている。


呉爾羅「・・・よし!それなら乗った!今日からこの俺がニューリーダーだ!」


――そうか・・・ありがとう。
これで私の心残りは、本当に全て無くなった・・・
では、七日後までに指定した場所に向かってくれ。そこから先は使いの者が導いてくれる。
大丈夫だとは思うが、そこで招待主になって良いかを試されるだろう。


呉爾羅「それ、面接試験じゃん!うわ、めんどくさっ。証明写真も無いし、途中で作っとかないと・・・」


――お前は我が信頼をもって選んだ者だ、その点の心配はしていない。
私が認めた、かけがえの無き唯一無二の存在なのだから・・・
私は何処にいても、お前の新しい明日が良き日々となる事を心から願い続けている。
そして忘れないでくれ、「お前」と言う人格・存在そのものがこれから必要とされる事を。
では、今度こそさらばだ・・・



ガジャ・ナーガは星空の彼方へ去って行き、呉爾羅は手を振り終わった後もそのまま夜空を眺め続ける。
全てが一変する、これからの自分を思いながら・・・



呉爾羅「じゃあな。ガジャ・ナーガ・・・」


――・・・俺もようやく、神頼みされる側になったってことか。
そういや、こんな歌詞の歌があったなぁ・・・


「・・・そろそろお別れの時間だ、俺はあんたなんか怖くない。
・・・行かなくちゃ、嘘つきにはなりたくないから。
・・・自分の人生を過ごせないなら、俺は死んでいるのも同然なんだ・・・」






それから呉爾羅は自身の中の魂達の故郷を回る巡礼の旅人となり、東京を目指しながら魂のふるさとを訪れ続けた。
そして約束の一週間後当日となった今日、呉爾羅は東京湾を一望出来る波止場にいた。



呉爾羅「ええっと、ここで待ってればよかったよな?」


――・・・なんか、思い出すなぁ。
ちょうどこの辺りで俺、心臓だけでいたっけ・・・



2002年、かつて最珠羅・魏怒羅と死闘を繰り広げ、東京湾の底で心臓だけで生き延びながら、精神世界で婆羅護吽を交えての対話をしていた時の事を回想する呉爾羅。
少し前までは忌まわしいとすら思っていた思い出だが、今の呉爾羅にはその思い出が仲間達との絆を証明する、大切なものとなっていた。



呉爾羅「・・・もう魚につつかれるのは、勘弁だな。」
???『お前がガジャ・ナーガが言っていた、新しい招待主候補じゃな?』
呉爾羅「!?」
???『何処かで見た顔だと思ったら、一度怪獣界に「招待」で来ておったな。あのどうしようもなく馬鹿げた事件の時か・・・』



と、そこにやって来たのはビオランテであった。
どうやら彼女がガジャ・ナーガが言っていた使いのようであり、ビオランテは呉爾羅を見るやすぐ見当が付いたが、呉爾羅の方は彼女と直接話していないからか思い出せそうで思い出せず、ポカンとしている。



呉爾羅「・・・」
ビオランテ『なんじゃ、私の顔を見ながら呆けよって、失礼な奴じゃな。』
呉爾羅「・・・あっ!!思い出した!お前って、確か・・・」
ビオランテ『やっと思い出しよったか?』
呉爾羅「・・・最珠羅みたいな奴!」
ビオランテ『なに?』
呉爾羅「気にくわない奴は容赦なく溺死させる、最珠羅と同じ溺死大好き怪獣!おー、こわっ。俺、チャイルドパパとバトラがやられるのを見て、気を付けないとって思ってたんだった・・・」
ビオランテ『ほう・・・?お望みなら、お前を今すぐこの海に沈めてやるぞ?』
呉爾羅「お望みしてないって!ここはヘドロばっかで嫌で嫌でたまんなかったし、せめてグレートバリアリーフか地中海にしろ!」
ビオランテ『そこなら沈めていいのかの。』
呉爾羅「・・・いや、やっぱタンマ。」
ビオランテ『話には聞いておったが、口を開けばわけの分からない事ばかり言う奴じゃ。それより、期日が一週間と言われて本当に一週間後に来る奴がおるか。分身とは言え、女を待たせよって。』
呉爾羅「いいじゃん、別に。24時間テレビのマラソンだって間に合わなくても、ゴールすればいいんだし・・・それに今、俺はお礼参りの身なんだよ。」
ビオランテ『24時間テレビ?お礼参り?こやつ、ほんと何を言っとるんじゃ・・・まぁいい、お前が招待主になる前にこれから他の招待主達に会って貰う。つまりは顔合わせじゃな。』
呉爾羅「やっぱ面接試験ありかぁ・・・寝癖付いて無い?」
ビオランテ『大丈夫じゃよ。ほれ、今から高次元への門を開く。男ならうだうだ言わんと、覚悟を決めんか!』
呉爾羅「分かってるって!俺はバリバリ最強No.1なゴジラだ!一発で合格してやるからな~!」




