そうだ 出雲、行こう。











・・・ここは、「穴」の中か・・・
僕は、何処へ行くんだろう・・・



グランドギドラのティフォンを止める為、1億3千年前にタイムスリップした僕は、どうにか若いあいつを火山に放り込んで倒した。
でも、僕にも力は残されてなくて、気付いたら「穴」に飲み込まれてた。
この先がどうなってるかは分からないけど、とりあえず一休み出来る場所がいいな・・・










・・・あっ、「穴」の出口だ。
この先はどうなっているか・・・えっ?あれって、インファント島?
でも、なんか違う・・・そうだ、緑が全くない。すっかり荒れ果ててる。
それから・・・男と、女の子?
しかも女の子の方、蔦で縛られてる!?




「ケー!!久しぶりにオレの予知脳が叫んでるぜ・・・!今までの屈辱は、この日の為にあったってな!そうだろ、お姫サマァ!」
「くっ・・・!」
「あの女帝サマの言った通り、ビオランテの触手でアンタを拘束してから緑エネルギーを吸ってみて正解だったなぁ!これでアンタはオレのモノ!心配すんな、死なない程度にアンタを今から骨の髄までたっぷりしゃぶり尽くしてやるだけだからよ・・・?」
「何をされても・・・あたしは絶対、貴方なんかに屈しない・・・!お母さんの仇の、貴方にだけは・・・!」



お姫サマと呼ばれた女の子の方は抵抗すらできないままなのに、気丈な口調で男に言い返してる。
でも男はへっ、と小さく嘲笑するわ、ずっと下卑た笑みを浮かべてるわで、あいつ絶対ろくな奴じゃ・・・



「威勢がいいのも今の内だぜ?そうだ、アンタのはしたない痴態をあの世のモスラ一族共に見せてやる・・・もちろん、アンタの母ちゃんにも聞こえるように目一杯喘いでもらうぜ!」



はあっ!?あいつ、なんて事しようとしてんの!?最低!
これはもう一休みなんてしてる場合じゃない・・・!
とにかくあの変態をぶっとばす!決定!!
このまま落ちてる勢いのまま・・・行けぇぇぇ!!






「っ!やっ・・・!」
「まずはアンタの身包みを剥がして、その果実からいただ・・・」
「させるかああああああああああああああああああああっ!!」
「いて?なん・・・ごふっ!!」
「えっ・・・?」
「よっ、と・・・ライダーロケットドリルキック、成功!君、大丈夫?」
「う、うん。ありがとう・・・ところで、あなたは誰?」
「僕はチハヤ。通りすがりのモスラ・・・と言うより、迷子のモスラか。」
「あなた、モスラなの!?でも、確かに近い感じがする・・・あっ、ありがとう。あたしの名前はセラフィ。あたしもモスラよ。」
「よろしく。じゃあこれから案内でも・・・って言いたい所だけど!」



セラフィって言うこのモスラを縛る蔦を切って振り向くと、さっき思いっきりキックをかました変態が起き上がってきた。
後頭部にぶつけてやったのに、しぶとい・・・



「ブラウニー・・・!」
「ケ、ケーッ!!なんだお前は!折角これからお姫サマとお楽しみだってのに、邪魔すんな!」
「お前こそ、この世界に今来たばっかりの僕になんてもの見せようとしてるんだよ!なに、お姫サマとかお楽しみとか、気持ち悪っ!」
「ケー!言わせておけばこの野郎!オトコは今お呼びじゃないんだよ!とっとと失せろ!」
「・・・オトコ?」
「そうじゃねぇのかよ!オレにキックかましてくれたり、その貧相な体とか喋り方とか、どっからどう見ても男じゃ・・・がはっ!!」
「へっ!?しかもあの子、もしかして女の子?」
「今、なんて言った?僕が男とか、貧相な体とか聞こえたんだけど?」
「いや、だからそうじゃねって・・・ぶべらっ!!」
「誰がAだって?誰がオトコ女だって?もう一回言ってみろよ!」
「そ、それは言ってな・・・あぁい!!」



・・・決めた。
あのセラフィってモスラを助ける為とか、もう関係ない。
あいつを地獄送りにしないと、僕の気が済まない・・・!
不思議とこの世界に来てから、力がまた湧いて来たし・・・ね!!



