LAST TRAIN ―新しい朝―
「あの時、呉爾羅は笑っていた。
彼に宿る犠牲者や英霊の残留思念が、家族や友人を何より大切にする彼の思いが、そうさせたのだろう。私にこれからしようとしている事を気付かれないように・・・
しかし、時間がけっして巻き戻る事のないように、彼の行動を変える事は出来なかったのかもしれない。
たとえ、私が薄々気付いていたとしても・・・」
翌朝、呉爾羅は宿からいなくなっていた。
誰にも知られる事なく、誰も見る事もなく。
婆羅護吽「み、みんな見て!これ!」
護国バラン「置き手紙か?どれどれ・・・」
魏怒羅「・・・zzz」
最珠羅「・・・やはり、な。」
婆羅護吽が慌てて持って来た一枚の紙。
それにはただ一文、呉爾羅からの伝言が書いてあった。
『俺より強いやつに会いに行く!』
婆羅護吽「・・・えっ?」
最珠羅「旅に出たんだ、あいつは。全く、変な言い方をする・・・」
婆羅護吽「えっ、何で最珠羅が分かったような口ぶりしてるの?」
護国バラン「・・・少年よ、大志を抱け!そう言う事だな。」
婆羅護吽「えっ、えっ?バランさんまで何言ってるんですか?もしかして、今は私がおかしいの?」
魏怒羅「・・・波動けぇん!!」
婆羅護吽「・・・うん、普通なのは私だけね。それにしても、何故格闘キャラの台詞なんだろ。懐かしいな、確かバーチャファイターだっけ?」
護国バラン「違うぞ婆羅護吽、死亡遊戯だ。」
最珠羅「どっちも違うのは確かだな。えっと、キングオブファイターだったか?」
魏怒羅「・・・ストリート・・・」
最珠羅――・・・強い奴に会いに行くと言うのなら、もっと成長して帰って来いよ。呉爾羅。
また、神の在りし月に会おう・・・!
呉爾羅「・・・あたしの家に、僕の故郷に、帰るんや!
だって、島根に帰った彼らの顔が、凄く眩しかったとね・・・
それなら帰りたくなるじゃない!
わしが生きた・・・あの地へ・・・
レッツ、アイムミーバック!
帰ろ!ウチら達のふるさとに!
・・・あぁ。分かったから騒ぐなよ。とりあえずまずはこの鬼嫁の故郷からな。」
護国聖獣達と別れた呉爾羅は、稲佐の浜で朝日に照らされる海を眺めていた。
白い小袋を先にぶら下げた木の枝を肩に置き、やや威張った顔をしながら呉爾羅は海面に反射する朝焼けの光に体を浸からせ、内なる者達と対話する。
そう、これから始まるのだ。
呉爾羅の中の全ての者達の故郷を巡る、魂達の巡礼の旅が。
呉爾羅「・・・途切れないように、消えないように・・・自分を確かめる!
それじゃあ、行くか!!」
昇る朝日に包まれる出雲大社へ一度振り返り、八百万の神々と護国聖獣達へ笑いかけ・・・
全ての魂達の思いと共に、呉爾羅は永き旅へと歩み出した。