LAST TRAIN ―新しい朝―







ジラ『さっ、到着だよ!ここが広大なアメリカの地が生んだ自然のミラクル!グランドキャニオンさ!』
「VS」モスラ「わぁ、凄い・・・!」
バトラ「元の姿で来てもデカイな、こりゃ。」




その頃、出雲から遥か彼方離れた地、アメリカ・アリゾナ州。
数日前から世界旅行に出ていた「VS」モスラ・バトラ夫妻は今、偶然シドニーで出会ったジラの案内で、グランドキャニオンに来ていた。
裂けた大地に刻まれる数万・・・いや、億年前の雄大なる地球の記憶の断層は見る者を圧倒し、それは怪獣とて例外ではなかった。



ジラ『そうだよね~!僕、ちょっとナイーブになったらここに来るんだけど、この風景を見てると僕もちっぽけなんだなって思って、悩みなんて吹き飛んでしまうのさ。』
「VS」モスラ「確かにそうね・・・私やあなたが生まれるよりもずっと昔の地球の姿が、ここには残っているのね。」
バトラ「そうだな・・・でも、俺とお前の愛はこの断層よりも深く、永く、だからな。」
「VS」モスラ「もう、あなたったら。」
ジラ『ヒュー♪二人共噂に聞くアツアツっぷりだねぇ。まぁ、ここは観光エリアからはかなり外れてる場所だから人はまず寄らないし、やっかむJr.パパとかもいないし、私もイチャイチャは気にしないから、存分にどーぞ。』
「VS」モスラ「ふふっ、ありがとう。ジラ。」
バトラ「流石はアメリカンゴジラ、愛を育む事の大切さが分かってるな!あいつにも見習わせたいぜ、マジで。」
「VS」モスラ「ゴジラがいないからって、陰口は駄目よ。あっ、そういえば前に世界旅行をしながらドローンを使って、世界中の絶景を綺麗に撮っていた人間の夫婦がいたわ。」
バトラ「あぁ。だが、俺達にはドローンなんていらない・・・!行くぞ、モスラ!」
「VS」モスラ「はいっ!ジラ、しばらくしたら帰って来るから、留守番お願いしま~す!!」
ジラ『ええっ!?ちょっと・・・』



二人は背中にそれぞれ、半透明の怪獣時の翼を生成したかと思うと、目の前に広がる渓谷へと駆け出し、跳躍。
そのまま翼で羽ばたき、渓谷沿いに飛び去って行った。
当然飛行出来ないジラは一回深く溜息を付き、二人を見送る。



ジラ『・・・行っちゃったよ。はぁ、やっぱ飛べるのは羨ましいねぇ・・・私もジャンプじゃなくてフライが出来れば、「偽者」とか馬鹿にする連中を見返せるんだろうけど・・・
そうだ!私のブレスをジェットに見立てて、後ろ向きに飛べば・・・いけるっ!』



妙案を思い付いたジラは崖に背中を向けて屈み、大きく息を吸う。
そして吸い込んだ空気を高熱の息吹「パワーブレス」として吐き出すと同時に、ジラは後ろへ跳躍。
ジラの体はジャンプとブレスの勢いのまま、宙を飛んだ。



ジラ――やった!いける!僕、出来る!
このままあのカップルの所までアイ、キャン、フラ・・・



そう思ったのもつかの間、最初こそ上昇していたジラの体はどんどん降下して行き、勢いも無くなっていく。
やはり息吹と跳躍の力では、限界があったのだ。



ジラ『・・・イ?
ちょ、ちょっと!全然フライしてないじゃないか!と言うか、だ、誰かヘルプミ~ッ!!』



重力に捕らわれたジラは哀れ、渓谷の底へと落ちて行った。






「VS」モスラ「すご~い!いつまで見ていても飽きないわ~!」
バトラ「お前となら、余計にな~!おっと!もうすぐ観光エリアに入っちまう、引き返すぞ!」
「VS」モスラ「はいっ!」



ジラがそんな事になっているとは露知らず、谷間を飛ぶ「VS」モスラ・バトラ夫妻は人間に見られないよう、来た道を引き返して行く。



観光客『オ、オーマイガッ!!モ、モスマンだあぁっ!!』



だが、偶然双眼鏡で覗いていた観光客からUMA扱いされていた事にもまた、夫妻は気付いていなかった・・・
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好釦