「な、なんでこいつボロボロなのにこんなに強いんだ・・・あうっ!!」
「さぁ?それは多分神の思し召しなんじゃない?今すぐお前を、この世界から消せって言う!セラフィ、だっけ?君もこれから一緒にこいつぶっ飛ばさない?」
「も、もちろん!受けなさい!クロスヒート・レーザー!」
「ぐはっ!」
「へぇ、やるじゃん!なら僕は、エクセル・ダッシュ・レインボー!イヤーッ!」
「グワーッ!」
「あたしも!スパークリング・パイルロード!イヤーッ!」
「グワーッ!」
「チハヤ、次は一緒に攻撃しよ!」
「望むとこっ!じゃあ、せーのっ!!」
「「シャイン・ストライク・バスターッ!!」」
「アバーッ!!」



ぶっつけ本番だけど、僕とセラフィの合体技があいつに当たった!
これであいつも・・・!



「ケェェェッ・・・!テメェら、調子に乗んなぁ!!必殺技の贈り物で、お返しだぁ!
炎龍!旋風!撃波ァァァァァァァァ!!」
「きゃああああっ!」
「うああああっ・・・!」



まずい、まともに受けた・・・!
パワーアップしてても、最初からダメージ受けてる状態じゃ、やっぱりきついか・・・!



「戦いが終わったら、お姫サマと一緒にお前も可愛がってやるよ!本当に女かどうか、見て触って確かめないとなぁ?」



でも・・・あいつだけは、絶対許さない!
ふざけた事ばっかり言ってる、あの変態野郎になんて・・・!
僕は、絶対に・・・負けない!



「何故なら、今の僕は・・・阿修羅すら凌駕する存在だからだあああああっ!!
レインボー!!バスタァァァァァァァ!!」
「ぐああああああっ!!」
「今よ・・・!ブラウニー、貴方を封印する!!
ファイナル・フォール・オブ・ガイア!!」
「はっ!?き、木が生えてっ!?ま、待ってくれ!それだけは・・・」
「いいから、一生眠ってろおおおおおおおおっ!!」
「ぎゃあああああああああああああああ!!」



セラフィの封印技であいつの全身から木が生えて来たから、僕もありったけの奇跡の水(ホープフルウォーター)を打ち込んだ。
するとみるみる木は育って・・・あいつは巨樹の中に消えた。
それっぽい経験があったから、試してみたけど・・・やってみるもんだ。
変態野郎め、ざまあみろ!!



「お、ぼえ、てろ・・・ケェ・・・」






「ふぅ・・・なんかパワーアップしてるとは言え、連戦はきついか・・・」
「大丈夫?なんか、ここに来た時からもうボロボロだったけど・・・」
「ちょっと、ヤングの頃のギドラを倒して来てすぐここに飛ばされたから・・・ほら、あの空に空いてる『穴』から来たんだよ。」



僕が指差した先には、晴天の中を白い雲が幾重にも螺旋を描いて、その中心部分に時空を穿ったかのような黒く大きな「穴」がぽっかりと空いている。
まだ1、2時間は消えなさそうかな?



「本当だ、空に穴がある・・・」
「ちなみに今、あの樹の中にいる変態ってもしかしてデスギドラ?」
「うん。でも、よく分かったわね?」
「僕の所にもいるんだよ。こっちのは弱い者虐めが大好きなゲス野郎だけど・・・ほんと、デスギドラってどの世界でも最悪だよ。」
「そうね・・・同感。」



青空を背に、唯一残っていた小さな花園に座り込んで、僕はセラフィと話をする。
セラフィは僕の隣で目を瞑って、僕の肩とくっつくぐらい近くの距離で安堵しながら、爽やかな風の中で時々漂う花の香を味わっている。
安心したのか、疲れてるのかは分からないけど、あんな女の扱い方を知らないような変態の相手をさせられたらそうなるか。
肩を貸すくらいなら、別にいいけど・・・こう見るとお姫サマって言われるのは分かるくらい、可愛いな・・・



「そうだ、セラフィって何歳?」
「15歳よ。チハヤは?」
「16歳。」
「あっ、あたしより一つ上なのね。同い年かなって、勝手に思っちゃった。」



・・・ただ、どうしても納得のいかない事が一つある。
僕より1歳年下の、まだ高校生になったかくらいなのに・・・胸は僕より一人前かよ!



「・・・?どうしたの?」
「いや・・・育った環境が違うからか、って思ってただけ。」
「好き嫌いは否めない、って事?」
「そんな曲あったね・・・と言うか、この世界にもあるの?」
「うん、そう・・・そうだ!なんかあたし、気になって来た事があるの。」
「僕もあるけど・・・一応、言い合ってみる?」
「ふふっ、賛成。じゃあ・・・」
「せーのっ。」



「「詳しく聞かせて、君/貴女のいる世界。」」






それから互いの世界について話し合ったり、一段落したらセラフィの緑を治す力(パルセフォニック・シャワー)と僕の奇跡の水を使ってインファント島の自然を治したりして・・・やがて空が雷のような轟音を上げるのを合図に、雲が大きく渦巻いて・・・いよいよ僕の帰る時が来た。
「穴」が塞がったら、帰れなくなるし・・・残念だけど、セラフィとはここでお別れ。



