そうだ 出雲、行こう。







松江フォーゲルパーク、くにびき展望台。
シンとシン・ゴジラ(鎌倉さん)が屋根の上にいる事など露知らず、ペンギンの行進を見終えた新モスラ組とアンバーは、眼前に見える宍道湖周辺の絶景を存分に堪能していた。



セラフィ「すごーい!!ここからだと、宍道湖を大パノラマで一望出来るのね!」
チハヤ「今日は天気も良いし、向こうの山まで良く見えるね。」
アンバー『出雲の自然は、なんと素晴らしいのでしょう・・・!』
フェアリー『ウーン、本当ハ外ニ出テ見タイケドナ~!』
イシュタル「駄目だよフェアリー、この扉非常時にしか開かないって書いてあるし。」
レオ「・・・モスラ姉さん、もしかしてシン姉さんとシンゴジさん探してるの?」
「-」モスラ『当然ですわ!あの二人が外で二人きり何てじっとしていられませんわ!!』
チハヤ「でも、展望台はあらかたぐるッと回ってみたけど、それらしい姿は見えないよ?」
セラフィ「あたし達モスラ一族は目が良いから、見逃す訳ないと思うんだけど・・・」
レオ「もしかして宍道湖の方に行っちゃったのかな?あの湖とても広いから。」
「-」モスラ『あぁ、なんて事!きっとシンと一緒なら、シンゴジの告白が聞けると思いましたのに・・・!!』
チハヤ「ちょっと姉さん、興奮しすぎだって。」



イシュタル「・・・」
フェアリー『イシュ、ヤッパリ二人ッテ・・・』
イシュタル「しぃ!うん、きっと・・・ううん、絶対居るよ。」
アンバー『イシュタル様もフェアリー様も、お二人の居場所が分かっているのですか?』
イシュタル「・・・うん。お母さんって高いところが好きだから、屋上の屋根にいるかなって。この建物の中なら、そこが一番高いし。」
アンバー『ですが、イシュタル様はシン様の楽しみを邪魔されたくないと思って、あえて黙っているのですね。』
イシュタル「それもあるけど、前にわたしとダガーラって怪獣と一緒に居た時、姉さん達が遠くからこっそりわたし達を見てた事があって。あの時は本当に恥ずかしかったから、お母さんもシンゴジも嫌かなぁ、って・・・」
アンバー『そのお話は、モスラ様から伺っております。ですが同じ方法で仕返しをせずに、むしろ気持ちを慮(おもんぱか)ってシン様を気遣うのは、イシュタル様の素晴らしき優しさですね・・・分かりました。わたくしも内緒にしておきます。』
イシュタル「ほんと!ありがとう、アンバー!でも、なんだかそこまで言われると照れちゃうな・・・」
フェアリー『モシカシテ、アンバーニモソウ言ウ相手ガイルノ?』
アンバー『そう・・・ですね。一緒にいるだけで心が安らいで、その方を想うだけで胸がいっぱいになる・・・幾年の時間(とき)が過ぎようとも慕い続ける、世界で最も愛しい人・・・そう言う方はいますよ。』
フェアリー『ワァ・・・』
イシュタル「その人が誰かも分からないのに、アンバーの気持ちが凄く伝わって来た・・・!」
アンバー『ありがとうございます。ではひとまず、皆様が屋根を意識するのを阻止しないといけませんね・・・モスラ様ー!どうやらシン様とシン・ゴジラ様は、宍道湖辺りに戻っているようですよー!』
「‐」モスラ『本当ですの!?流石はアンバーですわ!こうしてはいられません!皆様、参りましょう!!』
レオ「あっ、待って姉さん!」
チハヤ「姉さんってなんか、お淑やかなのかお転婆なのか分からないよ・・・」
セラフィ「両方じゃないかな?」



イシュタル「嘘・・・付いちゃった?」
フェアリー『ホント二オクジョウ二イルカハ、分カラナイケド・・・』
アンバー『わたくしも好みではありませんが・・・嘘も方便、ですからね。それにもしかしたら、嘘から出た実(まこと)になる可能性もあります。その時はシン様とシン・ゴジラ様には申し訳ありませんが、精一杯のフォローは致しましょう。ともかく、わたくし達も参りましょうか。』
イシュタル「う、うん。」


