LAST TRAIN ―新しい朝―
「『「あァ・・・ああああああァアァ!!!」』」
2002年、呉爾羅は修羅と化した。
彼の魂を形成する意思・・・瞬く間に光に焼かれた女性の、お国の為に鬼畜米兵へ特攻した兵士の、目の前のニッポンの女をこの手で殺めた白人の、最後まで天皇様を信じながら飢え死んだ少年の無念、怒り、憎しみ、悲しみ。
そして彼らを過ぎた出来事だとあっさりと忘れ、護国聖獣を下らない寓話の存在として軽んじ、のうのうと生きる現代人への、呉爾羅の苛立ちの爆発。
それらが共鳴し、呉爾羅は怨念のままに現代の日本を破壊するバケモノとなってしまった。
この地そのものたる「くに」を護る使命を持つ護国聖獣ーー呉爾羅の報復に同意した護国バランを除くーーは、不本意ながら仲間だった呉爾羅と死闘を繰り広げ、最後は呉爾羅もろとも散って行った。
彼らの魂は一つに混ざり合い、消えようとしていたが・・・精神世界の中で、最珠羅は呉爾羅に語りかけた。
あの日、2001年の神在月の出雲来訪時に気付いてさえいれば、言葉をかけていれば・・・激しい後悔と、友としての救いの言葉を、最珠羅は語りかけ続けた。
「呉爾羅・・・お前は、火傷してたんだな。ガラスの破片が刺さってたんだな。」
「痛かったんだな、苦しかったんだな。でも、もう大丈夫だ。火傷なんてしてないし、ガラスだって刺さってないだろ?
全部吐き出せ。お前の悲しみを。」
「・・・たす、けて・・・」
「・・・あぁ。
人は忘れる生き物だ。しかしその為に、語り継ぐ事がある。私達がそれを担う。」
「最珠羅・・・!うん!私達が、いつまでも覚えてる!決して忘れない!だから・・・また戻ろ?呉爾羅・・・」
「・・・面倒臭がりは、俺だけでいいから・・・だから、いい加減面倒な昔の呉爾羅になれよ。」
「・・・おれ、は・・・」
――・・・そうだ。
お前はまた、魂の塊に戻るんだ。
「「っ!?」」
「だ、誰だ!お前は!」
――・・・お前にはまだ、やり残した事がある筈だ。「呉爾羅」として、為し遂げられなかった事が。
だからその為に・・・お前達は、現世に帰らなければならない。
お前達はまだ、高位の域に来てはならない。
さあ、行くのだ。地上へ・・・
「・・・!お、お前、まさか・・・!!」
こうして、元の姿で現世へ帰って来た呉爾羅達は再び護国聖獣として各地に戻り、神在月に出雲で再会するいつもの日々に戻った。
だが、何年経っても神在月に呉爾羅が現れる事は無かった。
護国バラン「怨念と悪意のままに破壊の限りを尽くし、沢山の罪無き命を奪った呉爾羅は、出雲の地にすら足を踏み入れる資格を失ったのだろう。そして呉爾羅もまたそれを承知した上で、破壊者となった筈だ・・・」
いち早く呉爾羅の真意に気付いた護国バランの推測に、異を唱える者はいなかった。
最珠羅――・・・なら何故、あの声は呉爾羅を地上に戻したんだ。
あいつに因果応報を突き付け続ける為か?
あいつの救済を願った、私達への答えだと言うのか?
こんな事なら、あの時神として昇華した方が良かったんじゃないか?
確かにあいつは大罪を犯した。だが、それでもこの仕打ちは酷すぎる。
あいつの主張自体は間違ってなんかいない、むしろ正しいとすら思える。
ただ、やり方を間違えただけ。
だからあまりにもあいつが報われない。そう感じるのは、私の贔屓なんだろうか・・・?