ビオランテが手をかざすと、東京湾の上空にブラックホールを思わせる次元の穴が生成される。
それに対し呉爾羅は何のためらいも無く、ジャンプして次元の穴へと飛び込んで行き、それを見届けたビオランテの分身は消え去った。




ビオランテ――・・・お前も神に近しい存在のようじゃが、これから会うのは正真正銘の「神」。
尻込みしない事を祈っておるぞ・・・










呉爾羅「・・・着いた、か・・・?」



次元の穴を抜け、呉爾羅が着いたのは高さも大きさも熱さも寒さも感じない、ただ黄金の光が一面を包む空間・・・「高次元領域」だった。



ビオランテ『よくぞ来たな。』



と、そこへ突如呉爾羅の前にビオランテが現れる。
先程のビオランテとはまた違う分身だ。



呉爾羅「うおっ!びっくりした・・・ノックぐらいしろよな。」
ビオランテ『この世界の何処にノックする扉があるんじゃ。馬鹿も大概にせい。』
呉爾羅「あっ、お前人の事バカって言ったな?バカって言った奴の方がバカだって、おばあちゃんが言っていただろ!」
ビオランテ『減らず口もいい加減にせんか!この神聖な場所で!』
呉爾羅「んっ?そういやそもそも、なんでお前ここにいるんだ?お前も俺と同じで面接を受けに・・・いや、まさかズルしたな?バルサンみたいに俺にくっついて行って、自分もまんまと!」
ビオランテ『さっきお前を案内したのは私の分身、ここにいる私も分身じゃ。』
呉爾羅「分身と、分身?お前、もしかして忍者か?ニンニンか?シュシュッとか?なんなんじゃ!」
ビオランテ『お前がなんなんじゃ!まぁいい・・・時間じゃな。』



――待っていたぞ、新たなる招待主。
我が友、ガジャ・ナーガを継ぐ者よ・・・



その声を皮切りに、呉爾羅の前に招待主達が続々と姿を現す。
この声の主は、ガジャ・ナーガによく似た巨大な龍・・・いや、ゴジラの姿をした半透明な神。



――よくぞいらしてくれました。我らは貴方を歓迎します。



先の声の主にも負けない大きさの、美しき蝶の姿をした半透明の女神。



――チョリ~ッス!新人クン!
ボクちゃんと同じ招待主として、これからもシクヨロ~!



軽い口調に似つかわしくない、これまた前の二柱に匹敵する大きさの白く逞しき大型類人猿の姿の神。



――僕の箱庭の怪獣達が、色々とお世話になったね。君の事はよく知ってるよ。



時計を持った、あどけなくも虚ろな雰囲気の少年の姿をした神。



――さて・・・じゃあ始めるで!
お前がほんまに俺らの仲間にふさわしいんか、抜き打ちで面接や!



関西弁を話す、神・・・だとは思えないごく平凡な男。



――・・・ふふっ。



そして、この世界の彼方から招待主達を見守る「代表者」。
存在こそ感じるが、その姿を伺い知る事は出来ない。






ビオランテ『さぁ、始めるか?始めないか?』



招待主達を背に、ビオランテが呉爾羅に手を差し伸べる。



呉爾羅「・・・そんなのモチのロン、だ!」



呉爾羅もまた不敵な笑いを浮かべると、力強くビオランテの手を掴み・・・招待主達が叫んだ。



「「「新しい招待主の誕生、おめでとう!!」」」










それからしばらくして、東京湾の波止場に呉爾羅が帰って来た。
見た目は今までと変わらない・・・だが、瞳の奥の決意の光は一層輝いている、まさに新しい「彼」がそこにいた。






一体無音はいつまで続くのだろう
愛の永遠(とわ)へと言う
花咲く時まで

明日が見えなくても
微かな光を

例え短い人生だったとしても
自分らしく生きることが出来たなら
それは良い死なのだろう

笑いながら
夜明けの光は来る

闇を振り払い
天則(リタ)に従い
方角を見失わず

笑いながら
夜明けの光は来る






呉爾羅「・・・みんな、俺をまた『神』にしてくれて、ありがとうな。
さぁて、次のお礼参りに行きますか!」



数ヶ月前に出雲で「友」が歌ってくれた鎮魂の歌を歌い、呉爾羅は晴れやかな表情で再び巡礼の旅に戻る。
呉爾羅の旅は何時終わるのか、彼が次に怪獣達の元に現れるのは何時なのか、招待主として現れるのか・・・それは誰にも分からない。
だが、呉爾羅が信じ、呉爾羅を信じた者達が願う時・・・彼は旅の歩みを止め、再び姿を現すだろう。
数多の魂と共に世界を見つめる「火」の護国聖獣にして、怪獣達を導くこの世界の招待主・呉爾羅として・・・










呉爾羅「最後に一言・・・
擬人怪獣シリーズは、永遠に不滅です!!
おわり!」
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好釦