「チハヤ、今日は本当にありがとう。チハヤのおかげでブラウニーを封印出来た上に汚されずに済んだし・・・インファント島も元に戻ったし。何より、違う世界にも貴女みたいな立派なモスラがいる事が嬉しかった。
『ちはや、ぶる』・・・強い貴方にぴったりの名前ね。」
「ううん。まだ僕は、倒すべき奴を倒せてないみたいだから・・・でもゆっくり一休み出来たし、セラフィと出会えて良かったよ。」



それにしても、セラフィがわざと避けてたから聞かなかったけど、この世界には他にモスラ一族はいなさそうか・・・
イムって妖精モスラはいるから、このままでも心配はなさそうだけど、デスギドラがまた復活したらとか、色々不安になる。
何か、僕に出来る事は・・・



「チハヤ?どうしたの?」
「・・・セラフィ、もしかしたらこれが最初で最後の出会いになるかもしれない。だから・・・これを。」
「真珠?」
「僕が信じた君に・・・この世界の未来、託したよ。」



僕の力と、願いがこもった真珠を渡す。多分、僕に出来るのはこれくらいだし・・・あっ、しまった!
これ、ユナ王女とやってる事ほとんど一緒じゃん!
でも、喜んではくれた・・・みたい。



「ありがとう、チハヤ・・・こうして握っているだけで、貴女を感じる・・・じゃあ、あたしからも一つ。イム、お願い。」



そう言うと、半透明の妖精モスラのイムーーひとりぼっちの姉の為に生まれ変わった妹ーーが光の糸を出して、僕の体を包んでいく。
なんでだろう・・・何故か、僕がお母さんを助ける為に必死に産まれようとした、あの日を思い出す・・・



「『永遠の繭』よ。この繭には、太古からこの世界を守って来た歴代モスラ一族の思いが詰まっているわ。帰ったら、また戦いになるみたいだから・・・これはあたしからのプレゼント。」



そうか・・・だから、自分が産まれた時の事を思い出したのか・・・
それだけじゃない、この世界にいたモスラ達全ての思いが伝わって来る・・・!
セラフィの、お父さんとお母さんの思いも・・・!



「・・・必ず生きて、また会いましょう。だから・・・!」
「さよならは言わない、その日が来るまで・・・!」
「「じゃあね!」」










こうして「穴」に戻り、潜るまでの間に繭の中で全ての思いを力に変えた。
ティフォン=フリサフェニオス、まさかあの時切った尾から再生してたなんてね・・・でも、お前のネバーランドなんて絶対作らせない!
子供は世界の宝なんだ、お前に独り占めなんてさせてたまるか!
その三つ首を洗って待ってろ!
僕、いや・・・私が今、行ってやるっ!!






「いざ、今こそ我がネバーランドの建国の時!モスラ族の小娘無きこの世も口惜しいが、その隙間を汝等より齎された愛で埋め・・・」
「させるかああああああああああああああああああっ!!」
「くれ・・・?ナイカッ!!」



・・・こうしてあいつの後頭部を蹴飛ばして、分かった。
今の私なら・・・セラフィがくれた、この億千万年の思いの鎧を纏った私なら、勝てる!
命ある限り、望み捨てず・・・
だから、絶対また会おう・・・セラフィ!



「小癪な・・・むっ、もしや汝は先般のモスラ族の小娘か!生きていたとは、何と言う僥倖!若輩時代に一度倒されると言う、生き恥を晒した甲斐があったものだ!さぁ、今度こそ我と一つに・・・」
「お断りだよ。この鎧、脱ぐ気無いから・・・お前を倒すまで。
本当の戦いは、これからだ!!」










数年後、2017年・6月某日。
人間界・島根県、奉納山・・・



「さぁて、他の世界の怪獣はどんなもんかな。セラフィみたいなのがいて欲しいけど・・・!?」



「初めての「招待」・・・ねぇ、イム。あたし、他の世界の怪獣達やモスラ達と仲良くなれるかな?チハヤみたいな子がいたら・・・あっ、イム?ちょっと何処へ・・・!?」










「はっ・・・セラフィ!」



「・・・チハヤ?」



「「また、会えた・・・!」」






「ねぇ、早速だけど僕、セラフィに言いたい事があるんだ。」



「あたしも。だからチハヤ、一緒に言い合わない?」



「いいよ。じゃあ・・・」



「せーのっ!」



「「詳しく聞かせて、貴女/僕の世界。」」







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好釦