――・・・なんか、婆羅護吽がお姉様って呼んじゃうのが分かる気がするなぁ・・・






一方、展望台屋根の上・・・



シン「あっ、モスラ姉妹はっけ~ん!!アンバーもいる~!あんなに走って、どうしたのかな?シンゴジ。」
シン・ゴジラ(鎌倉さん)「・・・」
シン「先頭にモスラがいるから、もしかして『アレ』関係かな?」
シン・ゴジラ(鎌倉さん)「・・・?」
シン「えっと、シンゴジにはもしかしたらまだ分からないかもしれないけど、一言で言えば『愛』、かな?」
シン・ゴジラ(鎌倉さん)「・・・クラムボン。」






約一時間後・・・



シン「さて、と!もう流石に誰も来ないだろうし、みんなと合流しよっか!」
シン・ゴジラ(鎌倉さん)「・・・。」
シン「じゃあ、フラッシュ・ダッシュは使わずに降りよっと・・・」






「‐」モスラ『はっ!!シン!やはり貴女、ここにいましたわね!』
シン「え、えっ~!!なんでみんなここにいるの!?」
「‐」モスラ『そんなの、女の勘に決まっていますわ!!』
チハヤ「本当は宍道湖周囲をどれだけ探し回ってもいなかったし、レジェンドも品川くんも見てないって言ったから、消去法で行き着いたんだけど。」
セラフィ「それに展望台に戻るって言ったら、イシュタルが一瞬そわそわしてたし。」
イシュタル「ごめん、お母さん・・・」
アンバー『わたくしもどうにかさりげなく遠ざけようと努力したのですが・・・まことに申し訳ありません。』


レオ――確かにアンバーさんの話術、凄かったなぁ・・・
モスラ姉さんが強引に行かなかったら、私達もここに戻ろうと思わなかったし。


「‐」モスラ『アンバーもイシュタルも知っていながら、やってくれましたわね・・・まぁ、いいですわ。さぁ、屋上で何をしていたかを一から百までお話しなさいっ!!』
シン「何をって、あたしもシンゴジもずっと喋ってただけだよ?」
「‐」モスラ『それがわたくしには気になるのですっ!!さぁ、さぁ!!』
シン「ん~っとね・・・」



シン・ゴジラ(鎌倉さん)「・・・クラムボン。」



シン「そう、クラムボン!!」
「‐」モスラ『クラム・・・ボン?』
レオ・セラフィ・チハヤ「「「クラムボン?」」」
イシュタル「なんだろう?新しい怪獣かな?」
アンバー『・・・なるほど。シン・ゴジラ様も中々の通ですね。それでは少し、お手並み拝見させて頂きます・・・
二疋(ひき)の蟹の子供らが、青じろい水の底で話していました。
クラムボンはわらったよ。』
シン・ゴジラ(鎌倉さん)「クラムボンハ、カプカプワラッタヨ。」
モスラ姉妹「「『しゃ、喋った!!』」」
シン「えっ?シンゴジは喋りたい時に喋ってるだけよ?ねっ、シンゴジ。」
シン・ゴジラ(鎌倉さん)「・・・。」
アンバー『今日シン・ゴジラ様を見ていて思ったのですが、どうもコミュニケーションを重要視していないだけで、興味のある事には比較的積極性を見せる方なのだと思います。シン様はどう思いますか?』
シン「う~ん、アンバーの言ってる事はちょっと難しいけど・・・多分そんな感じでしょ♪シンゴジが自由にしてるって事に変わりは無いんだし!あっ、そうそうアンバーに質問なんだけど、さっき言ってたのも宮沢賢治だよね?前の「招待」の時にシンゴジの家で読んだんだけど、名前が思い出せなくて・・・」
アンバー『短編「やまなし」、ですよ。シン様。しかし、怪獣界にいらっしゃるシン様がご存知とは意外ですね。』
シン「シンゴジが熱線使った後、寝てる間に勉強したんだ~♪日本語もだけど、シンゴジが好きな事はあたしも知りたいし!それでね・・・」
シン・ゴジラ(鎌倉さん)「・・・。」






モスラ姉妹「「『・・・ところで、クラムボンって結局なに?』」」






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